去る6月初旬、イタリアのメロディック・メタラー:フローズン・クラウンが再来日を果たした! 元々この5人組は、ビー・ザ・ウルフを率いるフェデリコ・モンデッリ(g, vo)が、同バンドにはそぐわない幅広い影響を表出するため、ソロ・プロジェクト的サイド・バンドとして’17年にスタート。その後もフェデリコは、ヴォルトゥリアンやノクトゥルナといった別バンドを次々と立ち上げ、そのワーカホリックっぷりには本当に驚かされるが──ここのところは、公私にわたるパートナー:ジェイドことジャーダ・エトロがフロントを務めるこのフローズン・クラウンに、ビー・ザ・ウルフを上回るプライオリティを置いているようだ。
これまでに、『THE FALLEN KING』(’18年)、『CROWNED IN FROST』(’19年)、『WINTERBANE』(’21年)、そして、今年3月に出たばかりの最新作『CALL OF THE NORTH』と、4枚のアルバムをリリース。セカンド発表後、’19年4月に初来日公演を行なったフローズン・クラウンだが、その時のリズム隊:フィリッポ・ザワッターリ(b)&アルベルト・メッザノッテ(dr)は、サード制作前に脱退してしまい、また、セカンド・ギターを務めたタリア・ベラゼッカも去ったことで、『WINTERBANE』にてニュー・ラインナップが成立。新たに加わったのは、シーナことファビオーラ・ベッローモ(g)、イッキことフランチェスコ・ゾフ(b)、ニーソ・トマシーニ(dr)で、『CALL OF THE NORTH』でもその3名を含むメンツが引き継がれていた。
何でも、実はサポート扱いだったという前任セカンド・ギタリストのタリアは、現在トーマス・ヴィンクラー(vo:元グローリーハンマー)率いるアンガス・マクシックスに在籍。彼女の脱退理由について、フェデリコは次のように話してくれた。
「実は、よく分からないんだ。未だに謎だね。だって彼女は、3rdアルバムをレコーディングするに当たって、“幾つかソロを弾いて欲しい”と伝えたら、嬉しそうにしていたんだよ。ところがタリアは、レーベル・オーナーに脱退を告げたそうで…。だから俺は、所属レーベルを通じて彼女の脱退を知ったのさ」
一方、シーナ獲得についてはこう語ってくれた。
「SNSを通じて知ったんだ。キルスウィッチ・エンゲイジやブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインの曲をプレイしている動画も観たことがあった。それで、リズムが正確だな…と思って連絡した。彼女とはご近所さんでね。引っ越した先のすぐ近くに住んでいたから、見掛けたこともあったんだよ。家が近いと色々メリットもあるだろ? それにコロナ禍では、遠方に住む人を選ぶなんてバカげたことだった。だから、ごく自然なチョイスで、彼女こそがベストな選択だったのさ。
いや、別に女性ギタリストに限定して探したワケじゃないよ。実を言うと、結構上手い男性ギタリストも候補に挙がっていたんだ。しかし、彼はかなり遠いところに住んでいたんで、“まずは近場から当たってみよう”となり、先に声を掛けたシーナから快諾をもらった…というだけのことだ。ウチの近所には、彼女の他に良いギタリストはいなかったしね!」
シーナ自身は、当初フローズン・クラウンのことをあまり詳しくは知らなかったようだ。
「活動しているのは知っていたし、ライヴも観たことがあったけど、よく知っている…というほどではなかったかな。何となく、“一緒にプレイできたらクールかも”なんて思ったことはあったけど。そしたら、それから2~3年後にフェデリコから連絡があって…!(笑) 正直、パワー・メタルは凄く好きってワケじゃないけど、“やって良かったな”とは思ってる。元々私は、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインやキルスウィッチ・エンゲイジなんかが好きで、メタルコアのファンだからね。ただ、フローズン・クラウンがやっているのは、単なるパワー・メタルじゃない。時々、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインで弾いているような気分になることだってあるのよ(笑)」
そう言われて、すかさずフェデリコが「まぁ、俺はイン・フレイムスなどのメロディック・デス・メタルにかなりインスパイアされているし、キルスウィッチ・エンゲイジの大ファンでもあるからね。ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインはそれほどでもないけど…。俺とは世代が違い過ぎてさ(苦笑)」と返すと、シーナから驚きの発言が!
「でも、私が最初に影響を受けたギタリストはジミー・ペイジだったのよ! まぁ、彼のスタイルで弾いていないことは明らかだけど(笑)」
さらに彼女はこう続けた。
「リズム・ギターに関しては、(メタリカの)ジェイムズ・ヘットフィールドの影響も大きい。勿論、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインの2人(マシュー“マット”タック&マイケル“パッジ”パジェット)からは、多大な影響を受けたわ。あと、ギターを習っていた先生からも、多くを吸収させてもらった。彼は元々、ダブステップとかエレクトロニカをやってて、所謂メタラーではないんだけど、タッピングを教えてくれたのよ」
フェデリコは最初、リズム・プレイに着目したようだが、シーナはリードも結構コナす。来日前に、MVでそれをチェックしていたファンも少なくないだろう。当然、ライヴでも多くのリードを任されていた。加入前の楽曲では、「Kings」(『THE FALLEN KING』収録)のタリアのパートは勿論のこと、他にも「Neverending」(『CROWNED IN FROST』収録)などでもソロを執り、音数の多いリフやフィル、リード・メロディーを担当することもしばしば。そのキュートな童顔には似つかわしくないぐらい、丁寧かつ正確に速弾きも楽々コナし、得意のタッピングは、特に「Far Beyond」(『WINTERBANE』収録)で効果的にフィーチュアされていた。
ただ、やはりこのバンドの主役はフェデリコ…ということで、全体としては彼がソロを執る場面が目立ち、リードを弾き始めると、歓声が一段と大きくなる。どちらかというとワイルドに弾き倒すタイプで、少々ラフ過ぎ…と思わされることもなくはないが、それがライヴならではのスリリングな臨場感を生んでいたのも、また事実だ。さらには、セカンド・ヴォーカルとしても大活躍。MCもジャーダ以上にやっていたし、とにかくあらゆる面において“フェデリコありき”なバンドだということが──前回来日時同様、今回もショウを通じて強く感じさせられた。
とはいえ、アンコール中盤での長めの唯我独尊ソロ・タイムはまだイイとして、それに付随して、ビー・ザ・ウルフやX JAPANを独りユル~く弾き語ってしまうのは、ちょっとやり過ぎだったかも? ファンの多くはそんなハメ外しすら期待して、実際に心から楽しんでいたようではあったが…。
過去には様々なギターをライヴで使ってきたフェデリコ&シーナだが、「俺達、ジャクソンのエンドーサーになったばかりなんだ」とフェデリコ。よって今回は、前者がコリィ・ビューリュー(トリヴィアム)のシグネチュア・モデル“USA Signature Corey Beaulieu King V KV7”、後者はクリス・ブロデリック(元メガデス)のシグネチュア・モデル“Pro Series Signature Chris Broderick Soloist HT6”と、2人ともジャクソン・ギターだけで最後までやりきった。また、シーナだけワイヤードで、それにより、少しばかりステージ上の移動が制限されてしまっていたことも付け加えておこう。
そいういえば、ショウ前のサウンド・チェックでは、フェデリコの“KV7”がトラブり、ちょっと不穏な空気になりかけたことも…。どうやら、ブリッジ・ピックアップがダメになり、サブとして用意していたギターにもフェデリコが納得せず、色々と手を尽くすも打開策は見出せず、遂にはフェデリコが「今から新しいギターを買いに行く!」と言ったり、その後「やっぱり無理だ…! 仕方ないから、今日はもうギターは弾かず、(シーナに任せて)俺はヴォーカルだけをやる」とまで言い放ち、一時は“このままライヴがやれなくなるかも…”といった状況にまで陥ってしまったのだ。結局のところ、フェデリコが折れて、「ネック・ピックアップだけで何とかする」と宣言。それで予定通り開演することが出来たのだが、他のメンバーも、現場のスタッフも、実際に幕が開くまでヘンな汗が止まらなかったのでは…?
ともあれ、いざショウが始まると、のっけから熱狂しまくり、多くの曲で歌いまくる満員の観客の好反応に、フェデリコの機嫌はみるみる良くなっていった。シーナとのコンビネーションも抜群で、それぞれが自分の役割をしっかり把握し、お互い出る時は出て、引く時は引き、ツインで魅せる場面もたっぷり! 本編ラストにはジューダス・プリーストのカヴァー「Night Crawler」(オリジナルは’90年『PAINKILLER』収録)も飛び出し、アンコールでは5曲+αをみっちりやってくれて、実に合計2時間超と、観どころ満載にして、観応え充分。これぞ特濃ライヴだったと言いたい。いやしかし、ここまで熱心で忠実なファンがあれだけいれば、バンド冥利、ミュージシャン冥利に尽きるというもの。開演から終演まで、バンド名のコールが何度も何度も起こり、MCでドヤ顔を連発するフェデリコに和まされ、現場には終始フレンドリーな空気が満ち満ちていた。
未だショウ運びがぎこちなかったり、ところどころで内輪ノリっぽくなってしまったり、また、演奏/歌唱面で「もうちょい頑張って!」と思わされることもあったものの、バンドもオーディエンスもあれだけ愉し気だったのだから、細かいことをグダグダ言ってもしょうがない。“終わり良ければすべて良し”──そこにいる全員が、自然な笑顔でそれを実感していたことだろう…!!
フローズン・クラウン 2023.6.2 @渋谷Spotify O-WEST セットリスト
1. Arctic Gales(SE)
2. Neverending
3. The Water Dancer
4. Call Of The North
5. Angels In Disguise
6. Kings
7. Far Beyond
8. Across The Sea
9. Fire In The Sky
10. In The Dark
11. Crown Eternal
12. Night Crawler(JUDAS PRIEST cover)
[Encore]
13. Tales Of The Forest(SE)
14. Federico’s guitar Solo+
15. Blood On The Snow
16. Everwinter
17. I Am The Tyrant
18. Black Heart
19. The Shieldmaiden