衝撃の解雇劇から1年半余──奈落の底から我らが勇者が復活を遂げた! その名もアンガス・マクシックス…!! そう、栄光のハンマーを手に銀河を救ったあのヒーローが、無敵の大剣に武器を持ち替え、全宇宙を護るべく舞い戻ったのだ!
“コズミック・パワー・メタラー:グローリーハンマーから、シンガーのアンガス・マクファイフ13世ことトーマス・ヴィンクラーが脱退!”との報がメタル・シーンを駆け抜けたのは、’21年8月23日のことであった。突然の出来事、しかも事実上の解雇だったことから、多くのファンが驚き、嘆き悲しんだが……アンガス王子の物語はそこで終わらなかった。文字通りアップグレードを遂げ、アンガス・マクシックスとして甦った彼は、新たなパートナーを得て、心機一転作『ANGUS McSIX AND THE SWORD OF POWER』を先頃リリースしたばかりだ。
果たしてアンガス=トーマスは、どのようにしてニュー・バンド/プロジェクトを立ち上げたのか? そして、気になる『ANGUS McSIX AND THE SWORD OF POWER』の仕上がりは…? すべての疑問に答えてもらうべく、首魁トーマスと、これから彼と活動を共にしていく元フローズン・クラウンのギタリスト:タリア・ベラゼッカ=“アマゾンの女王”タレストリスに話を訊いた…!!
全く新しいバンドしかない…という結論に達した
YG:まずは、’21年のグローリーハンマー脱退について改めて訊きます。あなたはメールで解雇を告げられたそうですが、今だから話せることはありますか?
トーマス・ヴィンクラー(アンガス・マクシックス):バンドに何か起こった時、ファンはよくその理由を探ろうとするよね。その気持ちはよく分かる。グローリーハンマーに何が起こったのか…についても、ネット上ではあらゆる憶測が飛び交い、何とも空想的で面白い理論が展開されていた。マーケティング的な観点で言えば、そういった議論や論争が起こることは素晴らしい。でも、俺達の分裂には特に壮大な理由なんてなかったのさ。まぁ、それ故に俺もそんな事態は予想出来なかったんだが…(苦笑)。まぁ、結婚生活が破綻してしまったようなモノだな。今にして思えば、それがアンガス・マクシックスの誕生につながったんだから、何よりの喜びとなっているよ。
YG:解雇/脱退直後は、自らの身の振り方についてどう考えておられましたか? あなたは法律事務所を構えているそうで、もしや一時は、メタル界からの引退を考えたりもしましたか?
トーマス:俺にとって、メタルは人生そのものだ。6歳でメタルを聴き始め、すぐに曲作りにも取り組んで以来、常に俺の中で最も重要な位置を占めてきた。音楽を楽しむため、自分の情熱をファンと共有するため──決してカネのためではなく──音楽を作り続けてきたことを、俺は喜ばしく、誇らしく思っているよ。だから、音楽を止めることなんてあり得なかったね。前のバンドを離れてすぐ、色々なオファーが舞い込み、その中には、とても魅力的なビッグネームも含まれていた。でも、それって妥協の産物でしかない。そこで、「アンガス王子として続けて欲しい」というファンからの要望も慎重に検討した結果、この10年間で培った唯一無二のキャラクターを正当に表現するためには、全く新しいバンドしかない…という結論に達したのさ。
YG:アンガス・マクシックスを立ち上げるに際し、著名なプロデューサーでもあるオルデン・オーガンのゼーブ(vo)から連絡をもらったそうですが、彼とは古い付き合いなのですか?
トーマス:個人的に、オルデン・オーガンのことは好きだし、グローリーハンマー在籍時に、フェスのバックステージなんかでゼーブを見かけたことはあったけど、実際に話したことはなかったんだ。俺が知っていたのは、彼が凄腕のプロデューサーで、ヒット・メーカーでもある…ということだけだった。しかし、彼から電話をもらい、同じヴィジョンを持っていることが分かって、俺達が力を合わせるのは当然だと思ったよ。
YG:グローリーハンマーの物語や設定を引き継ぐアンガス・マクシックスの構想は、どのようにして思い付いたのですか?
トーマス:夢の中で思い付いたんだ。ファンはみんな、俺を“アンガス・マクファイフ”として知っているから、その名前をもじって、“マクシックス”として復活させ、これまでバンドで培った経験を結集し、何もかも次のレベルへ引き上げよう…と考えたよ。
YG:アルバム『ANGUS McSIX AND THE SWORD OF POWER』は、グローリーハンマーのサード『LEGENDS FROM BEYOND THE GALACTIC TERRORVORTEX』(’19年)で自ら死地へと赴いたアンガス王子が、黄泉の世界で目覚めるところからスタートしますが、新たな物語について簡単に説明してください。
トーマス:黄泉の世界の殉教者の領域で目覚めたアンガスは、新たな魔王が永遠に君臨しようとしていることを察知し、故郷スコットランドへ戻る道を探そうとするんだ。ところが、地獄とこの世は力の剣によって封印されており、その封印を解くため、アンガスは“永遠の鍵”を手に入れ、魔剣シックスカリバーを引き抜く。しかしながら彼はまだ、かつて(スコットランドの)ダンディを脅かしていた巨悪よりも遥かに強大な闇の存在に、まだ気付いていない…。そんな感じでこのアルバムでは、すべてのファンタジー・オタクを満足させる、壮大なストーリーが綴られていくよ。
YG:アルバムの曲作りはどのように進めましたか?
トーマス:ゼーブと一緒に書いたんだけど、とてもダイナミックなプロセスだったな。彼は自分のレコーディング・スタジオを持っているから、俺が「レーザー砲で武装した恐竜の曲を書いてくれ」と言えば、チャートでNo.1になるような曲を作ってくれる。おかげで俺は、歌詞に専念することが出来たよ。そして、1年足らずでフル・アルバムを書き上げてしまったんだ。
YG:メンバー集めはどのようにして?
トーマス:まずドラマーとして、元ラプソディー・オブ・ファイアのマヌ・ロッターが選ばれた。ゼーブはラプソディーのアルバムを手掛けていたから、彼がドラム・ビーストであることをよく知っていたんだ。いや、マヌは生物というよりもマシーンだな! ギターは、元フローズン・クラウンのタリア・ベラゼッカ。以前フローズン・クラウンをフェスで観たことがあって、「素晴らしい速弾きギタリストだな!」と思っていたから、連絡してみたところ、すぐに返事をくれて、俺達の冒険に加わってくれることになったよ。
タリア・ベラゼッカ(タレストリス):そう、’22年1月のことだったわ。トーマスは’19年の“Sabaton Open Air”で私のプレイを観てくれたみたいで、Facebookを通じてメッセージをくれたの。ただ、グローリーハンマーのシンガーなのは知っていたけど、アルバムをちゃんと聴いたことはなくて…。それどころか、当時は彼がバンドを辞めたことも知らなかったのよ。
YG:トーマスはタリアのことを、ギタリストとしてどう評価していますか?
トーマス:彼女は10点満点で11点のギタリストさ! まぁ、俺は満点以上を付けるけど、もし10点満点を付けなかったら、そいつは彼女のニュークリア・レーザー・ビームで焼かれて灰になってしまうだろう。何てったって、彼女はレーザー・アマゾンの女王なんだからさ!
PVと同じコスチュームで完全にタレストリスになりきるわ
YG:ではここで、タリアの基本情報に迫りたいと思います。まずは自己紹介してください。
タリア:私はイタリアとキューバのハーフで、現在23歳。15歳の頃から活動している、サウスポーのメタル・ミュージシャンよ。
YG:ギターを始めた年齢とキッカケは?
タリア:8歳の時、ソファの上でクイーンやダイアー・ストレイツの曲に合わせてギターを弾くフリをしていたら、母が始めさせてくれたの。
YG:当初はレッスンを受けましたか? それとも、独学でギターを習得しましたか?
タリア:最初の10年間はプライヴェート・レッスンを受けていたわ。また最近になって、再び個人的に先生に付いて習うようにもなったんだけどね。
YG:初めて手にしたギターは?
タリア:最初はクラシック・ギターで、それから1年後に、初めてのエレクトリック・ギターを手に入れた。ギブゾンを思わせるSoundStationのコピー・モデルだったわ。
YG:当時のギター・ヒーローというと?
タリア:最初のギター・ヒーローはジョー・サトリアーニ。そのあと、マーティ・フリードマンとキコ・ルーレイロを発見したの。
YG:初めてのバンドは、何歳の時、どんな音楽性でしたか?
タリア:16歳の時、LOOTSというバンドを組んで、スラッシュを含むメタルのカヴァーをプレイしていたわ。その路線でオリジナル曲にも取り組んでいたのよ。
YG:あなたの名前で検索すると、POKERFACE、GROOVYDOというバンド名が出てきますが、それぞれのバンドについて教えてください。
タリア:POKERFACEはロシアのスラッシュ・メタル・バンドで、’18年に彼等がイタリアでプレイした際、「何曲か弾いてもらえないか?」って誘われたの。GROOVYDOは驚異的なリズム隊によるイタリアのデュオ。彼等はビリー・シーン、デレク・シェリニアン、キコ・ルーレイロなんかと共演歴があって、私は’17年に彼等のアルバムで数曲プレイすることになった。2人のサウンド・スタイルを表現する適切な言葉が見つからないなぁ…。あまりにも特殊で実験的だからね。
YG:’19年には、フローズン・クラウンの来日公演に帯同していましたね?
タリア:フローズン・クラウンからFacebookを通じてコンタクトがあり、’17年に加わることになったのよ。でも、自分らしいことが出来る余地が全然なかったから、結局は辞めてしまった。私は飽くまでセッション・メンバーで、自分がやりたいことに専念するために脱退したというワケ。
YG:今回、『ANGUS McSIX AND THE SWORD OF POWER』のレコーディングでは、ドイツのゼーブのスタジオまで赴いたのですか?
タリア:いや、自宅で録音して、音源ファイルを送ったわ。その際、ゼーブとリモートで結んで、色々やり取りはしたけどね。彼はとても親切で、一緒に仕事をするのが本当に楽しかった。
YG:『ANGUS McSIX AND THE SWORD OF POWER』では、殆どのギター・パートをゼーブが自分でプレイしたようですが、あなたはソロを弾いただけでしたか?
タリア:うん。「Sixcalibur」のソロを弾いたわ。ゼーブに助けてもらいながら、フレーズもハーモニーも自分で考えてね。
YG:「Sixcalibur」のレコーディング使用機材を教えてください。
タリア:LTD“ARROW BLACK METAL”を使ったわ。レフティの素晴らしいギターよ。ゼーブもESPギターを使ってレコーディングしていたみたい。リードはダブルで録音してハーモニーを付けたわ。
YG:アンプは使いましたか? それとも、ラインで録りましたか?
タリア:すべてDIを通してラインで録ったわ。レコーディング中、ゼーブとオンラインでやり取りしながらね。だから、私の方でエフェクトは何もかけていない。適切なエフェクトをかけ、正確なレシピによって、すべてを完璧にブレンドさせたのは(ミックスも手掛けた)ゼーブよ。彼は自分のパートを録る際、“5150 III”の50ワットのヘッドをメサブギーのキャビネットで鳴らし、VSTプラグインを使って、幾つかのクランチ・サウンドをミックスしていたな。彼の秘伝の技により、アルバムは素晴らしい仕上がりになっているわ。
YG:自分でソロを弾いた「Sixcalibur」以外に、特に気に入っている曲はありますか?
タリア:全曲注目して欲しいけど、強いて選ぶとしたら「Eternal Warrior」かな。
YG:タレストリスというキャラクターを演じることについてはいかがですか? ファンタジー世界の住人になった感想は?
タリア:レーザー・アマゾンの女王の役を演じられることを光栄に思うわ。ファンタジー世界の住人になれたのも最高! 小さな頃からファンタジーが大好きで、今でもゾクゾクさせられているからね。私はこれまで、いつも自分がしていること、自分が何者であるかについて、誇りを持つことに苦労してきたの。だから、こうして重要な役割を持つことは、私にとって大きな意味を持つ。いま私は、自分の恐怖や葛藤をレーザー・アマゾンの女王に託しているのよ。
YG:アンガス・マクシックスのライヴでは、「Master Of The Universe」のPVと同じコスチュームでステージに立つのですよね?
タリア:勿論よ! 黄金の鎧に羽根飾りもまとい、完全にタレストリスになりきるわ。
YG:現在、アンガス・マクシックス以外にやっているバンドやプロジェクトはありますか?
タリア:イタリアのフォーク・メタル・バンド:AEXYLIUMにも在籍していて、あと、Italian Women Tributeという、イタリアのヒット曲をHR/HMでカヴァーするバンドでもプレイしているわ。将来的には、ソロ・アーティストとしてもライヴを行なうつもりで、そのために曲を書き始めたところよ。今年中に何か発表出来るとイイんだけど。
YG:ちなみに、アンガス・マクシックスとしてライヴを行なう際は、トーマス、タリア、ゼーブ、マヌに加えて、セカンド・ギターや鍵盤奏者を加えるのでしょうか?
トーマス:ゴブリンを掴まえてきて、ステージ裏でギターやキーボード、オーケストレーション全般をプレイさせるつもりさ(笑)。
YG:ライヴではグローリーハンマーの曲もプレイしますか?
トーマス:俺が作曲に関わった曲は、是非ともやりたいと思っているよ。「Universe On Fire」(’15年『SPACE 1992』収録)とかね。いずれにしても、(アンガス・マクシックスとしては)まだアルバム1枚しかないから、何かしら演目に加えることになるだろう。
YG:来日公演にも期待しています!
トーマス:既にゼーブと日本でライヴをやることについて話しているよ。ゼーブは以前(オルデン・オーガンで)日本でプレイしたことがあって、とても気に入っていたしね。世界でも指折りの近代国家である日本で俺達のショウを盛り上げることが出来たら、本当に最高だろうな!!
タリア:私もまたすぐに、日本へ戻ってプレイ出来ることを願っているわ!