去る8月19日(土)・21日(月)、メタリカが現在行なっている“M72 WORLD TOUR”から米国テキサス州アーリントンAT&T Stadiumにおける2公演が、『M72 WORLD TOUR LIVE FROM ARLINGTON, TX』として日本を含む世界各国の映画館で中継上映された。今回のツアーは“No Repeat Weekend”――2日間の公演中に同じ曲を2回やらない、つまり被りのないセットリストになっていることが特徴だ。ここでは、スタンディングとヘッドバンギングがOKされた東京の会場、TOHOシネマズ六本木ヒルズにおける両日の観覧レポートをお届けしよう!
DAY 1:40年を網羅する多彩な選曲&ギター!
40分近い待ち時間を経て、ようやく迎えた初日のセット。その1曲目は「Creeping Death」! ほぼ満席に近い映画館の中からも歓声が上がる。バンドを超至近距離で見られる“Snakepit”エリアを囲むように円形のステージが設置され、その上をメンバーが練り歩く様子を最新鋭のマルチカメラが追いかける。あらゆる角度から全体や個々の様子を捉える臨場感豊かな映像は、まさに映画館の大スクリーンで堪能するに値する醍醐味だ。画面いっぱいに映し出されたジェイムズ・ヘットフィールドの存在感は格別。歌い、煽り、分厚いサウンドでリフを刻んでいく。続く「Harvester Of Sorrow」では、カーク・ハメットが切れ味よく流麗なソロを聴かせる。さらに『MASTER OF PUPPETS』(1986年)からの「Lepper Messiah」も、スクリーン越しの会場に届けとばかりに「オイ! オイ!」の掛け声も広がった。
蠢く低音を響かせるベーシスト:ロバート・トゥルヒーヨはフロアに降りたり、移動式(人力?)のミニ・ステージに乗って“Snake Pit”内を移動したりと、観客との交流も絶え間ない。対するラーズ・ウルリッヒはドラム・キットという定位置に固定されているものの、常に歌いながら眼光鋭く周囲を見渡し、強烈なビートを叩き出す姿がスクリーンに大写しにされていた。
スリリングな「King Nothing」を経て、新作『72 SEASONS』からの第1弾は「Lux Æterna」。ギター・チームは共にそれぞれ5〜6本のモデルを使い分けていたが、ここでジェイムズは、ESPシグネチュア“Vulture”の中でも黒いボディーに黄色で“72”ロゴが入った、新作のアートワークを模したモデルにチェンジ。カークも、パープル・カラーのESP“KH-2 Sparkle Ouija”に持ち替える。「Too Far Gone」、そして「Welcome Home(Sanitarium)」を挟んでの「Shadows Follow」も、過去曲に劣らぬ熱量の高さと説得力で聴かせた。
「Nothing Else Matters」のアルペジオが始まるやいなやスマホのライトが掲げられたかと思えば、「Hardwired」で新たな歓声が沸き立ち…どんな時代のどんな曲にも、客席からは常に的確な反応が返ってくる。
いよいよセットも大詰め…パイロが炸裂する「Fuel」に続き、「Seek & Destroy」では黒と黄色の巨大ボールが飛び交い、クライマックス感が高められていく。まだまだ聴きたい曲はあるけれど、初日だからこのぐらいかな…と思ったところで、最後の最後に「Master Of Puppets」! 強烈な一撃に会場はもちろん映画館でも凄まじい大歓声が上がり、筆者も思わず身を乗り出してしまった。そして…この長丁場に来ても、ジェイムズのダウン・ピッキングは衰え知らずの猛烈ぶり。カークのソロもアグレッシヴな気迫に満ちている。この1曲に込められたあらゆるリフやヴォーカル、ギター・フレーズが熱唱され、大興奮に包まれた中で終演となった。
日本の地に居ながらにしてスケールの大きなメタリカ・ステージを過去にない形で体験できた、至福の2時間余り。しかもこれは、まだ初日。お楽しみはまだまだ続くのだ。
メタリカ@AT&T Stadium, Arlington, Texas U.S.A. 2023.8.19 セットリスト
1. Creeping Death
2. Harvester Of Sorrow
3. Leper Messiah
4. King Nothing
5. Lux Æterna
6. Too Far Gone?
7. Welcome Home (Sanitarium)
8. Shadows Follow
9. Orion
10. Nothing Else Matters
11. Sad But True
12. The Day That Never Comes
13. Hardwired
14. Fuel
15. Seek & Destroy
16. Master Of Puppets
(レポート●蔵重友紀 Yuki Kurashige)
DAY 2:カヴァー曲で魅了、ハプニングも!?
2日目は、伊藤政則氏によるトークでスタート。“SUMMER SONIC 2013”出演以来、もう10年間も来日していないメタリカが、新作に伴うワールド・ツアーで日本再上陸を遂げるには、残念ながら現状では、予算面や動員面など幾つもの高いハードルが立ちふさがっている…といった内容だったが、氏はラーズとのインタビュー取材を踏まえて、「もし今のツアーが’25年まで続くとすれば、再来日の可能性はあるのではないか」とも語ってくれた。そして、メタリカが現在、どれだけの規模でツアーを行なっているか、このライヴ・ビューイングで是非とも「体感して欲しい」とも。
ところで──実のところ今回の『M72 WORLD TOUR LIVE FROM ARLINGTON, TX』は、日本では時差の関係もあり、所謂“ライヴ中継”ではなかった。上映時間の都合により、要は“ディレイ中継”だったのだが、きっとそれは、来場者にとってそう大きな問題ではなかったのでは? 勿論、事前にセットリストを調べることも可能だ。しかし敢えてそうはせず、前情報を入れない状態で観戦に臨んだ人も少なくなかったろう。
ただ、初日公演と演目が全く被らないのだから、ある程度の予想は出来たし、それが “No Repeat Weekend”ツアーの醍醐味でもあった。特に、1曲目に何がくるか──それについては、みんな特に楽しみにしていたに違いない。結果、「The Ecstasy Of Gold」に続いて炸裂したのは「Whiplash」! 見事に的中させた人はどれぐらいいただろうか?
2曲目に「For Whom The Bell Tolls」、その次が「Ride The Lightning」と、序盤は初期ナンバーが続き、4曲目に『ST. ANGER』(2003年)から「Dirty Window」が飛び出すと、最新作『72 SEASONS』の表題曲、さらには「If Darkness Had A Son」がそれに続く。
カーク&ロブによる恒例のジャムを挟み、「Fade To Black」が劇的な空気を呼び込んだあと、ちょっとした事件が…。曲名通りにラウンド・ステージのあちこちで火柱が上がった「You Must Burn!」で、珍しく曲構成を見失い、途中でしどろもどろになってしまったのだ。まぁ大事には到らず、無事にそのまま完奏はしたものの、演奏終了後、ラーズの提案でミスった部分をやり直すというハプニングも楽しめたのは特筆しておきたい。
その後、インスト大作「The Call Of Ktulu」や、『S&M』(1999年)からの「No Leaf Clover」に次いで、重厚な「Wherever I May Roam」から軽快な「Moth Into Flame」への流れで終盤へと道筋を立て、14曲目に「Battery」のイントロが聴こえてくると、現地でも映画館内でも一気に歓声が大きくなり、そこからはもう怒濤だ。シン・リジィで知られるアイリッシュ・トラッド「Whiskey In The Jar」もウケにウケまくり、ラストは「One」から「Enter Sandman」という大人気曲の連続技で大団円に…!
今ツアーではアンコールをやらないので、ショウはこれにて終了となったが、それでも毎回約2時間という長丁場──アラカンのメンバーにとっては、体力的にかなりキツいハズだ。しかしながら、4人のメンバーはみんな笑顔。地鳴りのような大歓声に応え、大きめのカップに詰め込まれた大量のピックを文字通りバラ撒くカークとロブ、マイク・スタンドに貼られたピックをはがして1枚ずつ投げ込むジェイムズ、何本ものスティックを放り込むラーズは、いずれも充足感たっぷりな表情を浮かべていた。
果たして、この一大スペクタクルなショウを日本で生体験出来る日はくるのか…? 大いに期待しつつ、楽しみに待ちたい…!!
メタリカ@AT&T Stadium, Arlington, Texas U.S.A. 2023.8.21 セットリスト
1. Whiplash
2. For Whom The Bell Tolls
3. Ride The Lightning
4. Dirty Window
5. 72 Seasons
6. If Darkness Had A Son
7. Fade To Black
8. You Must Burn!
9. The Call Of Ktulu
10. No Leaf Clover
11. Wherever I May Roam
12. Moth Into Flame
13. Battery
14. Whiskey In The Jar
15. One
16. Enter Sandman
(レポート●奥村裕司 Yuzi Okumura)