アーティスト名 | MR.BIG MR.BIG |
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アルバム名 | ...THE STORIES WE COULD TELL …ザ・ストーリーズ・ウイ・クッド・テル |
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パット・トーピー(dr)がいまだ治療法が確立されていないパーキンソン病に冒されていることがアナウンスされ、多くのファンが心配する中、ようやく届けられた新作。彼らにどのようなものを求めるのか、リスナーの要求は様々だろうが、実にMR.BIGらしい作品に仕上がったと言っていいだろう。基本的なテーマの1つとなっていたのは、“原点回帰”だったという。とはいえ、いわゆるヒット・チャートを席巻していた時期のポップなイメージのものではなく、メンバー自身の奥深いルーツに遡った、MR.BIG始動当初に思い描いていたような音楽性である。つまり、ブルースやロックンロールといった系譜にある、クラシックな薫りが漂うスタイルだ。用意された楽曲は書き下ろしのみならず、これまで表に出ていなかった’90年代からのアイデアのストックも活用されたようで、ここは彼らの創造性の根本部分が垣間見えるようで興味深い。
ポール・ギルバート(g)のプレイも多彩。ブリッジ・ミュートを活かしたスピーディーなリフから、シュレッディングなソロまで、一聴してそれと分かるトレードマーク的ギターを響かせるのは、ポジティヴな意味でのお約束。より耳を傾けたいのは、いわばレイドバックしながらプログレスする、各マテリアルに呼応した独特のフレージングとサウンドである。他と比較しようもないテクニックと、いまだ彼から新たな要素を引き出すMR.BIGというバンドが有する不思議な力に感心させられるはずだ。
(土屋京輔)
’09年2月、東京六本木のハード・ロック・カフェで再始動会見。アコースティック・ライヴも行なった後、同年6月には本格的な日本公演。その模様を収録したライヴ作『BACK TO BUDOKAN』(’09年)を挟んで、『WHAT IF…』(’10年)発表。これがポール復帰後のMR.BIG。という一連のプロジェクトを経て、必然的に彼らは結束力を増している。何があっても、MR.BIGがホームだよね?なんて確認を必要としないユニオン魂と言おうか。ひと皮剥けちゃった感じ。
今回のパット・トーピーの件も乗り越えていくだろう。もちろん、本作の制作に戸惑いがあったことは窺える。ドラムをプログラミングした点は彼らの根本を揺るがしかねないわけだから。そもそもMR.BIGは、向上した録音技術を利用して実際の演奏力を欺く方法に反旗を翻し、その心意気で立ち上げられた。メンバー全員でスタジオに入って一緒に音を出す…という当初の身上を少しでも曲げたことに関して、ポールもビリーも明るく振る舞ってはいるものの、その違いは誰よりも奏者達が感じているだろう。ただ、プログラムの細かい指示はパット自身。MR.BIG魂は込められている。その点では何も変わっていないのである。ここには25年前のデビュー時を思わせる勢いの曲もあるし、個々のキャリアを漂わせたベテランならではの味だって言わずもがな。それに呼応するように、ポールのプレイは凄腕派の年相応の貫禄だ。良い感じの進化型。ソロ活動が活きてるってことになる。
(福田真己)