去る9月、スウェーデンのメロディアス・ハード・ロック・バンド:エクリプスが、3度目となる来日公演を大阪&東京の2DAYSで行なった。ここでは、その2日目である12日の渋谷WWWにおけるショウの模様をお届けしよう。
本公演は昨年発表されたニュー・アルバム『WIRED』に伴うツアーの一環…なのだが、本来は2020年4月に、前作『PARADIGM』(2019年)リリース時のワールド・ツアーで日本を訪れる予定だった。しかし、パンデミックの影響で2度も延期に。結果的に前回の2018年4月から約4年半ぶりとなる今年、ようやく最新作のツアーという形で振替の来日が実現したのである。
そんな経緯があったからか、開演前の場内はすでに熱気ムンムン。感染予防対策で大声NGとなっているため比較的静かだが、心弾ませた観客同士の囁き声が至るところから聞こえてくる。開演時刻の19時をまわると、ステージ上の大きなスクリーンに“ECLIPSE”のロゴがドドンと出現した。クワイエット・ライオットの「Cum On Feel The Noize」に合わせ、皆が嬉々として手拍子を始める。そして曲がフェイド・アウトしたかと思うと、突如として『WIRED』のオープニング・ナンバー「Roses On Your Grave」の力強いイントロ・リフが響き渡る。間もなくフィリップ・クルスナー(dr)が意気揚々と登場してさらに手拍子を煽り、残りのメンバーが勢いよくステージ脇から飛び出すと、観客のテンションは爆上がり! ナポレオン・ジャケット・スタイルのファッションでギターを軽快にかき鳴らすエリック・モーテンソン(vo, g)がシャウトをかましながら熱唱し、早くも圧倒的存在感を見せつける。一方リード・ギタリストのマグナス・ヘンリクソンはさほど表情を変えないながら、切れ味抜群のバッキングや流麗なメロディアス・ソロを情熱的に弾きまくる。
その興奮冷めやらぬまま、立て続けにエキサイティングなパーティー・アンセム「Saturday Night(Hallelujah)」へ。陽気なドラムに合わせ、オーディエンスはディスコにでもいるかのようにノリノリで体を揺らす。声は出せないけれど、その超絶キャッチーな歌メロに、きっと誰もが心の中でシンガロングしていたに違いない(筆者も思わず口パクで熱唱してました…)。
お次は、ゲイリー・ムーアばりのフォーキーな劇的ギター・フレーズで始まる「Run For Cover」。こちらではマグナスが鬼気迫るオーラを放ちながら、ダイナミックなチョーキングやヴィブラートを駆使したロング・ソロを聴かせてくれた。ヴィクター・クルスナー(b)のタイトでグルーヴィなベース・プレイも映えており、実の兄弟であるフィリップのドラミングとともに強靭なビートを生み出している。
5th『ARMAGEDDONIZE』(2015年)からの「The Storm」やシングル曲「Runaways」(2016年)では、ハンドマイクのみになったエリックが縦横無尽にステージ上を動き回り、腕をいっぱいに広げ表現豊かに歌い上げた。次の曲で彼は再びギターを手にしたが、今回メインで使用しているのはグレッチ“White Falcon”で、日本製なのだという。「このギターは故郷に帰ってきたんだ」と語ると、マグナスとともに民謡的なツイン・フレーズを奏で、「Things We Love」がスタート。客席からは温かい拍手が惜しみなく送られたが、それはまるで“White Falcon”に「おかえりなさい」と語りかけているかのようであった。
『PARADIGM』などから数曲が披露された後は、フィリップによるドラム・ソロのコーナー。ステージに1人スポットライトを浴びながら、バズーカの如く凄まじい音圧を放ち、華麗なスティックさばきを見せてくれた。決して荒削りではない、パワーもキレの良さも兼ね備えた堅実なプレイが浮き彫りとなり、バンドの屋台骨としての確かな実力を感じられた瞬間だった。
続いては、エリックとマグナスの2人で始まった「Battlegrounds」。『BLEED & SCREAM』(2012年)収録のオリジナルはハード・ロック調であるが、アコースティック・ギター&クリーン・トーン主体のヴァージョンも存在しており、今回は後者のアレンジであった。夕暮れのような暖色系のライトのなか、エリックはフォーキーで陰りのある歌唱やアコのストロークを聴かせ、マグナスは空間系エフェクトを深くかけた幻想的な音色で泣きのフレーズを哀愁たっぷりに弾く。メンバー全員が揃った次の「The Downfall Of Eden」も、同系のテイストでプレイされた。
…かと思うと、続く「Bite The Bullet」では、再びエレクトリックの強烈な歪みサウンドへ! 破壊力バツグンのバス・ドラム共々、重低音で会場中がドスンドスンと激しく揺さぶられる。さらに中盤は空気が一変して静かになり、エリックがサーフ・ミュージック風のソロを弾き出すという展開に。アルバム通りではあるが、ドスの効いたディストーションのリフから急にカラッとしたクランチのソロへ変化した時のギャップは、ライヴで聴くと一層臨場感がある。ビグスビーを用いた浮遊感ある音揺れも絶妙だった。
セットはいよいよ終盤へ。ここでは、ダーク&ヘヴィなミドル・ナンバー「Black Rain」における、マグナスの気迫溢れる長尺の高速レガート・ソロがハイライトとなった。滑らかな音運びながら、1音1音の説得力が凄まじい…! そして続けざまに大人気曲「Never Look Back」が始まると、ただでさえ熱狂していた会場がさらにヒート・アップ! 聴こえるはずのない大歓声やシンガロングが、今にも爆音で聴こえてきそうな様相である。それに呼応するように、メンバーのパフォーマンスにもことさら熱が入っていた。
こうして本編が終わり、メンバーはステージを一旦去ったが、間髪入れずにバンドを呼び戻す拍手が始まったため、早くも再登場。終始クールな表情に徹していたマグナスも、ここでは笑みを浮かべているのが見られた。
それぞれがスタンバイを終えたところで、アンコール1曲目「I Don’t Wanna Say I’m Sorry」がスタート。各々が全力を振り絞らんばかりのパワフルな熱演っぷりで、明らかに本編より迫力が増している。途中で、ファンが描いたものと思しきイラストの束をエリックが客席から受け取り、歌いながらそれを1枚1枚めくって見せるという場面もあった。そしてこの日のラストを飾ったのは、代表曲「Viva La Victoria」。観客は大感激し、「Tokyo―!!」というエリックの呼びかけに応えんと、必死に腕を高く突き上げる。マグナスのソウルフルなギター・プレイにも拍車がかかり、クルスナー兄弟も全身全霊のアクションだ。最後まで全力疾走で駆け抜けた約2時間に及ぶショウは、こうして歓喜の渦に包まれながら幕を閉じた。
久々の来日公演でエクリプスが見せてくれた熱演には、何年も待ち侘びてようやく来られた日本への並々ならぬ想いが込められているように感じたし、ファンもついに彼らと同じ時間を共有できる喜びを心から味わっているようだった。終演後も人々は余韻にすっかり浸っており、楽しげながらも「ああ、あっという間に終わってしまった」と名残り惜しそうな表情を浮かべていたのが印象深かった。次にバンドが日本を訪れる頃には、素晴らしいパフォーマンスへの歓声を惜しみなく伝えられる世の中になっていてほしいものだ…!
ECLIPSE “REWIRED TOUR 2022” @渋谷WWW 2022.9.12 セットリスト
1. Roses On Your Grave
2. Saturday Night(Hallelujah)
3. Run For Cover
4. The Storm
5. Runaways
6. Things We Love
7. Blood Wants Blood
8. Bleed And Scream
9. Hurt
10. Jaded 〜 Drum solo
11. Battlegrounds
12. The Downfall Of Eden
13. Bite The Bullet
14. Mary Leigh
15. Black Rain
16. Never Look Back
[Encore]
17. I Don’t Wanna Say I’m Sorry
18. Twilight
19. Viva La Victoria