音量を下げたいだけなのにエンジニアを呼ぶハメに…
YG:そういえば、マーカスにインタビューするのは初めてなので、ここで基本的なことを訊いておきたいのですが…?
MV:好きな色とか…そういう話かな?(笑)
YG:それも気になりますが(笑)──まずは、ギターを始めたキッカケと年齢を教えてください。
MV:始めたのは12歳だ。その前は5歳からピアノを弾いていたけど、ピアノではメタルが弾けないと分かって辞めたんだ。影響されたのはスラッシュやメタリカ。それからヴァン・ヘイレン、ランディ・ローズなども聴いていた。とてもカッコいい楽器だと思ったから、例えばベースなどには目もくれなかったよ。最初に覚えたのは、ガンズ・アンド・ローゼズやメタリカの曲の一部だったな。みんなと同じさ。数年前、地元でギターを教えていたことがあって、その時に気付いたんだけど、今の子供達もガンズやメタリカから弾き始めるんだよね。20年経っても変わらないんだな…って思ったよ。それぐらい弾き易い音楽なんだろうけど。
YG:デス・メタル系の影響というと?
MV:デスのチャック・シュルディナーだな。あと他に、アナイアレイターのジェフ・ウォーターズも好きだったし、マーティ・フリードマン、ジェイソン・ベッカー、ポール・ギルバート、それからイングヴェイ・マルムスティーンも外せないな!
YG:レッスンを受けたことは?
MV:最初、地元の音楽学校に通っていたんだ。でもそこの先生は演奏がそれほど上手いとは言えなくて──哲学的なことを中心に教わった(笑)。それはそれでクールだったけどね。その先生はGITで学んで、エディー・ヴァン・ヘイレンを始め、色んなギタリストの話をしてくれた。あの先生みたいになりたかったよ。その後は狂ったように練習しまくって、とにかく四六時中ずっとギターを弾き続けていた。16歳になるまで、ろくに学校へも行かず──ズル休みばっかりして、ひたすらギターの練習に時間を費やしたんだ。
YG:最初にピアノをやっていたことが、ギターを弾く上で役に立ちましたか?
MV:勿論だよ。音楽理論や基礎は、ピアノで習った方が簡単だったしね。また、それをギターに置き換えるのも楽だった。今でもピアノやシンセサイザーで曲を作ることがあるんだ。シンセで弾いたパートをデモ録りしたり、時には本番でもキーボードを弾くことがある。(オムニウム・ギャザラムの)キーボード奏者(アーポ・コイヴィスト)が面倒臭がりなもんでね!(笑)
YG:初めてのバンドは?
MV:ギターを始めてすぐにバンドを組んだよ。初の本格的なメイン・バンド:オムニウム・ギャザラムを結成したのは14歳の時だった。だからもう随分と長くやっているよ。
JL:何だって? あのバンドはもう21歳なのか! アメリカでは成人だから、酒だって呑めるな(笑)。
YG:ヤニから見て、マーカスはどういったギタリストでですか?
JL:僕が知っている中でも、唯一無二で最高のギタリストだね!
MV:見事なお世辞だな!(笑)
JL:いやいや、実際にスゴ腕のギタリストだよ。一緒に弾けて嬉しい。頼りになるからね。彼のパートのことは何も心配しなくてイイんだ。
YG:では、今回2人が日本へ持って来たギターを確認させてください。
MV:俺はジャクソンのランディ・ローズ・モデルを持ってきた。最初のギターはエピフォンだったけど、その後はずっとキャリアを通じてジャクソンだ。エンドースもしているしね。USA製が2本あって、1本はカスタム・ショップ製。これは俺がデザインした。もう1本は“15歳”(笑)になる“RR1”。プロダクション・モデルで、長いこと弾き続けているから最高のサウンドが得られる。何百・何千回と弾き続けていて、もう壊れかけてもいるんだけどさ。いつか引退させなきゃなぁ。
YG:どちらかがメイン・ギターなのですか?
MV:どうしても1本選ばないといけないとしたら、メイン・ギター…いや“メイン・ラヴァー”(笑)は“RR1”だね。カスタム・モデルの方はまだ手に入れて日が浅いから、“彼女”のことはもう少し良く知らないと…(笑)。
JL:“彼”じゃないのか?(笑)
MV:(笑) あと、どちらにもフロイドローズのトレモロ・ユニットが搭載されている。ヘヴィ・メタル・ギターの基本スペックだな!
YG:チューニングはどちらも同じですか?
MV:うん。全弦1音下げだよ。
YG:ピックアップなどは取り替えてありますか?
MV:セイモア・ダンカンとエンドースしているから、フロントは“Jazz”、リアは“TB-4”に換えてある。どっちもパッシヴだよ。アクティヴはダイナミクスをなくしてしまうから好きじゃないんだ。
YG:メタル系のギタリストはフロント・ピックアップを使わない人も多いようですが…?
MV:そうだね。俺もインソムニウムではそうしているだけで、他のバンドではスラッシーな音楽をやっているから、ジャクソンならではの1ハムバッカー・モデルを使うのが好きだよ。リア・ピックアップのみのカスタム・ショップ製モデルも沢山持っているし。見た目的にも、その方がセクシーだろ? よりボディーが剥き出しになるからな!(笑)
JL:そんなこと思っているのはオマエだけだよ!(笑)
YG:弦のゲージは?
MV:[.011〜.050]だ。エリクサーを使っているよ。長持ちするからね。
YG:『WINTER’S GATE』のレコーディングでも同じギターを使いましたか?
MV:ああ。あと、昔の“恋人”の“RR2”も使ったかもしれない。前回来日時、御茶ノ水の楽器店街に行ったんだけど、そこで見つけたんだ。あのツアーは高くついたなぁ…。でも、最高のカスタム・モデルを見つけて「買うしかない!」と思ったよ。バカだろ?(苦笑) エンドースしているんだから、言えば提供してもらえるのに! でも、あのモデルは本当に素晴らしくてね。マスター・ビルダーのマイク・シャノンが製作したモデルで、エンドーサーでもなかなか手に入れられない。だから買わざるを得なかった。それもあのアルバムに入っているよ。日本のスピリットと一緒にね!
YG:ヤニはどのギターを持ってきましたか?
JL:今も引き続きESPを使っている。日本製だよ。ありがとう…ジャパン!(笑) ケインズ・オファリングの前回来日公演でも使った“SV-2”(E-IIの“SV BLK”)を、今回も持って来たよ。それ1本だけだ。フライトの乗り継ぎが多くて、出来るだけ荷物を軽くしたかったからね。予備のギターはマーカスしか持っていないから、もし僕が弦を切ったら、ジャクソンを弾くことになるワケだ。
YG:アンプは何を?
MV:2人ともフラクタル・オーディオ・システムズ“Axe-FX”を持ってきた。
JL:楽だからね。そこから直でPAに音を送っているんだ。ヘッドやキャビネット、マイクの違いに悩まされることもなく、常に同じサウンドが得られるのは最高だよ。
MV:ライン出力で良い音が出せるのは、これとケンパー“Profiling Amplifier”ぐらいだ。マイクを立てる必要もない。もし他に選択肢があるなら、EVHとエンドースしているから、スタジオでも使っている“5150”を選ぶだろうな。ただ、ライヴ環境では“Axe-FX”が手軽でイイ。一貫性があるのも最高だよ。
YG:ステージ上では、キャビネットから音を出していないのでしょうか?
JL:いや、出していてるよ。
MV:インイヤー・モニターは使っていないんだ。俺は昔ながらのキャビネットの音が好きだし、フィードバック音も得られる。それに、いまの(“Axe-FX”を使う)システムでも「やっぱりロックンロールをやっているんだな」という気分になれるからな!(笑)
JL:確かピーヴィーだったと思うけど、キャビネットとアンプのヘッドも置いてあるんだよ。“Axe-FX”はアンプ・ヘッドのエフェクト・リターンに接続されている。つまり、ヘッドはパワー部だけを使用しているのさ。
YG:ペダルは何か使っていますか?
MV:音の切り替えは基本“Axe-FX”だけで行なう。時々、MIDIコマンドでタップ・テンポなどの設定を変えたりするけど…。あっ…ひとつ大事なのを忘れてた。“秘密兵器”があったな。
JL:そうだよ!
MV:BOSSの古いペダル“Heavy Metal 2”(HM-2)だ。俺にとって最高峰の機材だね。とてもヘヴィなパートで使うんだけど、ストックホルム産デス・メタル・バンドみたいなディストーション・サウンドになる。
JL:凄くイイ音だよ。
MV:あのペダルを踏むと魔法がかかるんだ!
YG:ずっと前から使っているのですか?
MV:いや…いつもは、家で遊びながら弾く時に使っている。俺のバンドに適した音じゃないからね。でも、エントゥームドのような、クラシックなスウェディッシュ・デス・メタルのサウンドを得るにはこれが一番さ!
JL:僕もマーカスと全く同じセットアップを使っている。インソムニウムのサウンド・エンジニアがプログラミングしてくれたんだ。
MV:そう。俺と彼とで、遅くまで時間をかけて作ったんだよ。
JL:ライヴ用に様々なサウンドが用意されているから、わざわざ自分のアンプを持っていく必要はないんだ。もう、彼等の求めているサウンドがあるんだからね。自分のギターだけ持っていって、そのプログラムを使って弾くだけだよ。
MV:但し、俺はオールドスクールな人間だから、基本はツマミを回して音を作る方が慣れている。“Axe-FX”はラップトップのパソコンなどで操作をするし、実は全く勝手が分からないんだ(苦笑)。そこで結局、サウンド・エンジニアにすべてを任せることになる。俺は「もっとゲインを上げてくれ!」などと伝えるぐらいだな。
JL:2日前、僕もクリーン・チャンネルの音量をちょっと下げたいなと思ったことがあって──たったそれだけのことでサウンド・エンジニアを呼んだよ。僕も全く使い方が分からないから(苦笑)。
MV:デジタル・ワールドだな…。
YG:さて、ヤニは現在、元ナイトウィッシュのシンガー:アネット・オルゾンとアルバムを制作しているとか?
JL:うん。現在まさに作業中で、ドラムとベース、キーボードは録音済み。アネットのヴォーカルも全部録り終えていて、あとは僕のギターだけ丸々抜けているという感じだね。このツアーの後、自宅に戻ったら取り掛かるよ。アレを放置したまま日本に来るなんて、ちょっとバカなことをしたと思うけど、まだ時間はある。ミックス作業は6月半ばからだから、あと2〜3週間は余裕があるんだ。
YG:それはアネットのソロ・アルバムなのですか?
JL:僕とアネットがメインだ。フロンティアーズ・レーベルから「アルバムをプロデュースしない?」と打診があって、「シンガーは誰が良い?」と訊かれたから、「女性ヴォーカルはどうかな? 以前もプロデュースを行なったことはあるけど、みんな男だったから…」と言ったら、1週間後に連絡がきて、「アネット・オルゾンはどうですか?」と言うじゃないか。そこで、「イイね! やろう!!」と返事をしたのさ。
YG:アネットと一緒に曲を書いたのですか?
JL:僕が全曲を書いたよ。
YG:プロジェクト名はありますか?
JL:“OLZON/LIIMATAINEN”とか…そんな感じかな? とっても分かり易いだろ?(笑)
YG:そのプロジェクトではどんなギターを弾くのでしょう?
JL:音楽性はポップだけど、サウンドはヘヴィだ。それで、ESPの担当者に相談したところ、7弦ギターを1本送ってくれてね。それをスタジオや家で使っているよ。僕は基本6弦を弾いていて、7弦はとっておきのシチュエーションでしか使わないことにしている。僕もオールドスクールな人間で、あまり7弦を多用することはない。僕の音楽には求められていないからね。だから、必要になったら使う程度さ。
YG:ケインズ・オファリングの方はいかがですか?
JL:バンドはまだあるよ(笑)。前回“LOUD PARK”で日本に来た時、日本のレーベル担当から「’17年中にアルバムを出したい」と提案されたけど、アネットのアルバムがあるから無理だと言ってある。作曲には少なくとも半年は費やしたいからね。だから、次のケインズ・オファリングのアルバムは──それまでに僕の心が折れていなければ、来年には出せるだろう!
YG:インソムニウムの直近の予定はどうなっていますか?
JL:まだアルバムが出たばかりだから、しばらくツアーが続く。日本の後はオーストラリアに行くし、夏は沢山のフェスティヴァルに出演する。フィンランドでは交響楽団とも共演するんだ。初めての試みだよ。オーケストラのデモ音源を聴いたけど、素晴らしかったね。
YG:その時はヴィレも参加するのですか?
MV:ああ、多分ね。でも、ヤニにも来てもらうつもりだ。
JL:アコ・パートで参加させてもらおうかな? (ティモ)コティペルトとのユニットで、かなり鍛えられたから…!
MV:そうだな。ヤニはアコが多くなるだろう。元々ギター・パートは多いから、3人で手分けして弾くことが出来そうだよ!!
INFO
公式インフォメーション
INSOMNIUM – Melodic Death