アルバム・タイトルが『HELIX』なら、“Helix”を使うしかない!
YG:一方、あなたのギター・ソロは、これまで通りコンパクトながら、より弾き込んでいるといった印象があります。以前は、「もうちょっと長めにソロを弾いて欲しい」とか「まだまだソロが続きそうなのにもう終わり?」と思うこともありましたが、『HELIX』ではどのソロも短いながらしっかり完結しているというか…。
OM:そうだな──これまでよりも計画しないでやれるようになったかもしれない。過去のアルバムでは、ソロを作るのにもっと時間を掛けていたんだ。一音々々考えて作り込むことが多かった。でも今回は、もっと気持ちをオープンにして、録音ボタンを押したら、あとは自分の頭に浮かんだモノをどんどん弾いていくだけだったよ。キミの言う通り、その場に相応しいソロが弾けたと思う。俺はいつも、曲に合うソロを心掛けてきた。ギタリストとしてだけでなく、同時にコンポーザーとしての責任もあるからね。そりゃ、自分の好きなソロをOKテイクにすることだって可能だけど(笑)、いつも「この曲にとって相応しいソロにしよう」という考えが基本にあるんだ。
YG:では、レコーディングで何回も弾き直すことはあまりなかった…?
OM:凄く少なかったよ。アルバムの半分は最初のテイクか2回目のテイクを使ったんだ。とてもスポンティニアスなソロだったね。
YG:コンパクトな中にも、テクニカルなフレーズが目立つようになった…とも思いましたが?
OM:確かにそうだね。ちょっと速く、クレイジーになっているかもしれない(笑)。でも、これみよがしにやっているワケじゃないよ。それだったら、1stアルバムを作る時にも(テクを)ひけらかすことが出来たから。そうじゃなくて、俺は感情を反映させたプレイがしたいんだ。曲の持つエネルギーに合わせ、ニルスやエリーセのヴォーカル、モルテン(ローヴェ・ソレンセン)のドラムなどに合ったプレイを…ね。ただ速弾きするだけじゃなく(…と、’19年4月号のイングヴェイ・マルムスティーンの表紙をチラっと見て)、自分の怒り(fury)を(イングヴェイの’05年作『UNLEASH THE FURY』に引っ掛けて)発散させる(unleash)。そこには色々な感情があるんだよ。
YG:数トラックを重ねたソロもありますね?
OM:メインのリードには時々ハモリがつくことがある。「Dream」とかね。この曲では、3本のギターがオクターヴ違いで同時に鳴っているんだ。でも、殆どのギター・ソロは1本だけで、(音像の)中央に置いてある。
YG:過去にもリード・ギターを3本重ねたことはありましたか?
OM:あまりないな。でも、1stアルバムでは数曲やったと思う。「Amaranthine」とかね。ギター・ソロのアプローチはアルバム毎に異なる。例えば『MASSIVE ADDICTIVE』(’14年)では、スタジオにあったストラトキャスターを使った。’72年のアメリカ製で、(またイングヴェイの表紙をチラ見して)スキャロップ加工されていたかもしれない。それを12曲あるうちの9曲で弾いたんだ。だから、その時々のインスピレーションによって変わるよ。長時間考えながらソロを作るギタリストは多い。歌詞に合うモノだとか、完璧なトーンを求めるための実験だとか。でも普段の俺は、もっとスポンティニアスなギタリストなんだ。ソロで何を弾くべきかは、曲が教えてくれる。
YG:あるYGのスタッフは、ストラトっぽい艶感とハムバッカーならではの太さを兼ね備えたあなたのギター・トーンを、“多くのギタリストが出したくても出せない極上サウンド”と絶賛していましたよ。
OM:それもインスピレーションの賜物さ。例えば、イングヴェイ・マルムスティーンやリッチー・ブラックモア、ジミ・ヘンドリックスといった、クラシックなサウンドを持つギタリスト達がいる。シングルコイル・ピックアップの特徴を活かした音だね。その一方で、スティーヴ・ヴァイやジョン・ペトルーシ、ポール・ギルバートのようなハムバッカーを主体とする人達の、クリーンで滑らかなサウンドも素晴らしい。あと俺は、20歳ぐらいの頃、エヴァーグレイというバンドをよく聴いていて、そこのギタリスト(ヘンリク・ダンハーゲ)のプレイにも魅せられたよ。そして、それぞれの中間を模索してきたんだ。
例えばイングヴェイは、すべての音をクリアに聴かせられる。それもクールだ。ただ、その曲にどんな音楽的アプローチが合っているのかを考えること──それに尽きるね。俺はカメレオンのように、曲によってギターをしょちゅう持ち替える。イングヴェイはそんなことはしない。彼はいつでも“イングヴェイの音”を出すべきだから(笑)。でも俺は、曲によって様々な役割を演じるのが好きなんだ。ガキの頃から、本当に沢山の音楽から影響を受けてきたんでね。
今日はジャクソン“Soloist Custom”を弾いたけど、これにはEMGの“X”シリーズのピックアップが載っている。大きなダイナミクスが得られて、スムーズなサウンドが出せるピックアップだ。ところがスタジオでは、ディマジオ製を使うこともあるし、シングルコイルを試すこともある。他にも様々なギターを試すよ。ノイズを抑えつつ、その曲に相応しいディストーションを選んだり…とね。でも、すべては曲次第だし、その日の気分次第でもあるのさ。
YG:『HELIX』のレコーディングでは、何本ぐらいギターを使い分けましたか?
OM:実を言うと『HELIX』では、今日も弾いた白い“Soloist Custom”をメインで使い、85%はそれで録音したんだ。このアルバムの制作に入った時、ちょうどそのギターが届いたばかりで、色々と試してみようと思ったからさ。普段の俺なら、もし使うギターが1本しかなかったら、凄く制限されているような気になる。実際スタジオには、様々なギターを5〜6本は用意しておくよ。ただ、あの時はジャクソンを大部分で使い、あとは昔から使っているキャパリソンなどを弾いたんだ。
YG:’60年代や’70年代のヴィンテージなギターは使いませんでしたか?
OM:どうだったかな…。多分、なかったと思う。それも初めてだったよ。ただ、『HELIX』はモダンな作品だから、ギターの音もモダンにしたくてね。流れるようなプレイを重視した。オルタネイト・ピッキングを多用する場合は、古いギターの方がよりフィットするけど、このアルバムではタッピングやレガートがとても多いから、ヴィンテージではちょっと合わなくて…。それで、モダンなサウンドが出せる、シュレッド系のギターにしたというワケだね。
YG:今日のライヴでは、赤いジャクソンも弾いていましたね?
OM:ああ。あれはスタンダードな“Soloist”だ。“SL3”だったかな? やはりピックアップを交換していて、EMG“81”などを搭載している。とてもタフなギターだよ。そういえば、新しいカスタム・モデルがもうすぐ出来上がってくる予定でね。アメリカで製作されていて、デザインに2ヵ月ぐらい掛かった。フレイム・メイプル・トップで、幾つかの材が重ねてあって、バインディングにも別のメイプル材が使われている。バックはマホガニー。それが、俺がこれから使っていくギターすべてのプロトタイプになるんだ。“Soloist”とはデザインが異なり、細かいディテールも違っていて、ダウン・チューニングに適し、生音の状態でも良い音がする。とても美しいギターなんだよ。
YG:今日の2本の使い分けはどのように?
OM:現在、チューニングが4種類あるんだ。赤いギターは主に昔の曲用で全弦2音下げ、白い方は2音半下げになっていて、曲によって、それぞれさらに6弦を下げ、ドロップA♯やドロップAチューニングにする。
YG:曲間でステージから消えていた時は、チューニングを変更していたんですね?
OM:うん。ショウの合間にチューニングを変えるんだ。クルーに任せているけどね。あ…あと、新作には「365」という曲があって、これは高音弦も2本ドロップしている。高い方のE弦とB弦をAとEに下げるのさ。
YG:そうやってどんどんドロップしていくと、より太い弦を張らないとダメですよね?
OM:そうだな。今回のショウでは6弦が[.064]からのゲージを使っている。これなら、2音半下げとドロップAの両方に対応出来るから。俺はかなり太めの弦で弾くのが好きなんだ。2音下げで弾く時はちょっと硬い感触になるけど、ちょっと強めに弾けばイイ。1音下げぐらいでも、充分に良い音になるしね。
YG:今日のショウでは、アンプは何を?
OM:アンプは使っていないよ。最近流行りのスタイルさ(笑)。Line 6のギター・プロセッサー、“Helix”を使ったんだ。アルバムのタイトルと同じ名前だね。実は、使い始めたのはアルバム・タイトルが決まってからで、「完璧だ! これを使うしかない!」と思ったよ。結果、凄く使い勝手が良くてさ。他のシミュレーション・アンプにありがちなレイテンシーの問題もない。“ダダッ、ダダッ…♪”というような素早い刻みでも、レスポンスが悪くなることはないし。リード・サウンドも凄く太いし、ダイレクトなサウンドが得られて、とてもウマくいってる。オールドスクールのハード・ロックやパワー・メタルを弾くならまた違うけど、モダンでリズミカルなプレイをする場合は、“Helix”がピッタリなんじゃないかな。
YG:そういえば、あなたはキーボードで曲を書くことが多いそうですが、『HELIX』にギターで書いた曲はありますか?
OM:「Inferno」は聴いての通り、ギター主体の曲だ。これは、俺が書いたギター・リフが曲の基盤となったとすぐ分かるよね。あと「Iconic」も、コード進行よりギターのリフが先だったな。ただ──そもそも、俺の作曲アプローチはまず全体のアイデアを出すところから始まるんだ。大抵は曲全体の構想を練るから、ギター・リフとかキーボード・パート、あるいは歌メロ…などを(個別に)考えるワケじゃない。あと、『HELIX』では多くの曲がそうだったんだけど、エリーセがヴォーカル・パートを考えることも多くて、その場合、基本となるコード進行が必要になる。だから俺の役目は、そこにハマるのがギターなのか、キーボードなのか、それ以外の何かなのか…を考えることではなく、適切なコード進行を見つけることが先決なのさ。
実際、最高のリフを思い付いたとしても、そこに歌メロを乗せるのはとっても難しい。まぁ、エリーセが楽器に合わせて歌い、そこからメロディーが生まれることもあるけど、その場合はキーボードを使うことが多いな。無論、例外もあるよ。このアルバムでいうと、「Dream」は最初、凄くシンプルなギター・リフしかなかった。ちょうどその時、ニルスとヘンリクが隣に座っていて、「単純過ぎるな…」と言うから、そこからアイデアを膨らませていったんだ。俺の頭の中には、もうキーボード・パートも浮かんでいたから、それも加えていってね。
YG:ところで、昨年ドラゴンランドが来日した際、あなたは不参加でしたが、まだ在籍はしているのでしょうか?
OM:関われる限りは一緒にやっているよ。でも、(アマランスとドラゴンランドの)活動時期が重なると…。(ドラゴンランドの)他のメンバー達は、俺が毎回はいなくてもショウがコナせると思ってくれている。それに、良い知らせもあるんだ。今年は(ドラゴンランドの)新作に取りかかるつもりでね。アマランスは、きっとまた(日本に)戻ってくると思うけど──今日のショウが終わったらしばらく休みに入る。だから、ようやくドラゴンランドのための時間が出来るんだよ!
YG:そちらでは長いギター・ソロを期待しています!
OM:全曲に5分のソロを入れなきゃ!(笑) 楽しみにしていてくれ!!
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