ヴォーカリストJulia(vo)の極めて高い歌唱力と、美しく壮大な旋律による楽曲を武器に活動を進めている国産シンフォニック・メタラー:クロス・ヴェインが去る3月にニュー・アルバム『Gates of Fantasia』をリリースした。前作の『ROYAL ETERNITY』(’15年)から3年ぶりとなる今作は、よりヴァラエティが豊かになった音楽性や、演奏技術に磨きがかかった楽器陣によるプレイといった魅力が満載で、長い制作期間が決して無駄ではなかったことを証明している。そんなバンドの成長が存分に伝わる新作の内容について、今回はギタリスト兼コンポーザーであるYoshiとMASUMIに話を聞いた。2人はYG初登場なので、まずは音楽的ルーツから探っていこう。
明るくポジティヴなメロディーを駆使したスピード・メタル作!
YG:まずはお2人の音楽的なバックグラウンドから聞かせて下さい。
Yoshi:僕の母がザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、ディープ・パープルあたりを聴いていたので、小さい頃からそういった音楽に馴染みがあったんですよ。そして高校生になった頃自分のまわりではバンド活動が盛んになっていたんですが、僕も影響を受けて母のレコードを改めて聴いてみたら、キース・リチャーズやリッチー・ブラックモアのプレイに衝撃を受け、自分もやってみようと思ったんです。当時はHi-STANDARDやロード・オブ・メジャーのようなパンク・ロックが流行っており、ギターを低めに構えてかき鳴らすようなギタリストが多かったので、自分もレスポールを買って弾き方を真似ていたのを覚えています(笑)。でもギターを続けて行くうちに、X-JAPANやハロウィン、ガンマ・レイのようなヘヴィなバンドにのめり込み、それからはSTシェイプや、ランディVのような変形タイプを中心に使うようになっていきました。プレイする音楽に合わせて使用するギターが変わっていった感じですね。
MASUMI:僕は中学生の時に、たまたま後輩からボン・ジョヴィの『CROSS ROAD』(’94年)を借りたのをきっかけに、ギターに興味を持ち始めました。当時学校にはアコースティック・ギター部があって、部員を見るたびに「絶対俺の方が上手く弾ける。2週間くらいで追い越してやる」と思っていたんです(笑)。いざ入部して始めてみたら本当に2週間くらいで1番上手くなったんですよ。それから調子に乗ってギターを弾き続け、現在にいたります(笑)。影響を受けたギタリストは挙げるとキリがありませんが、特にランディ・ローズが好きですね。他にもボン・ジョヴィから派生して、エアロスミスなどの海外バンドを聴き漁っていたら、L.A.メタルにもハマりました。それこそジョージ・リンチやジェイク・E・リー、ウォーレン・デ・マルティーニからはかなり影響を受けたと思います。
YG:お2人はクロス・ヴェインに後から加入したそうですね?
Yoshi:そうなんです。僕の方が早く加入したんですが、1年程で初期メンバーがみんな脱退して自分1人になってしまって…(苦笑)。このまま解散するのはあまりにも惜しいので、改めて新メンバーを探すことにしたんです。MASUMIはその時に、知り合いが紹介してくれたギタリストなんですよ。彼は演奏技術が高い上、クロス・ヴェインの嘆美な世界観にぴったりなルックスだったのですぐにバンドに誘いました。
YG:MASUMIさんはL.A.メタルや、ハード・ロックを好んで聴いていたと言っていましたが、シンフォニック・メタルをプレイすることに抵抗はなかったのでしょうか?
MASUMI:最初はシンフォニック・メタルのジャンルをプレイしたこともなければ、知識も乏しかったので若干不安ではありました。でも、元々ギターにハマり始めた頃からアニメが好きで、水樹奈々さんが歌うような壮大なテイストを持ったアニソンをよく聴いていたので、抵抗は全くありませんでしたね。
YG:現在の楽曲はお2人が作っているようですが、様々な楽器が入り交じった緻密なアンサンブルをどのように構築していくのでしょうか。
Yoshi:まず、作曲の際はほとんどギターを持たず、ほとんどDTMソフト上で作っています。最初に歌メロを打ち込み、そこにコードやベース等のリズム・パートを追加して、シンセサイザーでクロス・ヴェインならではの世界観を広げてから、最後にやっとギターを入れます。
MASUMI:僕は以前ギターを持って、リフとコード進行だけの曲ばかり作っていましたが、クロス・ヴェインに入ってからはほとんどYoshiと同じ手法で曲を構築していますね。
YG:全体のアレンジも作曲者自身でされるんですね。
Yoshi:そうなんです。2人ともデモの段階で方向性はほぼ固まった状態で、細かい部分はメンバーで調整して完成まで持って行きます。僕達はあくまでもJuliaが主役という意識を持っていて、楽曲に対するこだわりを崩さずに、彼女のバック・バンドとして、ヴォーカル・ワークをどう支えていくかを意識しなければいけません。だから、大まかな編曲は作曲者がやった方が効率が良いんです。その中で楽器隊の見せ場も作りたいので、全体の楽器のバランスにはシビアにこだわりますね。
MASUMI:また、ギター・アレンジは歌詞によく左右されます。僕の場合は最初、バッキングは白玉のロング・トーン等の単純なものにしているんですけど、例えばアグレッシヴな内容の歌詞が含まれている曲だったら、派手なプレイ・スタイルに変えたりと、世界観に合わせたアプローチを心掛けています。
YG:では新作『Gates of Fantasia』の楽曲について、いくつかピック・アップして質問させて下さい。オープニングSE後の2曲目「Graceful Gate」はスピード・メタルの要素が強く、キャッチーなメロディーが目立ちますね。
Yoshi:そうですね。これは僕が最初の1曲でリスナーの心を掴もうと思って作りました。今までのクロス・ヴェインは、どちらかというとマイナー調でダークな雰囲気を持った曲が多かったんです。しかし、今作は前作から3年ぶりというのもあり、クロス・ヴェインが攻めるのはこれからだ! という前向きな気持ちもこめて、明るくポジティヴなメロディーを駆使したスピード・メタルに仕上げました。
YG:まさにこの曲を聴いた最初の印象が“ポジティヴ”でした。
Yoshi:指針が伝わって良かったです(笑)。ハロウィンやガンマ・レイ、ANGRAを含めたスピード・メタル・バンドは、アルバムの1曲目に明るいナンバーを入れることが多いじゃないですか。自分もそういった曲を聴いて育ったので、同じメタル・リスナーに響くのではと思い、この曲を最初に持って来ました。
YG:途中のセクションでは、ギター〜キーボード〜ギターの順番でソロ・パートが展開されますが、前半と後半のソロはお2人が分担して弾いているのでしょうか。
Yoshi:はい、2人で弾いています。自分の曲でソロを弾いてもらう時は、相手に丸投げする形になっていて、ほとんどお任せなんですよ。そこであまりにも自分の意図と違ったソロを弾いていたら、若干の注文をする場合もありますけど、MASUMIは基本的にイメージ通りのフレーズを弾いてくれるし、僕は相手が出したいサウンドを尊重したいので、そのまま採用することが多いですね。
YG:次の「隠されしエデン」はアコースティック・ギターがフィーチュアされていますが、どちらが弾いているのでしょうか?
MASUMI:これは僕です。基本的に作曲者が弾くことになっているんですよ。
YG:ということは中間のセクションにあるギター・ソロもMASUMIさんですよね。薄くオクターヴァーがかかったマイルドなサウンドが何とも印象的です。
MASUMI:これは、ギター1本だけだと音の厚みが足りないというのと、ヴォーカルはハモリを入れたり主旋律に合わせて重ねたりするんだから、ギターだっていろんな音を重ねても良いじゃないか!と思いオクターヴァーを入れました(笑)。結果的に厚みが出て響きも良くなりましたし、良い選択だったと思います。
YG:4曲目の「Masquerade〜交響曲第25番〜」は、モーツァルトの楽曲が元になっていますが、なぜこの曲を選んだのでしょう。
Yoshi:モーツァルトの半生を描いた映画『アマデウス』(’84年)を観ていたら、冒頭で「交響曲第25番」が流れたんです。刺激を受けたと同時に、この曲をクロス・ヴェインでやったら面白いんじゃないかということで思い切ってカヴァーしてみました。
YG:本来ないセクションを取り入れたり、新たにヴォーカル・パートを設けるのは大変だったのでは?
Yoshi:歌うことを想定していない曲ですから、かなり苦労しましたね。そこで、自分は曲中のこの部分が好きだからここを歌ってもらおうという考え方よりも、どこが人の声が綺麗に当てはまるかという部分を意識して原曲のセクションから抽出しました。実は、原曲は全部で4つの楽章に分かれた交響曲の形式で、全部演奏すると20分ほどの長さになるんですよ。その中から、歌メロ以外にもバンド形態で使えそうな部分を採用し、6分近くのコンパクトな1曲に仕上げました。サビや、細かい部分はオリジナルのメロディーにしていますが、半分以上は原曲のメロディーを使っています。
YG:「Immortal Beauty」はアルバム曲の中でも特にヘヴィな部分が目立ちますね。
Yoshi:基本的にドロップDチューニングで、この曲ではただひたすら6弦の開放を刻んでいます(笑)。
YG:サビではヴォーカルのバックでテクニカルなリードが聴けますが、これはどちらが弾いているのでしょう?
MASUMI:これも僕ですね。普段からどんなパートでも、エモーショナルで感情的な要素を聴いている人に与えたいんです。この曲はサビのリードを含めて全体的に少し現代チックというか、今までのクロス・ヴェインを知っている人が聴いたらちょっと新しいアプローチだと気付くような要素がたくさんあると思います。
YG:確かにバッキングにおいても、カッティングを取り入れていたりして、シンフォニック・メタルとしては斬新なスタイルが多いですよね。
MASUMI:そうですね。この曲はヴァイオリンやヴィオラ等が入っておらず、チェロのみが単体で入っているんです。これは、いつかチェロ奏者をゲストに招いて一緒にやりたいという気持ちからできたアレンジなんですよ。それもあって、シンフォニック・メタルに寄せながらも型にハマらない曲作りを意識し、カッティング等の奏法をチャレンジ的に入れました。あまり海外のメタルにはない要素もあるので、日本人ならではの勤勉さを感じていただけたら嬉しいです(笑)。
YG:唯一のギター・インストである「Led Moon」は、メタル・バンドならではのシュレッド・プレイを基盤にしているのかと思いきや、あえて泣きのソロをフィーチュアしているんですね。
MASUMI:個人的にクロス・ヴェインはあまりシュレッド・プレイを必要とするバンドではないと思うんです。巷にはそういう曲がたくさんありますし。僕はメロディーが美しい曲に速弾きを載せるのが嫌なんですよ。松本孝弘さんのようなギタリストが弾くインストを聴いていると、自分の肉声の代わりにギターの音を出しているような気がしますし、自分もそういうスタイルを貫きたいんです。
YG:9曲目の「Wonderous Nightmare」は、ハロウィーンを彷彿とさせるパーティー風のメロディーが印象的です。
Yoshi:僕は映画が好きで、特に映画監督のティム・バートンのような暗いモノクロな雰囲気でありながらも、鮮やかで不思議な世界観を表現したいと思って作りました。あと、僕の誕生日が10月31日というのもあって、ハロウィーンのようなイベント事が大好きなんですよ(笑)。そこでハロウィーンらしいパーティー・ソング的な雰囲気と、クロス・ヴェインの音楽性を混ぜ合わせたユニークな曲を作りたいと思ったんです。シャッフル調のダンサブル的なナンバーは初の試みだし、そういう曲調をヘヴィなギター・サウンドでやったらもっと個性的になるんじゃないかと思い、あえて強く歪ませて弾きました。
YG:ちなみに他の曲にも共通することですが、ギター・ソロではピッキング・ハーモニクスを活かしたアプローチが多く、メタルならではのアグレッシヴさが際立ちますね。
Yoshi:昔から気持ちを込めて弾いているとついハーモニクス音が入ってしまうんですよね。ソロは何回か弾いてベスト・テイクを採用するんですけど、ピッキング・ハーモニクスが綺麗に鳴っているフレーズの方が、自分の感情が反映されているように感じることが多いんですよ。だから自然にそういったソロを選んでしまうんです。
YG:これも前半と後半でパートを振り分けたギター・ソロになっているそうですが、特に後半のスケール・アウトした独特なフレーズがこの曲の不気味な雰囲気を引き立たせていますね。
MASUMI:これは僕が作ったソロなんですが、フレーズを作る時はメロディーの流れを強く意識していて、主体となるメロディーの1音1音の間に経過音を入れたり、この曲に関してはヴィブラートを入れて世界観とマッチするように心掛けました。あと、お互いが弾くソロのキャラクターを綺麗に分けたいという意識が大きいです。これはどの曲にも言えることで、僕はフュージョンっぽさがあるアウト・フレーズ系のアプローチが多い反面、Yoshiはわかりやすい王道のメロディーが多いんですよ。
Yoshi:そうだね。僕のソロは口ずさめるようなフレーズを意識しているけど、MASUMIのソロは複雑すぎてまず歌えないね(笑)。
YG:ラストの「最果てのオリゾン」のバッキングでは、ギターが主張しすぎず、曲全体に溶け込むように馴染んでいますね。
Yoshi:そこを目標にしています! 全曲において、どのパートを聴かせたいのかを明確にするように心掛けているんです。これまでの作品は自分達のやりたいことをひたすらやっていただけなので、以前より大人になったのかもしれませんね(笑)。
YG:アウトロの疾走感溢れるフレーズは大きなインパクトがありますね。
Yoshi:1番最後はやはりメタルの王道スタイルで締めようと思ったんです。今回はライヴを意識した楽曲作りに力を入れていたので、この曲に関してもサビもみんなで大合唱できるようなキャッチ—な歌メロにして、リード・ギターも口ずさめるような馴染みやすいフレージングを意識しました。それでいてギター・ソロはテクニカルで難しい部分も多いので、コピーするのにもオススメです。
YG:では、今回のレコーディングで使用した機材を教えて下さい。
Yoshi:ギターはE-IIの“Arrow”を使い、ピックアップはフロント、リア共にEMGの“81”を載せています。アンプはマーシャルの“JVM”で、キャビネットがボグナー。エフェクターはアイバニーズ“Tube Screamer”等のブースターや歪み系がメインです。
MASUMI:僕は曲によってギターを使い分けています。バッキングはギブソンのレスポールで、リードはシェクターの“EXCEED”シリーズのものを使っていますね。あとアーミングを多用する時はE-II“ST-1”を使っています。アンプは曲によって使い分けていたのでよく覚えていません(笑)。エフェクターは、スティーヴ・ヴァイ・モデルのアイバニーズ“JEMINI”を、今回プロデューサーを担当してくれたJupiterのHIZAKIさんからお借りししました。それとモーリーの“Bad Horsie”ワウも使ったかな。
YG:最後に読者へ一言お願いします。
Yoshi:単にメタルではなく、ポップスや、ロカビリー、ジャズ的なアプローチも含まれていて、色々な要素が詰まった作品になったと思います。このアルバムだけで、たくさんの音楽の可能性を感じることができると思うのでぜひ手に取って聴いてみて下さい。
MASUMI:日本のバンドに興味がなく、海外のバンドしか聴かないという方はたくさんいると思います。僕も昔はそうでしたが、今になって邦楽を聴き始めると良い曲がたくさんあって、なぜ今まで聴いてこなかったんだろうと後悔しました。僕達の楽曲においても、日本人ならではのメロディーや、ギターの音使い等、色々な発見があると思うので、食わず嫌いをせず、クロス・ヴェインをきっかけに国産メタルに興味を持っていただけたら嬉しいですね。
INFO
アルバム『Gates of Fantasia』発売記念ツアー
日程:2018年5月12日(土)
会場:大阪CLAPPER
開場:17:30 / 開演:18:00
日程:2018年5月13日(日)
会場:名古屋 今池GROW
開場:17:30 / 開演:18:00
2days ワンマン・ライヴ
『Theater of CROSS VEIN 〜Chapter1〜』
日程:2018年9月15日(土)
会場:渋谷Star Lounge
『Theater of CROSS VEIN 〜Chapter2〜』
日程:2018年9月16日(日)
会場:渋谷Star Lounge
公式インフォメーション
CROSS VEIN OFFICIAL WEB SITE