エドガイの“トビー”ことトビアス・サメット(vo)によるメタル・オペラ・プロジェクト、アヴァンタジアの最新作『MOONGLOW』が2月にリリースされた。希代のソングライターであるトビーによる壮大な楽曲は、今回も期待を裏切らない高品質ぶり。多彩なゲストの参加によって新機軸も幾つか見られるという充実作だ。
トビーと共にアヴァンタジアを支える人物が、ギタリスト兼プロデューサーのサシャ・ピート。今回彼はギター面での貢献度が従来作に比べて極めて大きい。近作ではゲスト・ミュージシャンがリード・ギターを担当することが多かったが、今回のリード・パートは95%が彼によるものと言っていい。プレイヤーとしてのサシャにとっても満足の1作になったようだ。
デモのソロが良かったから、他のギタリストを呼ばないことになった
YG:アヴァンタジアの8作目『MOONGLOW』は、いつ頃から制作に取りかかり始めたのですか?
サシャ・ピート(以下SP):実は、前作(’16年『GHOSTLIGHTS』)を作り終わってから休みなく取りかかっていたんだ。それ以前から手をつけていたアイデアもあって…例えば「The Raven Child」などがそうだ。基本構造は前作のレコーディング中に既に出来上がっていて、そのままアイデアを練り続けていた。数ヶ月の間に制作するという流れではなく、2〜3年にわたって、常に何かしら作業を進めていたという感じかな。そういうわけで、3年前に作り始めたと言えるかもね(笑)。
YG:トビアスは本作のコンセプトをどんな風に話していましたか?
SP:これは自分の内面に閉じ篭っている“ある人”が、そこから逃げ出したいと思っている話なんだ。彼は現状の世界では上手くやっていけないと感じている。そういう下書きをトビーが作っていて、僕に感想を求めつつ、制作中にしょっちゅう話し合いながらコンセプトをまとめていったんだよ。歌詞はトビーが作っているから、その辺りは彼が詳しく話してくれると思うよ。
YG:今回も様々なゲスト・シンガーが迎えられていますね。アヴァンタジア作品に初参加となったのは、クリエイターのミレ・ペトロッツァ、ブラックモアズ・ナイトのキャンディス・ナイト…。
SP:ミレとは常々、一緒にやろうと話をしていたんだ。彼用のパートを用意してあった。トビーと仲の良い友人で、僕達も彼のことは知っていたよ。ミレとは2〜3年前にエドガイで一緒に仕事をしていたから、全く新しい人選というわけでもなかった。トビーは自分で歌えそうにないパートを作っていて…「ここのパートをやってもらったら良さそうだから、電話してみよう」ということになって、呼んだのさ。キャンディスに関しては、僕が『AINA』(’03年発表のメタル・オペラ・プロジェクト)で一緒に仕事をしていたんだよ。今回の楽曲(「Moonglow」)の雰囲気を上手く伝えられる人を探していた。この曲にはマイク・オールドフィールド的というか、民謡的なタッチがあるからね。それでキャンディスに連絡を取って構想を話したところ、ピッタリ合ったよ。素晴らしいパフォーマンスをしてくれたね。
YG:「Book Of Shallows」と「The Raven Child」で歌っているブラインド・ガーディアンのハンズィ・キアシュは、アヴァンタジアに関わるのが初めてというのが不思議なぐらいなのですが…。
SP:ハンズィも経緯は同じだよ。いつも彼のことは頭にあったけど、実現しなかった。今回はちょっと民謡タッチの曲が出来たから、彼の声がピッタリ当てはまるだろうと考えて連絡を取った。僕達は昔ながらの友達みたいなもので、僕なんかヘヴンズ・ゲイトの初期の頃からの付き合いだからね! 最初の2回のツアーをブラインド・ガーディアンと一緒にやっていて…というかその頃は所属レーベルも一緒だった。’89年頃のことだよ。トビーも彼のことはよく知ってるから、アルバムに参加してもらえて嬉しかった。
YG:一方、ギタリストはゲスト・プレイヤーを迎えなかったのでしょうか? リードもほぼあなたのプレイですよね?
SP:いや、「The Raven Child」の前半パートの半分と後半パートは、オリヴァー・ハートマンが弾いている。それ以外は僕のプレイだよ。実は、デモの時点でソロを入れていたんだけど、そのほとんどはインプロヴァイズでね。それをトビーが気に入ってくれていたし、僕も満足していた。だから「良いのが入ってるんなら、わざわざ消す必要はないよね…このまま取っておこうか」ということになった。他のギタリストを呼ばないということはトビーの決断でもあったんだ。それから、彼の中にもメロディーに入れて欲しいというアイデアが幾つかあって、僕ならそれをやれると分かっていた。「エンディングのパートはこんなサウンドにしてほしい」といったことだったり、あるテーマ(・メロディー)を使ってほしいということで、デモに入っていた彼の歌を僕がギターで弾いたり。基本的にはほとんどインプロヴァイズだった。それで満足がいったんだからOKだよ。
YG:ということは、あなたの想定通りのソロを収録出来た?
SP:答えはイエスだ。しかもほぼインプロヴァイズだったからね。トビーが僕のスタイルを気に入ってくれているようだから、とても楽に出来たし、大きな問題などなかったよ。これまでのキャリア全体を振り返っても、「実験的過ぎるから、もっと分かりやすくしてくれ」と言われたソロは1〜2個ぐらいしかなかったんじゃないかな。
YG:「Book Of Shallows」はミレが歌っていますが、アヴァンタジアでグロウル系のヴォーカルを採用するのは初めてなのでは?
SP:そうだね、あんな唸り声で絶叫するヴォーカルは初めてだといえる。ティム“リッパー”オーウェンズがハードなパートを担当したこともあったけど、それとはまたちょっと違ったものだ。