NWOBHMの生き残りにして、キャリア40年以上を誇る大べテラン──それなのに、今現在がこれまでで最も過激かつパワフルという、良い意味で異常この上ないハイパー&クレイジーな最強トリオ:レイヴン。英国出身で近年は北米を拠点にしている彼等が、ファン待望のニュー・アルバム『ALL HELL’S BREAKING LOOSE』をリリースした! 海外では6月末、日本では8月初旬に発売されたばかりのこの新作は、何と“全曲速い!”というとんでもない仕上がりに。オリジナル・メンバーのギャラガー兄弟──ジョン(b, vo)とマーク(g)はとっくに還暦を過ぎているというのに、’18年加入の激速ドラマー:マイク・ヘラー(dr)と堂々渡り合い、もはや歳を取るのを忘れてしまったかのようだ。
前作『METAL CITY』(’20年)も凄かったが、あっさりその上をいってしまった『ALL HELL’S BREAKING LOOSE』について、ジョン&マークが語り尽くす…!!
マイクの存在が大きいのは疑うべくもない
YG:ニュー・アルバムに取り掛かったのはいつ頃からでしたか?
ジョン・ギャラガー:パンデミックの最中だったよ。そこからレコーディングを始める3週間くらい前まで、ひらすら曲を書きまくっていたんだ。前作『METAL CITY』との最大の違いは、マイク(・ヘラー:dr)が最初から一緒だったという点だ。今回、彼は沢山アイデアを出してくれた。ギターを弾かずとも、「ダダダダダ…」とか歌いながら、リフを提示してくれたのさ。
マーク・ギャラガー:そうそう、新作はマイクがフルで制作に関わった初のアルバムだったから、とにかくより良い作品にしなくちゃならなかった。以前、『EXTERMINATION』(’15年)のレコーディングを行なっている時に痛感したのは、素晴らしいアルバムを作るためには、じっくり時間をかけて作業する必要がある…ということ。おかげで今回は、さらに突き抜けていて、何もかも備えたアルバムになり、それを誇りに思うよ。アルバムのトラッキングは’22年の春から夏にかけて行ない、秋にミックス作業に移ったんだ。
YG:そうして完成した新作『ALL HELL’S BREAKING LOOSE』は、ファストな曲しか入っていない、とんでもない仕上がりですね…!
ジョン:自然とそうなったのさ。『METAL CITY』にはスローと言える曲(「When Worlds Collide」)があっただろ? 素晴らしい曲だったから、それも入れよう…と思ったんだよ。同様に、新作の候補曲の中にもスローなのが1曲あったんだが、他の曲があまりに激しくて、「良い曲だけど、他と合わないな」という結論に達したというワケだ。
マーク:俺達としては、ただ曲を書き、アルバムとしてどれが上手くハマるのか見てみただけさ。ただ、「Invasion」はある意味でグルーヴのある曲だよね? まぁでも、色々なスタイルを集めた多彩なアルバムにするつもりはなかった。少なくとも、スローな曲を沢山入れようという考えはなかったよ。
ジョン:10曲で40分の本当にクレイジーな作品にしようと思った。最近は80分とか90分のアルバムが多過ぎる。でも、俺達が作りたいのは、聴き終わったあと、また繰り返して聴きたくなるアルバムなんだ。短くガツンとくる仕上がりに出来れば、よりインパクトを残せるしね。
YG:それにしても、ジョンもマークもとっくに60歳を過ぎているのに、“今が過去最高に過激”といった作品を出してくるなんてクレイジー過ぎる…!(笑) これは年下のマイクに引っ張られたのもありましたか? それとも、せっかく若いドラマーが入ったんだから…との思いで?
ジョン:その両方だ。マイクの存在が大きいのは疑うべくもない。俺達はこれまでも、常にファストでエネルギッシュな曲を書いてきた。マイクはこのバンドのそういった面が大好きで、時々ゆっくりめの曲が出来そうになったら、「こうしてみたらどうかな?」と言って、倍速で叩こうとする。俺達は、「おいおい、そんなの上手くいくハズがないだろ?」と笑うんだけど、実際にはマイクの言う通りだということが殆どなんだ。勿論、ミッドやスローの曲は作らない…というワケではないけどね。
YG:マーク、今回のレコーディングで使用したギター周りの機材を教えてください。
マーク:今回のアルバムは言わば“新たな出発”でね。新しく製作されたギターが使われている。1本は“EverTune”を取り付けたTLシェイプのモデルで、もう1本はテレキャスターの部品を使ったVシェイプさ。俺が希望する仕様に従って、どっちもジョンが組み上げてくれたんだ。
ジョン:パンデミックの間、俺は沢山ギターやベースを製作した。マークのその2本に加えて、自分の赤いエクスプローラー(・シェイプのベース)のクローンも、よく似たパーツを集めて新たに完成させたしね。
マーク:レコーディングでは、リズム・ギターの90%を“EverTune”搭載のTLシェイプで弾き、リード・ギターの大半は、俺が“Franken V”と呼んでいる(新しい)Vシェイプで弾いた。前者は完璧なチューニングによる中域のパワーが気に入っていて、コードをとてもクリアに響かせることが出来る。一方、後者も素晴らしいサステインがあって、正にリード・プレイにうってつけなんだ。
ジョン:“EverTune”は本当に完璧だな。ダブル・トラッキングの時って、わずかにズレが生じて合わなくなることがあるだろ? でもこれを使うと、チューニングが狂うことがないから、特にスタジオ・レコーディングに最適なんだ。あと確か、「Edge Of A Nightmare」のリズム・パートのみ、以前から使っているOcktoberギターで弾いたんだっけ?
マーク:ああ。俺のシグネチュアのTLシェイプだ。このギターで、幾つかのリードもレコーディングしたよ。実は今回、俺は初めてリアンプも行なったんだ。
YG:ペダルは何か使いましたか?
マーク:Line 6の“M9 Stompbox Modeler”を使っているんで、それでエコーをかけたよ。俺はエコーにはうるさくてね。これまでに作られたエコーはほぼすべて手に入れてきたとさえ言える。でも、その殆どはダメダメでさ…。あとは、例えば「The Far Side」で、オート・ワウをミックスの際に追加したりもした。
YG:全曲のチューニングを教えてください。
マーク:全曲スタンダードのA=440HZだよ。つまり、それぐらいジョンは今でも素晴らしい声域を誇っているのさ!
YG:今作はとにかく速い曲だらけなので、レコーディングでは色々と大変だったのでは?
マーク:そうなんだよ。俺はダウン・ストロークでよく弾くから、今回は特にリズム・ギターのダブル・トラッキングが大変だった。レコーディングではマイクがエンジニアも務めてくれてね。タイトかつクリアに仕上げるのに凄く頑張ってくれたんだ。
YG:新作の中で、特に気に入っているギター・パート、ヤング・ギター読者に特に注目して欲しいプレイというと?
マーク:ジョンが思い付いた「Surf The Tsunami」のギター・リフだな。このリフのアプローチについては、最初なかなかフィーリングが捉えられなかったんだけど、サルサの感覚で考えると楽になったよ。俺達は常にオリジナリティを確立したいと、自分達を駆り立てていてさ。あのリフはその好例と言えるだろうな。あと、誇りに思っているギター・ソロも沢山ある。俺はいつも、ただ演奏して、ただ録音するだけで、前もって決めていることは何もない。メロディーのことなんて考えず、何度か試しに弾いているうちに、色々とまとまり始めるからね。すると今回、レコーディングの時点では気付いてなかったんだが、このアルバムのソロはメロディーとフックでいっぱいだったんだ。だから初めて、(アルバムと)同じソロをライヴでやろうか…と考えているところだよ。
ジョン:確かに、新作にはキャッチーなギター・パートが色々あって、マークはかなりメロディアスなフレーズを弾いている。中でも「Invasion」は、ハーモニー・ギターが少し入っていて、これが素晴らしいんだ。独特で高揚感があって、とてもヴォーカル的でね。あと勿論、リズム・ギターも最高だ。全体的として、驚異的だと言ってイイ。
YG:あなたのリード・ベースで注目すべきは?
ジョン:「The Far Side」(のイントロ)だな。「もっともっとクレイジーに!」と言われたんで、「OK! やってみるよ!」と取り組んだところ、正にクレイジーなベース・パートになったよ。
YG:では、今後のツアー予定を教えてください。
ジョン:10月にアメリカ・ツアーをやる。そして来年早々には、イギリスとヨーロッパを廻るつもりだ。
マーク:それから勿論、フェス出演も山ほどやるよ。
ジョン:来年には、日本とオーストラリアにも行きたいと思っているけど、まだ確かなことは言えないな…。
YG:激速だらけの『ALL HELL’S BREAKING LOOSE』収録曲は、ライヴでやるとさらに速くなりそうですね?
ジョン:絶対に楽しいよ! 「Surf The Tsunami」をサウンド・チェックで試してみた時、みんなで顔を見合わせながら「これは良いモノになりそうだ!」と言い合ったんだ。9月までに新曲をさらに試し、セットアップを強化して、新しいセットリストを組むつもりだよ。そこには俺達のレガシーも取り入れる。『LIFE’S A BITCH』(’87年)や『NOTHING EXCEEDS LIKE EXCESS』(’88年)、それから『ARCHITECT OF FEAR』(’91年)からも「何曲かやって欲しい」と言われることがあるからな。
そうして新旧取り混ぜることが、来年の目標のひとつでもある。何せ、(’24年は)バンド結成50周年だしね。せっかくだから、みんなが聴いたことのないような曲や、長いこと演奏してこなかった曲を演奏しなくちゃ。『ONE FOR ALL』(’00年)から「Get Your Motor Running」とか、『EVERYTHING LOUDER』(’97年)の表題曲とか…! そうすることで、オーディエンスは当然として、俺達も楽しみたいんだ。
マーク:ああ。’24年はレイヴンにとって50周年という大きな節目だから、それこそビッグな年になるよ!!