メガデス
19時を過ぎても、空はまだ明るい。ここ北ドイツでは、盛夏の時期は22時頃まで陽が落ちないのだ。地元出身の哀愁たっぷりフォーキーなオヤジ・バンド:SANTIANOをHARDERステージで横目で眺めながら、贅沢にもBGMにしつつ、メシを食ったり、マーチをチェックしたりしていたら、いよいよここからが今年のハイライト。何せ、“超”の付くビッグネームが連続でメイン・ステージに登場するのだから。まずは19時15分より、FASTERステージでメガデス!!
彼等のWOA出演は2017年以来だったが、今回は大きな大きなトピックが…! 元メンバーのマーティ・フリードマンが、2月の日本武道館公演に続いてゲスト出演したのだ。来日時のインタビューで、WOAにて再びマーティとの共演がありそうか、デイヴ・ムステインに訊いたら「へ〜、マーティもWOAに出るのかい?」なんて言っていたが──どうやらその時点では、本当にまだ再共演については何も決まっていなかったようだ。マーティも後日「WOAでの共演を決めたのは多分、2ヵ月前ぐらい」と話してくれたし。ちなみに、武道館でマーティが参加した曲は、「Countdown To Extinction」「Tornado Of Souls」「Symphony Of Destruction」の3曲。よって、WOAでも同じかな〜なんて思っていたら、まさかまさかの結果が…!
ショウ冒頭、イントロSE「Prince Of Darkness」から「Hangar 18」で幕開け、そこから「Wake Up Dead」、「In My Darkest Hour」と、早くも日本ではプレイされなかった連打が飛び出した時点で、「変えてきたな?」とは思った…が、中盤を過ぎた頃、大合唱が起こった「A Tout Le Monde」のあとにマーティ登場…という流れこそ日本と同じだったものの、続いてリズム隊の先導で始まったのは「Trust」! 武道館では普通に(?)バンドのみで演奏された曲だ。ところが、ここでマーティが何の前触れもなく登場! 思わず「ええええ〜っ!」となった。次に「Tornado Of Souls」、そして「Symphony Of Destruction」というのは日本と同じだったが──日本では共演1曲目だった「Countdown To Extinction」はナシ──「Trust」始まりは文字通りサプライズとなったのでは? 恐らく多くのファンが、日本でどの曲を共演したのか事前にチェックしていただろうし。あと日本との違いは、マーティが往年のジャクソン“Kelly”ではなく、シグネチュア・モデル“MF-1”を弾いていた…という点も。まぁいずれにしても、デイヴとマーティが横並びで弾きまくる光景は、何度見ても“尊い”としか言いようがない。ちなみに、オフィシャルな撮影が可能だったのは、他のバンドと同じくアタマの3曲のみ。よって、マーティがジョイントした場面は撮れなかったが、幾つか動画がネット上にあるので、是非チェックしてもらいたい。キコ・ルーレイロのYouTubeチャンネルでは、バックステージのコンテナでのリハの模様も観られるし…!
しかも、サプライズはもうひとつ。アンコール1曲目の「Holy Wars…The Punishment Due」で、再度マーティがジョイントしたのだ! これはズルい…!! というか、すっかり油断(?)していた。既にメイン・ステージの前から離れていて、「アンコールは同じく“Holy Wars”か…」とスクリーンを見上げたら、何とそこにもマーティの姿が…!! 慌ててFASTERの方へと戻ったのは言うまでもない。あとでマーティに教えてもらったのだが、当初は「Take No Prisoners」も共演するハズだったとか。「Symphony Of Destruction」での共演は、WOAでは予定されていなかったらしい。ところが、「Take No Prisoners」はバックで流す映像に不備があり、急遽で「Symphony Of Destruction」に変更されたのだそう。「僕は武道館公演が終わってから、“Symphony〜”のことは1秒も考えたことがなかったけど、アドレナリンで何とか弾いた」とマーティ(以下、太字はマーティの発言)。「昔からの筋肉記憶は本物みたい(笑)」と続けた彼は、「個人的には、“Take No Prisoners”の方がよりマニアックだから、やるのが楽しみでした。でも、お客さんは多分“Symphony〜”の方が好きかも」と、結果オーライとなったことも話してくれた。
それにしても──この夏フェス・ツアーのあと、まさかキコが離脱するなんて…。何とも貴重なショウだったということか。
メガデス 2023.8.3 @WACKEN OPEN AIR セットリスト
1. Hangar 18
2. Wake Up Dead
3. In My Darkest Hour
4. Dystopia
5. We’Ll Be Back
6. Dread And The Fugitive Mind
7. Sweating Bullets
8. Angry Again
9. A Tout Le Monde
10. Trust *
11. Tornado Of Souls *
12. Symphony Of Destruction *
13. Mechanix
14. Peace Sells
[encore]
15. Holy Wars… The Punishment Due
*… マーティ・フリードマン共演曲
アイアン・メイデン
そして、大熱狂を巻き起こしたメガデスに続いては、FASTERステージにてアイアン・メイデン!! ななな…何だ? この超絶豪華な展開は…!?
4度目のWOA出演となったメイデンにとって、これが5月に始まった“THE FUTURE PAST”ツアー欧州レグの最終公演。最新アルバム『SENJUTSU』(2021年)に加えて、1986年作『SOMEWHERE IN TIME』にもスポットを当てた演目…ということで、ステージ・セットとバックドロップは映画『ブレードランナー』を彷彿とさせるモノに。そこら中に日本語が散りばめられていて、何だか不思議な感じがする(“アイアイメイデン”“戦術”、各曲タイトルの邦訳はともかく、“ラーメン屋”“天ぷら”や“待合室”“天国”は…)。イントロSEがヴァンゲリスの「Blade Runner (End Titles)」だったのにも唸らされたが、序盤から「Caught Somewhere In Time」「Stranger In A Strange Land」と、レアな『SOMEWHERE IN TIME』収録曲が続けざまにプレイされたのも凄い! しかも後者で、サイボーグ・エディがチラっと顔見せしてすぐに引っ込むのも、また心憎いばかり。
演目に関しては、「Days Of Future Past」「The Time Machine」「Death Of The Celts」、そしてアンコール1曲目(!)の「Hell On Earth」と、このツアーが初披露となる『SENJUTSU』収録曲が多めだったのも特筆モノ。さらには、これまでライヴで一度もプレイされたことがなかった『SOMEWHERE IN TIME』収録曲「Alexander The Great」の終盤披露も大きな話題だった。注目のトリプル・ギターは、主にステージ下手に陣取るデイヴ・マーレイ&エイドリアン・スミスが、共にメロディックなプレイで燻し銀の魅力を放っていたのとは対照的に、上手側のヤニック・ガーズは、「ワシは止まったら死ぬんじゃ!」とでも言わんばかりに暴れまくり! その時点でヤニックは(デイヴ&エイドリアンと同じく)66歳ということで、かつてのように同じく上手チーム(?)のスティーヴ・ハリスと競うようにステージ狭しと走り回ることこそなかったものの、ギターを抱え上げたり、振り回したり…と相変わらずアクションはいちいち大きめだったので、とてもとても還暦越えには見えない。
アクティヴという点では、フロントマン:ブルース・ディッキンソンが群を抜いていた。8月7日が誕生日の彼は、65歳目前。約10年前に大病を克服するも、一時はかなり痩せてしまったことも。WOAでも見た目には「流石に“鉄人”ブルースも老けたな…」と思わされたのだが、堂々たる力強い歌い上げ、常に観客を煽りまくりながらの立体ステージを上へ下へ&右へ左へ…の運動量の多さには、ド肝を抜かれるどころではなかった。
「Heaven Can Wait」では、再登場したサイボーグ・エディを光子キャノンで迎え撃ち、その他の多くの楽曲でも、マイク・スタンドを振り回しての派手なパフォーマンスは、もはや超人の域というか、実は彼もサイボーグなのでは…なんて思ってしまうぐらいだった。また、サムライ・エディ登場の「Iron Maiden」を終えての本編終了時、脳虚血発作を克服してこのツアーに臨んだドラマーのニコ・マクブレインを讃える短いMCには、きっとみんな感激至極だったことだろう。そしてアンコール・ラスト「Wasted Years」での大団円のあと、ドローン・アートによって、いつしかすっかり暮れたWOAの夜空にバンド・ロゴやサムライ・エディなどの姿が浮かび上がり、約2時間に及ぶ一大スペクタクル・ショウは心地好い疲労感と共に幕を閉じたのだった。いやいや…これは今年9月の来日公演がますます楽しみになってきたぞ!!!!
アイアン・メイデン 2023.8.3 @WACKEN OPEN AIR セットリスト
1. Caught Somewhere In Time
2. Stranger In A Strange Land
3. The Writing On The Wall
4. Days Of Future Past
5. The Time Machine
6. The Prisoner
7. Death Of The Celts
8. Can I Play With Madness
9. Heaven Can Wait
10. Alexander The Great
11. Fear Of The Dark
12. Iron Maiden
[encore]
13. Hell On Earth
14. The Trooper
15. Wasted Years
お馴染みのアウトロ「Always Look On The Bright Side Of Life」も流れてきて、何だか“本日はこれにて終了〜”みたいなムードになってしまったが、まだまだフェスは続く。サブ・ステージ以下のモロモロは勿論として、ダブル・メイン・ステージでも、あと2組のアーティストが控えているのだから。メイデンの余韻を引きずったままFASTERステージへ行くと、23時15分に登場したのはノルウェーのヴァルドゥルナ!
実のところ、彼等は古楽集団であり、メタル…いや、ロック・バンドですらない。様々な古楽器を使い、北欧神話や古代文字ルーンの謎に迫ったそのサウンドは、古えのヴァイキング達が奏で、歌った調べに迫っているのだという。照明による演出にもこだわりまくった独特の世界観はスピリチュアルでプリミティヴで、寂寞として幽玄。古ノルド語による詠唱と時に呪術的かつ密儀的ですらある古楽器の旋律、太古からもたらされる原初的律動は、もう一瞬にしてその場の空気を変えてしまった。
こういったバンド(楽団)もメインを張れるところがWOAの面白いところ。ヴァルドゥルナについては、極悪ブラック・メタラー:ゴルゴロスのドラマーだったアイナル・セルヴィクが始めたソロ・プロジェクトに端を発することもあり、ブラック・メタルやゴス/ダーク・ウェイヴのファンからも熱狂的に支持されているのだが。
続いて、午前0時45分にHARDERステージへ登場…というか、本日のクロージング・アクトを務めたのは、地元ハンブルク出身のゴスでインダストリアルなロック/メタル・バンド:LORD OF THE LOST!
メンバーの見た目通り、グラム・テイストも感じさせるそのサウンドは、ダーク&ヘヴィでありながら、なかなかキャッチー。日本ではあまり知られていないと思うが本国ではチャート常連で、2022年作『BLOOD & GLITTER』はNo.1を獲得している。また、2023年度の“Eurovision Song Contest”のドイツ代表を務めた彼等は、アイアン・メイデンの“THE FUTURE PAST”ツアーでオープニング・アクトに抜擢され、この年にドイツから世界へ向けて飛躍を遂げようとしていた…とも言えよう。
ノリの良い曲が多いため、もう深夜だし、肌寒いどころではなく「ホントに8月なの?」と思うぐらい冷え込んでいたにもかかわらず、推定1.5万人の観客は飛んだり跳ねたり歌ったり…と大熱狂! ショウ中盤には、同郷のポップ・シンガー:Blümchenことヤスミン・ヴァーグナーをゲストに迎え、ロクセットのカヴァー「The Look」でも大いに盛り上げてくれた。
さて──残り1日。地面は依然ぬかるみまくっていて、明日も長靴必須だろうが、天候はすっかり回復したし、まだまだ楽しみなバンドがあれこれ残ってるし…で、最終日もメタル三昧と行きましょう〜!! Wacccckkkkkkeeeeeeeeeeeeennnnn!!!!!