3月23日に発売される故レスリー・ウェストへのトリビュート・アルバム『LEGACY : A TRIBUTE TO LESLIE WEST』に参加した強力なギタリスト勢の中からYGが特に注目した4人が、レスリーに対する想いを語ってくれた。ヤング・ギター4月号のレスリー特集に掲載しきれなかったコメントをウェブで全文公開!
INFO
LEGACY : A TRIBUTE TO LESLIE WEST / V.A.
CD|ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
2022年3月23日 日本先行発売
イングヴェイ・マルムスティーン参加曲
「Long Red」
“P-90”であんな凄い音が出せるヤツを、俺は他に知らないよ!
YG:では、レスリー・ウェストのトリビュート作について話をお聞きしたいのですが…。
イングヴェイ・マルムスティーン(以下YM):彼はまさに天性の才能を持っていて、弾く音に才能が、音楽が溢れていたんだ。素晴らしかったよ。リッチー・ブラックモアも彼に大きな影響を受けていたと思うね。スタッカートの弾き方を聴けば、まるでそっくりだ。本当に凄いギタリストだった。アンガス・ヤングもその1人だけど、音に重みを持たせることができる本物のギタリストなんてほんの一握りしかいない。フレーズを通して何かの意味を伝えることができるのはね。誰かのことを悪く言いたくはないけど、持ちネタのラン・フレーズみたいなものを弾くだけのギタリストって、平坦に聴こえるんだよ。何もない。でもレスリーの音は違う! 何かを伝えようとしているんだ。ジミ・ヘンドリックスが「Voodoo Child(Slight Return)」でやっているベンドを聴いたことがあるだろ? あれこそが本物の音であり、真の才能だ。レスリーはそれに匹敵する本物のギタリストだったね。それにシンガーとしても素晴らしい。
これは話しておきたいんだが…レスリーとは友達だったんだ。俺が’80年代後半ぐらいにニューヨークにいた頃、いつも一緒に過ごしていた。一緒にプレイもしたよ。
YG:レスリーとジャムったことがあるんですか?
YM:たくさんね! 実は面白い話があるんだ。’84年ぐらいだったか、当時の彼はちょっと体調がすぐれない時期だったのかな…。NAMMショウかフランクフルトの“Musikmesse”か忘れたけど、俺とレスリーとビリー・シーンで、小さなブースで演奏したんだ。狭い場所だったから、観客もちょっとしかいなくてね。俺とビリーは色々弾きまくっていたんだけど、「レスリーが仲間はずれの気分になっていたら嫌だなあ」と思って、「Purple Haze」を弾き始めた。きっと彼なら知ってるはずだから、一緒にプレイできると思ってね。ところが、彼は知らなかった。それで怒りのあまり自分のギターを壊し始めた。狭いブースの中でね。もう、ギターが粉々になってしまったよ。
YG:ええっ!
YM:みんなは「いいね!」と騒いでいたけど、レスリーは怒ってたな。「このハナタレ小僧が、俺に何を見せつけようとしてるんだ」とね(笑)。その後に彼と仲良くなったけど、問題なんか起きなかった。レスリーは素晴らしい人だったよ。
YG:良い関係になれたんですね。マウンテン、ウェスト・ブルース&レイング、もしくはレスリーのソロ・バンドをライヴで観たことはありますか?
YM:うーん、ちゃんと観たことはないな…。一緒にちょっとやったりしただけだ。
YG:では、今回のトリビュート・アルバムに声がかかった経緯を教えてもらえますか?
YM:うーん…あれ、はっきり憶えてないぞ(笑)。数ヵ月前のことだから。話があった時に、「もちろんだ、絶対にやるぜ」と言ったのは確かだ。ノーなんて言うわけがない。彼のことが好きだから、悩むこともないよ。
YG:「Long Red」を選んだのは、イングヴェイ自身ですか?
YM:いや、レーベル側が俺のために選んでくれた。「やりたい曲は?」と訊かれて「ないよ、何でもいいから送ってきてくれ」と答えたら、あれが送られてきた。ボビー・ロンディネリもドラムを叩いているよ。
YG:原曲との違いは…あなたがとにかく弾きまくっていて、びっくりしましたよ(笑)。
YM:ハハハ!(笑) 俺もあんなプレイは聴いたことがなかったね。ただ俺が普段やるようなプレイじゃないんだ。Keyはメジャーなんだけど、マイナー7thの音が使われる。通常、マイナーならマイナー、メジャーならメジャーのどっちかにするからね。でも例えば、Key=AでG音を弾くと、それがとてもクールなテンション音になる。そういうことをやってるよ。
YG:ところで、レスリーのサウンドに対してはどんな印象がありますか?
YM:彼の使うギター(レスポール・ジュニアのピックアップ)は“P-90”だろ!? “P-90”であんな凄い音が出せるヤツを、俺は他に知らないよ! 手に秘密があったんだろう。レスポール・ジュニアってのは、いわば安価なギターだ。それをあんなに素晴らしい楽器にしてしまう。俺も随分昔にダブル・カッタウェイのレスポール・ジュニアを持っていたが、俺にとっては全然使い道がなくて、あの手のピックアップが好きになれなかったんだ。
そうそう、俺が10歳ぐらいの頃に、スウェーデンにある大きな楽器店によく行っていた。高価で買えないギターを眺めては夢を描いていたんだけど(笑)、そこの店員に、1日中マウンテンの話しかしない人がいたんだよ。あの頃はまだマウンテンは新しいバンドなんだという認識だったね。彼が言うことには、レスリーはフライングVに“P-90”を載っけてたらしい。’70年代の話だし、俺もガキだったから、本当のところはわからないんだけど(笑)。その後ニューヨークへ引っ越した頃、大のレスリー・ウェスト・ファンだというヤツに会ったんだけど、その彼も(スウェーデンの店員と)同じようなことを言っていたよ。まあ、そこは君たちの方が詳しいだろう。そうやって本物の音を出し、本物のプレイをしていたレスリーというのは…文字通り巨人だったよ!(笑) だからトリビュート・アルバムに声がかかった時、「もちろんだ、やるよ。テープを送ってこい」と言ったんだ。