上手な乾燥対策で、冬も楽器を最適な状態に保とう! TUNE-UP FACTORY 第9回

上手な乾燥対策で、冬も楽器を最適な状態に保とう! TUNE-UP FACTORY 第9回

木材は湿気で膨張/収縮する

木材を使ったギターのネックは、大きく分けて2つの要因によって状態が変化します。1つは弦の張力、もう1つは湿度です。湿度が変わると木材は膨張や収縮を行ない、その結果反りなどの問題が生じます。ギターの塗装は湿気から木材を保護する役目を果たしていますが、大抵の指板は未塗装のため、ネック周りは影響を受けやすいのです。

通常のネックは、弦を張ってチューニングした時に“少し順反り気味のほぼ真っ直ぐ”の状態に調整することで、弾きやすくビリつきのない音が出るようになっています。ところが湿度が上がると指板中の水分が増えて木材が膨張し、ネックが逆反りの方向に曲がって音がビリ付き始めます。逆に、空気が乾燥して湿度が下がると指板は収縮し、順反り方向に曲がってしまうのです。アコースティック・ギターではボディー内部が未塗装のため、特に表板(トップ板)が膨張/収縮し、収縮時には割れてしまうこともあります。

湿気による木材の膨張/収縮
表■湿気による木材の膨張/収縮

そこで、ネックの場合はトラスロッドを調整し、反り具合を適切にするメンテナンスを定期的に行なえば、弾きやすい状態を維持することができます。エレクトリック・ギターも同様です。ただし、これはあくまでも対処療法のお話で、「風邪を引いたら、風邪薬を飲めば治ります」というお話と同じです。できれば病気にならないよう、日々の体調管理をした方が良いに決まっていますよね。

楽器用木材は人工乾燥されている

一般的に「よく乾いた材は良い鳴りがする」と言われますが、これは間違いではなく、木材は内部の水分が抜ければ抜けるほど組織が硬くなり、振動伝達のロスが減ります。また、単純に水分の重量が減って軽くなることで振動しやすくもなります。このことから、楽器用に製材される木材は、自然乾燥では絶対に不可能なレベルまで人工的に水分を抜いています。また工場では、一定の湿度を保った環境の下で材が保管され、同様にギター製作も行なわれています。

ESPのギター製作風景

ということは、そのギターが作られた場所と同じ条件で保管し続けるのが最もトラブルが少なく、安全といえます。

しかし日本は、はっきりとした四季の変化によって気温や湿度が大きく変動する国です。よほどお金がない限り、一般の家庭で1年中楽器の保管場所を同じ湿度に維持するのは、常識的には不可能でしょう。

一般家庭で最適な環境を保つには?

そんな中でも、ギターを最適な状態に保つ工夫はいろいろあります。例えば、1つの部屋の中でも高い所と低い所では湿度が異なります。ジメジメする夏場は湿気のこもりにくい高い場所に、乾燥しがちな冬場は逆に湿度が下がり過ぎない低い場所に置くのが適切です。湿度計を使ってシーズンごと、場所ごとの数値を確認してみましょう。

温度湿度計

部屋の湿度を一定に保てる人は、相対湿度の目安を30〜50%にしてみて下さい。なお、海外メーカーの中には工場の湿度管理の状況をウェブに記載している所もあります。しかし、正規に輸入された楽器は日本の気候に馴染んでから調整されていると思いますので、部屋の湿度が工場の数値と大きく異なる場合は楽器の変化を観察してから判断するのが良いでしょう。

温度調節のためにエアコンなどを使う場合、夏でも冬でもエアコンからの風は絶対に楽器に直接当たらない様にして下さい。風通しが良いことは大切なので、ケースから出してスタンドなどに立てておきましょう。直射日光に当てるのもNGです。熱による温度変化はもちろん、紫外線が塗装に悪影響を及ぼすので、窓際は避けて下さい。

冬場のエアコン暖房には加湿器を活用しよう

また、これから本格的に寒く乾燥した季節に入っていきますが、エアコンや暖房をつけると室内の温度や湿度は急激に変化します。冷たい空気は下に溜まりやすく湿度を上げ、温かい空気は上に溜まりやすく湿度を下げます。部屋があたたまると湿度も上がると思われがちですが、実際はこのようになります。急激な湿度変化によって木材が収縮して割れなどにつながり、致命的なダメージを負うことになります。

湿度の調整は、暖房と加湿器を併用することで可能です。加湿器を置く位置ですが、部屋全体を加湿できる十分な性能があるものでしたら、部屋全体の空気を潤わせやすい空気の流れが循環しているところが最適です。加湿器がやや性能不足の場合は、楽器付近だけでも加湿できるように位置を考えたいところです。

加湿器

さらに、加湿器の種類もポイントです。温かい蒸気(スチーム)が出るものと、冷たいミストが出るものがありますよね。温かいものは下に置くことで勝手に蒸気が上昇しますが、冷たいミストが出るものは床に置くと床がびしょびしょになったりするものもあり、むしろ高いところに置くべきです。どちらのタイプも、基本的には楽器に直接当ててしまうと塗膜が白濁したり、金属パーツの錆に繋がったりしますので、空気の流れをよく観察した上で加湿器の置き場所を決める必要があります。一番理想的なのは、部屋全体の湿度を上げることのできる性能を持った加湿器を楽器から遠い場所に設置して、空気の循環によって楽器の保管場所の湿度も確保できるようにする…というのが基本です。

加湿された空気がエアコンの温風に乗って循環するのが理想的で、なおかつエアコンの風に加湿器が直接当たらないこと…などを考慮すると、例えば下記のような配置が考えられます。

温度と湿度調整を考慮した部屋とギターの配置例
温度と湿度調整を考慮した部屋とギターの配置例。エアコンの真下、壁際に加湿器を設置する。ギターは湿気や温風が直接当たらない場所に。

空気の循環が悪い場合は、サーキュレーターを併用するのも1つの手でしょう。

これらの基本を踏まえて楽器を保管していれば、極端に木材が損傷することは避けられると思います。

今回は湿度に着目しましたが、弦の張力によってもネックは順反りになり、これは乾燥とは関係なく起こります。例えば長時間弾かないギターはチューニングを少し緩めておくこともお薦めです。