ヤング・ギター7月号の大特集『ブルースを弾き倒せ!!』では、計5人のギタリストが「俺にブルースを弾かせろ!!」と題してデモンストレーションを披露してくれている。その中で日本代表として登場していただいたのが、コンチェルト・ムーンの島 紀史。デモンストレーション当日は彼にブルースについて語るインタビューを行なう予定だったのだが、そのタイミングでたまたま全く関係のない連絡を担当編集に送ってきたのが、I Don’t Like Mondays.のChojiだった。実はこの2人、何の接点もないように思えるが、以前ヤング・ギターの取材時にゲイリー・ムーアについて仕事を忘れて話し込んだことがあるという点が共通。共に独自の観点でブルースを語れるプレイヤーであり、思い切って2人揃って語ってもらったらいいんじゃないかと、担当者の悪魔のひらめきによって対談形式での取材が敢行されたのである。結果、その場にいる全員が熱くなってしまい、以下の対談本編の軽く3倍は無軌道に喋りまくっていたのであった(笑)。
ギターをやっていなければブルースを聴くきっかけは…
YG:ぶっちゃけ、お2人ともブルースという音楽に対してはどういうイメージを持っていますか?
島 紀史:それはやっぱり、黒人がフィーリングを表現するために生み出された音楽というものですよね。ロックンロールのルーツなのだというぐらいの認識でしたよ、最初は。自分が好きな音楽のルーツ。
Choji:僕にとってのブルースも、好きなアーティストを聴いていたら、たまたまそのルーツだったという感じですね。
島:本当にそのぐらい。ロバート・ジョンソンのようなアーティストを掘り下げなければその世界を理解することはできないのかもしれないけど、そこまでドップリ浸かることはなかったんです。自分の好きなリッチー・ブラックモアがやっている音楽の中にそういう要素を感じるという…僕はロック・ギターだけを突き詰めてやってきたわけですから、そういう自分なりに考えるブルージーなギターというものが出てくる、という程度ですね。
Choji:島さんのおっしゃることと似てるんですけど、リッチーやジミー・ペイジみたいな先人のプレイが好きでコピーしていて、それが体の中に入ってくると、初めてブルース的なものが分かってくると。
YG:「これはブルースなんじゃないか?」と気づくわけですね。
Choji:だから僕もギターをやっていなければ、普段から好きで聴くきっかけは生まれなかったでしょうね。もちろん今は好きで聴くブルースもあるんですけど、そこまで積極的には…。
島:そうそう。だから「俺はブルースを弾ける」なんて言うのは憚られるんですよ(笑)。わけ知り顔でホワイト・ブルースがどうしたとか語ることはできないし。
YG:もしかしたら、「こんなのブルースじゃない」といううるさ方のマニアに対する反発の気持ちもあるのかもしれませんね。
島:まあ、「こんなのブルースじゃない」って言いたくなる気持ちも分かるんですよ。「じゃない」っていうのは弾いてる本人が一番分かってるから(笑)。本当にブルースを突き詰めていけば、自分で歌うということも必要になって、歌詞も含めて、言葉とギターがあってこそブルースということになるだろうし。ただ自分が影響を受けたリッチーにしても、フランク・マリノにしても、大元にはブルースがある。僕が弾いているのはそういうギターですし、これが自分なんですよと言うしかない。
YG:「ブルースは基本だから聴け!」と言われても、速弾きテクニカル・ギターを目指す人からすると、地味だからなかなか聴く気が起きないということもあるかもしれませんね。
Choji:リッチーたちの世代にしてみたら、まだハード・ロックなんかない時代にブルースを発展させて自分の音楽を作るしかなかったんですよね。僕らの世代になると、もうハード・ロックはもちろん、スラッシュ・メタルだって何だってあるわけじゃないですか。選択肢が多い中で、シンプルで素朴なブルースを聴きたい!とはなりにくいかもしれませんね。
島:ただ、好きでもないものを勉強のために無理に聴く必要もないと思うんですよ。好きなギタリストを掘り下げたらブルースがあった、というぐらいでいい。僕にしてみたらリッチーが好きだと言わなければジミ・ヘンドリックスを聴くことはなかったと思うし、子供の頃にジミを聴いても魅力が分からなかった。色々な経験を積んでから聴いてみて、「ジミ・ヘンドリックス、凄いな!」となれば好きで聴くようになる。そういうノリでいいんじゃないかな。
Choji:僕もそうなんですよね。興味が出たら聴くという感じで。それが1周か2周かしているうちに、だんだん魅力が分かるようになってきた。
島:興味が出たらデルタ・ブルースの時代まで遡って聴くのもいいだろうし。僕はハード・ロッキン・ブルースが好きで聴いているし、好きなら聴けばいいじゃない。僕はスティーヴィー・レイ・ヴォーンが本当にかっこいいと思って聴いているけど、全ギタリストがレイ・ヴォーンを聴かなければいけないわけではないし、ブルースを知るならレイ・ヴォーンを通らなければいけないわけでもない。僕も1980年代末のブルース・ブームをリアルタイムで知っていて、ロバート・クレイの登場とかを「凄いな」と思うことはあったけど、ドップリ浸かることはなかった。やっぱりロックの中でブルースを感じるかどうかっていうところですよね、僕が好きなのは。ブルースと言えばレッド・ツェッペリンの「Since I’ve Been Loving You」が好きだと言ったら「あれはブルースじゃない」と言われたことがあるんだけど、ブルースじゃん!(笑)
Choji:え、あれってマイナー・ブルースじゃないんですか?(笑)
島:ねえ。しかも物凄くかっこいいハード・ロッキン・ブルースですよ。ディープ・パープルの「Mistreated」も、「あんなの普通のマイナー・コードなだけでブルースじゃない」と言われたことがあるけど、普通のマイナー・コードをぶち込んだブルースがあってもいいじゃない。だから自由なんですよ。
Choji:人によって解釈が違いますもんね。
島:昔からの辛口な人から言わせるとねえ…。リッチー・ブラックモアのブルース・ギターなんて、これのどこがブルースなんだと言われていましたからね。レインボーのライヴのセットリストに「Blues」と書かれていたパートがあったんですよね。『ON STAGE』(1977年)にもそういう曲が入っていますけど、あれはブルースじゃないと。リッチーが好きだからといって擁護する気はないけど、ブルースってそもそもが自由なんじゃないかと。メジャー・ブルースの中でマイナーを弾いてもいいし、その逆でもいいし。ブルースというものをベースに弾いているリッチーのギターが、抜群にかっこいいと少年:島 紀史は思ったし、あれをお手本にしましたよ。「だからお前のブルース・ギターはダメなんだ」と言われたら「すいません」と言うしかないんだけど(笑)。
自分で表現したい音があるなら弾けばいい
YG:だから今回のブルース特集の目的は、ブルースはそこまでガチガチに凝り固まったものではなくて、派手にロック・ギターを弾きたい人にとっても意外と近くのあるんですよ、ということを伝えたいんですよ。
島:それこそ、B’zの音楽にもブルースはあるじゃないですか。ブルージーなリフだってたくさんある。
YG:『The 7th Blues』(1994年)というアルバムもありましたしね。
島:それにSuperflyなんてペンタトニックで泣けるブルースですよ。きっとその歌のメロディーはジャニス・ジョプリンが原点にあるんだろうけど、かと言ってSuperflyが好きなら全員がジャニスを聴かなくてはいけないというわけでもない。身近にあるし、気楽にブルースらしさは体験できるものなんですよ。
YG:以前Chojiさんにデモンストレーションをしていただいた時、端々にブルースっぽさがあるなと感じたんですよ。I Don’t Like Mondays.の音楽性は決してブルース・ロックではないですけど…。
島:かっこいいよね(笑)。
Choji:ありがとうございます(笑)。
YG:そういう中でも、Chojiさんのギターがほんのりブルースっぽい生々しさを出しているんだなと。
Choji:逆に言えば、ギターをやっていて全くその土台がない人はいるのかなって思うんですよ。ギターってピアノとかと違って、音程感が曖昧だったりするじゃないですか。チョーキングのニュアンスであったりとか。そういうものがブルースらしさを生むんだろうし。
島:曖昧と言えば、ブルースの基本はペンタトニックとは言っても、経過音を全部入れていけばクロマティックになるわけでね(笑)。
YG:どの音を弾いても正解だと(笑)。
Choji:そうですよね。そこにはディミニッシュの音も入っているわけで、ブルースでそれを弾いてもいいわけですよね。
島:その時に自分で表現したい音があるんだったら、弾けばいいんですよ。それこそゲイリー・ムーアは、自分なりの表現でブルースをやっていたでしょ。それに対して、「こんなに弾きまくるのはブルースじゃない」とか、「こんなに音が歪んでいたらブルースじゃない」とか…いやブルースでしょコレ(笑)。
Choji:それ、僕も見たことがありますよ。どう考えてもブルースを弾いてるのに(笑)。
島:元々ハード・ロックをやっていたゲイリーがブルースに行ったことを残念がる人も多かったけど、フォーマットが変わっただけで、弾くギターの自由度は圧倒的に増したんですよね。
Choji:弾きまくりなんですよね。コンサートで10分ぐらいあるギター・ソロをやったりしていましたし。
島:あの自由奔放さこそがブルースの自由さなんじゃないかな。ヘヴィ・メタルをやるのに十分な音作りで「Oh, Pretty Woman」をやったりするんだから(笑)。
YG:ハッキリ言って、ブルース時代のゲイリーなんてメタルより凄い音を出していましたからね。ブルースに転向して2枚目の『AFTER HOURS』(1992年)では、当時最強の歪みを誇ったソルダーノのアンプを使っていましたし(笑)。
島:僕はサーモン・ピンクのストラトキャスターを使っていた頃のトーンが一番好きだけど、レスポールを使わない僕からしても、レスポールでブルースを弾いていた頃のゲイリーの音は理想ですよ。ギタリストというのはレスポールを使っているんだったら、あれぐらいガッツのあるトーンを出してもらわないと困りますよっていう好例です(笑)。
YG:レスポール・カスタム使いのChojiさんはどう思います?
Choji:その通りですよ(笑)。
島:そもそもゲイリーは芯がブレていないんですよ。それこそスキッド・ロウの時代から。話を戻すと、今回僕はデモンストレーションをやらせてもらったけど、考えすぎずにほぼ手グセで弾きましたよ。理論的に言ったら一切ペンタトニックを弾かずにブルースだと言い張るのはナシなのかもしれないけど、それでも音楽的に成立したらアリでしょ。それぐらい自由なものだと思うから。
YG:感性に従って手グセで弾くからこそのフィーリングがブルースらしさを生むんでしょうね。
島:そうですよ。さっき(デモンストレーション映像の撮影で)僕の24小節の手グセを聴いたでしょ?(笑)
【YouTube動画】島 紀史:俺にブルースを弾かせろ! リッチー・ブラックモア直系のソロを弾き倒し!
Choji:1人でペンタトニックを弾いている時に手グセで弾いたフレーズが、「今のニュアンスがブルースっぽいんだな」って気づくこともありますからね。
YG:デイヴ・メニケッティもそうですね。ブルース・アルバムを作ったこともありますが、Y&Tでのハード・ロック・ギターの中にもブルースらしい熱さと泣きを放り込んでくる、そのニュアンスが肝なので。
島:デイヴ・メニケッティはもう抜群に熱すぎるギターだからね〜!
ブルースに正道も邪道もない!
YG:ではここで、お2人がブルース魂を感じるアルバムを3枚ほど挙げるとすると、どれになりますか?
島:さっき名前が出たからじゃないけど、それこそデイヴ・メニケッティは素晴らしいブルースですよ。僕はアルバムで言ったらY&Tの『EARTHSHAKER』(1981年)が一番好き。それとやっぱりフランク・マリノ。マホガニー・ラッシュの『LIVE』(1977年)ですね。あのアルバムを1枚丸々コピーすると、ありとあらゆるブルージーなペンタトニックを学べるんじゃないかと思う。あとリッチー・ブラックモアは…ブルージーなハード・ロックをやろうとしたアルバムと言えば、『BURN』(1974年)ですよ。「Burn」や「Mistreated」みたいな有名曲以外でも、「What’s Goin’ On Here」は僕にしてみたらシャッフル・ブルースのお手本のようなギターが弾けるし、あの人が弾くブルースの特殊性も現れているし。
YG:さすが、そのアルバムの曲の中で最もマイナーな曲を挙げられましたね(笑)。
島:そんなことないって!(笑)
YG:Chojiさんのおすすめは?
Choji:リッチー・ブラックモアで言ったら、パープルの『COME HELL OR HIGH WATER』(1994年)は出た当時散々聴きましたね。
YG:リッチー脱退直前の混乱した時期のライヴ盤というのが、また素晴らしいチョイスですね(笑)。
島:いや、あれはいいアルバムですよ! あの(1993年の)ツアーの中でもいいテイクを集めているから。
Choji:あれは今聴いても素晴らしいですよ! 間とか、ちょっとしたフレーズにブルース・ギターを感じるんです。次はマイク・ブルームフィールドとアル・クーパーの『フィルモアの奇蹟』(1969年『THE LIVE ADVENTURES OF MIKE BLOOMFIELD AND AL KOOPER』)。これは最近よく聴くんですけど、自分にはないブルースのフィーリングや音の使い方が学べるんですよね。それとわりと新しめでは、ゲイリー・クラークJr.です。「The Life」が入っているアルバム(2012年『BLAK AND BLU』)。古典的なブルース・ロックもあるし、ソウルっぽいブルースとか、ラップっぽいブルースとか、いろんなスタイルを聴かせてくれるんですよね。今思いついた3枚はこれです。
YG:『フィルモアの奇蹟』は、ヤング・ギターの名盤特集で必ず載っているんですよね。どれぐらいの人がこれを読んで聴いてくれているのかなって思ったりもしますが(笑)。
島:いや、聴いた聴いた(笑)。ヤング・ギターで「名盤!」って紹介されたものは大体聴くから。
Choji:僕もそれで聴きました(笑)。
YG:今回のブルース特集でも、そういったアーティストの名盤をたくさん載せているんですが、「これはメタルであってブルースじゃないだろ! 邪道だ!」と言われそうなものもいっぱい載せたいんですよ。1980年代末のHR/HMのブルース回帰時代の作品とか。
島:シンデレラの『LONG COLD WINTER』(1988年)とかね。いやいや、そういうのは載せた方がいいでしょ。あれは渾身のマイナー・ブルースだし、単純にロックンロールとしてもかっこいい。
Choji:そういうのって、ヤング・ギターに載ってたら聴いちゃいますよ。「そうなんだ!」って(笑)。
島:でもブルースに正道も邪道もないもんねえ。
YG:前に「?」と思ったことがあるんですが、「黒人じゃなきゃ認めない」という日本のブルース・マニアもいるそうで…それじゃ我々日本人は永遠にブルースを弾けないのかと(笑)。
Choji:そうですよね(笑)。
YG:だからブルースは敷居の高い音楽じゃないし、自由に弾きまくっていいんですよ、ということを今回の特集では伝えたいんです。それこそ、ゲイリー・ムーアがアルバート・キングと「Oh, Pretty Woman」で共演した時…。
Choji:(アルバートに)「弾きすぎだ」って言われたんですよね(笑)。
YG:そう、そのエピソードが素晴らしいと思って。
Choji:でも、ゲイリー自身のトーンでやるから意味があるんですもんね。
島:そうそう。自分のフレーズだから意味があるんだし、典型的なブルースを弾いたら面白くないもんね。まあゲイリーもアルバート・キングそっくりに、古典的なブルースを弾けと言われたら弾けたんだろうけど。
(この後、ゲイリーやリッチーなどのよもやま話が延々と続く…)