TUBE春畑道哉ソロ・ライヴ:極上のトーンとメロディーに彩られたギター・インスト@東京ドームシティホール 2020.11.29

TUBE春畑道哉ソロ・ライヴ:極上のトーンとメロディーに彩られたギター・インスト@東京ドームシティホール 2020.11.29

去る11月29日、東京ドームシティホールにて、TUBEのギタリスト:春畑道哉のソロ・ツアー“MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND 2020 Promised Land”の最終公演が行なわれた。生演奏がすっかり珍しくなってしまった昨今では、ライヴ会場に足を運ぶことすら新鮮に感じられる。10月末から行なわれた本ツアーでも、入場者数を50%に制限する対策がとられており、この日の会場でも1席ごとに間を空けて座るようになっていたが、着席可能な所はほぼ埋まっており、誰もが心待ちにしている様子が伺えた。

機材が整えられた薄暗いステージの中央に、1箇所だけスポットライトが当たっている。照らされているのは春畑のギター。トランスペアレント・ピンクのフィニッシュが美しい、最新のフェンダー製シグネチュア・モデル(MADE IN JAPANラインのMICHIYA HARUHATA STRATOCASTER TRANS PINK)だ。アンプはよく見ると、愛用するディバイデッド・バイ・サーティーンの他にEVH製のヘッド“5150 III”が2台セッティングされている。キャビネットも同じくEVH製だ。おそらく、10月初旬に逝去した世紀のギター・ヒーロー:エドワード・ヴァン・ヘイレンへの、春畑からの追悼の意が込められているのだろう。…そんなことを考えていると舞台にサポート・メンバーが登場、続いて主役が姿を現す。拍手で迎えた観客に軽く手を上げて挨拶し、まずは「Promised Land」が披露された。出身地である町田市の再開発エリアのために昨年作られた楽曲で、早くもポジティヴなサウンドが広がっていく。

続いては2012年のミニ・アルバム『FIND MY PLACE』から、グルーヴィな「EAGLE FLY」、メロディックな「The ONE」。芯のあるバンドのサウンドが心地よい。今回のメンバーは、春畑とは旧知の仲であるDIMENSIONのサックス奏者、勝田一樹をはじめ、キーボードにはトップ・プロのサポートを多数務める宮崎裕介、ベースには父親の影響でTUBEの音楽に慣れ親しんできたというWEAVERの奥野翔太。ドラムは全6公演をSATOKOが務める予定だったが、途中で急遽変更となり、この日を含めた終盤は楠瀬タクヤ(Rest of Childhood、MIMIZUQ etc.)がピンチヒッターに登板した。しかし卓越したミュージシャンたちの作り出すグルーヴには、ハプニングをものともしない見事な一体感がある。

春畑が、昨年発表された最新ソロ・アルバム『Continue』が第34回日本ゴールドディスク大賞「インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞したお礼を述べ、同作のタイトル・トラックが演奏される。スタンドに用意されたアコースティック・ギターでイントロが奏でられ、穏やかでオーガニックな空間が作られていった。エレクトリックに移ってからは原曲のヴァイオリン・パートをサックスが担当し、会話を交わすかのような見事なフレーズの掛け合いに心が躍った。

春畑道哉

幻想的なワルツ「Dream Box」を過ぎると雰囲気がガラリと変わり、ラテン風味も香る16ビートの「Wave Rush」へ。スクリーンいっぱいに、“チューブライディング”に挑むサーファーを待ち受けるような大波のイメージが広がる。心地よいカッティングにキメキメのフレーズはとてつもなくグルーヴィで、普段のライヴなら、新たな大歓声が沸き起こったことだろう。しかし、口を開かなくてもリアクションはできるものだ。今や観客は総立ち、リズムに合わせて手拍子と共に踊っている。春畑も観客を煽るように、リフに合わせてジャンプ! 宮崎のピアノ・ソロも凄まじく、エネルギッシュな演奏が展開された。

「悩んだけど…やってよかった」と、ウィズコロナにおけるソロ・ライヴの開催に至るまでの心境を明かしてくれた春畑。今度は1人でピアノの前に座り、出来たばかりの新曲を聴かせてくれた。地元での思い出がヒントになって生まれたそうで、テスト用紙をヤギに食べさせようとした…という高校時代のエピソードに、場内は思わず大爆笑の渦に(笑)。しかしひとたび鍵盤に触れれば、さざめくような旋律やショパンを思わせる音使いによる、深みのある曲を奏でてくれたのだった。和やかトークと完成された演奏のギャップもまた、“ハルソロ”のお楽しみの1つである。

バンドが戻り、繊細な「東京classical」を経て、「花鳥風月」へ…この曲は最新作の中でも一段と印象深かったが、ライヴでの存在感はまた特筆ものだった。なぜか全体の音量が上がって聴こえ、ギターも1音1音がより太く、壮大に響いてくる。タメを効かせた泣きのメロディーはまさに、フレーズもトーンも最上級。また、何度か触れているように、バックの映像効果は春畑の音楽が抱く世界観を見た目にも後押ししている。ここでは筆絵による蝶や花、鳥などのモチーフが優雅に動き、演奏に彩りを加えているように感じた。

本人のツイッターを通じて募集されたリクエスト・カヴァー曲のメドレーも興味深かった。ディズニー曲に始まり、エアロスミス、布袋寅泰、松本孝弘、T-SQUAREまで飛び出す贅沢さ。フレージングには個々のスタイルがはっきり出ている一方、それらが春畑のトーンで弾かれるのはとても新鮮だ。

春畑道哉

終盤に向けても、見せ場は増えていくばかり。テンションの高い「FANTASIA〜LIFE WITH FOOTBALL〜」でまたしても観客は立って手拍子に応じる。キレの良いグルーヴが炸裂する「EXPERIENCE #9」ではフロントの3人がステージ前方に歩み出て、キメに合わせてポーズを取る。さらには、高難度のテクニックとメロディーの対比が絶妙な「SPEED STAR」、興奮冷めやらぬ中に「JAGUAR’13」でさらに畳み掛け。手に汗握るシュレッド技や、ピックを使ったタッピングなどなど、まさにギタリスト必見のパフォーマンスが連続。派手なプレイをがっつりキメる一方、セットの前半ではヴォリューム奏法をギター側のノブを素早く回して行なっていたが、この辺りではアーミングを併用するためかヴォリューム・ペダルを使った方法に切り替えており、ニュアンス付けへのこだわりが感じられた。こうしたチャレンジングに思える楽曲の数々をコナしつつ、笑顔で視線を交わすバンドから、楽しさが伝わってくる。一連のエネルギッシュな弾きまくりを見せた春畑も、最後にはガッツポーズ!

さらに、「J’S THEME(Jのテーマ)〜FRONTIER Ver.〜」では、Jリーグがコロナ禍から再開宣言を行なった時のYouTube映像が流れる。それだけでも充分感動的なのに、ここでステージにゲスト・シンガーのエリアンナが呼び込まれ、スキャットによる主旋律を披露。美しく力強い歌声は時にギターのメロディーとも絡み合い、すっかり耳に馴染んだ曲にさらなる感銘を与えてくれた。

アンコールでは、雄大な「Red Bird」でのロック・ジャムを経て、何とヴァン・ヘイレン「Eruption」(1978年『VAN HALEN』収録)のカヴァーが披露! ロック・ギタリストなら誰でも1度は真似したであろう名ソロ・ピースを、エディに肉薄せんとばかりの高い再現度で弾き倒し、亡きギター・ヒーローへのトリビュートを見せてくれた。

そして、昨年暮にプロレス興行とのタイアップでリリースされた配信シングル「Kingdom of the Heaven」へ。「侍が間合いを取るような感じ」と表現していたスリリングなプレイが矢継ぎ早に放たれる。手前味噌ながら、YGはリリース時に同曲のギター・コンテストを開催させていただいた経緯があり、思い出深い1曲だ。

ラストは「寂しく終わりたくはないから、明るい曲で…」と、「青いコンバーチブル」(1989年『Smile On Me』収録)。アップ・テンポな曲調は再び会場を沸かせ、惜しみない拍手を受けた春畑は、名残惜しそうにステージを後にした。

気づけば2時間近くが経過…しかし1曲1曲に引き込まれ、時の経つのも忘れていた。これぞギター・インスト、といった醍醐味を存分に味わわせてくれた春畑。またすぐにでも観たいと思わずにはいられない、贅沢なひとときだった。次回開催時には、名演が繰り広げられるたびにオーディエンスが大歓声で応えられるようになっていることを願いたい!

春畑道哉&バンド2

MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND 2020 Promised Land @東京ドームシティホール 2020.11.29 セットリスト

1. Promised Land
2. EAGLE FLY
3. The ONE
4. Continue
5. Dream Box
6. Wave Rush
7. ピアノ曲
8. 東京 classical
9. 花鳥風月
10. カヴァーメドレー(星に願いを〜ミッキーマウス・マーチ〜Eat The Rich/エアロスミス〜BATTLE WITHOU HONOR OR HUMANITY/布袋寅泰〜#1090〜Thousand Dreams/松本孝弘〜TRUTH/T-SQUARE)
11. FANTASIA〜LIFE WITH FOOTBALL〜
12. EXPERIENCE #9
13. SPEED STAR
14. JAGUAR’13
15. J’S THEME(Jのテーマ)〜FRONTIER Ver.〜
[Encore]
16. Red Bird
17. Eruption(VAN HALEN cover)
18. Kingdom of the Heavens
19. 青いコンバーチブル