新ヴォーカルとして元H.E.A.Tのエリック・グロンウォールを迎え、渾身のニュー・アルバム『THE GANG’S ALL HERE』をリリースしたスキッド・ロウ。プロデューサーであるニック・ラスクリネッツいわく「真骨頂と言うべきアルバムを作り、世界にこのバンドを改めて知らしめる」ことが、本作のテーマであったという。狙いは完全に奏功し、そこで聴ける激しくもキャッチーな楽曲の数々に、1stや2ndアルバム当時の面影を感じた人も少なくなかろう。
ヤング・ギター2022年12月号には、不動のギター・チーム…デイヴ“スネイク”セイボとスコッティ・ヒルのインタビューを掲載させていただいた。そちらではアルバムに収録された1曲目〜4曲目についての解説を行なってくれたが、こちらでお届けするのは続きとなる後半。ぜひ新作を聴きながらお楽しみいただきたい。
“お前が100年温め続けているリフに取り組もう”ということになった
YG:5曲目「Resurrected」。スキッド・ロウの魅力の1つに、一度聴いただけで憶えられるギター・リフがあると思います。この曲のイントロもそんなリフですが、こういうアイデアってどんな風に思い付くものなのですか?
デイヴ“スネイク”セイボ:この曲は完成するまで、実に様々な形を経てきたんだ。プロデューサーのニック(ラスクリネッツ)は何かを分解して再構築するのが上手くてね。イントロのリフ以外はすべて曲作りの過程で変化していったけど、あのリフだけは最初からずっと残っていたんだよ。実のところどこから生まれたのかは分からないけど…というか、どのリフもどうやって思い付いたかなんて憶えてないな。ただ自然に出て来ただけ。ある日突然、創造性の窓が開くので、それを上手く利用できるように…と願うだけさ。
スコッティ・ヒル:スネイクが書いたこのリフを聴かせてもらった時、「これは他と全然違う」って思ったのを憶えているよ。だから最初はちょっとぎこちなくしか弾けなかった。自分じゃない誰かが作ったリフって、面白いことに彼らにとってはごく自然であっても、自分にとっては難しい場合もある。馴染むのにしばらく時間がかかったけど、とにかくこれは本当にクールなリフだな。
YG:6曲目「Nowhere Fast」。スキッド・ロウでは珍しい変拍子っぽい曲ですが、イントロは6/8拍子ですか?
スネイク:ああ、そうだよ。
YG:若干ひねくれたリズムが超クールですが、これはどういうところから来たアイデアですか?
スネイク:この曲はレイチェル(ボラン/b)が、(外部ソングライターの)ジョニー・アンドリュースと一緒に書き始めたんだ。で、完成に近い状態だったのをスタジオに持ち込んで、みんなでもうちょっと作業をしたら…開花したんだ! その大きな要因は、スコッティがサビの部分をいじったこと。スコッティが思い付いたアイデアは他の部分のように興奮気味ではなくて、もっとはるかにストレートだった。でもあれが出てきたことで、曲全体がパッと開けたのさ。イントロ、ヴァース、ブリッジは最初からいい具合だったんだけど、サビは少し物足りないと思っていたからな。
YG:7曲目「When The Lights Come On」は、レイチェルの印象的なベース・ラインから始まる曲。ベースって単音でフレーズを組み立てざるを得ないので、アイデアを出すのが難しい印象ですが…彼のネタは尽きないようですね?
スコッティ:レイチェルはアイデアの宝庫で、いつも何かしらアイデアを持っているのさ。音楽のアイデアだけに限らず、演出のとか照明とかも色々考えていて、まさにアイデアマンなんだ。だから俺たちも時々、そのことで彼をからかったりしているよ(笑)。
スネイク:スコッティの言う通り。あらゆる面で、レイチェルは信じられないほどクリエイティヴなのさ。特に曲作りの観点から言えば、これはすべてレイチェルが書いたもので、彼の曲作りの特徴が至るところに表れていると思う。
YG:8曲目「Tear It Down」はちょっとクイーンの「We Will Rock You」を思わせるリズムで、とてもライヴで映えそうな曲ですね。今後のツアーでもセットリストの重要な位置に置かれそうな予感があるんですが、実際ライヴでのウケはどうですか?
スコッティ:既に何度かプレイしてみたけど、この曲には素晴らしい流れがあって、本当にライヴに打って付けだと思う。長年に渡ってやってきた昔の曲の中に新曲を加えると、セットリストが少しぎこちない感じになる場合もあるんだけどね。今回のツアーでは新曲を3曲加えたんだけど、どれもまさにぴったりとハマる。昔の曲との相性が抜群なのさ。プロデューサーのニックはオリジナル・スキッド・ロウのフィーリングを捉えたアルバムを作りたかったわけだから、新曲が上手くフィットしたんだと思う。昨夜もプレイしながら「このグルーヴは素晴らしいな!」と思ったのを憶えているよ。
YG:9曲目「October’s Song」。優れたバラードもスキッド・ロウの魅力の1つですが、9曲目にして「やっと来た!」という感じですね。しかもこれは掛け値なしの名曲だと思いました。他の超ラウドな曲と比べると落差がすごいですが、バラードを書く時はちょっと精神状態が違っていたりするんですか?
スネイク:それは言えてるね。レイチェルと俺が一緒に曲を書く時は、大抵雑談から始まるんだ。内容は俺たちの人生で起こっていることや、世界で起こっていることなど、何でもいいのさ。その雑談が俺たちを様々な道へ導いてくれる。この曲の場合、決め手となったのは俺が長年温めていたリフだった。スコッティはいつも俺に「もういい加減、そのリフを使って何か書けよ!」って発破をかけていたんだ。俺にとっては指のエクササイズ以外の何ものでもなかったけど、年がら年中プレイしていたから周りの連中はうんざりしていたんだよ。で、ある日レイチェルの家で一緒に作曲のセッションをすることになり、ウォーミング・アップのためにアコースティック・ギターでそのリフを弾き始め、最終的にどんなものを作るか話し合っていたら、レイチェルが「お前が100年温め続けているリフに取り組もう」ということになった。曲全体に渡って拍子が色々変わったり、様々な感情が入り混じっていたりして、まるでジェット・コースターのような曲に仕上がったと思う。テーマは人生のサイクルについてなんだ。人には死が付き物だけど、それによって再生が起こり、新たな血が生み出される…というようなことを歌っているんだ。ポジティヴな空気感があると思うよ、特に最後にクレッシェンドになるところとかね。それまでのすべてが、そこにつながっていくような…。2ndアルバム(1991年『SLAVE TO THE GRIND』)の「Quicksand Jesus」以来、この手の構成はやったことがなかったから、バンドとして再び挑戦してみて楽しかったな。
スコッティ:俺もいくつか言いたいことがある。最初にこの曲のデモを聴かせてくれた時、「やったな! ついにあのリフを使ったんだ」って思ったよ(笑)。あれを使って何か曲を作れよって、ずっと言い続けていたからね。それから曲の最後の方で聴ける、あのハーモニー・ソロ。今回のアルバムで気に入っている点はたくさんあるけど、中でもスネイクと俺で山ほどハーモニーを弾いたのが良かったね。俺たちはギター・チームであることを誇りに思っていて、どっちの方が上手いとか、こっちのアンプの方がでかいだとか(笑)、そんなくだらない関係じゃない。これは今後も一生かけて続けていくテーマだと思うね。特にこの「October’s Song」のハーモニー・ソロは、ギタリストとして本当に素晴らしさを感じた瞬間の1つだった。
YG:「World On Fire」はアルバムの締めくくりに相応しいエネルギッシュな曲で、ライヴの締めに持ってきても合いそうですね。しかも中間のギター・ソロの部分は、引き伸ばしてアドリブもできそうですし。
スネイク:それってかなり興味深いアイデアだね。スコッティも俺も、ソロを引き伸ばすことに反対したことは一度もないよ(笑)。長いソロを弾くためにできることがあるなら、俺たちは何でもする!
スコッティ:その通り(笑)。確かに素晴らしいアイデアだね。実際にやったことはないけど、15分くらいなら掛け合いソロをやれると思うよ。この曲に関して言えば、スネイクが最初にリフを聴かせてくれた時、「ちょっと待ってくれ。こんなものを弾かなきゃならないのか?」って感じだった(笑)。右手をめちゃくちゃ速く動かさなきゃならなさそうだったし、俺には弾くのが難し過ぎる。だから「今すぐ弾かなきゃならないのは分かっているけど、でも1週間後でもいいかい?」って言ったんだ(笑)。
スネイク:でもその後、ニックがリフを変えたんだよね。彼が言うには「このリフはクールだと思うけど、前半の部分は1オクターヴ上げてプレイしてほしい」ってことだった。彼はミュージシャンとして、人間として、俺たちの音楽的意欲を掻き立ててくれる。それも「成功させて彼を幸せにしてやりたい!」と思わせるようなやり方でね(笑)。無理に要求してくるわけじゃなく、人の目を見ながら「君にはこれをやり遂げる素養があるはずだ、やってみろよ」って言うんだ。そうやって人をステップアップさせる。何かに挑戦する感覚は元気を与えてくれるし、実際彼のおかげで得られた成果を実感して、自分をこんなにプッシュしてくれたことを本当にありがたく思うよ。
創造性の大半がチューニングで吸い取られてしまうから…
YG:レコーディングで使用したギター、アンプ、エフェクトなどを教えてください。
スコッティ:ベーシック・トラックでは、スネイクも俺も“EverTune”ブリッジを搭載したギターを使ったよ。しばらく前に友人の1人が紹介してくれて、試しに使ってみたら本当に素晴らしかった。あんなにきっちりチューニングを維持できるなんて、信じられなかったよ。で、俺たち2人がこれを1本ずつ持っていたら、スタジオでの作業時間を大幅に短縮できるんじゃないかと思ったんだ。スタジオにいる時ってさ、しょっちゅう演奏をやめては再チューニング…という作業を繰り返さなきゃいけないもんだろ? 創造性の大半があそこで吸い取られてしまう。ほんのちょっとでもピッチがズレると、セッションがそこで止まってしまうんで、本当に面倒なんだよ。で、エピフォンの人たちが、俺たちそれぞれに“EverTune”ブリッジを搭載したレスポールを送ってくれた。それらに自分好みのピックアップを搭載したりしてから、ベーシック・トラックで使ったんだ。トレモロ・ユニットが付いたギターは一切使ってない。ソロやオーヴァーダブに関しては他のギターも使ったけどね。
YG:アンプは?
スネイク:様々なものを使ったよ。ソルダーノに、フリードマン、それからフェンダーの“Tone Master”って具合にね。スコッティはプレキシ・マーシャルも使っていたよな?
スコッティ:ああ、使った。ボグナー“Ecstasy”ヘッドと’70年代のマーシャルを一緒に使ったんだ。それにダブルで重ねるための機材もね。フリードマンのスティーヴ・スティーヴンス・モデル“SS-100”だったな。
スネイク:俺はEVHの“5150 III”ヘッドと、他にももう1台何か使ったアンプがあったな。そういえば、ソルダーノはヒューズが飛んだか何かで使わなかったんだ。
スコッティ:もう1台はディーゼルじゃなかったっけ?
スネイク:そう、それだよ。ディーゼルを使っていたと思う。
YG:エフェクターは?
スネイク:アイバニーズ“Tube Screamer”があったけど、何か歪んだ音が必要な時とか、特定の部分に使っただけ。ニックやスコッティの方が俺よりも詳しいだろうな。彼は変わったエフェクターをいくつか使って、それでテクスチャーを作りながら楽しんでいるだけさ。
スコッティ:ニックは本当に山ほどエフェクターを持っているんだよ。その中からコーラスとかその手のものを抜き出して使った。エフェクトの多くは後からじゃなくて、レコーディング時に直接録ったんだ。ファズも試したし、エレクトロ・ハーモニックスの“POG”なんかも試してみた。あれは2人のお気に入りなんだ。実のところ何に使ったかは憶えてない…っていうか、本当に採用されたのかさえ憶えていないけど(笑)。
スネイク:ニックは俺の低音域のプレイをオクターヴ上げるために、“POG”を使っていたと思う。
スコッティ:あと、場合によってはケンパーを使うこともあったよ。あれならセッティングをいちいちやり直すようなことがないからね。オーヴァーダブとかバックグラウンドのちょっとしたパートとかを弾く際、ケンパーでさっとセッティングを見付けることがあった。
YG:では最後に、読者へ何かひとことずつメッセージを。久々の来日公演が実現することも願っています!
スネイク:この36年間、応援ありがとう! みんなのサポートなしでスキッド・ロウは存在しない。俺たちがギターを弾いたり、音楽をプレイしたりしながら生活できるようにしてくれて、感謝しているよ。とてつもない贈り物だ。みんなが新しいアルバムを気に入ってくれるよう願っている。またすぐに日本で会えるのを楽しみにしているよ。
スコッティ:俺にとってこのインタビューは特別な意味があって、とてもありがたいことだ。俺の妻が日本出身なんで、俺自身も日本で多くの時間を過ごしてきたし、毎年東京に行っているから。お店でいつもヤング・ギターを手に取るし、バックナンバーの自分たちが掲載されているページに改めて目を通したりもしているよ。とても光栄なことだ。どうもありがとう!