今回のクリニック開催直前に、コートニーへのインタビュー取材の機会をいただくことができた。ヤング・ギターがじっくり腰を据えてコートニーと対話するのは、これが初めて。この機会に彼女のプレイヤーとしてのキャラクターを掘り下げてみようと考えて質問を色々ぶつけたところ、実に純粋なメタルヘッドであることを再認識…。
ピンクのギターを作ることが長年の夢だった
YG:ジ・アイアン・メイデンズのジャパン・ツアー以外で日本に来たことはあったのですか?
コートニー・コックス(以下CC):いえ、(2010年に)メイデンズで来たのが初めてだったし。日本のリスナーについては色々なところでも評判を聞いたりしていたけど、それはとにかくみんな礼儀正しいということ。最初のショウの1曲目が終わったら、みんな拍手した後すぐにシ〜ンとしちゃったのは驚いたけどね。「えっ、何か間違ったことしちゃった!?」って戸惑ったぐらい(笑)。でも盛り上がった時の反応が素晴らしかった! それから2015年にまた日本でライヴをやったけど、すぐにでも戻って来たいくらいね。
YG:今回はキャパリソンのギター・クリニックという形での来日になりましたが、そもそもキャパリソンはいつ頃から使い始めたのでしょうか?
CC:もう3年ぐらい使ってるわ。それまで他のメーカーのギターを長年使っていたんだけど、ずっと自分の理想のギターを探していたの。理想の1つはピンクであること。その夢がようやく叶ったというわけ。
YG:“Horus M3を選んだ理由は?
CC:キャパリソンで初めて手にしたギターがこれだったから。確か“Dellinger”なんかも試したと思うんだけど。最初に使ったのは私のためにカスタマイズされたグリーンのモデルだったんだけど、さらにスペシャルなモデルを使いたいと思っているうちにシグネチュア・モデルを作ることになったの。オリジナルの“Horus M3”と比べると、ネックは3ピースから5ピースになっているし、FU-TONEのパーツ(スプリングやサステイン・ブロック)を使ったりして、すべて私のチョイス。私の“Horus”になっているというわけね。
YG:自分のギターを作るとしたらこういうものを作りたいと、以前からアイデアを練っていたのでしょうか?
CC:ギタリストなら誰でも自分のモデルを作りたいと夢見るものだからね。私の場合はとにかくピンク!(笑) エイドリアン・ヴァンデンバーグの使っていたギター(ピーヴィー製シグネチュア・モデル)を持っているんだけど、それみたいなカラーにしたかったの。’80年代っぽいでしょ?(笑)
YG:ええ(笑)。プロトタイプが完成したのはいつ頃ですか?
CC:これを受け取ったのは確か(2018年の)3月だったかな。ずっと秘密にしておいて、4月のメイデンズのサクラメントのショウで初お披露目したの。もうすっかり私の身体の一部ね。
YG:元々24フレットのギターを使うことが多かったと思いますが、“Horus”の27フレット仕様にはすぐ慣れましたか?
CC:初めて使ったショウの時は、ソロ・パートで弾くべきポジションを忘れてしまったのよ(笑)。こんなにフレットがあるなんて!って。でもすぐに慣れたし、高音が簡単に出せるからプレイの幅も広がったわ。手の小さい私にとっては、22フレットや24フレットだとハイ・ポジションのプレイがやりづらいことが多いし。ポール・ギルバートだったら楽勝なんだろうけど(笑)。
YG:ポールの手は巨大だから特別な例ですけどね(笑)。コートニーはフィックスド・ブリッジではなく、ロック式のトレモロ・ユニットを使うことにこだわりがあるのでしょうか?
CC:もちろん。私はキング・ダイアモンドのアンディ・ラロックや、ダイムバッグ・ダレルを聴いて育ったんだから(笑)。
ステージにキャビネットが置いていないなんて嫌!!
YG:コートニーのアンプはフリードマン製ですよね?
CC:そう。私のために調整したハイブリッドのアンプ。“Butterslax”の歪みと“BE-100”のクリーン・セクションを組み合わせたものなの。最近はケンパーみたいに便利なアンプが沢山あるし、PAに直で信号を送るセッティングも当たり前になってるけど、私は絶対にチューブ・アンプ派。自分がステージで弾いている時はキャビネットが後ろで爆音を出しているのを感じたいから。だってステージに何も置いてないのは嫌でしょ! イングヴェイ・マルムスティーンのライヴを観に行ってマーシャルの壁がないなんて想像できないし(笑)。
YG:オールドスクールですね(笑)。メタル・ギタリストにとっての命題は歪みサウンドをいかに上手く作るかということだと思いますが、コートニーのサウンド・メイクのこだわりはどのようなものでしょうか?
CC:多分ギターを弾き始めた頃からこだわりは変わっていないはず。ジューダス・プリースト、アイアン・メイデン、キング・ダイアモンド、パンテラ、それに’80年代のスピード・メタルやスラッシュ・メタル、パワー・メタルのようなサウンドに憧れているのは今もそのままね。決して歪み過ぎていなくて、高音がチェーンソーのように迫力があって、なおかつスムーズでパワフルなクラシック・サウンド。一番理想に近い人を挙げるのは難しいけど…アイアン・メイデンが『SOMEWHERE IN TIME』(1986年)を出した頃のエイドリアン・スミスかな。ペダルもあくまでシンプルで、ディレイとコーラス、ブースターとチューナーをつなぐ程度ね。
YG:じゃあ歪みはアンプで作るんですね。
CC:そう。でもこの大きなアンプを持ってツアーに出ることができない場合とか、セッションで参加者がみんな同じアンプを使う場合は、フリードマンのオーヴァードライヴ“BE-OD”を持って行って、それで歪みを調整するようにしているわ。
自分流にやることばかり楽しんでいた
YG:メイデン、それとキング・ダイアモンドは言うまでもないと思いますが、影響になったアーティストで他に外せないのはどんなところですか?
CC:サクソン、ハロウィン、ラウドネス、アクセプト…もう止まらない。ヘヴィ・メタルというジャンルで名盤を出した素晴らしいバンドからは大体影響を受けているもの。
YG:コートニーは“School Of Rock”という音楽教育プログラムを受けていたそうですね? これは日本ではあまり馴染みがないのですが、どういったものなのですか?
CC:多分このスクールを参考にしているんだとは思うけど、あのジャック・ブラックの映画とは関係ないの。私は元々部屋にこもってギターを独学で練習していたんだけど、母親から「もっと人と一緒にプレイすべき」ってアドヴァイスされて、私も“School Of Rock”というものが何なのか分からないうちに入学手続きをしてもらっていたの。7歳から18歳までのキッズを対象にしていて、毎月みんなで一緒に曲を人前でプレイするのよ。有名なミュージシャンと一緒にツアーに出ることもあったし、そうやってエンターテイナーを育てるプログラムだったわ。ロック・スターになるにはステージでパフォーマンスすることが大事だからね。ただ私は悪い生徒で、教えられたことをやるよりも自分流にやることばかり楽しんでいたわ(笑)。15歳の時にイエスのジョン・アンダーソン(vo)と一緒にツアーすることになったんだけど、その時点で私はイエスなんて聴いたこともなかったし、スレイヤーのシャツを着てプログレッシヴ・ロックをプレイしていたのよ(笑)。
YG:コートニーなりの反抗心の表れだったんですね(笑)。
CC:私はいつでも反抗的なの。親に「タトゥーは入れるな」って言われていたのに、今じゃ3つも入れてるし(笑)。でも“School Of Rock”では、ステージに立つこと、観客を喜ばせること、ライヴ・ツアーをすること、それらがどんなものなのかということを学ばせてもらえたから、私のタメになったわ。
YG:最初に参加した大きなバンドは、キング・ダイアモンドのトリビュート・バンド、QUEEN DIAMONDなのでしょうか?
CC:(名前を聞いて)ううん、それも大きなバンドとは言えなかった。15歳でジョン・アンダーソンたちとツアーしている頃、もっとメタルをやりたいと思ってQUEEN DIAMONDに入ったの。大々的に活動していたのはジ・アイアン・メイデンズの方ね。QUEEN DIAMONDをやっている頃にこのバンドを知って、こっちの方がもっと良い活動ができるかもと思ったわけ。
YG:そもそもコートニーが学生の頃、キング・ダイアモンドの話で盛り上がるような友達はいたんですか?
CC:全然(笑)。周りの友達はスポーツとか、音楽以外の趣味にハマっていく人が多かったし、私は厄介者みたいな存在だったわ。
YG:日本にもトリビュート・バンドは沢山いるんですが、メイデンズのように大々的なツアーを行なって、CDも出すようなバンドは稀なんです。逆にアメリカではトリビュート・バンドの需要が高いようですね?
CC:そうね。最初の頃こそわずかな需要しかなかったけど、バンドが人気になるにつれてトリビュート・バンドのシーン自体も大きくなっていったわ。今やAC/DCのトリビュート・バンドが一晩で10組出たりもするし(笑)。やっぱり観ている人に楽しんでもらえることが一番大きな理由かな。やっているミュージシャン自身もキッズに戻ったような気持ちで楽しくプレイできるし。
YG:ジ・アイアン・メイデンズの場合は、本家アイアン・メイデンがライヴでやらなくなった曲も沢山取り上げていることが人気の秘訣なのでは?
CC:そう、それが私たちにとって有利になっているはず。ショウごとに3〜4曲は珍しい曲を入れるようにしているの。私たちにとってもセットリストに工夫を加えれば、毎回新鮮な気持ちでプレイできるから楽しいのよ。その分準備は大変だけど(笑)。
YG:コートニーにも「何でメイデンがやらないんだろう?」というお気に入りの曲があるのでは?
CC:「Reach Out」(’86年のシングル「Wasted Years」のB面曲)ね。
YG:エイドリアン・スミスがリード・ヴォーカルを執った曲ですよね。そうなるとエイドリアーナ・スミス役のコートニーがヴォーカルを執らなくては…。
CC:だから恐ろしいのよ(笑)。今度日本に行く時は「Reach Out」をやろうっていう話になっていたんだけど、自分が歌うなんて…(笑)。
YG:でもファンとしてはコートニーの歌も聴いてみたいでしょうね(笑)。ところで最近ではニタ・ストラウス(g)やジル・ジャニス(vo:ハントレス)と一緒にSTARBREAKERZというメタルの名曲をプレイするバンドでライヴをやっているそうですね?
CC:ええ。でもメンバーそれぞれが別のバンドで忙しくしているから、ライヴの回数もあまりないの。小さい規模の会場で、来月ライヴをやったら次はまた来年…という感じね。私たちの好きな曲を選んで楽しくやっているわ。ジューダス・プリーストやW.A.S.P.の曲を選んだりして。
YG:色々なバンドでのライヴが立て続けで入っていると、体調管理も大変でしょうね。
CC:そうね。昔のロック・スターみたいにメチャクチャな生活をしてからステージを走り回るなんて無理だし、エクササイズを欠かさずやって、健康を保つことが一番。1980年代のロックンロール・ライフとは時代が違うのよ(笑)。
YG:そうですね(笑)。ところでそろそろ、コートニーのオリジナル曲だけのアルバムというものも聴いてみたいんですが、そういったものを発表する予定はありますか?
CC:ツアーの合間を縫って沢山の曲を書いているわ。今回のクリニックでも1曲披露するつもりなんだけど、ドラムを叩いているのはキング・ダイアモンドのマット・トンプソンで、私の友人のヴィニー・ムーアもギターでゲスト参加しているの。音楽性としてはやっぱり1980年代的なメタルかな。初期のW.A.S.P.みたいなね。それ以外にも色々なアイデアが湧いて来ているから、近いうちにみんなに聴いてもらえるようになるはずよ。