触っているだけで楽しい、既存のフロア型にない操作感
さて、発売から既に数週間が経過しており、話題沸騰中の“Tone Master Pro”であるが。まだ日本へ入って来ている数が少ないので、おそらく楽器店などで試奏した人は限られているのではなかろうか。ということで本誌編集部員はフェンダー社へお願いし、現時点で数に限りのある貴重な“Tone Master Pro”を早速試奏させていただいた。
上記写真の通り、用意していただいたのはまず“Tone Master Pro”本体。そしてそのサウンドを色付けすることなく再生するための、フルレンジ・パワード・スピーカー“Tone Master FR-10”。ギターはハイ・ゲイン・サウンドにも対応できるよう、ハムバッキング・ピックアップが2基搭載されたアメリカン・ヴィンテージIIシリーズのテレキャスター・シンラインを用いた。当日、編集部員は本当に何の前情報も持たない、完全な初見状態。使い方についての説明をごく軽くお聞きして、行き当たりばったりで音作りに挑戦してみた。
ご覧の通り、本体上部の中央にはフルカラーの7インチ・タッチスクリーンがあり、操作の大部分はここで行なう。なお、当ページにここから掲載する写真は編集部員のスマートフォンで撮ったもので、画質的に多少見苦しいかもしれないが…本来は超美麗な画面なので、読者諸氏の頭の中で補正していただければありがたい(笑)。ある意味ライヴ感ということで、ご容赦を。そしてスクリーンの横には2つの大型ノブ(エンコーダー)があり、それぞれに小型のLCDスクリーンを装備。本体下部には色分け可能なLEDリング付きのフットスイッチが10個並び、こちらにも同様にそれぞれLCDスクリーンが備わっている。
新しく音作りを行なう際は、あらかじめ用意されている数種類のシグナル・パスから1つを選択。ギターとエフェクトとアンプを1直線でつなぐシリーズ接続はもちろん、一部を並列でつなぐパラレル接続、さらにマイクやライン信号も同時に処理できる特殊なパラレル接続…などがあり、おそらくこの手のサウンド・プロセッサーに興味のあるギタリストなら直感的に選べるはずだ。今回は初見ということで、最もシンプルな(リスト最上段にある)Instrument Seriesを選択した。
上記写真は既に色々と並んだ状態だが、画面左側(INSTRUMENTの文字の部分)にギターが接続され、そこから右側へ向かって信号が流れて、画面右側(OUTPUTの文字がある部分)から出力されるようなイメージ。両側の+マークをタッチすることで、新しいエフェクト類やアンプ類などを加えることができる。まずはフェンダーらしい音を…ということで作ったのは、4×10のベースマンを基本のアンプとしつつ、ロック系なら何にでも対応できそうな「全部盛り」系セッティングだ(だからプリセット名はYG_morimoriにした)。流れは下記の通り。
ギター
↓
Orangebox(コンプレッサー)
↓
Mythic Drive(オーヴァードライヴ)
↓
’59 Bassman & 4×10 Bassman(コンボ・アンプ)
↓
Chorus Mono(コーラス)
↓
Optical Tremolo(トレモロ)
↓
Tape Echo(テープ・エコー)
↓
’63 Spring Reverb Comvolution(リヴァーブ)
これらのうちコンボ・アンプ、トレモロ、リヴァーブは、フェンダーが自社製品をモデリングした、いわゆる「純正」のアンプ&エフェクト・モデルだ。その他に関しては名前とグラフィックを見ればおそらく想像できる通り、他社の様々な歴史的名機をモチーフとしたもの。ここではなるべくヴィンテージ&クラシック寄りの方向性でチョイスしたが、もちろんリストの中にはより現代的なエフェクトも数多く存在する。
面白いのはアンプ&エフェクトの調整方法で、タッチスクリーン上でつまみをスワイプすることもできるが…なんとフットスイッチに各パラメーターが自動的に割り当てられ(小型LCDスクリーンに表示される)、スイッチ自体をぐりぐりと回すことで数値を変更可能。これはちょっと、既存のどのフロア型サウンド・プロセッサーでも見たことのない仕様だ。純粋に操作性の良さに驚かされ、軽くテンションが上がってしまう編集部員である。触っているだけで楽しいというのが、デジタル系機器にとって非常に大切な要素であることは言うまでもない。
各フットスイッチには、接続しているエフェクト類のオン/オフを自由に割り当てることが可能。他にも例えば、オーヴァードライヴのゲインだけをスイッチに割り当て、「スイッチ・オフ時はゲイン50%、オン時はゲイン100%にする」といった面白い使用法もできたりする。踏んでいる間だけオンになるモーメンタリー・スイッチとして使うのもOKで、例えば一部分だけにピンポイントでディレイをかけたい時など、シチュエーションは無数に考えられるだろう。
フェンダーが最重要視したトーンのクオリティについては…何しろパワード・スピーカーがフェンダー・アンプそのもののルックスなので、いつしか「普通に質の高い真空管アンプを試奏している」のと全く同じ感覚になってしまった。ピッキングの大小に対する反応も良く、ベースマンらしい図太いクリーンから、ツイード期ならではの豪快な荒っぽい歪みまで、手元のヴォリューム操作でスムーズに移行できるのは驚愕だ。
ちなみにそんな見た目とは言えフルレンジ・スピーカーなので、上記写真のようなスピーカー&マイク・シミュレートによる音質の変化も、しっかりとリアルに再現してくれる。「スピーカー・キャップのエッジ部分に、ダイナミック・マイクを1インチの距離で立てて…」といったセッティングが、あたかも本当に目に見えてくるかのようだ。