不屈の男が帰ってきた! ’07年4月の前回来日から実に16年半余──ヴィシャス・ルーマーズ(以下VR)を率いるジェフ・ソープが、日本初見参となるメンバーも引き連れ、すべてのファンが待ち望んだ久々の日本上陸を遂に果たしたのだ。16年以上とは随分と待たされたものだ…が、ずっとメタル一筋で50年近くもシーンの最前線を走り続けてきたジェフの熱情は今もって大健在。還暦を越えても、そのメタル魂は熱く熱く滾っていた…!!
当然ながら、バンド・ラインナップは’07年から大きく変わっており、首魁ジェフ(g, vo)と’85年から彼と共にVRの屋台骨を支えてきたラリー・ハウ(dr, cho)以外は、全く異なる顔触れに。現シンガーは’09年加入で何度か出たり入ったりを繰り返してきたブライアン・アレンで、ジェフとギター・チームを組むのは’17年加入のガナー・デュグレイ、ベーシストは’20年加入のロビン・ウトブルトだ。かつて’11年作『RAZORBACK KILLERS』と’13年作『ELECTRIC PUNISHMENT』で歌っていたブライアンは、’13年脱退〜’17年復帰〜’18年再び脱退を経て、実は’23年夏に出戻ったばかりだったりする。
実は…といえば、今回の来日公演が決まった当初、シンガーの座に就いていたのは元メタル・チャーチのロニー・ムンローだった。ロニーが迎えられたのは’22年夏のこと。多くのファンが「ヴィシャスにメタチャの元ヴォーカルが加入だって…?!」「何という美味し過ぎる組み合わせ!!」と色めき立ったものの、来日まであと4ヵ月とちょっと…というタイミングで、ゴタゴタあってロニーは電撃脱退…! USパワー・メタル界における“夢の合体”は、日本のファンにとっては本当に“夢”で終わってしまったのである。
ところが、その後任としてブライアンに声が掛かったことで、以前はなかなか日本を訪れる機会に恵まれなかった彼にとって、ようやく日本発来訪の機会となった。尚、現時点でのVRの最新作は、’20年リリースの『CELEBRATION DECAY』で、当時のヴォーカルはニック・コートニー(’22年脱退)。コロナ禍もあってしばらくアルバム制作から遠ざかっていたバンドは、’21年、’22年とほぼライヴ/ツアーが行なえず、’23年になってようやく、ロニーと共に初期4作──『SOLDIERS OF THE NIGHT』(’85年)、『DIGITAL DICTATOR』(’88年)、『VICIOUS RUMORS』(’90年)、『WELCOME TO THE BALL』(’91年)にフォーカスしたツアー“OVER THE ATLANTIC”に乗り出すことが出来たのだった。
よって今回の来日は、’23年前半に欧米を廻ったそのツアーの延長線上にあり、初期4作のレパートリー中心にセレクトされた演目に加えて、久々の日本訪問ということで、事前にファンからリクエストを募り、欧米ではやっていない楽曲も含む、文字通りスペシャルなセットリストが組まれることに。詳しくは後述するが、中にはかなりのレア曲もあり、3日間それぞれ異なる選曲だったのも最&高! 言わずもがなバンドのパフォーマンスも、3日間すべてが極&上とか言いようがなかった。
初期よりヘヴィ・メタルそのもの──パワー・メタリックでありながら、実のところ“何とかメタルではない文字通りのヘヴィ・メタル”を標榜してきた彼等は、ある意味頑固一徹なバンドと言えるかもしれない。一時はヘヴィ・グルーヴに走ったりもしたが、その時も決して本質は失わず、トラディショナルなメタルの王道・本道から逸脱することもなかった。というか、今回は初期4作からのナンバーがテンコ盛りなのだから、余計に“これぞメタル!”な傾向は強い。もし「(伝統的)メタルとは何ぞや?」と問われたら、「ハイ、VRです」と即答したくなるし、彼等のショウを観れば、誰しもがそう納得するに違いない。
もうひとつ言っておくと、どの瞬間もツイン・ギターの旨味が満載。ヘヴィかつソリッドなリフが強烈なツカミとしてあり、ツインのハモりを備えたギター・オーケストレーションが絶妙に配され、シュレッド入りの鮮烈かつ劇的なリード・ソロが昂揚感を掻き立てまくる。いかにも“叩き上げ”といったジェフ・ソープの重厚で猛々しいプレイに対し、ガナー・デュグレイはより自由度高く弾きまくる奔放さが眩しい。親子ほど歳が離れた2人だが、プレイ・スタイルの違いも併せた色々なギャップが、逆にすべて良い結果へとつながっているのだ。
ガナーに関しては、とにかく楽しそうにプレイしていたのが何より素晴らしい。来日時24歳と、世代的には古典的メタル路線では満足出来なさそうなのに、“雇われ感”“やらされてる感”など皆無で、自分が生まれる遥か以前にもう存在していた楽曲にしっかり入れ込み、ライヴ中ずっとヘドバンしながら、大きなアクションも頻発させ、バッキングもソロも全身全霊で表現してくれるのだ。それでいて、旧曲のソロ再現度がハンパない。『SOLDIERS OF THE NIGHT』はヴィニー・ムーア、『DIGITAL DICTATOR』〜『WELCOME TO THE BALL』はマーク・マクギーと、往時のジェフの相棒はとてつもない凄腕で、そのソロを任されるなんて無理難題も同然なのに、どの曲でも見事に弾きコナし、殊にヴィニーのパートの完璧さは目を見張る。「In Fire」や「Blitz The World」なんて、観ていて惚れ惚れとするほど凄まじかったし。
そんなガナーに引っ張られてか、還暦超えのジェフのプレイにも力が漲り、例えば「Digital Dictator」(『DIGITAL DICTATOR』収録)や「Don’t Wait For Me」(『VICIOUS RUMORS』収録)なんて、もう何百回、何千回と演奏してきたのに、ルーティン化などまるで感じさせることなく、一音一音をすべて思い入れたっぷりに弾いていることが伝わってきた。東京公演2日目のみ披露された「You Only Live Twice」(『WELCOME TO THE BALL』収録)のソロ・パートなんて、エモくてエモくて堪らなかったし、東京初日には珍しく弦を切ってしまうハプニングも。要はそれだけプレイにのめり込み、いつも以上に熱く力を込め過ぎてしまったのだろう。おかげで、(バックアップ用の)STシェイプを弾くジェフという近年ではなかなか見られない姿が拝めたのも、もしや怪我の功名と言えたのでは?
ちなみに、還暦超えなのはジェフだけではない。ドラムのラリーは来日時62歳で、移動を伴う3日連続公演で毎晩90分ステージをやってのけるだけでも尋常ではないのに、’90年代当時と比べてもパワーが全く落ちていなかったのだから驚愕だ。’92年の初来日時、ラリーのタイトかつ豪快なドラミングを初めて生で観て、「まるで鬼神のよう…」と圧倒されたのを憶えているが、鬼気迫るオーラは健在どころではなく、疾走チューンにおける突進力も未だ迫力充分。また、VRの楽曲は印象的なドラム・フィルから始まる曲が少なくないが、そこからイントロへとつながるスリリング感がまた格別で──東京公演初日のみ披露された「Out Of The Shadows」(『DIGITAL DICTATOR』収録)では、冒頭のドラムが炸裂した瞬間、悲鳴のような歓声があちこちから上がっていた。
そのラリーとリズム隊を組むロビンは、言うなればさっぱり系のイケメン。キャラの濃いメンツが揃っているVRにおいてはやや印象が薄くなってしまったかもしれないものの、その堅実なプレイは正に“縁の下の力持ち”。その実、多弦ベースも多用していた初期ベーシスト:デイヴ・スターの細かなオブリもちゃんと再現していて、これまたプレイ巧者なのだ。勿論ラリーとのコンビネーションも、歴代ベーシスト達と比べて何ら遜色なかった。
そして、フロントマンのブライアンはというと──これが万全の状態ではなかった…。いや、鋭いハイ・トーンを何度も放ち、’95年に夭逝した故カール・アルバートに肉薄する表現力も見せていたから、まさか体調不良だとは気付かなかった観客が殆どだったろうが、日本到着日からあまり具合がよろしくなく、酷い時差ボケもあいまって本人としては思うように自らのポテンシャルが発揮出来ないもどかしさを抱えていたようだ。それでも日本での初ライヴということで、“火事場の馬鹿力”ではないが本来の体調以上のパワーで3日間を歌い切り、「楽シミマショウ〜!!」と日本語MCでも観客を沸かせ、東京2日目と大阪では、鳴りやまないセカンド・アンコールを求める声に応えて軍隊時代に覚えたというミリタリー・ケイデンス「Viking Lullaby」をアカペラでガナって締めくくったりもして──何とか初の日本ツアーを完全燃焼で乗り切ったのである。
改めてセットリストを振り返ると、『SOLDIERS OF THE NIGHT』からの選曲の“濃さ”に唸らされる。歴代シンガーによって歌い継がれてきた表題曲と「March Or Die」はともかく、「Ride (Into The Sun)」「Medusa」「Blistering Winds」「Murder」といったところは、恐らくもうずっとライヴ披露されてこなかったレア曲中のレア曲。東京初日公演がいきなり「Ride〜」で幕開け、続いて「Medusa」のイントロが始まった時なんて、意表を衝かれたどころではないオーディエンスが続出だった。
『VICIOUS RUMORS』と『WELCOME TO THE BALL』からのセレクトも、新旧ファンのマニア心をくすぐりまくり。中でも、後者からの「Dust To Dust」と「Mastermind」はいずれもかなりのレア曲なので、もしかしたら日本のファンのリクエストに応えたスペシャル選曲だったのかもしれない。無論、みんな他にも聴きたい曲はそれぞれあったと思う。それでも、日替わりセットを組んでくれただけでありがたいことこの上ナシ。せっかくブライアンがいるのだから…と、『RAZORBACK KILLERS』から「Murderball」と「Let The Garden Burn」がプレイされたのも良かった。確かにロニー・ムンローの早々の脱退は残念ではあったが、彼と来日していたらきっと『SOLDIERS OF THE NIGHT』からの選曲はもっと少なかったろうし、『RAZORBACK KILLERS』からは全く選ばれなかったハズだ。
ところで──大阪公演のみショウ後半にラリーのソロ・タイムがあったのは、ガナーの機材にトラブルが発生し(現地調達のキャビネットに原因が…?)、つまりは急遽の措置だった。結局、長めのドラム・ソロをやってもまだ復旧せず、何と一旦ショウを中断して客電が点いてしまう…といった事態にまで及んだものの、予定外のドラム・ソロにはみんな大興奮! その後、10分以上の沈黙を挟んでようやくショウが再開されると、続いて演奏されたのが人気曲「Hellraiser」(『VICIOUS RUMORS』収録)だったことで、何だか異常な盛り上がりに発展したのも強く印象に残っている。
そんなこんなで──3日間はあっという間に過ぎ去り、バンドにとってもオーディエンスにとっても、本当に忘れられない来日ツアーとなった。「次は16年も待たせないよ!」とはジェフの弁だが、’24年にはスタジオ新作も期待出来そうなので、それに伴い2年連続での来訪にも期待が高まる。しかもこの年は、VRにとって結成45周年という節目の年でもあるのだ。ニュー・アルバムと45周年、そのどちらも日本で共に祝おうではないか…!!
ヴィシャス・ルーマーズ 2023来日公演セットリスト
2023.11.29 @ TOKYO SPACE ODD
1. Intro〜Replicant(SE)
2. Ride (Into The Sun)
3. Medusa
4. Worlds And Machines
5. Ship Of Fools
6. On The Edge
7. Digital Dictator
8. Minute To Kill
9. Six Stepsisters
10. Dust To Dust
11. Lady Took A Chance
12. Murderball
13. Blistering Winds
14. Towns On Fire
15. Abandoned
16. Out Of The Shadows
[encore]
17. Soldiers Of The Night
18. Don’t Wait For Me
2023.11.30 @ 東京 代官山SPACE ODD
1. Intro〜Replicant(SE)
2. Digital Dictator
3. Minute To Kill
4. March Or Die
5. World Church
6. Abandoned
7. Mastermind
8. Lady Took A Chance
9. You Only Live Twice
10. Soldiers Of The Night
11. In Fire
12. Down To The Temple
13. Hellraiser
14. The Crest
15. Ride (Into The Sun)
[encore 1]
16. Let The Garden Burn
17. Don’t Wait For Me
[encore 2]
18. Viking Lullaby
2023.12.1 @ 大阪 江坂MUSE
1. Intro〜Replicant(SE)
2. Worlds And Machines
3. Digital Dctator
4. Minute To Kill
5. Lady Took A Chance
6. Mastermind
7. Ride(Into The Sun)
8. Medusa
9. Blistering Winds
10. Soldiers Of The Night
11. On The Edge
12. Murder
13. Down To The Temple
14. Drum Solo
15. Hellraiser
16. Let The Garden Burn
17. Murderball
18. Abandoned
19. In Fire
[encore 1]
20. Don’t Wait For Me
[encore 2]
21. Viking Lullaby