次世代プログレッシヴ・ミュージックを牽引する米産5人組インスト・バンド:アーチ・エコーのアダム・ラフォウィッツとジャック・ガーディナーによる、インタビュー後編! 互いに「あ~分かる」「そうだよね」…といったやり取りが何度もあったざっくばらんなギター談義をお楽しみあれ~!
コロナ禍になって、初めて「俺のギター熱はこの手の音楽にあったのか…」と気付いた
YG:お2人は以前からお知り合いだったりするのでしょうか?
AR:会ったことはなかった。オンラインで少し話したことがある程度かな。
JG:うん。でも、その方がかえって最高にクールだよね。俺はアーチ・エコーの大ファンだし。プレイヤーとしても、バンド全体としても…!
AR:勿論、僕もジャックの大ファンだよ!(笑)
JG:だから、このツアーが発表された時は本当にクールな気分だった。「マジか! 同じステージに立てるんだな…!!」と思って興奮したよ。
AR:僕としては、他のバンドと共演する際、自分がそのプレイヤーの大ファンで、プレイ面でもリスペクト出来る相手だったら…と思っているんだ。単に“出演者リストに載っているバンド”ではなくてさ。その点でもクールな組み合わせになったよ。
JG:うん、その通り! そういえば…今回、「Hip Dipper」(『ARCH ECHO』収録)をやらなかったよね?
AR:そうなんだよ。あと、「Strut」(『STORY I』収録)も…なんだけど、ジョー(カルデロン/b)が「指がキツ過ぎる…無理だ!!」と言い出してさ。
JG:確かに激しい曲だもんなぁ。
AR:以前にプレイした時、僕は何とか大丈夫だったけど、アダムB(ベントリー)とジョーが大変みたいで…。アイシングが必要なぐらいだった。あと、リッチー(マルティネス/dr)は筋肉がガチガチになって、一旦ステージから下りないといけなかったぐらいだったよ。
YG:そんなことが…! さて──ここで、本誌初登場となるジャックのバックグラウンドについて質問させてください。
JG:いや〜、俺にしてみればブッ飛んだ状況だよ。ガキの頃から日本や日本のカルチャーが大好きで、ヤング・ギターのYouTube動画なんてすべてチェックしてきたんだからさ! ミキオ・フジオカ(藤岡幹大)、オームラさん(大村孝佳)…他にも沢山いる。「いつか彼等みたいに載りたいな…」とずっと思っていたんだ。それなのに、今こうしてインタビューを受けているなんて…。凄く妙な感じがするよ(笑)。
YG:まずは基本的なことから。ギターを始めた年齢とキッカケは?
JG:9歳の頃、クラシック・ギターから入ったんだ。ベーシストだった父は、俺に音楽をやって欲しくなかったみたいだけど…。
AR:親ってそうだよね。「まともな仕事に就きなさい」なんて言われた?
JG:まさに…! 「やってみようとすらするな」という感じだったよ(苦笑)。でも、スティーヴ・ヴァイとフランク・ザッパのDVDを観て、「オーマイガー! この人達は一体何をやっているんだ!?」となり、そこからすべてが始まったんだ。今でも、初めて観た時のことを憶えているよ。
YG:現在はスイスを拠点にされているそうですが…?
JG:うん。でも、英国人で出身はリヴァプールなんだ。ザ・ビートルズで有名な…ね。でも、コロナ禍が始まった’20年3月にスイスへ移住した。実を言うと、リヴァプールの実家はジョン・レノンのベビーシッターだったか…その手の誰か(笑)が住んでいた家と同じ通りにあったんだよ。だから、毎日(観光客向けのバス・ツアー)“Magical Mystery Tour”のバスが、俺の家の敷地内でお客さんを下ろしていてさ(笑)。
ある朝、酷い二日酔いで目覚め、外でタバコを吸っていたら、俺の家の写真を撮っていたツアー客の中に、凄い人を見付けたんだ。何と、ルーク・スカイウォーカーだよ! 『スター・ウォーズ』俳優のマーク・ハミルがウチの前にいたのさ…!
AR:何だって…? それはクールだね!!(笑)
JG:朝の9時にルークが、ウチの前で…なんて、「何が起こっているんだ?」って感じだ。しかも、彼が撮った写真の中に、どうやら俺が写り込んでいたらしい(苦笑)。
AR:マーク・ハミルに撮られてたんだ!(爆笑)
YG:凄い体験ですね(笑)。子供の頃に影響を受けたギタリストというと?
JG:ギターを始めた頃は、断然スティーヴ・ヴァイだったね。あとは、イングヴェイ・マルムスティーンにポール・ギルバート。その後──俺達って、YouTubeと出会った最初の世代だと思うんだけど──ガスリー・ゴーヴァンやアレックス・ハッチングスがジャズやフュージョンの扉を開いてくれて、全く新しい世界を見せてくれた。特にガスリーがね。それから、トム・クァイルは“俺の先生”と呼びたいな。ただ、今でもヴァイやサッチ(ジョー・サトリアーニ)は大好きだ。
AR:僕も、初めてガスリーを聴いた時は、「人間業とは思えない!」と思ったよ。それこそブッ飛ばされたね!!
JG:しかも、インプロだってワン・テイクで決めてしまう! 「どうやったらそんなことが?」と思うよ(笑)。
AR:嫉妬しかない(笑)。僕なんて、あちこち気になってしまって、「あそこはもう少し上手くベンド出来たんじゃないか?」なんて、1曲に1週間ぐらいかけてしまいそうだ。だからレコーディングでは、爆音で弾き、それで終わりにしてしまう。
YG:リヴァプールではどんな活動を?
JG:メインはセッション・ミュージシャンだったね。何でもやったよ。’80年代のヒット曲をやったりとか、ラッパーに混じったりとか。でも、インスト・バンドはやったことがなかったんだ(笑)。コロナ禍になって、初めて「俺のギター熱はこの手の音楽にあったのか…」と気付いたよ。それで、「自分でも何か作ってみるか」と思い立ったのさ。それまでは色んなスタイルを手当たり次第にやっていた。生活費が稼げるのなら、何だってね。
AR:“hired gun”(プロの殺し屋:転じて、臨時雇用ミュージシャンの意味)ってところだな!(笑)
JG:最近は、30歳を過ぎたらブルースに転向しようか…なんてことも考えたよ。エリック・ゲイルズとか、黒人のブルースマンが大好きだからね。
AR:実は、数週間前に観たよ。
JG:マジで…! どうだった?
AR:とんでもなく素晴らしかったよ。まったくもって驚異的なギタリストだ。ひと頃(アダムが住んでいる)ミネアポリスにいたこともあったらしい。
AR:ミネアポリスの横のつながりって…ある? コリー・ウォンとか。
AR:勿論さ! コリー・ウォンが有名になる前にギグを観たこともある。
JG:それは凄い!
YG:ちなみに、お2人はそれぞれ今お幾つですか?
JG:俺は30歳だ。
AR:僕は31歳。
YG:同世代なんですね!
AR:アーチ・エコーの他のメンバーもさ。ジョーイはちょっと年下、アダムBはちょっと年上だから、平均年齢はそれぐらい。
何で一緒にジャムらなかったんだろう?
YG:なるほど。話は変わってライヴ機材について。2人ともステージではワイヤードでしたね?
AR:うん。でも、アメリカではワイヤレス・システムを使うことが多いから、もっと自由になれる。動き回るのは、ライヴ・パフォーマンスにおいて大事なことだと思っているんだ。ロボットみたいな動きになるのもイヤだしね。そんなのクリニックみたいで、オーディエンスにとっても楽しくない。とはいえ、動きながらもちゃんとプレイしないといけない。その辺りのバランスの落としどころを見つけるのも大事だよ。
JG:俺はいつもワイヤードだな。というか、実はライヴでワイヤレスを使ったことが一度もなくてさ。
AR:そうなんだ! ワイヤレスは、ちゃんと動いてくれさえすれば楽しいよ(笑)。
JG:いやぁ…インイヤー・モニターだけでも充分問題があるから、さらに懸念材料が増えるのは…。
AR:問題は尽きないね。アクティヴ・ピックアップにもまた別の問題があるし。ギターの中でバッテリーの接続が切れて、最初のコードを弾いても自分の音が聴こえない──「これはマズいぞ…」ということがあったよ(苦笑)。
JG:それだけは起こって欲しくないパターンだね。
YG:それって先日のショウのこと…? 始まっていきなりギター交換をしていませんでしたか?
AR:そうそう、いきなりギターが故障して──正に接続が切れてしまったんだよ! ステージへ向かう階段を昇っていた時、何かにぶつかったんだと思う。プレイし始めたのに何も音がしなくて、流石にビビってしまったよ(苦笑)。でも、現地スタッフが素晴らしい人で、アクティヴ・ピックアップ用のボルト9V電池をすぐに調達してくれたんだ。アメリカでアレをやったら、「ああ〜しくじったね!」で終わりのところ、すぐに換えの電池を用意してくれた。
僕達って、いつも何かしらハプニングに見舞われるんだ。いつも何かが起こる…! ジョーイのキーボード・スタンドが崩れたこともあったよ。グラスゴーでプレイした時のことだ。ショウが始まってまだ10秒しか経っていないのにスタンドが崩れてしまい、何とヤツは、床に座った状態で1曲丸々演奏しきったんだよ!(笑)
JG:信じられない…!
AR:まだ電源はつながっていたから、地べたで1曲プレイしたような感じだよね。でも、それで問題なかった(笑)。そういうのがあるから、ライヴって楽しいんだし。不意に訪れる狂気の沙汰みたいなのって…最高だよ!!
YG:キーボード・スタンドといえば、今回もジョーイは、ショウの最後にキーボードを抱え上げて、落としそうになりながら、ヘンな体勢で弾ききりましたね?
AR:ああ、そうそう! 普段は小さなMIDIコントローラーみたいなのを使っているんだけど、今回はヤマハのシンセ“MONTAGE 8”(註:重量は約30kg)だったから、「うぉぉおおぉおお!!!」って感じで持ち上げていたよね(笑)。
YG:どうなるのかと思ってました(笑)。
AR:その横で僕は、「壊すなよ〜」「壊れても買い直せないんだから!」って思っていたよ(笑)。
YG:今回、アダムがワイヤレスを使わなかった理由は?
AR:実はアメリカでも、最終的にケーブルを使うことは少なくないんだ。(電波)干渉があって、イライラさせられるからね。「こんなにチャンネルがコロコロ変わる人生なんてゴメンだ」…なんて思ってしまうぐらいだよ。そこで、100フィート(約30.48メートル)あるケーブルを購入した(笑)。ドリーム・シアターのツアーに帯同する際、「長いケーブルが必要かもしれないな」と思ってさ。コイルも凄く太いんだ。
JG:それだけで荷物がひとつ増えちゃうんじゃない?(笑)
AR:そうなんだ。まるで1トンもあるように感じるよ。まぁ、ワイヤレスも新しいシステムを買わなきゃね。レンジが5GHzぐらいあるヤツ(笑)。実際、ナッシュヴィルなんかじゃ、あまりに沢山のチャンネルが使われていて、空いているのを見付けるのが大変でさ。“空いているチャンネルを見つける”どころか、“最悪ではないチャンネル”で手を打たないといけないことも多い。それで、「じゃあ、ケーブルでやるか」となるんだ。
YG:なるほど。では、それぞれのショウを観た感想を。
JG:正直言って、これまでに観た中でもベストの部類に入るバンド・ショウだったね。何もかもがタイトだったし、サウンドも最高だった。ライヴを目の当たりにする前から大ファンだったけど、こうやって実際に観ると本当にヤバい。「どうやったらこんなことが出来るんだ?」って、そればかり思ってたよ!
AR:僕もずっと前から君とオウェインのファンだ。オウェインは1st EP(’15年『GREATEST HITS』)の頃からよく知っているし。いつ聴いても素晴らしい体験が出来るけど、今回ライヴを観て圧倒されたよ。これまでに沢山のツアーを行なってきた中では、ただ単に“政治的な理由”で選ばれたオープニング・アクトが殆どだった。だから、あまり気に留めていなかったのに、ジャック&オウェインのプレイは、観ていてとにかく素晴らしくてさ。勿論、大好きで大ファンだったのもあるけど、サウンドも何もかもが最高だったね!
YG:今後はコラボとかも?
JG:やれたら最高だね。是非やろう!
AR:うん、やろう!! そうなったら光栄だよ。でも君達には充分ギター・パワーがあるから…。
JG:そんなことない、ない。実は、全部バッキング・トラックを流しているだけなんだ!(笑)
AR:なら、ジョーイにも手伝わせるよ!(笑)
YG:では最後に、それぞれ今後の予定を教えてください。
AR:アーチ・エコーとしては、曲を書き続けていくよ。次のツアーのあと──11月半ば以降に、次のアルバムの曲を書く旅に出るんだ。
JG:ジャック&オウェインは……え〜と、オウェインがあまりツアーを沢山やりたいタイプではなかったりするんだよな。それで、2人で話し合ったところ、俺がソロ・アルバムを作って、ベースのリカルドやその人脈のイタリア人ドラマーと一緒にツアーに出るのも良いかな…なんてことになって。その間、オウェインはこれまで通りプロデュース業をやり続ける…と。
AR:アダム・ベントリーもそんな感じだよ。今回の東京公演が、彼にとって僕達との最後のオフィシャルなショウだったから。バンドのメンバーとしては残るけど、彼もあまりツアーが好きじゃないんでね。次のツアーでは、彼のガールフレンドのアリッサ・デイが代わりを務めてくれることになっている。
(註:その後、アリッサは急遽参加不可となってしまい、10月19日からの北米ツアーはシングル・ギターの4人編成で行なわれている模様)
JG:彼女はとてつもないよね!
AR:うん、凄まじい! とんでもないパワー・カップルだ(笑)。
JG:2人の子供は一体どうなるんだ?(笑)
AR:ホントそうだね!
YG:是非また、アリッサとも一緒に来日してください。
AR:そうなったら最高だな! 実は、彼女も今回、一緒に日本へ来ていたんだよ。それにしても、何でジャック達と一緒にジャムらなかったんだろう? ライヴの最後にやることも出来たのに…。お互いに自分達の出番をきちんとコナすことに精一杯で、そこまで頭が回らなかったんだろうけど。
JG:俺も今その話になって、「どうして考えなかったんだろう?」と思ったよ。
AR:今度またツアーを一緒に廻ることがあったら、一緒にジャムろう。
JG:やれたら最高だよね。出来れば日本で…!
YG:またすぐ戻ってきてください。来週にでも…(笑)。
AR:来れるものならそうしたいよ! でも、飛行機に乗りたくないから…ずっとここに居ようかな(笑)。毎週、飛行機に乗っていたら身体がもたない(笑)。
JG:次回は時差ボケ解消のために、3日ぐらい先乗りしたいな…。
AR:そうだね。早くこっちに着いて、リハーサルする時間を取らなきゃ!!(笑)