オブスキュラがESPファクトリーを急襲! 世界に1本のカスタム・モデルの正体とは?

オブスキュラがESPファクトリーを急襲! 世界に1本のカスタム・モデルの正体とは?

去る5月、ドイツ出身のテクニカル・デス・メタル・バンド:オブスキュラが、米カリフォルニア出身のファルージャ、フランス出身のDVRKと共に合同ジャパン・ツアーを行ない、日本のデス・メタラーたちを熱狂させた。実はそのツアーが開幕する数日前、オブスキュラのリーダーであるステフェン・クンメラー(g, vo)は成田空港に降り立つやいなや、埼玉にあるESPのファクトリーへ直行している。理由は…ちょうどそのタイミングで、彼がオーダーしていた新しいカスタム・ギターが完成したからだ。
それがこのページに掲載している、まばゆいスパークル・フィニッシュが印象的な“Obscura Custom”と名付けられたモデル。いかにもヘヴィ・メタルを体現しているその尖りまくったシェイプは、ステフェンが長年に渡ってこだわり続けている、思い入れの深いものだという。縁あって、本誌編集部員は彼が実際にギターを受け取る現場に立ち会うことができた。まずは彼に、オーダーの経緯など詳しい話をうかがうことにしよう。

たくさんの変形ギターを使ってきたけど、これは見た目が素晴らしい。バランスも良い

YG:ステフェンは2020年からESP製の赤いカスタム・モデルを愛用しており、今回新たに、同じ形状でグラナイト・スパークル・フィニッシュを採用したものが完成したわけですが…。2本目を制作した理由は何だったのですか?

ステフェン・クンメラー(以下SK):主な目的は、作品のイメージにカラーリングを合わせたかったこと。赤い方のギターは2018年にリリースされたアルバム『DELUVIUM』のために作ったもので、今回のスパークル・フィニッシュは最新作『A SONICATION』(2025年)に合わせたものなんだ。クロームのハードウェアも、新しいアルバムのカラーに合っているね。音楽に対してグラフィックや映像などを融合させるというのが、僕の美学なんだ。

ESP カスタム・モデル 動画スクリーンショット
ステフェンが2020年から愛用してきたカスタム・モデル。
Obscura Custom
今回新たに完成した“Obscura Custom”。

YG:このフィニッシュ自体は、どういう経緯で知ったのですか?

SK:確か3~4年前だったと思うけど、“Eclipse”か“Horizon”に採用されているのを見てすごく惹かれたんだ。僕は以前からESPのファンだから、カタログはすべて見ているんだよ。ESPはこれまでに、実に素晴らしいギターを何本も生み出してきたよね。そんな彼らのオリジナル・カラーと、僕のギターのユニークさを組み合わせたいというのが、アイデアの骨子だった。見ての通り、これは彼らの製品にはなかったシェイプだよね。

YG:このシェイプは、あなたがデザインしたわけですか?

SK:実は1970年代後半から’80年代前半にかけて、Hondoというアメリカのギター・メーカーがこれに似たシェイプを生産していてね。かなり古いものなんだけど、そのアイデアを元にして大幅に改変を加えた。それでコピーライトをちゃんと取得したんだよ。実は以前、別のメーカーに作ってもらった同シェイプのギターを3本持っていたんだけど、そのメーカーが廃業してしまってね。その後、ESPのマーケティング&アーティスト・リレーション担当であるトニー・ロウザー(註:自身もTHE HUNTのギタリストとして活動中)と話をして、赤いギターを製作してもらった。ものすごい労力と手間が必要だということは分かっていたんだけど、かなり時間がかかったよ。そもそも新しい形状のギターを作ること自体、本当に大変なんだよね。気に入っている点は、まず見た目が素晴らしいこと。すごく個性的で、万人受けするものではないけど…同じような形状の他のモデルと一番違っているのは、バランスが良いことなんだ。構えた時に安定していてとても弾きやすい。ギターを弾き始めた子供の頃から、色々なブランドのたくさんの変形ギターを使ってきたけど、その中でも抜群にいいよ。それに手に取ってみると、あまり重くないんだ。

YG:確かに、この形状から想像できる重量感よりもかなり軽いですね。

SK:最近ではバンドのトレードマークになっていると言えるぐらい、とてもユニークなギターだ。正直言うと、僕は普段、あまり多くの本数を必要としないタイプなんだ。コレクターではないから。だから赤いESPを手に入れてからは、ずっとそればかり弾いていて…おそらく300回くらいはステージで使ってきたんじゃないかな。でもバックアップ用のギターを持っていなかったから、手入れをしっかりして良い状態を保つように心がけてきた。それが、楽器を作ってくれた人に対する敬意だと思うから。…いや、E-IIの“Arrow”をしばらくサブ用にセットしていたっけ? これからはこの新しいギターがメインで、赤い方がバックアップになると思う。

YG:隅々まで興味深いギターですが、中でもスルー・ネック・ジョイントの加工が面白いですね。見たことのない形状です。

SK:これはESPカスタム・ショップのアイデアだそうだ。以前使っていた別のメーカーのギターは、ハイ・ポジションでの演奏がすごく難しかった。まるでレンガみたいなジョイント形状だったから。座って弾く分には問題なかったんだけど、立って弾くにはちょっと無理があったよ。これは長年かけて改良してきた仕様の1つなんだ。決してシンプルなギターではないけど、あらゆる無駄な要素を削ぎ落とすことを重視して設計した。見た目もいいんだけど、僕にとって最も重要なのは弾きやすさだ。指板に採用したスキャロップ加工もその1つ。

YG:材はどんなものを指定したのでしょう?

SK:木材に関しては、ESPを信頼してすべてお任せした。以前別のメーカーで作ってもらった時に、僕には木材の知識が全くなかったんだけど、適当に指定したら重過ぎてね。サステインがあるから長いコードを弾く分には良かったんだけど、速弾きするような場面では合わなかった。やっぱり何十年もギターを作っているスタッフを信頼するのが一番だよ(註:ESPのスペック・シートによると、ネックは3ピース・メイプル、ボディ・ウイングはマホガニー、指板はエボニー)。僕としては、最終的に音や弾き心地が気に入ればそれでいい。もちろん、時には細部にこだわって普通と違うものを選ぶこともある。例えば…以前使っていたギターにはEMGの“85”と“81”を搭載していたんだけど、ゲインが大き過ぎた。エクストリーム・メタルを弾くには最高のピックアップなんだけど、オープン・コードをクリーン・トーンで弾いたりすると、あまり良い音にならなかった。それでEMGに問い合わせてアドヴァイスをもらい、最終的には“57”と“66”を搭載したんだ。市販されている通常のモデルだけど、すごくいいんだよ。

YG:先ほど話に出た、軽さもこだわりの1つですよね。ツアーが多く、飛行機によく乗るミュージシャンにとっては特に。

SK:僕は特別なフライトケースを持っていて、それにはギターを2本入れることができるんだ。23kgまでなら運べる。だから実は、重量は大した問題じゃないんだよ。それよりもサイズの方が問題なんだ。その点、ヘッドレス・ギターはすごく実用的だけど。

YG:ヘッドレスにも興味が?

SK:実は1本持っていたんだ、もう売ってしまったけど。何年も前にアメリカをツアーした際、中古で買ったスタインバーガーでね。すごくいい音で良かったんだけど…でも僕はコレクターじゃないから。ただただ試してみたかっただけ。僕たちのような音楽スタイルだと、見た目が重要だからね。

YG:確かにオブスキュラの音楽スタイルに、このESPのギターのシェイプはすごく合うと思います。

SK:2003年からこのシェイプを使っているからね。とてもユニークで、時代を超越していると思う。明らかにメタル向けではあるけれど、’80年代らしくも現代らしくも見える。

YG:そもそもオブスキュラの音楽にとって、どんなギター・サウンドが理想だと考えていますか?

SK:とても良い質問だね。僕は基本的に、同じものを長い間使うのが好きでね。EMGピックアップは20年以上使っているし、アンプはずっとエングルだ。一番重要なのは、長年培うことによって得られる経験だと思う。十代の頃はEQもヴォリュームもゲインも、すべて目盛りを「11」にするようなセッティングでやっていたけど、年齢を重ねるにつれてクリアさ、明瞭さをより重視するようになった。加えて、中低域に少しパンチがあればなお良い。

YG:クリアさというのは、ハイ・ゲインであっても音符の1つ1つがハッキリ聴こえるということですか?

SK:そう。音の情報をすべて捉えられることが、僕にとっては大事なんだ。僕のプレイは速弾きの中にもオープン・コードを取り入れるようなスタイルで、そういう弾き方がすごく気に入っているから。

YG:ちなみに取材の前にオブスキュラの最新アルバムを改めて聴いたのですが、ギターの音量バランスが聴いたことないぐらい大きいのが印象的でした(笑)。

SK:そうなんだ。最新アルバムはこの手の音楽では珍しく、リズム・ギターをいつもの2倍…つまり4本録音したから、これまでとは違う音作りになっているんだよ。音の壁を作るというアイデアだ。前作はリズム・ギターが2本だけだった。左に1本、右に1本だ。その方がクリアなサウンドにはなるんだよね。曲のアレンジ次第というところかな。

YG:さて…あなたのファンの中には、このギターを見て同じものをオーダーしたいと思う人もいるかもしれません。そういう方に対して、何かひとこといただけますか?

SK:そうだね…このギターはかなり極端過ぎるモデルなので、弾き手を選ぶと思う。それでもいいのなら、まずはESPに問い合わせてみればいいんじゃないかな。僕に関しては、今のところものすごく気に入っているよ。もしステージでこのギターと同じものを見かけたら、それを弾いているのは僕か、もしくは僕からギターを盗んだ誰かだ(笑)。