アーティスト名 | AC/DC AC/DC |
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アルバム名 | ROCK OR BUST ロック・オア・バスト |
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アルバム冒頭、ギター・リフが鳴り響き、リズム・インした瞬間にもれなくAC/DCと分かる無敵の個性。しかも「Highway To Hell」といった名クラシックを彷彿させるから心ニクい…この時点で、彼らの術中にハマっているのかも。6年ぶり、通算16作目のアルバムとなる。脳卒中の報道に続き認知症も患っていると発表されたマルコム・ヤング(g)はレコーディングには不参加で(作曲は全面的に関与)、過去ツアーに同行したこともある甥のスティーヴィー・ヤングがリズム・ギターを務めた。
らしさ炸裂のキャッチーなミッド・テンポ型R&Rというスタイルは揺るぎなく、特にブルース・テイストが出た楽曲では若僧に真似できない円熟味もたっぷり。また、生々しいサウンド・メイクによるリフはシンプルでも中毒的魅力を宿しており、元祖ヴィジュアル系(?)のスクールボーイ:アンガス・ヤングが弾くギター・ソロには、これぞ!なロック・ギター・フレーズのお手本が詰まっている。「シブい」と敬遠するなかれ、チョーキングのニュアンスや絶妙なタイム感など、感情直結のプレイはキッズ必聴。昨今はフィル・ラッド(dr)にまつわるスキャンダラスなニュースで周辺が騒がしかったが、この先も何があろうと不変の美学を貫いていくのだろうと確信する安定感だ。しかし’70〜’80年代の名盤だけでなく、前作『BLACK ICE』(’08年)が800万枚を売り上げているというのだから、改めて日本との温度差を感じずにはいられない。
(早川洋介)
これまでのAC/DCに慣れ親しんでいればいるほど、マルコム・ヤングが病気療養のため引退した事実が気に懸かるのは当然。彼の歯切れ良いリフ・ワークは疑いなくバンド固有の煽動ロックンロールの大黒柱だった。しかし結論から先に言えば、そのスタイルもスピリットも完璧に継承されている。心配無用。マルコムの後任に甥っ子スティーヴィー・ヤングを迎えた本作。スティーヴィーはバンドの看板とマルコムの後釜の立場が要求するものを忠実に実行し、リフの質もソリッドなリズム隊との連携も不変。もちろんブライアン・ジョンソンの濁声ヴォーカルもアンガス・ヤングの咆吼リード・ギターも不変。通常運転。バンド一丸のフォーメーション・プレイで逆境をねじ伏せた。
のみならず、ここに記録されているのはその鉄壁の防御からの目を見張るカウンター・アタックだ。定番スタイルから観衆との唱和や掛け合いを誘うタイプの曲を数多く呼び出し、加えて「Miss Adventure」「Hard Times」のように目新しい粘り腰ファンク・グルーヴを導入したことで、全編に沸き立つハッピーなパーティー感覚。これまでありそうでなかった、と腕組みして指摘する前に身体が動く。サウンド作りはバック・トゥ・ルーツの意図から生硬さを強調していた前作とは反対のブライト&スムーズ指向。じつは歪みのトーンが前任者とちょっと異なるスティーヴィーのギター音もありのままで、この音像の中で自然に活かされている。何と鮮かな反転攻勢。身も心も躍る逆転ホームランである。
(平野和祥)