『WAGES OF SIN』リリース20周年に際して、アーチ・エネミーとアモット兄弟に多大な影響を受けた邦人ギタリスト2名にも別途取材を行ない、その魅力について話を聞いた。当ページで紹介するのはサウザンド・アイズのKOUTAのインタビューだ。
「Ravenous」のギター・ソロはリスナーをノックアウトできる
YG:まずは、アーチ・エネミーを知ったキッカケから教えてください。
KOUTA:1stアルバム『BLACK EARTH』(’96年)発売当時、『BURRN!』誌のレビューで知ったのがキッカケです。まだメタル歴2年ぐらいで、レビューが高評価だったことに加えてメロディック・デス・メタルを好んで聴いていた時期だったので注目しました。
YG:『BLACK EARTH』を初めて聴いた時はどんな感想を持ちましたか?
KOUTA:CDを再生していきなり、そのとんでもない音圧に驚きました。1曲目の「Bury Me An Angel」のリフはスレイヤーの「Angel Of Death」(’86年『REIGN OF BLOOD』)をさらにブルータルにしたかのような印象でしたね。それまで聴いていたメロディック・デス・メタルはリフもメロディアスなモノが多かったのですが、ゴリゴリ、ドロドロとしたリフが駆け巡る中で、唐突にメロディーが割って入ってくる展開も凄く新鮮で。カーカスっぽい方向性だとも思いましたが、カーカスにはそこまで明確にメロディアスな要素はなかったので、より踏み込んでいる…と感じたんです。あと、ヨハン(リーヴァ)の生々しいヴォーカル・スタイルから、単なるメロディック・デス・メタルとは一味も二味も違うバンドだとも感じました。
YG:マイケル派ですか? クリス(クリストファー)派ですか? どっちも好き派、あるいは、比べられない派ですか?
KOUTA:アーチ・エネミーの活動だけを見た場合、どうしてもマイケルの方が目立つし印象も強いのですが、それぞれ個々の活動でも素晴らしいモノをたさくん残しているので、どちらも好きです。クリスが’97年に発表したアルマゲドンの1st『CROSSING THE RUBICON』でのギター・プレイを聴いた時、彼のギタリストとしての幅や柔軟性に自分のギター人生が大きく変わるほどの衝撃を受けました。実際、ギター・プレイヤーとしての影響はクリスからより多く受けている気がします。マイケルはカーカスの『HEARTWORK』(’93年)での存在感も凄いし、スピリチュアル・ベガーズの『AD ASTRA』(’00年)にも度肝を抜かれました。ソングライターとしてリスペクトしているのはマイケルの方かもしれません。
YG:初めて『WAGES OF SIN』を聴いた時はどう思いましたか?
KOUTA:「いよいよ勝負に出たな」というのが第一印象でした。前作『BURNING BRIDGES』(’99年)を聴いた時点で、それまでよりサウンドやソングライティングの面で「洗練されてきた」との印象を持ったのですが、『WAGES OF SIN』を聴いて明確に「“別モノ”に仕上げてきた!」と感じました。チューニングが変わったことも影響しているのかな? リフは以前のドロドロ感よりもキレを重視したモノになっていて、サウンド・プロダクションもそれに合わせてより整合感のあるシャープなモノになったと思います。
YG:アーチ・エネミーのアルバムに順位を付けるとしたら、『WAGES OF SIN』は何番目に好きなアルバムでしょうか?
KOUTA:アルバムの順位付けはなかなか難しいところですが、『STIGMATA』(’98年)、『RISE OF THE TYRANT』(’07年)に次いで、3番目に好きなアルバムですね。
YG:初期からのファンとして、当時アンジェラ(ゴソウ)のヴォーカルはすんなり受け入れられましたか?
KOUTA:むしろ圧倒的なパワーに驚きましたね。ヨハンはスローな曲ではややモノ足りない印象もあったので、アンジェラになって「安定したな」と思いました。「Savage Messiah」でのアンジェラは特に良いですね!
YG:アモット兄弟のギター・プレイについてはいかがですか? 過去作からどう進化・成長したと感じましたか?
KOUTA:ギター・プレイについては1stアルバムの時点でもう完成されていたという印象でしたが、初期にあったソロでの強引なハーモニーの入れ方なんかがなくなったような気がします。成長というか、方向性を変えた…ということなのかもしれませんね。リフ、ソロ、サウンド、展開など、全体的に整合感を重視していると感じます。
YG:『WAGES OF SIN』で一番好きな曲はというと?
KOUTA:やっぱり「Ravenous」でしょうか。耳に残るリフとメロディー、印象的なギター・ソロ…と、名曲の要素がしっかり揃っていると思います。
YG:凄いプレイ、注目すべきプレイを挙げるとすれば?
KOUTA:まずはさっきも挙げた「Ravenous」。この曲のギター・ソロは、一度聴いただけでリスナーをノックアウトできる即効性が凄いと思います。何回でも聴きたくなってしまいますね。ギター・ソロ明けのキメがカーカスの「Heartwork」のオマージュなのも注目ポイント! この曲に賭ける気合いや意気込みが感じられます。あと、「Burning Angel」のギター・ソロは音数に頼らず、ペンタトニックを中心に奏でられる印象的な泣きのソロが素晴らしい! それから、「Snow Bound」のギターも絶品ですね。チョーク・アップの途中で音を止めたり、チョーク・ダウンの表現にこだわっているところなんか悶絶モノです。シンガーの息遣いを感じさせるような、“間”を空ける表現にも引き出しの多さを感じました。
YG:では、最もライヴ映えする『WAGES OF SIN』収録曲というと?
KOUTA:やはりこれも「Ravenous」になります。生でアーチ・エネミーを観たのは、’15年の“LOUD PARK”出演時だけなのですが、オーディエンスの盛り上がりも凄かったですね。
YG:ライヴ・アルバムやYouTubeなどで、クリス脱退後のライヴを観聴きしたことはありますか? 後任のニック(コードル)やジェフ(ルーミズ)が『WAGES OF SIN』収録曲を弾くのを観て、あるいはライヴ音源を聴いて、何か発見したことは?
KOUTA:クリス脱退後のアーチ・エネミーは、正直あまりちゃんとチェックしていないのですが、ジェフはプレイに関してはソツなくコナしている印象ですね。クリス自身が優れた才能の持ち主ですし、どうしても後任ギタリストとして同じフレーズをなぞるだけになるとなかなか優位性を見出すのは難しいと思いますが、よくある“後任ギタリストに違和感を覚えるケース”を考えると、違和感がないだけでも十分凄いのではないかと。ただ、正直ステージングはあんまりカッコいいとは思わないです。一方、ニックは存在すら忘れていました(苦笑)。あと、『WAGES OF SIN』収録曲を演奏しているのを観たことがないのと、映像でもきちんとしたモノをチェックできていません。
YG:ご自身で『WAGES OF SIN』収録曲をコピーしたことはありますか?
KOUTA:実は、単純にチューニングの問題が大きいのですが、アーチ・エネミーはほとんどコピーをしたことがなくて。なので、『WAGES OF SIN』だと「Ravenous」のイントロのリフをちょっとコピーした…とか、そんな程度です。その代わり、アルマゲドンの『CROSSING THE RUBICON』(収録曲)は、ノーマル・チューニングというのもあって何曲かコピーしてよく弾いていました。クリスもヴィブラートやチョーキングが素晴らしいので、そのニュアンスをなるべく真似できるようコピーしていたんです。チョーキングで伸ばすフレーズを、自分なりに「音源と同じニュアンスで弾けた」と思えた瞬間の気持ち好さは堪らないですね!
YG:『WAGES OF SIN』リリースから20年が経過しましたが、今回改めて聴き直してみて、何か再発見したことはありますか?
KOUTA:「このアルバムでさらにステップ・アップするんだ!」という意気込みを強く感じますね。『BURNING BRIDGES』でもその片鱗は見えていましたが、飽くまで2ndからの延長線上にある作品でしたから。ヴォーカル・チェンジもそうですし、チューニング、サウンドの変化、リフのスタイルの変化など明らかに質感がガラリと変わったのが、この『WAGES OF SIN』だと思います。あと、いま改めて聴くと初期にあった“慟哭感”が後退していて、正統派メタル的なカッコ好さが前に出ているな…とも思いました。
YG:自分のプレイやスタイル、また作曲面などで、マイケルやクリスからの影響が強く出ているところはありますか?
KOUTA:作曲面ではマイケルからかなり影響を受けていると思います。具体的なアーチ・エネミーの特定の曲やリフからの影響というよりも、ワウを使用したり、サビでドラムのビートを半分にしたり…といった方法論での影響が大きいですね。クリスに関しては、何度か挙げていますが『CROSSING THE RUBICON』は自分の転機となった作品で、ギター・ソロにおける速さとメロディーの絶妙なバランスが素晴らしくて、その後の自分のスタイルの礎となりました。
YG:では最後に、ここまでで語り尽くせなかった『WAGES OF SIN』への愛や思いの丈を自由にどうぞ…!!
KOUTA:後任ギタリスト達には申し訳ないですが、やっぱりアーチ・エネミーは「アモット兄弟のツイン・リードに限るなぁ」と改めて感じました。個性的なヨハンがいなくなったのは寂しかったものの、アンジェラだからこそ成り立つ楽曲もあったし、その後も活躍していく姿が、ひとりのエクストリーム・メタル・ファンとして何より嬉しかったです。クリーン・ヴォーカルを導入したり音楽性を軟化させることなく、デス・ヴォーカル・スタイルにこだわり、音楽的にも変化ではなく進化を遂げることで、バンドの質や存在感を向上させることに成功したのも凄いな…と。リリース当時はちょうど自分がこれからバンド活動をやってみようとメンバー集めに苦心していた時期だったので、自らのスタイルを貫きながら突き進むアーチ・エネミーの姿にとても勇気をもらった──そんなアルバムでもありました…!!
INFO: KOUTA
『Day of Salvation』/THOUSAND EYES
2021年発表
公式ウェブ
THOUSAND EYES
KOUTA Twitter
@KoutaBushido