島 紀史 CONCERTO MOON『WAITING FOR YOU』本誌インタビュー続編

島 紀史 CONCERTO MOON『WAITING FOR YOU』本誌インタビュー続編

‘20年末に発表したフル・アルバム『RAIN FIRE』収録曲の別ヴァージョンや、過去曲のリメイク、そして新曲で構成されたEP『WAITING FOR YOU』をリリースしたコンチェルト・ムーン。ヤング・ギター’21年7月号に掲載した島 紀史(g)のインタビュー前編では、その制作の経緯や、主に新曲の内容について語っているのだが、ここではその続きとなる後編をお届けする。1つ1つのプレイに強固なこだわりを見せる妥協なきファイター:島の熱い言葉が満載だ。

いつだってチャレンジを恐れてはいけない

YG:前回のインタビュー(ヤング・ギター’21年1月号に掲載)で、「Waiting For You」はエンディングのギター・ソロが途中でフェイド・アウトしてしまうので、これをフル収録したエクステンディド・ヴァージョンを世に出したいというお話がありました。今回収録されているのがそのヴァージョンですが、その名の通りにエクステンドされていますね、40秒も…(笑)。

島 紀史:そう、「終わらないなあ〜」って思うでしょ(笑)。

YG:ソロの最後にペダルを踏んだダイナミックな音で終わりますよね。そこがライヴ感を醸し出していると思います。 

島:このソロはインプロヴァイズだから…突然、MXRの“Phase 90”を踏みたくなったんですよ。こういう突発的なことがあるから、フェイザーはつないでおかないとダメ(笑)。他の曲でも、何年も使っていなかったワウ・ペダルを踏んだんですけど(註:インタビュー前編を参照)、今は踏みたくて仕方がないので困ってる(笑)。「Angel Of Chaos」でインプロヴァイズしてる最中にガーン!と踏み込んで、「今のソロは良かったろ!」ってエンジニアに言ったら、ずっとアンプからガー!っていうノイズが出ていたんですよ。何かと思ったら、踏み込んだ時にダメージを負ったのか、ワウがご臨終していた(笑)。そのテイクは本当に気に入ったからやり直さずに済んだけど、「ここからだけ弾き直したいな」なんていうテイクだとしたら、もうワウがご臨終したから何とも出来なかった。

YG:ワウが亡くなる前に最後の輝きを見せたんですね(笑)。

島:そう、あのソロの後半には、僕のVOXワウの最後の叫び声が収録されているということ(笑)。しかも今回のレコーディング中に、マーシャル“Major”も壊れたんです。2台あるうちのメインの方、No.2が。真空管も抵抗の部分も死んでいて。だからリメイクの3曲は、No.1の方で弾いたんです。でもNo.1もその後メンテに出したら壊れる寸前だった。ツアーが始まる前に全部直せて良かったですよ。まあ、そりゃあ壊れるって…(笑)。

YG:確かに、あの爆音で長年やってきたわけで…(笑)。

島:そう。だから今回機材が生き返って、今やっているツアーに向けてのリハーサルでは、コンディションが良くなっているんです。機材が壊れるタイミングってあるんですよね。なぜか知らないけど足並み揃えて壊れていくから。

YG:家電と同じですね(笑)。

島:「あいつも壊れたし、俺もいっとこうか」みたいな気分になるのかな?(笑)

 

YG:さて、3曲のリメイク・ヴァージョンに関してですが、まず「Angel Of Chaos」と「Black Flame」は、ソロをアドリブで弾きつつもオリジナル・テイクのラインをある程度踏襲していますよね。

島:前に『OUROBOROS』(’19年/リメイク・ベスト)を作った時も言わせてもらったかもしれないけど、必要以上に変えることが目的になってしまうと、「変えてるだけやん」みたいなギターになってしまうから。やっぱり良いところは残しつつ、新たな気持ちでインプロヴァイズしてみる。すると「ここはやっぱり、気持ち的に元の通りのフレーズを弾きたくなるよな」っていうところが出て来るんですよ。そこは素直にその通りやる。ただ(もう1曲のリメイク・ヴァージョンである)「Stay In My Heart」に関しては、今の自分が芳賀(亘)のヴォーカルを受けて、メロディックなニュアンスでギターを弾くとなれば、以前のヴァージョンとは全く違うものになるだろうなという予感があったんです。これも1テイクしか弾いてない。いや、導入部分のメロディーはハーモニーにしたいから、ここだけもう1回ちゃんとハーモニーを弾くように弾き直そうとは思ったけど。その他の部分は、エンド・ソロも1回しか弾いてないし。

YG:「Stay In My Heart」は、元のヴァージョンはソロに中近東っぽいフレーズがあったと思うのですが、今回はそれがちょっと薄まっていますね。

島:やっぱり芳賀の歌を受けてなんですよ。ヴォーカルの入ったパートの後にリード・パートになって、それからまた歌に戻るわけじゃないですか。そうなったら、ちゃんと曲のドラマに合うようなものを弾かなきゃいけない。芳賀の歌を受けるとなったら中近東風に弾くのは違う気がした。逆に元のヴァージョンで自分のギター・プレイを聴いたら、「なぜこれだったんだ?」って思ったし。

YG:オリジナルが入っている『SAVIOR NEVER CRY』を発表した時のインタビューで(ヤング・ギター’11年10月号掲載)、「中近東っぽい」という話をしたな…というのを思い出しました。

島:そこはもはや自分の芸風のようになっていますからね。それはリッチー・ブラックモアから大いにインスピレーションを受けた部分ですけど、今回のヴァージョンでは違った形でリッチーからのインスピレーションが形になったんじゃないかな。それこそ、リッチーはジョー・リン・ターナー時代のレインボーで、シンプルだけど心に残るようなギター・プレイを実践していたじゃないですか。そういうイメージはあったかもしれないですね。

YG:このエンド・ソロも、言うなればムードは“ブラックモア的哀愁”なんですよね。オリジナルと比べてもその要素がさらに強く出たという印象がありましたが…。

島:ありがとう。これ絶対に載せてね。

YG:いや、カットしましょう(笑)。

島:せっかく褒めてくれたのに。リーダーってあんまり褒められないんだから(笑)。

YG:(同席していた芳賀に)この機会に褒めておいた方がいいのでは?

芳賀 亘:僕、割と褒めてるつもりなんですけどね(笑)。

島:いや、もっと褒めてくれよ(笑)。

YG:「Black Flame」は、曲全体の印象が本当に変わりましたね。(オリジナル・ヴァージョンを歌っていた)久世(敦史)さんと芳賀さんはそもそも声質が全然違うわけですが、こうもイメージが変わるんだなと。

島:勿論、久世の歌は素晴らしかったし、何の不満もなかったんですけど、芳賀の声質って曲のメロディーをこんなに伝えてくれるんだと驚いたんですよ。「この曲ってこんなにメロディックだったんだ」っていう風に思ってもらえるんじゃないかなと。

YG:オリジナルが発表された時は、複雑でダークな曲というイメージが強かったんですよね。

島:当時は、そうしようとしていたかもね。今回のヴァージョンでは、もっとキャッチーな曲としての表現が強まっているんじゃないかなと思います。もちろんヘヴィではあるけれど。

YG:それを思えば「Anegl Of Chaos」が発表された当時、「ごっつい曲ができたなあ」と感じたんです。今も十分ごっついですけど(笑)、メロディーが際立つようになったと思います。

島:そう、メロディックになったよね。ただ、ちょっと前の芳賀だったらこんなにカッコよく歌えてないんじゃないかなって思うぐらい、彼のすごい成長ぶりが見えますよ。

YG:確かに『OUROBOROS』の頃と比べても全然違いますよね。

島:こんなこと言うのもなんだけど、『OUROBOROS』の頃に比べたらもう、全くの別人ですよ。多分、姿だけ同じで違う人間に変わってるんだと思う(笑)。

YG:2代目ですか(笑)。でも本当にこうやってリメイクをすることで、また今のコンチェルト・ムーンの姿が見えてきたように思います。

島:単純に曲数を増やすためにリメイクをするようなのは嫌だし、今やる意味のある曲を、メンバーの意見を聞きながら決めましたしね。作品として芳賀のヴァージョンを残す意味があるものを。それに1つの作品の流れを重視したら、「Stay In My Heart」が4曲目に必要だし、最後には非常に切なさが増した「Waiting For You」が長いギター・ソロと共に終わっていくっていうのが自分的には非常にドラマティックだし。EPのアタマには新たな代表曲になるような「Find My Way」があって、今の自分が弾くギター・スタイルというものを追究した「Flaming Thunder God」が入っているのも大事だし(註:新曲に関してはインタビュー前編を参照)。

YG:ところで以前、『LIVE AND RARE』(’14年)を出した時のインタビュー(ヤング・ギター’14年5月号掲載)で、「1曲だけライヴ・テイクが入っている来日記念盤シングルだとか、ちょっとボーナス的にリリースされるEPが好きだった」というお話を島さんとしたことがあるんですよね。ある意味『WAITING FOR YOU』にもそういったボーナス的な性格がありますが、島さん的に印象に残っている好きなアーティストのEPやシングル盤というとどれでしょうか? 

島:ゲイリー・ムーアの「Wild Frontier」と、「Over The Hills And Far Away」のシングル(’87年)…両方ともアルバムとはギターのテイクが違うヴァージョンが入ってるやつですね。今そのヴァージョンはアルバムに入ってるんだけど、最初はEPだけだったから、めちゃくちゃ聴いた。レインボーもそう。僕がリアルタイムだったのは『BENT OUT OF SHAPE』(’83年)の時で、「Can’t Let You Go」の12インチ・シングルにカーディフ公演のライヴ・テイクが2曲入っていたんです。「All Night Long」と「Stranded」。その「All Night Long」は観客を散々煽った後に、リッチーのタウラスに合わせてジョーが切々と歌うメロディーが、「それだけを曲にしてくれ」って言いたくなるぐらいカッコよくて。

ジョーと言えば、彼がディープ・パープルに入って『SLAVES AND MASTERS』(’90年)を作った時、「Love Conquers All」の12インチ・シングルが出たんですよ。そこに入っていた「Slow Down Sister」が、もう「アルバムに入れてくれよ!」っていうくらいカッコよかった! それとやっぱりイングヴェイ・マルムスティーン。『MARCHING OUT』(’85年)の頃、「I Am A Viking」の12インチ・シングルが出てね。それのB面に「Far Beyond The Sun」のライヴ・テイクが入っていたんです。そのライヴとジャケットの写真が子供心にカッコよくて、「イングヴェイ・マルムスティーンってカッコいい!」って思ってたなあ。あとディオも、12インチ・シングルとかにライヴが何曲か入っていたりするんですよ。

YG:昔のシングルには小出しのライヴ・テイクがよく入っていましたよね。

島:そう、「小出しにしないでアルバムにまとめてくれよ」と思ってた(笑)。あとさっきも出たディープ・パープルだけど、『NEW LIVE & RARE』(’80年/同名の8曲入りレア・トラック集ではなく、3連作でリリースされたEP盤シリーズ)というのがあったでしょう。廃盤になったシングルに入っていた貴重なテイクが聴けたりして。そういうものを自分のバンドで、『WAITING FOR YOU』として作れたことが、ちょっと嬉しいんですよね。『RAIN FIRE』発表後のライヴに伴う来日記念盤みたいな…ずっと日本にいるから来日でも何でもないんですけど(笑)。『RAIN FIRE』をフォロー・アップする意味合いで作り始めたけど、結果的に1つの作品としての完成度を高められたので良かったですね。

YG:さて、6月からはコロナ禍によって開催を控えていたツアーがいよいよ始まるわけですが…? 

島:この御時世だから、開催できるかできないかがギリギリにならないと分からなかったり、恐る恐るな部分も勿論あるんですよ。でも出来る限りの準備をして、ルールに則って、最高に楽しんでもらえるようなライヴにしたいですね。

YG:アルバムとEPの新曲も増えましたし、演目も新鮮なものになりそうですね。

島:そう、非常にフレッシュなセットリストになっていますよ。『RAIN FIRE』から選んだものや、『WAITING FOR YOU』の曲も加わって、それこそ芳賀を擁するコンチェルト・ムーンのスタートになるようなセットリストが組めているので。まあ色々と不安やストレスに感じることも多いけど、やれることを1つずつやっていくしかないですよね。それもまたチャレンジだし、いつだってチャレンジを恐れてはいけない。そういう環境下でも「良いバンドだな」「観て良かった」と思ってもらえるようなライヴにしたいですよ。

CONCERTO MOON
CONCERTO MOON [L. to R. ]三宅 亮(key)、中易繁治(b)、芳賀 亘(vo)、島 紀史(g)、河塚篤史(dr)

INFO

CONCERTO MOON - WAITING FOR YOU

『WAITING FOR YOU』/CONCERTO MOON
2021年発表

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公式ウェブ
CONCERTO MOON

CONCERTO MOON Twitter
@concerto_moon