次世代プログレッシヴ・ミュージックを牽引する米産5人組インスト・バンド:アーチ・エコー。先日お届けした9月来日時のライヴ・レポートに続き、日本でのインタビューの模様をここに公開! 大盛況に終わった東京公演から数日後、都内某所で本誌取材に応じてくれたのは、ダブル・アダムのうち主にリードを執るラフォウィッツで、今回スペシャル・ゲストとして共演を果たしたジャック&オウェインのジャック・ガーディナーとの対談取材が実現した。実は同世代という2人によるざっくばらんなギター談義を、前編・後編の2回に亘ってお楽しみください…!!
全くリハをやってなくて、ぶっつけでプレイしたのが2曲あったよ
YG:先日のライヴはいかがでしたか?
アダム・ラフォウィッツ(以下AR):凄く楽しませてもらったよ! ショウ自体もクールで、オーディエンスも最高だった。あと、会場(渋谷クラブクアトロ)がファンタスティックで、アーチ・エコーのメンバー全員が本当に楽しく過ごせたんだ。とても良い経験になったね。
ジャック・ガーディナー(以下JG):ジャック&オウェインとしても、全く同じ意見だ。勿論、俺個人としても好きなタイプのオーディエンスだったし。みんなとても情熱的でさ。アダムも言ったように、会場も最高! 予定通り何もかもキッチリしていて、超プロフェッショナルだったな。
YG:ジャックは、日本は初めてではない…?
JG:楽器フェアで2度来日したことがあるんだ。でも、今回はちょっと違う感じがする。楽器フェアではデモ演奏だけだったからね。つまり、ちゃんとライヴをやったのは今回が初ということさ。超クールだったよ。
YG:アダムは、’20年の前回来日時と何か違いがありましたか?
AR:オーディエンスの人数が少し増えていた…っていうのが主たる違いかな。クラブが満杯になって、オーディエンスのエネルギーが感じられるのが大好きなんだ。やっぱり楽しいよね。満員のエネルギーが伝わってきて、それがステージ上の僕達を助けてくれる。観客に楽しんでもらえれば、僕達も楽しいんだ。石のように無表情で座ったままのオーディエンスほど最悪なモノはない(笑)。ちょっと前にやったドリーム・シアターとのツアーは、椅子席の公演でさ。この手の音楽で着席だと、ステージでプレイする身としては、何か違和感があるんだよな…。ショウを盛り上げるのも難しくなるし。
JG:プレッシャーがかかるよね?
AR:うん。曲が終わってもみんな座ったままで、こんな感じでさ…(と、退屈そうな表情で拍手をする真似)。
JG:何にせよ、ホントに満杯だったよね! アーチ・エコーのショウを観ようと、観客の側へ行ったらあまりに激混みでさ。それで、一旦ステージ裏へ戻って、そっちから何とかフロアに出たんだよ。
AR:僕も同じさ。ジャック&オウェインを観ようと、フロアに通じるドアを開けたら、人でギューギュー詰めで、「うわ…!」と驚いたよ。
JG:うんうん。日本だけだよ、こんなに歓待されるのは…!
YG:ジャック&オウェインとしては、どれぐらいのペースでライヴをやっているのですか?
JG:今年3月の(プリニとのUK)ツアーを終えてから、これが最初のギグだったよ。その3月に、俺達は初めて一緒にライヴでプレイしたんだ。
YG:起用していたリズム隊について教えてください。
JG:ベースのリカルド(オリーヴァ)は俺が声を掛け、ドラムのマチェイ(ジーク)はもう10年ぐらい前に、オウェインのソロ・アルバムに参加していたんだと思う。つまり、ジャックとオウェインでそれぞれ1人ずつ選んだのさ。リカルドのことは、彼が以前、マッテオ・マンクーゾと一緒にやっているのを観てブッ飛ばされてね!
その後、偶然出会った時、俺とオウェインのやっていることの大ファンだ…って言われた。それでベーシストを決める際、「コイツしかいない!」「100%決まり!!」と思ったんだ。
YG:来日に向けて、リハは充分に出来ました?
JG:全くリハをやってなくて、ぶっつけでプレイしたのが2曲あったよ(苦笑)。みんな別々のところに住んでいるから、リハーサルするのが大変でさ…。ギグの前に一度──1時間から1時間半もやれたらラッキーってとこだよ。
YG:アーチ・エコーもメンバーがバラバラに住んでいるから、リハは頻繁には出来ないんですよね?
AR:そう。いつもなら、ツアーに出る前にナッシュヴィルで集合し、1日ぐらいはリハ出来るんだけど、今回はそれぞれ違うところから日本へやって来たから、なかなかキビしかったよ。サウンド・チェックの時、「OK、じゃあこの曲を初めて合わせてみようか」みたいな感じでさ(笑)。
YG:初めてやった曲があったんですか!
AR:もちろん!(笑) 3曲あったと思う。「Bet Your Life」(’23年『FINAL PITCH』収録)と「Tempest」(’19年『YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!』収録)は全くやったことがなかったワケじゃないけど、「Angry Sprinkles」(『FINAL PITCH』収録)はこれまで一度もライヴでプレイしたことがなかった。今回、VIPイベントの時間帯に「リハをやろう」ということになったんだけど、まるで彼等のために初リハーサルを行なったような感じさ(笑)。
JG:そうだったんだ…!(笑)
AR:楽しい曲だよ。凄く難しいから、ちょっと怖かったけど(苦笑)。
JG:俺達は「SkyBluePink」(ジャックの’20年『ESCAPADES』収録)と「”K”」(オウェインの’15年『GREATEST HITS』収録)を初めてプレイしたんだ。
YG:その2曲のように、ジャック&オウェインとしての曲の他に、今回それぞれのソロ曲もかなりプレイしてくれましたね?
JG:うん、そうなんだ。あと、「Materia」も俺の曲だけど、これは音源化されていなくてさ。サブスクでも聴くことが出来ない。
AR:リリースの予定ナシ?
JG:1年ぐらい前に「出そう」ということになって、MVも作ったんだけど、お蔵入りになってしまった。でも、次のリリースに入れようかな?
AR:是非、そうすべきだよ!
ソロ・セクションはあまりインプロ禁止にしたくないんだ
YG:それにしても驚いたのが、元々デュオのジャック&オウェインが、リハもそこそことは思えない、実にライヴ感に溢れるパフォーマンスを繰り広げていた点です。セッション起用メンバーとの間にケミストリーすら感じるぐらいで…!
JG:ホント? それは嬉しいね! 特に俺とリカルドは、アレンジで遊ぶのが好きなんだ。大半は予め決まっていて、本を読むような感じで合わせていくんだけど、2人ともインプロヴィゼーションやリハーモニゼーションのバックグラウンドがあるからね。俺のルーツはファンクやソウルにあって、彼にはジャズのバックグラウンドがある。言わばキャッチボールだな。彼は常に、何かしらのアイデアを“投げて”くる。それに俺も反応するんだけど、ギグの大半の時間はそうやって、裏で“投げ”合っているよ。一方、オウェインとマチェイはもっと曲の構造に忠実なタイプだから、俺とリカルドでバランスを取る必要がある。
YG:あと、ジャックはずっと楽しそうにプレイしているのが最高ですね! テクニカルな音楽を淡々と演奏するミュージシャンが多い中、常に笑顔で、表情も豊かで、他のメンバーと頻繁にアイ・コンタクトを取っていて。
JG:うん、いつも楽しんでいる。間違ったポジションを弾いているかもしれないけどさ(苦笑)。俺にとって、ライヴこそが一番楽しいことなんだ。いや、スタジオや家でプレイするのも大好きだよ。でも、俺達がやっていることを好きで観に来てくれる観客の前で生演奏するのは、最高にヘンな感じがして、もっともっと大好きなんだよ。一秒一秒が楽しめる! 観客の反応を見るのも好きだ。そっちに目がロックオンされちゃうと、プレイに集中出来なくなるから、あまりそうし過ぎないようにしてはいるけど…(笑)。
AR:脳がそっちに向いちゃうんだよね!
JG:そう、観客にばっか視線がいって、「おっと…しまった!」となってしまったり…(苦笑)。まぁ、誰かが笑顔を向けてくれたら、俺も笑顔で返すようにはしているよ。
YG:アーチ・エコーはそもそもバンドなので、より一体感があって当然ですが、予想以上にメタルしていたのには驚きました。
AR:サウンドマンがギターを炸裂させるような音にしていたんだよね! ただ僕達としても、今回のセットはよりメタル度を強くしようと思っていた。とにかくエネルギッシュに…とね。「Angry Sprinkles」みたいに超メタルな新曲もあったし! うん…あのセットリストは、いつもよりちょっとアグレッシヴだったな。それに、今回みたいに時差ボケがあったりすると、余計にエネルギーを全集中させなきゃ…となるんだ。「Leonessa」(’20年『STORY I』収録)とか「Bloom」(’17年『ARCH ECHO』収録)とか、もう少しメロウな曲も出来れば良かったんだけど。
YG:初のヴォーカル入り曲「Final Pitch」(『FINAL PITCH』収録)は、やはりプレイされませんでしたね?
AR:そうだな──今回はなかった。ヴォーカルをバッキング・トラックで流そうか…なんて話も出たものの、どうにもしっくりこなくてさ。でも、だからといってインストゥルメンタルでやったところで、ヴォーカル・パートがスカスカになってしまう。というか、そもそもヴォーカル入りの曲をインストにしても、面白くないよね? ただ、「検討したい」と思っているのも確かだね。ヴォーカルをプロジェクターで映すとか。
JG:なるほど。それは面白いかも。
YG:日本以外では、『FINAL PITCH』を歌ったアンソニー・ヴィンセントと一緒にライヴをやったことがありますか?
AR:実は、彼とはまだ直接会ったことがないんだ。
YG:そうだったんですね。ちなみに、アーチ・エコーはメンバー同士のアイ・コンタクトがあまり見られませんでしたが、これはもう長年の付き合いだから…でしょうか?
AR:いや、ツアーのグルーヴの中では、ステージ上でもコミュニケーションが盛んだよ。でも今回は、リハも充分に出来ていなかったし、とにかく「ちゃんとプレイしないと…!」という感じで、みんな自分のプレイに集中していたんじゃない? いつもは、ちゃんとプレイしつつ、アイ・コンタクトもする…というか、良いバランスでやれていると思うな。但し、インプロヴィゼーションのセクションが沢山あると、また話が違ってくる。「えっ…何だって!?」みたいな感じで楽しいんだけど、ドラマーのリッチーがよくリズムを色々と変えて遊んでしまうから、「サプライズも良いけど、新曲ではやらないでくれ」と言っておいた。そうじゃないと、大変なことに陥っちゃうんでね!(苦笑)
JG:そういや…ウチでも、リカルドがツアー中に謝ってきたことがあったな。「昨日はヘンなプレイをしてしまって…本当にゴメン!」ってさ。
AR:イイ話じゃないか!
JG:ああ(笑)。でも、曲の終わりが近くなった辺りで、ひとつのセクションを丸々変えてしまう…といった感じだったんで、もう笑うしかなかったよ。「一体何が起こっているんだ?」って!
YG:アーチ・エコーの場合、ライヴでインプロの余地はどれぐらいあるのですか?
AR:アダム・ベントリーはあまりインプロしない。僕もソロ・セクションでちょっとやるぐらいかな。でも、ソロ・セクションはあまりインプロ禁止にしたくないんだ。毎晩、どこかを違う風にした方が楽しいからね。東京でのセットだと、5ヵ所ぐらいはインプロしたように思う。楽しかったよ。僕はジャズやフュージョンを沢山やってきたから、インプロの余地があるとより楽しめるんだ。もっとも、我ながら「巧くやれたなぁ」と思うこともあれば、「最悪…!」と落ち込むこともあるけど、どっちもライヴのプロセスの一部だからな。
JG:このジャンルのわりに、結構インプロのセクションが多いんだね? 大半のプレイヤーは一音一音、忠実に再現していると思うんだけど。
AR:そうかもしれない。でも僕は、オープンなソロ・セクションがあったら、「よし…ここはしくじるワケにいかないぞ!」と思いながらやりきるよ。
JG:俺も地元リヴァプールで活動していた時は、みんなとインプロヴァイズしまくっていたよ。ただ──バッキング・トラックを使ってプレイする時、最も大変なのは、長くしたり短くしたり出来ないことだね。きっちり同じ長さにしないと、アレンジが死んでしまうから。
AR:いつも思うのは、ジョーイ(イッゾ/key)と延々ソロの掛け合いをやったら凄く面白いだろうな…ということ。実際「Hip Dipper」ではそうしているけど、すべてはクリック次第だから、満足いくまでどんどんやり続けるワケにもいかない。
JG:ある程度余裕がないと、アイデアも続かないだろうし。
YG:そのジョーイですが、ライヴを観ると「まるでギタリストみたい」と思ってしまいました(笑)。
AR:あ〜、分かるよ!
JG:(笑)。
AR:彼は自分のスタイルを築いていく時期に、ジョー・サトリアーニの採譜本を丸々1冊やりきったんだ。勿論、キーボードでね…! 15歳頃の話で、それが彼にとって大きな影響のひとつになっている。プレイ・スタイル形成の中で大きな役割を果たした…ということさ。そんな彼と、ハーモナイズするのはとても楽しい。でも、彼が送ってくるパートを演奏する時、僕には難しいと思えることもあるんだ。ギターだと何の意味もなさないことすらある。しかも、「うわ…これをBPM =180で弾くのかよ!」となったりもして(笑)。
JG:ピアノってそうだよね。ギターに翻訳するのが不可能な時さえある。
AR:うん、難しい。「ヤバい…でも、まぁ何とかしなきゃ!」と頑張るのみだ。その点では、ハイブリッド・ピッキングに助けられている。
JG:タッピングもよくやるよね? 右手の動きがいつも見事だ。
AR:実は…オルタネイト・ピッキングが全く出来ないんだ(苦笑)。
JG:全部レガートで弾いたり?(笑)
AR:そうそう。でも、レガート、ハイブリッド・ピッキング、タッピングがあれば充分だと思う。
YG:ジャック&オウェインも鍵盤入りでライヴをやることがあるようですが、日本でもそうしたかったのでは?
JG:そうだなぁ。金銭的な余裕があれば、是非入れてみたかったよ。ベースを入れるか、キーボードを入れるか…と、そういった決断を下すのってタフなんだ。
YG:時には2人だけでプレイすることも?
JG:以前に(2人+バック・トラックで)やったことがあるよ。いや、それも悪くないけど、ちょっと不思議な感じがしてさ。インタラクションがあるかないか──それって、ライヴをやる時に凄く影響する。クリニックなどでマスター・クラスをやる際、いつもバッキング・トラックを使うんだけど、自分しかステージにいないという状況はとっても違和感アリアリなんだ(苦笑)。みんなを見ながらプレイするのが恋しくなる。だからライヴでは、極力そうしたくない。やむを得ず…という場合を除いてはね。
AR:2人だけでツアーをやる…ってなると、やっぱりキツいよねぇ。
JG:うん、そう思うよ。
AR:ドラム・セットの運び出しとかがなくて、それは楽でイイけど!(笑)
JG:確かに!!
ジョーダン・ルーデスにギター・レッスンをする…!
YG:アダムは、ドリーム・シアターとのツアーで何か学んだこと、感じたことはありますか?
AR:そりゃあ…まずは規模感だね。プロダクションも壮大だし、クルーも大勢いるし、あのレベルのプロダクションを目の当たりにするだけで──あんなにもハイ・レベルのプロフェッショナリズムを垣間見るだけで…もう、とてもクールな経験になったよ。あとは、多くのオーディエンスの前でプレイ出来たのも、貴重な経験だった。僕達みたいなインスト主体のプログレ・バンドだと、普段そんなに大きなところでやれないから、ホール・クラスで2000人を前にプレイする…というのは、実にクールな体験だったね。
しかも、ドリーム・シアターのメンバーがイイ人揃いで、ジョン(ペトルーシ/g)もジョーダン(ルーデス/key)も、他のみんなも超フレンドリーなんだ。ジョーダンとは何度かビデオを撮ることも出来た。彼は何か思い付くと、「さぁ、宿題だよ。これに合ったモノを書いてくるように」なんて言って、音源を渡される。勿論、大喜びで「今夜やります!」と張り切っていたけどさ(笑)。
JG:イイな〜。でも実は、俺も以前、ジョーダンにギター・レッスンをするという、それ以上ない貴重な経験をしたことがあるんだ。「ジャック、何か弾いてみてくれ」なんて、あのジョーダン・ルーデスに言われたんだよ! 「あなたのDVDは全部観ました!」みたいな俺に、あのジョーダンが…さ!! ヤバいよね!(笑) でも彼は、ギターに限らず、未だもって音楽全般に情熱を持ち続けている。今でも「学びたい」という意欲が強い。それってクレイジーとしか言いようがない。
AR:分かるよ。だって、僕がこれから違う楽器に挑戦するようなモノだろ? そんなこと出来ないよ。
JG:俺だって、キーボードひとつを取ってみても、「う〜ん……無理だな!」って感じ(笑)。
AR:僕は、Cメジャー限定だったら速弾きしちゃうけど(笑)。
YG:『FINAL PITCH』でジョーダンがソロ客演してくれた「Aluminosity」を、ライヴで一緒に演奏したことは?
AR:まだない。でも、いつか一緒にプレイ出来たらイイな…。ツアー先などで一緒の街にいたら、その機会が訪れるかもしれない。共にステージに立ってプレイ出来たら、きっと夢のようだろう。そのショウ自体、最高に盛り上がるだろうし!!
YG:その際は、ショルダー・キーボードで…!
AR:ああ、キーター(註:英語圏での呼び名)でね! もしそうなったら最高にクールだろうな!!