ヴォーカリストとドラマーの交替を経て新生を果たしたブラインドマンが発表した『TO THE LIGHT』(’16年)は、時代に流されない彼らならではの正統派ハード・ロックの魅力を凝縮した力作だった。あれから約2年が経ち、最新スタジオ・アルバム『REACH FOR THE SKY』がリリースされるのだが、一聴してすぐにブラインドマンだと分かる個性炸裂の1枚ながら、新機軸の楽曲にも挑戦しているという、バンド史上最もヴァラエティに富んだアルバムでもある。王道を行きながらも冒険が満載、という絶妙なバランスで成り立ったこの作品について、バンドの頭脳である中村達也に話を聞いた。
ブラインドマンにとって凄く意味のある作品になったと思う
YG:前作は新ラインナップのお披露目という意味合いもあったためか、改めて聴き返すと“THEブラインドマン”とでも言いますか、分かりやすい楽曲で固めたという印象を受けたんですよ。
中村達也:それはもう意図的というか、歌う人が違うというだけで大きな違いじゃないですか。アルバムを何枚も作ってると変化が必要になってきて、それを意識して作るようになるものなんですけど、歌が違う時点である程度、今までとは違う作品になることは想像できていたので、もう自分たちから出て来たものをまっすぐやりましょうと。それが『TO THE LIGHT』ですね。
YG:前作でラインナップが固まった上での活動を続けて、メンバー同士の結束を強めたことで、新作『REACH FOR THE SKY』のレコーディングにも安心して臨めたのではないでしょうか?
中村:そうですね。メンバーがこなれてきたというのもあるし、各自何をやればいいのか分かって来てますから、前作よりは遊びというか、色々やろうという余裕が出て来ていました。僕の中にあるものを一通り出した上で、それを曲にできるメンバーだとは分かっていたので。
YG:今回のアルバムはカヴァーもあって曲のヴァラエティに富んでいますけど、中村さんのお好きなブルー・マーダーに例えるなら、前作が1stの『BLUE MURDER』(’89年)だとすれば、今作は2ndの『NOTHIN’ BUT TROUBLE』(’93年)だというような関係性だと思ったんですが(笑)。
中村:ああ〜、フェイヴァリット・アルバムを1枚挙げろと言われたら『NOTHIN’ BUT TROUBLE』ですから(笑)。色々な曲がありながら、すべての曲のクオリティが高いじゃないですか。それはブラインドマンのどの作品を録る時も目標にして来ていたんですが。
YG:でもここまで色々なスタイルの曲が入るというのは、ブラインドマン史上初めてではないですか?
中村:そうですね。特にそのカヴァー(笑)。まあびっくりする人も多いんじゃないかと。
YG:そのクリスタルズの「Da Doo Ron Ron」をカヴァーすることになったきっかけというのは?
中村:まず単純に好きだからなんですけど、今回は1つの作品を作った時に、言い方は悪いですけど“休憩”というか、世界観がガラッと変わるような曲っていうのが自分に一番足りないものだと思っていたんです。“遊び”っていうのが聴く人にとって大切なんじゃないかって。そう考えると「明るく楽しい」フィーリングの曲が欲しかったんですけど、メジャーKeyでシンプルな曲を自分が作る必要があるかと自問自答すると、そういうものは世の中にもうあるじゃないかと。自分で作る意味があるとも思えないし、自分で作って良い曲になるとも思えないし。それで好きな曲を入れました。
YG:やっぱり中村さんが明るい曲を作ると、明るくてもちょっと哀愁が…。
中村:そうそう。ちょっと哀愁入っちゃうんですよ(笑)。カラっと明るい曲を書くことを拒否する自分がいるんですよね。どこかに湿った部分がないと。だから素直に好きな曲をカヴァーして。もう1つは「Blue Moon」という曲。これは完全に“変化”ですね。2カ所そういうものを入れるのは決めてました。
YG:アコースティック・バラードの「Blue Moon」もそうですけど、アルバムの中でバラードが凄く機能していると思ったんですよ。
中村:ありがとうございます。今時バラードを書き続ける珍しい人だと思うんですが(笑)、元々色々な曲を聴かせたいからバラードをやり続けているというのはあったんです。でも「Blue Moon」みたいなことをやるのは初めてですから。
YG:ブラインドマンの音楽を知っている人が「えっ?」と思うような音楽を作りたいという意識だったのでしょうか?
中村:どちらかというと「えっ?」て思える曲が作れないバンドだったと思うんですよ。そういうことをやりたいと年齢的にも思い始めたのかな。
YG:ギターが非常にいい音で録れている秘訣は何かあるのでしょうか? 低音の刻みにもキレがありますし、
中村:秘訣は…ないんですよ(笑)。今は自宅に防音室を作ったので、ギターを家で鳴らして録るようになったんですけど、マーシャルの“1912”というスピーカー一発のキャビで録っていて、これにマイクを1本立てただけ。これが当たりだったのかもしれない。
YG:雑味のない音ですよね。
中村:素直にマーシャルらしい音が録れてるし、ノンEQですし。やっぱり自分の家なのでマイクの位置なんかも詰められるし、録る段階で納得いくまでやれたので、ミックスの作業も楽でした。もう録った音のまま出していいんじゃないかっていうぐらい。
YG:「Strangers In The Night」は明るくなりきらない哀愁があって、最も典型的なブラインドマンらしいカラーと言えますね。
中村:今までのブラインドマンらしい曲っていう点では、これが一番ですね。アルバムの1曲目は安定方向で(笑)。
YG:ソロ前のクリーン・トーンのアルペジオが綺麗ですし、ソロのヴィブラートも泣きに泣いていますよね。
中村:ありがとうございます。今回のアルバムでは自分のソロを弾いて「ソロが上手く弾けたな」って初めて思えたんですよ。「Strangers In The night」のソロの入りの部分なんかも凄く好きで、いいメロディーを弾けたと満足しています。
YG:「Now Or never」はリズムが重いですよね。“戦車”というか…。
中村:そう、その感じを出したいんですよ。こういう音楽をやっている以上は激しさを出したいし、それを感じてもらいたいですよね。決してヘヴィ・メタルと呼べる音楽ではないですけど、メタルと呼ばれるバンドに負けたくはないですから。
YG:先ほども話題に上ったカヴァー「Da Doo Ron Ron」のソロは、中村さんなりのゲイリー・ムーア・リスペクトのような感じかと。
中村:メジャーKeyだけどマイナー・ペンタで弾ききるというやつですよね(笑)。こういう’60年代の曲って、ゲイリーみたいなギタリストをルーツに持ってない人だと、普通にメジャーで弾くと思うんですが、普通にドレミで弾いたりすると古さみたいなものが出ちゃうんで。
YG:「Survive」はアグレッシヴに突き抜けた速い曲です。
中村:ブラインドマン史上一番速い曲かもしれないですね。ヘヴィって言う部分でも他には負けたくないと。實成(峻)は今までこのバンドにいたドラマーの中で、一番こういう曲を叩く能力が高いタイプだし、出来るならもっと速くしてしまおうと。
YG:ソロはインプロヴァイズ中心ですか?
中村:この曲だけじゃなくて、今回はほぼそうです。でも元々ソロを頭から最後まで作曲したことはないんですよね。まとまったものになるかもしれないし、わけのわからないものになるかもしれない。やり方自体は変わってないから、昔のメジャー・デビューした頃の作品を聴くと、「こいつ、何をやりたいんだろう?」っていうソロが多いんですよ(笑)。
YG:『EVERGREEN』(’13年/リメイク・ベスト)を作った時も、そうおっしゃっていましたよね。
中村:そう、わけが分からないから『EVERGREEN』でちゃんと弾き直したんです(笑)。
YG:「The End Of My Dream」はクラシック・ロック的ですね。Rayさんの歌声もブルージーで。
中村:そうですね、’70年代ハード・ロック的なニュアンスをウチ流に。ギター・ソロはこれが一番エグいんじゃないかな?
YG:ええ。弾いている人の顔が見えるような。
中村:こういう顔ですよ(と、ヤング・ギターの表紙のゲイリー・ムーアを指差す)。これはどこまで力を込められるかなというのがポイントでしたね。「Love In The Middle Of The Night」もオーソドックスなディープ・パープル・スタイルです。Aメロのパターンも、’70年代のバンドがオルガンとギターとベースのユニゾンでやるようなイメージですよね。
YG:「Blue Moon」は…問題作と言いますか(笑)、ここまでおしゃれなアコースティック・バラードが来るとは思っていなかったもので。
中村:これは挑戦ですよね。ベーシストの戸田(達也)がいるからできるっていうのはあります。彼はKISSやシン・リジィがルーツだけど、ブルースやラテンとか、ありとあらゆる音楽をプレイしてきた人間なので。歌のバックのメインになってるのはアコースティック・ギターですけど、曲の全体をコントロールしてるのはベースですから。
YG:ボサノヴァ的なリズムで。
中村:そうですね。そういう雰囲気を出してくれと頼んだので。
YG:アコースティック・ギターの音がまた綺麗ですよね。
中村:これは苦労したんですよ。僕はエレアコを4本持っていて、自宅で録り方を色々試したんですけど、最終的にゴダンの“A6”を使って、TCエレクトロニックの“BodyRez”を通して鳴らしたテイクを採用しました。エレアコの音を生音でマイク録りしたかのようなサウンドにできるエフェクターなんですけど、色々試した中で一番良い音で録ることができたので、そのテイクを使うことにしたんです。
YG:「Roll The Dice」は最近あまり聴かれなくなったシャッフル・ビートの曲なので、ここはベテランの腕の見せ所だったのではないかと。
中村:そうですよ(笑)。實成や戸田は色々なリズムの音楽が好きだから、こういうものも行けますからね。ただ軽いファンクにはならない。ドラムが録り終わった後はベースを入れるんですが、戸田がアホみたいに(テンポの)後ろの方で重く弾くんですよ。「そんな後ろで弾くか?」って言ったら、「いや、絶対中村くんもこれぐらい後ろで弾くよ」って軽く言われましてね。それでやってみたら本当にそうだった(笑)。
YG:中村さんのビート感を把握していたんですね(笑)。
中村:そう、ちょっとディフォルメするぐらい後ろに引っ張るニュアンスで弾くと、軽いシャッフルにはならない。このバンドとしては、それが重要なのかもしれないですね。
YG:「Reach For The Sky」は鋭い刻みのリフがポイントだと思います。
中村:イントロが3弦と4弦のコード鳴らしっぱなしで、ルートがズクズク言ってるのを聴かせるためにゲインを下げてるんですよ。あまり歪ませると和音とズンズクの両方が聴こえてこない。和音が減衰して行くにしたがってズンズクが聴こえてくるっていうニュアンスを出したかったんですよ。弾くのはしんどかったけど、細かく刻んでるところをしっかり聴かせることができたので、これはポイントですね。
YG:ソロはキメのメロディーを繰り返し弾くところが、ダイナミックですね。
中村:あれは気がついたら拍も変な感じになってて困りました(笑)。デモを作ってる時にあのメロディーを弾いたんだけど、4小節分の区切りが良いところに行く前に、フレーズが終わってしまったんですよ。それで勢いあまって中途半端なところからまた同じメロディーを弾いてみたら、意外とかっこ良かったんで、これにオケのリズムも合わせたんです。
YG:あれはリズムありきではなくて、メロディーありきだったんですね。
中村:そうそう、偶然の産物。
YG:「Angel’s ladder」は、アルバム最後をバラードで締めるというのも意外だったんですが、泣きのソロが強力でした。
中村:これは5年前の自分だったら、ソロにハーモニーを付けてましたね。今はハーモニーがなくても行けるって思えることが、自分なりの成長だと思います。ハーモニーありきで弾くとかっちりしたフレーズになるんですよ。それはやりたくなかった。このソロはメロディーを弾いてるだけなんですけど、ハモりがなければ自分の弾き方に込めたものが聴いている人に伝わるんじゃないかと。ゲイリー・ムーアもハモらないじゃないですか。ゲイリーの『BALLADS & BLUES 1982-1994』(’94年)というベストに入っていた「One Day」みたいに弾きたいという思いがありましてね。
YG:確かにシンプルな分、ダイレクトに中村さんの感情が伝わって来るようなソロですよね。
中村:今回のアルバムでは「Now Or Never」のソロの最後、16分でキメをハモってる部分以外は一切被せてない。なおかつ、ちゃんとその曲に合ったメロディーが弾けたと思います。
YG:クロマティックで上昇していくところは少しジャジーな色も出たりして、中村さんとしても集大成的なソロなのではないかと。
中村:うん、アルバム全体で色々な味が出せたので満足しています。ブラインドマンにとっても凄く意味のある作品になったと思う。今の時代、こういう音楽がどれだけ受けるのかは分からないですよ。でもできるだけ多くの人に聴いてもらいたいし、それだけのアルバムが出来上がったと思います。
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