乾燥によるアコースティック・ギターの収縮トラブルと対策 YG TUNE-UP FACTORY 第10回

乾燥によるアコースティック・ギターの収縮トラブルと対策 YG TUNE-UP FACTORY 第10回

冬に起こりがちなギターの故障で最も多いのが、急激な乾燥による木材の収縮によって引き起こされるさまざまなトラブルです。楽器店でも割と軽視されがちで、高額なギターを買っても、適切な保存方法などは教えてくれない所がほとんどだと感じます。正しい保存方法を知らなければ購入してまだ1シ-ズン経ってないのに壊れた…なんてことも起こり得るのです。決定的なダメージを受ける前に自分のギターを確認して、問題が起こり始めていたら直ぐにでも対処することをお勧めします。今回はアコースティック・ギターを中心に、いくつか、具体的なポイントと対策を見ていきましょう。

ギターの健康診断

通常アコースティック・ギターの表板は、下記写真のように微妙に中央部分が膨らんだ状態で作られています。これが正常な状態です。

表板の中央が膨らんでいる正常な状態(全体)
表板の中央が膨らんでいる(全体)
表板の中央が膨らんでいる正常な状態(拡大)
表板の中央が膨らんでいる(拡大)

しかし、乾燥した空気の中に長時間さらされると、表板の材の裏側に接着されている補強材の収縮率の差から中央部分がへこんだ形になってしまいます。これは表の材が乾燥によって縮んだことによって起きているのです。

表板が縮んでへこんでいる:全体
表板が縮み、へこんでいる(全体)
表板が縮んでへこんでいる:拡大
表板が縮み、へこんでいる(拡大)

急激な乾燥による弊害

表板が縮むと、木材の急激な変化についてゆけず塗膜が割れるという症状が発生します。塗料の種類や塗膜の厚みにもよりますが、高価なギターほど割れやすいラッカー系塗料が使われており、艶に奥行きを出すために塗膜も厚めなものがありますので、注意が必要です。

トップ材の塗装割れ 1

トップ材の塗装割れ 2

ブリッジ付近の塗装割れ

もっとひどい場合は木材の細胞同士の結びつきが破壊され、表板の割れが生じることもあり、それをきっかけに補強材のはがれ等も発生します。そうなると楽器としては致命的なビビりが起きたりしますので、そうなる前に楽器の状態を確認して保存方法に問題がないかを検証してみてください。

エボニー指板なども要注意

アコースティック・ギターに限らず、セル・バインディングが施されているエレクトリック・ギターの指板なども注意が必要です。指板が急激に収縮するとバインディングの接着面からはがれてしまい、演奏中に1弦が隙間に挟まってしまうこともあります。これは特に黒檀(エボニー)の指板に起きることが多いようです。

対策

自分の楽器に故障の兆候が見られた場合、当シリーズの乾燥対策の記事を参考に保管場所を変えてみる、部屋の保湿を行なう等の対策を行なってください。保存環境を変えてしばらく経ったら定期的に楽器の状態を確認して、正しい状態に戻っていけば問題ありません。