Unlucky Morpheus紫煉&仁耶、アルバム制作の極意は「プリプロで悩みを潰してから本番に臨む」

Unlucky Morpheus紫煉&仁耶、アルバム制作の極意は「プリプロで悩みを潰してから本番に臨む」

去る7月末に発売されたUnlucky Morpheusの最新アルバム『Unfinished』。極めてメロディックかつ暴虐なまでにアグレッシヴなメタル・サウンドや、ツイン・ギターのフレーズにも溢れた楽曲を、すでに堪能しているファンも多いことだろう。現在発売中のヤング・ギター9月号では、ギター・チームの紫煉と仁耶が制作背景を語るインタビューと、本人たちの実演映像連動による奏法解説記事の2本立て特集を掲載している。

インタビュー中は様々なトピックが飛び交い、2人もたっぷりと語ってくれたのだが、残念ながら誌面にすべてを収めることはできなかった。というわけで、本ウェブページにて、未掲載となっていた部分を公開とさせていただこう。新作を中心としつつ、曲作りの方法やお互いの印象などについても言及しているので、ぜひ本誌と合わせてチェックしていただきたい。

緊張感を狙ってテクニカルなフレーズを入れます

YG:Unlucky Morpheusの楽曲は紫煉さんが総じて手がけていますが、作曲から完成までの流れはどんな感じなのでしょうか?

紫煉:最初に僕が、「ほぼこの通りに演奏してね」というデモ音源をフル尺で作ります。歌メロも作りますし、ヴァイオリンなんかは譜面も作ったりして。それをあらかじめ皆に渡して、スタジオのリハーサルではそのデモの通りに合わせて…この時に調節もするにはするんですが、デモの段階で完成系は結構見えている状態です。

YG:では、仁耶さんなどメンバーからのインプットはほとんどないのでしょうか?

仁耶:ギターに関しては、紫煉さんがギタリストなので、デモの時点でかなり完成系に近くなっています。ただ、例えばドラム・パートは紫煉さんが余白を作っておいて、専門家であるFUMIYAが自分のプレイを入れていくという感じですかね。なので、僕はあんまり…といってもネガティヴなニュアンスじゃないんですけど(笑)、言うことはないですね。細かいニュアンスを調節するだけ、みたいな。

紫煉:ミュートのかけ具合といったところには仁耶なりのプレイが出るので、僕の方が“それは曲に合ってないな”と思ったら、「こういう風にして」と言います。基本的には仁耶は、曲自体は変えず、その中で自分の思ったようにプレイするので、それが良ければそのままです。

仁耶:ここ数年、デモ音源のギター・パートは打ち込みで作ってもらってるんです。昔は紫煉さんが弾いたものが送られてきていたんですが、やっぱりそれだと紫煉さんのニュアンスを真似する、みたいな形になってしまって。打ち込みだと抑揚がなくなって平たくなるので、それを自分の中でどういう風に表現するといいか…ミュートのかけ具合、音の伸ばし、ヴィブラート…といったことに対してイメージしていき、「これでどうですか?」という形をリハーサルで見せる、という感じです。

YG:打ち込みになったことで、よりイメージが描けるようになったということですか?

仁耶:そうですね。ある意味自由度は上がりました。それが自分にとっての余白。フレーズの音運び自体には余白がないんですけど、細かいニュアンスについては結構余白をもらって、自由にやっているという感じですね。

YG:あんきもはギターをはじめヴァイオリンなどリード楽器の見せ場が豊富ですが、ソロでなくとも常に耳を惹き付けられるという意味で、楽曲としての完成度の高さを『Unfinished』では特に感じました。

紫煉:メタルだからもちろん、ギターが比較的前に出る音楽なのは間違いないんですけど、全部のパートにおいて、ここは誰が出てる、誰が引いてる…というコントラストをつけよう、という意識はしています。ギター・パートだって、難しいところは難しい。でも、全部ずっと難しいと、だんだんアルバムを聴いているうちに慣れてきちゃって、本来のスピードがもたらすはずのスピード感を感じなくなってきますよね。テクニカルなフレーズをなぜやるのかというと、やっぱりスピード感とか、それに伴う緊張感とかを聴かせるためにやるわけじゃないですか。テクニカルなことができるぞ!っていうのを見せるためじゃなくて。なので、「緊張感を高めたいからここなんだ」っていうところに入れて、その効果をちゃんと感じてもらうためには、引くところは引いた方がいい。そういうところを、最近特に意識してやっています。昔は“迷ったら難しい方!”でしたが(笑)。だから今回、アルバム全体的に難しいパートは少ないですね。

本番はそれまでしてきた練習の成果を出す場所

YG:かつて、’90年代までのスタジオ・アルバム制作には、本番レコーディングの前段階として、収録予定の楽曲を仮レコーディングするというプリ・プロダクションの過程が必ずといっていいほど組み込まれていましたが、宅録が普及した現在の音楽シーンでは省略されがちな傾向にあります。本作で、あんきもはプリプロを行なわれたそうですが、どんなきっかけで、どういうメリットがありましたか?

紫煉:『瀧夜叉姫』(2020年)からやっている試みなんですが、確かに最近のバンドでプリプロをやる人って、あまりいないかなと思うんですよね。デモをパソコン上で作って、そのまま本番を録る方が多いんじゃないかな。僕たちは、先述したデモを作った後にリハでみんなで合わせ、全パートを仮レコーディングしました。歌は録ったり録らなかったり…でしたが、あらかじめ録ってみることでそれぞれのニュアンスなどが分かって、「本番録りではこうした方がいいかもね」というところが見えてきたりします。おかげで実際のレコーディングに入るまでに、できる限りの準備を整えることができました。ギタリストで自分のバンドをやってて、レコーディングもしてるっていう人はぜひやってみてほしいですね。機材やセッティングは簡単なものでいいんです。プリプロを経ることで、作品の説得力みたいなものが1段階増すんじゃないでしょうか。

仁耶:もともとは、ここ数年制作に関わってくださっているスタジオ“Studio Prisoner”のエンジニアのHiroさんから推奨されたんです。本番の段階になって、「ここのフレーズどうだっけ?」とか、「こうした方がいいんじゃないか?」ということが出てきてしまうと、どうしてもレコーディングに集中できなくなります。本番はそれまでしてきた練習の成果を出す場所であって、その前段階として仮のレコーディング…いわゆるプリプロというもので悩みをすべて潰してから本番に臨む。その意味で、プリプロは非常に重要だと思いましたし、『瀧夜叉姫』『Unfinished』ではその効果が出てるんじゃないかなと思います。

紫煉:プリプロをやってても、本番中に「やっぱりこっちの方がいいかな?」ってのは出てきたりします。それがなければ(後になって)もっともっと出てきちゃう。

YG:具体的にどんなプロセスだったか、教えてもらえますか?

仁耶:あんきもの中では、僕がプリプロ・レコーディング担当大臣なんです。ドラムもベースもギターも全部、ノート・パソコン持参で各メンバーのところに赴いて、録った音源をまとめます。これをデモと言っていいのかな…? 整理すると、まず紫煉さんが作る打ち込みのデモがあって、それをもとにみんなで練習して、仮のレコーディング…プリプロをして、できた音源をHiroさんのところに「今回はこういう感じの曲を作ります」と送って、本番のレコーディングに入る…というプロセスをとっています。

YG:仁耶さんは、他のバンドのミックスも手がけられていますよね。

仁耶:ちょいちょいですけど(笑)、レコーディングは得意分野なので。ただ、あんきもの本番テイクではギターを弾くことに集中したいですし、後をHiroさんにお願いしているというのもあって分業にしています。

音色を揃えるために同じギターでソロを弾いたけど…

YG:さて、バンドのYouTubeチャンネルでは、メンバーが様々な質問に答える“一問一答”という動画シリーズを展開していましたが、その中で各メンバーがお互いの印象について語るトピックにおいて、紫煉さんは仁耶さんを「血のつながらない息子のような存在」と、仁耶さんは紫煉さんに対して「頼れるリーダー」という風に話されていました。では、ギタリストとしてのお互いに、それぞれどんな印象を持っていますか? 

紫煉:仁耶君は潔癖というか、僕からすると変わったところにこだわってんな、と。

仁耶:ハハハ(笑)。

紫煉:例えば机に置いた物の位置が1mm動いていると、嫌がる人…みたいな、そういう感じのギターな気がします。グリッドからちょっとズレてるのがやだ、みたいな(笑)。

仁耶:あるべきものがあるべきところにないと嫌、みたいなイメージですかね。わかるー(笑)。

紫煉:相対的価値観をとるギタリスト、という風に思ってますね。結構、現代のギタリストってこういう感じなのかな?とか。別に、僕も歳がいってるわけじゃないけど(笑)。機材関連には凄く詳しいですね。僕は機材に対する興味がかなり薄くて、仁耶がいろいろ教えてくれるので助かります(笑)。

仁耶:紫煉さんは、何を弾いてもオリジナリティと存在感を感じさせるサウンドを持っていますね。出会った時はやっぱりハイテク・ギタリストという…凄く速く弾けるギタリストというイメージが強かったんですけど、ずっと一緒にやっていく中で、ロング・トーンなどのフレーズにも不思議な説得力を持っていることがわかりました。これは喩えとして正しいか分からないですけど…イングヴェイ・マルムスティーンはその高速プレイで高い評価を集めていますが、実はヴィブラートとかロング・トーンにこそ凄い説得力があるんですよ。それと似たニュアンスを感じています。だから、自分にないものを持っているというか、誰が聴いても分かるようなオリジナリティのあるトーンを持っていると思います。…なので、手を傷めたことがありましたけど、それでも大丈夫(笑)。「これはこれ」「それはそれ」みたいな感じで、次の一手を見つけていける。

紫煉:(笑) 僕等だけじゃなくて、全ギタリストがそうだと思いますが、出音にはそれぞれ個性がありますよね。だから面白いです。それこそ、機材を交換しても自分の音が出るってよく言いますけど、『Unfinished』でも「音色を揃えるために同じギターでソロを弾こうか」となったけど、結局出てくるものはちょっと違ったりして。もちろん、2人で弾いているからそれで良いんですけど、レコーディング中に改めてそれを感じて、面白いなーと思いました。

仁耶:曲のギター・ソロが、前半がメロディー重視で後半が速弾き…みたいになっているパターンは多いですけど、そういうところでキャラクターの違いも出ていたりして。実際そういう風に弾き分けることもありました。例えば、メロディー部分は紫煉さんが弾いて、その後の速い所は自分が弾いて。それぞれの特徴が出ていますね。アーチ・エネミーのアモット兄弟みたいなニュアンスというか。

YG:ますます良いコンビネーションになっているということですね。

仁耶:まあ、10年やっていたら嫌でも良くなりますよ(笑)。嫌じゃないけど。

YG:お2人の息の合ったプレイをライヴでも体験したいところですが、最近は色々困難な状況でもあります。今後の予定はいかがですか? 

紫煉:この『Unfinished』と『瀧夜叉姫』を引っさげて、基本的には全国ツアーをやりたいと思っています(編注:この取材が行なわれたのは7月。後日、キャンセルが発表された)。やれるならやるし、ダメだったら新曲をレコーディングしようかな。実は、もう次のアルバムが録れるんじゃないか?というぐらいに曲が出来まくってて。今月レコーディングを3曲始めたんですけど、まださらにストックがあるんです。もし万が一、この事態が長続きするようなら、レコーディングに徹しようかなと。表に出られなくてもやることはいくらでもあるので、今自分たちのできることをしっかりやっていこうと思ってます。

YG:ちなみに最近のライヴでは、LedaさんやRAMIさんといった、以前はやってこなかったようなフィールドでの対バンのイベントが実現していますよね。延期になってしまった日程もありますが…どんな思惑があったのでしょう?

紫煉:どっちも、先方から「一緒にやらない?」と声をかけていただいたんです。Leda君なんかは、今まで一緒に対バンしてなかったものの、みんな観たかった組み合わせだと思うんですよね。むしろ“お待たせしました”ぐらいの感じです。

仁耶:ギター好きな人にとっては、たまらないと思いますね。

紫煉:今まではワンマン中心でやってきたんですけど、対バンも楽しいですね。そっちの方が、自分たちの準備が大変だったりするんですけど…当日ドタバタしたりして。でも、自分たちのライヴをより多くの人に観てもらえるきっかけが増えるので、両方やっていかなきゃな、という風には考えています。ワンマンが好きなので、今後もワンマンをメインにしていくと思いますが、楽しそうな企画があれば、なるべく対バンのイベントはやらせていただきたいですね。

YG:去年ロンドンで開催された、出演アーティストがすべて日本のバンドというイベント”Metal Matsuri”に出演したのも、似たようなきっかけですか? 

紫煉:あちらでイベントを企画してる方から声をかけられたんです。最近特に、凄く似てるジャンルだけで固まっているのも良くないんじゃないかな…と思っていて。他の方の感覚は分かりませんが、音楽シーンの中でジャンル同士の壁が少しなくなってきたというか、ごちゃ混ぜ感が出てきたという気がします。先陣切ってその雰囲気を作ってくれたバンドは凄いですね。僕等はワンマンばっかりやってたんで(笑)。でも、これに乗じて…というか、いろんなタイプのバンドとやっていきたいなと思います。

YG:ゆくゆくは、例えばラウドネスのようなバンドともやってみたいと思いますか?

紫煉:ラウドネスと対バンかあ、超やりたい(笑)。高崎 晃さんは凄すぎるギタリストですよね。高崎 晃さんは半端なく上手いですよね。すごく昔に、あんきも以外のバンドでLAZYと対バンのイベントに出演したことがあって。その時、ステージ裏で練習されているところをお見かけしました。ステージでは爆発力が“高崎 晃の魅力”という風に思いますけど、その時のプレイは異様に繊細で、「マジかー!」と。こんなこと言っていいのかな? でも、それに凄く驚いたんです。本番を袖から観ると、やっぱりステージ上では爆発されてましたね。実現したらいいなあ(笑)。

Unlucky Morpheus - off

INFO

Unlucky Morpheus - Unfinished
『Unfinished』
Unlucky Morpheus

CD | Unlucky Morpheus | 2020年7月29日発売

Unlucky Morpheus - 瀧夜叉姫
『瀧夜叉姫』
Unlucky Morpheus

CD | Unlucky Morpheus | 2020年4月29日発売