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解説●安保 亮 Akira Ambo

近年、デジタル・オーディオ業界でも特に著しい躍進を見せているプリソーナス。今までにヤング・ギター本誌や当ウェブサイトでも、優れた操作性と音質で高い評価を得ているDAWソフト“Studio One”や、誰でも簡単に譜面作成が行なえるソフト“Notion”を特集して来たので、PC方面に関心の高いギタリスト諸氏には既にお馴染みのブランドかと思う。

今回紹介するのはそんなプリソーナスから発表された、“StudioLive AR USB”だ。当シリーズはアナログ・ミキサーを基本に、デジタル・レコーダー、デジタル・エフェクター、USBオーディオ・インターフェースなどが一体になったもので、もしかするとアマチュア・ミュージシャンには馴染みの薄いものかもしれない。しかし決して複雑で敷居の高い機器ではなく、導入すれば音楽生活が驚くほどに広がること請け合いである。

今回は同シリーズの中でも、最もコストパフォーマンスに優れた入門者向けの1台である、8チャンネル仕様の“StudioLive AR8 USB”を題材として、その可能性を色々と探って行こうと思う。

StudioLive AR8 USB

StudioLive AR8 Top前面

StudioLive AR8 USB Side側面

基本的な機能1:入力部

そもそもミキサー(mixer)とは何をするものなのか? ジュースを作るミキサー、あるいはコンクリート・ミキサーなど、同じ名前を持つものは色々とあるが、要は「混ぜ合わせるための機器」のことだ。もちろん音楽用ミキサーが混ぜるのは様々な「音」であり、さらにその音自体を加工したり、分量を変えることもできる。それこそミックスジュースと同じで、最終的に出て来る混ぜ合わさった音を、目的や好みに合わせて調整することができるわけだ。“AR8”の場合は8チャンネル・ミキサーが搭載されているので、つまり単純に考えて8つの異なる音を混ぜ合わせることができる。

注意が必要なのは、ギターなどのモノラル楽器を扱うチャンネルと、キーボードなどのステレオ楽器を扱うチャンネルがあるということ。“AR8”の写真で言えば、「1」「2」がモノラル・チャンネル、「3/4」「5/6」がステレオとモノラルのどちらでも使えるチャンネル。「ST 7/8」と書かれているチャンネルは本機の特殊な箇所なので、後ほど詳しく解説しよう。

さて、ミキサーが実際に扱うのは電気信号で、それを劣化させずに混ぜ合わせる(ミキシングする)ために、様々な機能が搭載されている。通常は信号の流れに沿ってデザインされているので、ここでも“AR8”の写真を見ながら、上から下に向かって確認していこう。

まずは左上には、マイクを接続するためのXLR端子(キャノン端子)、キーボードなどのライン信号やギターを接続するためのフォン端子、ライン信号用のRCAピン端子やステレオ・ミニ端子など、様々な入力端子が備わっている。ここに楽器を含む様々な音源を、ケーブルで接続するわけだ。コンデンサー・マイクを接続する場合、電力を供給するための48Vファンタム電源ボタンもあり、後述する出力端子のエリアに配置されている。

ちなみにチャンネル1と2(左端の2つ)のフォン端子に、Line/Instと書かれているのが分かるだろうか。ここはアコースティック・ギターやベースなどを直接接続できる端子であり、少し下にあるギターのマークのボタン(入力ソースボタン:1つ先の写真参照)をONにすることで、信号を劣化させずに音を入力することができる。ただしギターからモデリング・アンプなどを経由してミキサーに接続する場合は、ボタンを押す必要はないし、他のチャンネルに接続しても構わない。

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それらの端子の下には、入力する音量(レベル)を適切に設定するためのゲイン・コントロールがある。レベルが小さ過ぎるとノイズの元となるし、逆に大き過ぎると音が割れてしまうので、ツマミの左上にあるLEDを見ながら慎重に設定したいところだ。また必要のない低音をあらかじめカットするための、ローカット・スイッチもここに搭載されている。

青色で囲まれている3つのツマミは、お馴染みのEQ(イコライザー)で、“AR8”には高域/中域/低域に分けられた3バンドEQを装備している。

その下にあるAUXと書かれた2つのツマミのうち、モニター・センド(Mon)は後述するモニター端子へ送る信号の量を調節するツマミ。FXセンドは内蔵デジタル・エフェクトに送る信号の量を調節するツマミだ。“AR8”にはリヴァーブ/ディレイ/コーラスといった空間系やモジュレーション系のデジタル・エフェクトを16種類内蔵しており、本機だけで洗練された処理を行なうことができるが、もちろん外部エフェクターを接続して使うことも可能。その場合はFXセンドのツマミは、後述するFXセンド端子に送る信号の量を調節する働きになる。

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L-C-Rと書かれたツマミは音の左右の位置を調節する機能を持つパンと呼ばれるコントロール。そして一番下のツマミが、チャンネルごとの再生音量を調節するレベル・コントロールだ。その上下には、各チャンネルを単独(ソロ)で聴きたい時に押すPFLボタンと、逆に聴きたくない時に音を消すためのミュート・ボタンも搭載されている。

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基本的な機能2:出力部

ミキサーは様々な音を入力して混ぜ合わせるだけでなく、その音をいくつかの異なる機器へ出力する機能も併せ持っている。こちらも“AR8”の写真を見ながら簡単に見て行くと…、まずメインのパワード・スピーカーもしくは録音機器をつなぐためのXLR端子。その右側のCtl Roomと書かれた端子はコントロールルーム出力、つまり本来ならエンジニアが別の部屋で聴くスピーカーをつなぐものだが、「メインとは別のスピーカーを接続するための端子」ぐらいに捉えておけば問題ないだろう。その右にはヘッドフォン用端子と、“AR8”の機能を切り替えるためのフットスイッチ端子を搭載。

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その下にあるAUX Outputsと書かれた2つの端子のうち、まず右側のモニター出力端子。これは例えば演奏を録音する際、プレイする人が弾きやすいよう、メインのミックスとは別のミックス(例えばベースが小さく、ドラムの音が大きめに調整された音など)を出力できる端子。左側のFXセンド・ミックス端子は先述の通り、外部のエフェクターを使用する際に信号を送るためのものだ。

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StudioLive AR8 USBの最大の特徴:スーパーチャンネル、SDカードによる録音

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さて、ミキサー一体型のインターフェイスは様々なメーカーから発売されてはいるが…、“StudioLive AR USB”シリーズは他にも画期的機能を2つ備えている。“AR8”で言えばST 7/8と書かれたチャンネルがその1つ目で、特別にスーパー・チャンネルという名前が付けられている。

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このスーパー・チャンネルはRCA端子とステレオ・ミニ端子を装備しているので、例えばテレビやゲーム機器などをケーブルで接続することもできるが、それだけなら通常のミキサーの域。まず特筆すべきはBluetooth再生機能を備えていることで、つまりスマートフォンや携帯オーディオ・プレイヤーの音を、ワイヤレスでこのチャンネルに立ち上げることができるのだ。例えば普段よく聴いている曲を手軽に流しつつ、別のチャンネルに接続したギターの音と混ぜながら疑似セッションする…といった使い方が分かりやすいだろうか。さらにライヴ会場のBGMを手持ちのスマートフォンから流したり、思い付きで録っておいた環境音などを音楽に混ぜ込んだり…といったこともできる。

またこのスーパー・チャンネルでは、SDカードにあらかじめ入れておいた音声データを再生することもできる他、USB端子で接続したPCからのステレオ音声を再生することも可能だ。

2つ目の特筆点は、SDカードによる録音機能だ。スーパー・チャンネルの右側にあるスロットにSDカードを挿入し、録音ボタンを押すだけで、ミックス中のサウンドをレコーディングすることが可能。つまりPCや外部の録音機器を用意しなくとも、“AR8”だけ用意しておけば簡単なライヴ・レコーディングを行なったり、曲作りに活用したりできるわけである。SDカードへ録音したデータは、もちろんPCに取り込み、DAWソフトなどにデータを移して緻密に編集することもできる。