去る1月末から翌2月アタマにかけて、“KLASH OF THE TITANS”と題されたカップリング・ツアーでクリエイターとイン・フレイムスが来日! ツアー・タイトルを見て、かつて’90年代初頭に行なわれた“CLASH OF THE TITANS”を思い出した人もいるかもしれないが、“clash”ではなく“klash”ということで、全くの別モノ。クリエイター主催によるこのツアー(“K”REATORだから“K”LASHなのだ)は、2023年4〜5月にテスタメントとの中南米ツアーからスタートし、次いで5〜6月にセパルトゥラとの北米ツアーへと引き継がれ──今年、1月25日のマレーシアはクアラルンプール公演を皮切りに、2月18日のオーストラリアはブリスベン公演まで、今度はイン・フレイムスとのアジア/オセアニア・ツアーが行なわれたのだ。
日本公演の前後に、インドネシア、シンガポール、中国、タイ、インド、そしてオーストラリアを転戦したこの2組(幾つかの公演はそれぞれ単独だった模様)、ジャーマン・スラッシュの雄と北欧メロデスの始祖という、これまでにありそうでなかったカップリングは、“スラッシュ×スラッシュ”だった南北アメリカでの組み合わせよりもずっと興味深いモノになったと言えよう。ちなみに出順は、1月31日の大阪・Zepp Namba公演はクリエイターが先、2月1日の東京・EX THEATER ROPPONGI公演初日はイン・フレイムスが先、2月2日のEX THEATER ROPPONGI公演2日目はまたクリエイターから…と日替わりに。ここでは、日本最終公演となった2月2日の模様をお伝えしよう!
KREATOR
開演予定時刻の少し前に、ショウ開始を告げるアイアン・メイデンの「Run To The Hills」が流れると、場内の雰囲気が一変。続いて、イントロSE「Sergio Corbucci Is Dead」から「Hate Über Alles」(2022年『HATE ÜBER ALLES』収録)という流れは2023年3月──“KLASH OF THE TITANS”中南米ツアー直前──の“LOUD PARK”出演時と同じだったが、だからこそ血が滾ったというファンも少なくなかったのでは? ロゴをあしらった幕がゆっくり上がっていくと、大きな大きな歓声が上がり、のっけからフロアは大騒乱状態に。みんな腕を突き上げながらのサビの大合唱が、さらに場のテンションを高めていく。
ステージの奥には、巨大な悪魔像。初期よりバンドがマスコット・キャラクターとしてきた“彼”(一部で“Violent Mind”と呼ばれてもいるようだが、公式見解は“名無し”だ)がバンド、そしてオーディエンスを不気味に見下ろす。また、ステージ両端には赤い布(旗)で覆われた串刺し&絞殺体(人形)が置かれ&吊るされ、『HATE ÜBER ALLES』ジャケット柄の巨大なバックドロップ、赤一色、青一色、緑一色…といった暗めの照明効果も相俟って、クリエイターが標榜するヴァイオレントかつ血生臭くも凄惨なムードを増幅させる。
ステージ中央には、メタル界きってのカリスマ──首魁ミレ・ペトロッツァ(g, vo)。鬼の形相でギターを掻き鳴らし、荒々しく咆哮しまくる彼は、最上級のアジテーターでもある。まだ序盤の3曲目、「Enemy Of God」(2005年『ENEMY OF GOD』収録)を始める前に観客を煽り立て、ウォール・オブ・デスを促すと、フロアに大きな空間が2つポッカリと出来た。本来ならもっと大きいのがひとつ…というところ、フロア真ん中に仕切り柵があるため、左右それぞれで行なうしかないのだ。それでも「Coma Of Souls」(1990年『COMA OF SOULS』収録)のイントロ・リフに乗せて(“LOUD PARK”では「Awakening Of The Gods」だった)、ミレが「Eins…Zwei…Drei…Vier!」とドイツ語でカウントすると、左右で競うようにダブル・ウォール・オブ・デスが大炸裂! それを契機に、観客の熱狂はさらに高まっていった。
そんな鬼神のような…修羅のようなミレの両脇には、意外や飄々・淡々としたアクスマンが陣取る。フィンランド出身のギタリスト:サミ・ウリ・シルニヨと、フランス出身のベーシスト:フレッドことフレデリク・ルクレールだ。いずれも、基本マイク・スタンドに釘付けとなってしまうミレに代わってステージ上をよく動き回るも、2人ともミレが醸す暴力性や攻撃性とはほぼ無縁。メロディックかつエモーショナルなリードを連発し、激しさの中に叙情味すら盛り込む前者は、ソロ・ワークもアグレッシヴこの上ないミレと見事なコントラストを生み、静かなる激情をギターに託す。
一方、長身痩躯を大きく使って豪快に首を振りまくりながら常に観客を鼓舞しまくる後者は、ヘドバンやモッシュ、サークル・ピットを誘発しつつも持ち前のフレンドリーなオーラが実に眩しい。日本語で“破壊神”とプリントされたタンクトップも、海外のファンにはクールなのかもしれないが、我々日本人からするとちょっと笑みを誘うし…。ただドラゴンフォース在籍時とは違って、シリアスなムードをまとう瞬間が多いのもまた事実。サミがソロを奏でる間、ミレとフレッドが横並びで、はたまた向かい合って情念をたっぷり込め轟音をハジき出すのも、現編成ではよく見られる光景だ。
怒濤のビートを司るのは、ミレとは前身バンド:TORMENTORの頃からもう長い付き合いのヴェンター(dr)。初期に彼がミレとヴォーカルを分け合っていたことは今ではあまり知られていないかもしれないが、『PLEASURE TO KILL』(1986年)からの「Riot Of Violence」にて、その一端を窺い知ることが出来た。当然ながらこの曲では、ヴォーカル・ヴァースでミレが自由にステージ上を動き回ることが可能になり、サミやフレッドとの絡みが多くなったのは言うまでもない。
セットリストは前日から少し変わり、上述の「Riot Of Violence」の他に『OUTCAST』(1997年)から「Phobia」、『EXTREME AGGRESSION』(1989年)から「Extreme Aggressions」、『TERRIBLE CERTAINTY』(1987年)からその表題曲が──『COMA OF SOULS』から「People Of The Lie」、『EXTREME AGGRESSION』から「Betrayer」、 『PHANTOM ANTICHRIST』(2012年)から表題曲、『HATE ÜER ALLES』から「Strongest Of The Strong」に代わって披露。その中では、「今日は“Oldschool KREATOR”を楽しんでもらう」というミレのMCで始まった「Extreme Aggressions」と、ヴェンターのドラミングに導かれてスタートする「Terrible Certainty」の連打が、特に新旧いずれものファンの首を激しく振らせ、モッシュに興じさせていたように思う。
終盤、ミレが曲名を染め抜いた旗を掲げ檄を飛ばしまくる「Flag Of Hate」(1985年『ENDLESS PAIN』収録)以降は、イン・フレイムスまで体力を温存しようとしていた慎重派(?)も含め、「うわ〜もう堪らん!」と、誰しもが衝動を抑えきれなかったに違いない。「Violent Revolution」(2001年『VIOLENT REVOLUTION』収録)ではクラウド・サーファーがひっきりなし。ミレの「Are you ready to kiiiiiiill…!?」というアジ(喉元を掻っ切るアクション付き!)からの大団円「Pleasure To Kill」(1986年『PLEASURE TO KILL』収録)では、サークル・ピットがいっそう激しさを増し、みんな最後の力を振り絞って暴れまくり! そのエンディングにて、仁王立ちで愛器:ESP“MK-600”を高々と掲げるミレの姿に、真のカリスマを見た…!!
クリエイター 2024.2.2 @EX THEATER ROPPONGI セットリスト
1. Intro:Sergio Corbucci Is Dead(SE)
2. Hate Über Alles
3. Phobia
4. Coma Of Souls(Intro)〜Enemy Of God
5. Riot Of Violence
6. SE〜Satan Is Real
7. Hordes Of Chaos (A Necrologue For The Elite)
8. Extreme Aggressions
9. Terrible Certainty
10. 666 – World Divided
11. Flag Of Hate
12. The Patriarch(SE)
13. Violent Revolution
14. Pleasure To Kill
15. Outro:Apocalypticon(SE)
IN FLAMES
約30分のステージ転換を挟み──午後8時40分頃に暗転するや、途端に沸き起こるイン・フレイムス・コール。イントロSEが流れ、『I, THE MASK』(2019年)から「Voices」がスタートすると、場内の雰囲気がまた変わる。恐らく最前列の観客はクリエイターの時からかなり入れ替わっていたのでは? フロアでは、ヘドバンやモッシュではなく、腕を振り上げタテノリで盛り上がる姿が目立つ。
クリエイターが“LOUD PARK 23”から1年と間を空けずに再来日してくれたのと同じく、イン・フレイムスもまた、2023年4月の“KNOTFEST JAPAN”出演に続き、短期間のインターヴァルでの日本再上陸となった。ただ、その間にベーシストが交代。2017年加入のブライス・ポールが2023年6月に脱退し、ツアー・メンバーとしてザ・ディリンジャー・エスケイプ・プランのリアム・ウィルソンが迎えられていたのだ。他の4人は、初期からのメンバーであるアンダース・フリーデン(vo)&ビョーン・イェロッテ(g)以下、2019年加入のクリス・ブロデリック(g)、2018年加入のタナー・ウェイン(dr)と、『I, THE MASK』に伴うツアー時から変わらず。ここのところ、古株2人を除くメンバーの半分以上がアメリカ人であるという事実に、初期からのファンは改めて驚くかもしれない(欧米では時折サポート起用されている鍵盤奏者:ニールス・ニールセンは不在だった)。
初期からの…といえば、今でも北欧メロデスの元祖バンドのひとつとして語られるイン・フレイムスだが、周知の通り、’00年代後半以降は徐々にオルタナ方面へ寄っていき、いつしか完全に脱メロデスして、北米メタルコア勢に近い路線へと大接近。それ故に、ファン層は’00年代半ばを境に大きく変わってしまっている。ただ、2020年にメロデス期の楽曲をリメイクしたEP『CLAYMAN 2020』を発表すると、最新スタジオ・アルバム『FOREGONE』(2023年)でもメロデス回帰に踏み切り、ライヴ演目には初期レパートリーが多数復活! 今回の“KLASH OF THE TITANS”出演は、そうした点でも話題を呼んだ。
序盤こそ近作からのナンバーを並べていたが、5曲目に『COLONY』(1999年)からの「Ordinary Story」が飛びだして以降、『LUNAR STRAIN』(1994年)から「Behind Space」、『WHORACLE』(1997年)から「Food For The Gods」、そして『CLAYMAN』(2000年)収録曲で『CLAYMAN 2020』で再録もされた「Only For The Weak」と、初期ナンバーが固めてプレイされたのだ。中でも「Food For The Gods」は、ほぼ10年振りぐらいのライヴ披露。つまり、日本のファンのために追加してくれたようだ。
日本で初期ナンバーの人気が高いことはメンバーも承知しており、特にこの“KLASH OF THE TITANS”では、クリエイターのファンがオルタナ期以降のイン・フレイムスにあまり興味を持っていないであろうことも、少なからず意識していたのだと思われる。「この感動的な瞬間をスマホで撮影し、拡散してくれ!」と前置きし、アンダースが「Food For The Gods」の曲名をコールした時、どよめきのような歓声がすぐ上がったのも、きっとバンドは見逃さなかったろう。
いやいや、メタルコア傾向を強めて以降も、決して日本で人気低迷してしまったワケではない。その点は誤解なきよう。事実、中盤に初期ナンバーを次々プレイしたあと、『REROUTE TO REMAIN』(2002年)からの「Cloud Connected」を挟み、そこからは近作からのナンバーで終盤を盛り上げていったし。そういえばアンダースは、終盤に向けて「State Of Slow Decay」で流れを変える前に「この曲が入っている『FOREGONE』は“F**kin’ awesome”なアルバムだから、みんな毎日聴いてくれよ。そうすれば、君たちは良い人間に成長する。ホントだよ。スウェーデン人は嘘をつかない(笑)」なんて、ちょっと自虐的なMCをしたりも…。
なお、“KNOTFEST”でもセットに入っていた「Behind Space」は大阪公演と東京公演初日でもプレイされ、さらにはその両日、『THE JESTER RACE』(1996年)から「Graveland」、『WHORACLE』(1997年)から「The Hive」、『CLAYMAN』(2000年)から「Pinball Map」(『CLAYMAN 2020』でリメイク)を(「Ordinary Story」「Food For The Gods」「Only For The Weak」の代わりに)披露した彼等。初期曲以外も含め、クリエイター以上に変更曲多めで、両日観たファンは間違いなく大満足だったことだろう。
ところで、元ジャグ・パンツァー〜メガデスのクリスが、一体イン・フレイムスでどんな貢献を見せるのか、興味津々というギター・ファンも少なくないハズ。しかし残念ながら…というか、彼の超絶テクが炸裂することは一度もなかった。そんなのは当然だ。そもそも、このバンドのリード・ギタリストはずっとビョーンが担ってきたのだから。クリスがシュレッドしまくったり2人で激しいソロ・バトルを繰り広げたり…だなんて、そんなことをやったらそれこそイン・フレイムスじゃなくなってしまう。ファンもみんな、それは望んでいない。
ビョーンのシンプルだがエモーショナルで、時にワウをカマしてメロディアスに弾き込むリード・スタイルこそ、イン・フレイムス・サウンドには最適だし、欠かせないのだ。それにクリスは、シュレッドのみならず、バッキングやリズム・パートにおいてもタイトなプレイで巧さを発揮するタイプだからして、派手にソロを弾かずとも、充分にギター・フリークを唸らせていたように思う。ただ今後は、例えば「Alias」(2008年『A SENSE OF PURPOSE』収録)のアコ・パートを(同期音源で賄うのではなく)クリスが生再現するなど、より見せ場を作って欲しい気もするが…。
イン・フレイムス @EX THEATER ROPPONGI 2024.2.2 セットリスト
1. SE〜Voices
2. Darker Times
3. Everything’s Gone
4. Paralyzed
5. Like Sand
6. Ordinary Story
7. Behind Space
8. Food For The Gods
9. Only For The Weak
10. Cloud Connected
11. State Of Slow Decay
12. Alias
13. The Mirror’s Truth
14. I Am Above
15. Take This Life
ダブル・ヘッドライナーということで、両バンドとも約75分と持ち時間は同じ。出順こそ日替わりだったが、トリ担当はアンコールありということもなく、また、最後にカヴァー・セッションだとか安っぽい企画を入れ込むこともなく、共に新旧レパートリーを交えた極上の演目で、それぞれのファンを狂喜させ、お互いのファンにも、色々と新たな発見を与えてくれたことだろう。クリエイターが次なる“KLASH OF THE TITANS”で誰とタッグを組むのか──それもまた楽しみに待ちたい…!!