『踊る一寸法師』再発記念! 人間椅子東京公演@Zepp DiverCity 2022.4.18 ライヴ・レポート

『踊る一寸法師』再発記念! 人間椅子東京公演@Zepp DiverCity 2022.4.18 ライヴ・レポート

キャリア30年以上を誇る青森発のヘヴィ・ロック・トリオ:人間椅子が、1995年の第5作『踊る一寸法師』の再発を祝し、2022年4月、全国7都市を巡るワンマン・ツアーを実施した。『踊る一寸法師』はここしばらく廃盤状態が続き、中古盤が高騰したりして入手困難になっていたアルバムだ。しかし2018年にまずデジタル配信が始まり、その後──2021年11月、CDでも遂にリイシューが実現。本ツアーの演目には同作収録曲が満載され、新旧いずれものファンが歓喜・感涙したのは言うまでもない。ここではそのツアー最終日──東京はZepp DiverCityでの千秋楽公演の模様をお届けしよう。

感染対策のガイドラインに則った全席指定でスタンディング公演とはならならなかったものの、2階バルコニーまで埋まり事前ソールドアウトに。ただ今回、国内外に向けてネット配信もされていたため、世界中のファンがリモートでライヴを楽しむことができた。近年、欧米でも急速に人気を拡大していっている彼らにとっては、さらなる海外ファンの獲得にもつながったのではないだろうか。

人間椅子 2022年4月18日 鈴木、和嶋、ナカジマ

開演予定時刻の19時を少し回った頃、暗転した場内にSEとして「新青年まえがき」が流れ、いよいよショウがスタート。ステージ下手より、和嶋慎治(g, vo)、ナカジマノブ(dr, vo)、鈴木研一(b, vo)の順に登場すると、それぞれ(声出し抑制が求められていたため)大歓声ではなく大拍手で迎えられる。1曲目は『踊る一寸法師』の冒頭を飾る「モスラ」。鈴木によれば、25年ぶりにプレイされたそうで(冗談か本気か「次に聴けるのは25年後です」とも…)、和嶋がちょっと緊張しながら丁寧に弾いているように見えたのはそのためか。いや、元々スロー・スターターなところがあるので、じっくり自らを昂めていっていたのだろう。イントロからスイッチングで変化を付け、中間部のソロ・パートで独特な歪みが唸りを上げる頃には、その音の説得力に観客がグイグイ惹き込まれていくのが分かった。続く「ギリギリ・ハイウエイ」では、ステージ中央で和嶋と鈴木が往年のKISSやジューダス・プリーストばりに動きをシンクロさせ、並んで体を揺らすフォーメーション・プレイも飛び出す。

鈴木の「今日は(雨天で)お足元の悪い中…」という(一部ファンにはお待ちかねの)MCを挟み、3曲目は最新作『苦楽』(2021年)のリード・トラック「夜明け前」。ここまでくると和嶋もすっかり本調子となり、歌いながらのプレイにも最初の2曲よりずっと余裕が感じられる。途中ドラム・ブレイクからの“ドンドンパッ!”なパートでは観客がクイーンの“あの”曲を思わせる手拍子で応え、その好リアクションにますます感情が昂ぶったのか、和嶋のソロはいっそうエモーショナルに。次の「巌窟王」では図太いヘヴィ・リフが唸りを上げ、ギター・ソロ終わりでナカジマの銅鑼が炸裂した。

続いては「和嶋クンの“津軽三味線ギター”が存分に楽しめます」という鈴木のMCから「どだればち」。ヘヴィ・ブルースと津軽民謡が合体したこの曲は、祭囃子に乗る津軽弁の歌詞と“アラどしたぁ〜”という合いの手が特徴的だが、ギター・ファンにとっては鈴木の言う通り津軽三味線のテクニックを盛り込んだ和嶋の熱奏が最大の見どころ! しかも、エンディングに向けてのソロ・パートが何倍にも引き延ばされ、必殺の歯弾きや背面弾きも含む入魂のインプロと、その裏でうねりまくる鈴木の変幻自在なベース・ワークがとにかく圧巻だった。演奏後、和嶋は「あり得ない長さのソロをやってしまいました」「自分でもヤバいぐらい、“ずっと弾いていたい”と思ってしまいまして」と反省の弁を述べたが──とんでもない! もっともっと、永遠に聴いて&観ていたかったぐらいだ。

和嶋慎治 2022年4月18日

お次は「時間を止めた男」で、ギブソンSGがトレードマークの和嶋は、12弦が必要となるこの曲でギブソンのダブルネック・ギター“EDS-1725”を使用。12弦(カポ装着)がしっとり奏でられるのは中盤からだが、強烈な歪みが掛けられた6弦でも、他の曲とは異なるトーンが楽しめ、CDでは逆回転になっていた終盤のギター・ソロがまた違う味わいを醸し、どこかイーグルスの某有名曲を思わせる哀感を湛えていた点は特筆しておきたい。なお、この日は披露されなかったものの、地方公演では「羽根物人生」でもダブルネックが使用されたようだ。

人間椅子 バンド2 2022年4月18日

ここから後半戦。まずは『怪談 そして死とエロス』(2016年)より「泥の雨」、続いて『新青年』(2019年)より「瀆神」がプレイされ、前者でのトリルやピックを使ったタッピング、後者でのブルース・フィール…と、和嶋の引き出しの多さに改めて唸らされる。かと思うと、引きずるようなヘヴィネスが椅子版“黒い安息日”な「踊る一寸法師」では空間系エフェクトも駆使しつつ、怪異な逢魔が時を演出。そんな和嶋の周りを異形の一寸法師よろしく鈴木が舞い踊り、不気味な笑い声を上げまくるのも、実にインパクト絶大だ。さらに、和嶋ワールド全開な歌詞と凶暴な重低グルーヴの対比が見事な「暗い日曜日」にはギター・ソロの前にプログレッシヴな展開部があり、その反復の迷宮に幻惑されっ放しだった。

バンドの海外進出を大きく引き寄せた記念碑的ナンバー「無情のスキャット」が11曲目にプレイされると、いよいよショウも大詰めへ。欧州ツアーでもウケまくっていた銅鑼の乱打で始まる同曲では、“シャバダバディア〜”と一緒に歌えなくて残念だったが、それ故にバンドとオーディエンスの一体感が余計に高まった…とも言えよう。そして続くは、ナカジマがリード・ヴォーカルを執る「至上の唇」。演奏前にはここまでMCに絡んでこなかったナカジマによる恒例の単独MCがあり、「やっぱり、みんなの前で演れるのは幸せだね〜」「みんなの声が聞こえなくても、手が上がって、拍手があるだけで(気持ちが)伝わってくるぜ〜!」という言葉に、観客のテンションはもうアガる一方だ。

「心の中で…でっかい声で、俺を“アニキ”って呼んでくれ〜!」との絶叫に、今日イチの大きな大きな満場の拍手が起こったのは言うまでもない。また、ロケンローなノリでヘッドバンギングとフィストバンギングを誘発するこの曲では、ステージ中央で和嶋と鈴木が向かい合い、跪いてプレイする和嶋の横で鈴木がネックを高々と掲げたり、2人揃って背面弾きを見せたり、エンディング前にプチ・ドラム・ソロが用意されていたり…と、もう見せ場だらけだった。

ナカジマノブ 2022年4月18日

残る曲はわずか…。本編ラス前の「幸福のねじ」で和嶋はアヴァンギャルドなソロを繰り出し、続く大定番「針の山」ではキメで何度もジャンプしまくり! もちろん鈴木がフロアを煽らずとも観客も負けじと腕を上げ何度もジャンプに興じる。「針の山」終わりで、開演からもう2時間弱が経過。時刻を確認し、思わず「えっ…?!」となる。それぐらい、ここまで本当にあっという間に感じられたからだ。

アンコールは2回。いつも通り和嶋とナカジマはバンドT(ツアーT)に着替えて(+和嶋はモンペ・スタイル)、鈴木は白装束に。まず、「盛り上がっているところ、また暗〜い曲を…」との鈴木のMCから「エイズルコトナキシロモノ」。スタジオ・テイクよりもずっと重々しいヴァージョンになっていて、まるでミック・ボックスがリッチー・ブラックモアに変身するかの如く、ワウを効かせた和嶋のソロが様式美テイストに転ずる瞬間、CDで聴く時以上のカタルシスが得られた…という人も少なくなかったのでは? 続いて、「無情のスキャット」と並びバンドを代表する曲となっている「なまはげ」。ここでも津軽三味線彷彿の高速&連続スライドが強烈なアクセントとなり、その横では鈴木が顔芸で盛り立て、ネック・ベンドからフィードバックがキレイに響き渡ると、すかさずナカジマが銅鑼を打ち鳴らす…!

鈴木研一 2022年4月18日

この時点でフロアの熱量はもうとんでもないことになっていたが、セカンド・アンコールでは鈴木の「おーれのあたまは…ダイナマ〜イト!!」というフリから始まった暴走チューン「ダイナマイト」がダメ押しとばかりに観客の首をさらに激しく振らせ──21時25分、2時間半に迫るショウは静かなる熱狂と共に幕を閉じた。

結果的に、『踊る一寸法師』からは8曲がプレイ。「羽根物人生」と「三十歳」がなかったので“再現ライヴ”とはならなかったものの、数十年ぶりといったレア曲が目白押し。曲間のMCで同作にまつわる思い出話や裏話(インディ落ちしたが、「好きに、自由にやれるから逆にイイんじゃないの」とか、7日間で録音完了は最短記録…など)が色々と聞けたのも貴重だった。個人的には「幸福のねじ」が嬉しかったし──あと他に「りんごの泪」も「杜子春」もなかった…とはいえ、ファンにとっても、バンド自身としても、満足度と充実感は相当なモノがあったろう。

なお、MCによれば彼らは今年中にまたワンマン・ツアーを計画しているとのこと。ステージから去り際、「また会おうぜ!」と叫んだナカジマ。会場を埋めた観客のみならず、ネット視聴していた全世界のファンも、きっと同じ想いだったに違いない…!!

人間椅子ライヴ オーディエンス 2022年4月18日

「『踊る一寸法師』再発記念ワンマンツアー」 東京公演 @Zepp DiverCity 2022.4.18 セットリスト

SE:新青年まえがき
01. モスラ
02. ギリギリ・ハイウエイ
03. 夜明け前
04. 巌窟王
05. どだればち
06. 時間を止めた男
07. 泥の雨
08. 瀆神
09. 踊る一寸法師
10. 暗い日曜日
11. 無情のスキャット
12. 至上の唇
13. 幸福のねじ
14. 針の山
[encore 1]
15. エイズルコトナキシロモノ
16. なまはげ
[encore 2]
17. ダイナマイト