新世代プログ・メタル勢が日本で激突!アーチ・エコー、ジャック&オウェイン 2023.9.19@渋谷クラブクアトロ

新世代プログ・メタル勢が日本で激突!アーチ・エコー、ジャック&オウェイン 2023.9.19@渋谷クラブクアトロ

テクニカルでプログレッシヴなギター・ミュージックに目がないマニア──無論、ヤング・ギター読者の多くはそうだと思うが──垂涎のカップリング来日ギグが9月中旬に行なわれた。何と、米産インスト・バンド:アーチ・エコーに、スペシャル・ゲストとしてバカテク・デュオ:ジャック&オウェインが付くというのだから凄い! しかも、東京にて一夜限り。当日、会場の渋谷クアトロは満員の入りとなった。

JACK & OWANE

開演予定時刻を5分ほど過ぎてまず登場したのは、英リヴァプール出身ながら現在はスイスを拠点としているジャック・ガーディナーと、ノルウェー出身のオウェインことエイヴィン・ペデシェンの超絶ギター・コンビ。バッキング・トラックでも流しながら2人だけでプレイするのかと思いきや、リズム隊をセッション起用し、そのベーシストとドラマーもハンパない技巧派だった。まぁ、そもそも巧いプレイヤーじゃないと務まらない…というのもあるが、驚いたのは、元々はスタジオ・プロジェクトだったなんて信じられないぐらいの躍動感とライヴ感。きっと事前リハもままならない中での来日だったろうに、一糸乱れないのは当然として、セッションならではの緊張感を漂わせつつも、それぞれ“魅せる”プレイが出来ていたのは本当に凄い。あ…いや、若干1名──オウェインだけは終始淡々としていたのだが。

ジャック&オウェイン バンド

ベースのリカルド・オリーヴァが曲によってキーボードも弾きつつ、同期音源も使っていたから、きっと全員がクリックを聴きながら演奏していたハズ。それなのに、ドラマーのマチェイ・ジークが見事なパワー・ヒッターなのもあり、1曲の中でちゃんと“押し・引き”が際立ち、テンポ・チェンジやストップ&ゴーといった仕掛けも見事に活きてくる。さらに、MCも担当するジャックがとにかく楽しそうで、他のメンバーと頻繁にアイ・コンタクトを交わしながら、ひたすら笑顔を絶やさないのも最高過ぎた。テクニカルなパートでは、リカルドに「どう?」と言わんばかりに視線を向け、彼がスラップも入れつつ余裕で弾きコナすと、「おお、やったな!」といった感じでメチャクチャ嬉しそう。それでいて、自分のプレイがおざなりになるワケもなく、全編で流麗この上なくメロディックなフレーズ・センスを発揮しまくっていた。

ジャック・ガーディナー
Jack Gardiner
リカルド・オリーヴァ
Riccardo Oliva
Maciej Dzik
Maciej Dzik

一方のオウェインは、上述通りライヴ・パフォーマンス重視ではないものの、プレイの正確さは言わずもがな。多くの曲でジャックに主役のリードを任せながらも、ファンキーなカッティングや、バッキングだからといって決して楽ではないリックを涼しい顔で弾きコナし、時に滑らかな運指でメインも執り、オーディエンスを唸らせることしばしば。とはいえ、自分のパートがヒマになったら、スマホで他のメンバーを撮影し出すのはどうなんでしょ? まぁ、その奔放さも彼ならではの魅力ということで…。

オウェイン
Owane

演目で注目すべきは、ジャック&オウェイン名義の2作品:『CHAPTER ONE:SHREDEMPTION』(’21年)と『GUARDIAN SPIRITS OF THE QUANTUM MULTIVERSE』(’22年)収録曲に加え、ジャックとオウェインのそれぞれソロ名義曲も披露してくれたこと。というか、いきなりオウェインの’16年作『DUNNO』から「Quitting The Gym」をイントロ代わりにショウがスタート。途中、ジャックの『ESCAPADES』(’20年)から「SkyBluePink」(但し、これはスタジオ・テイクにもオウェインをフィーチュア)や、ジャックによる未発表曲「Materia」があって、後半にもオウェインの『yeah whatever』(’18年)から「Love Juice」や『GREATEST HITS』(’15年)から「”K”」が飛び出し、シメの曲も『yeah whatever』の「Born In Space」で──実は、ジャック&オウェイン名義曲は10曲中4曲だけだったり。

それでも、観客の反応に目立った差などなく、どの曲でも大きな歓声が上がり、演奏中も“ここぞ”というパートでは沸きに沸いて、約45分はあっという間。楽しい時間は速く過ぎていく…とは正にこのこと。いや実際、終演時に「えっ…45分もやってくれたの?」と思ったぐらいの濃密さだった。

ジャック&オウェイン

ジャック&オウェイン セットリスト@渋谷クラブクアトロ 2023.9.19

1. Quitting The Gym(Owane)
2. Glitter
3. Action Boyz
4. Materia(Jack Gardiner)
5. Never Forever Together
6. Love Juice(Owane)
7. SkyBluePink(Jack Gardiner)
8. “K”(Owane)
9. U.T.F.F.
10. Born In Space(Owane)

ARCH ECHO

20分ほどの転換を挟み、20時10分を少し回った頃、続いてアーチ・エコーが登場! 壮大なイントロに導かれ、ジョーイ・イゾ(key)が何ともフレンドリーに「コニチハ!!」と叫んだ瞬間、ジャック&オウェインとはまた違った空気がそこに生まれる。満場の手拍子がより一体感を高め、言うまもでなくバンド感も盛り盛りだ。1曲目はこの夏にリリースされたばかりの新作『FINAL PITCH』から「Red Letter」! ジャック&オウェインと同様のテク満載フュージョン路線でも、その場に漂うのは、スリリングな緊張感ではなくポジティヴな解放感で、続く「Aluminosity」(同じく『FINAL PITCH』収録)では、ヘヴィかつメタリックなヴァイブも加味され、オーディエンスの熱量がどんどん昂まっていく。

アーチ・エコー バンド

主にダイナミックなグルーヴを操るのは、リッチー・マルティネス(dr)とジョー・カルデロン(b)。その上に乗るツイン・ギター・チーム:ラフォウィッツとベントリーのダブル・アダムは、前者が基本リード担当で、後者はバッキングを任されることが多いものの、時々ツインの絡みもあるし、後者がテーマ・フレーズやソロを弾く曲もある。そして、アーム・バーを駆使し、エモーショナルな“ゆらぎ”が実に味わい深いラフォウィッツに挑むように、ジョーイが全身を使って弾きまくるシンセ・ソロがまた凄まじい。「Aluminosity」なんて、アルバムでドリーム・シアターのジョーンダ・ルーデスがソロ客演していたのを忘れてしまうぐらい、「俺だろ?」「俺を見ろ!」的な熱のこもったプレイでグイグイと惹き込まれた。

というか、常にテンション・マックスなそのソロ・ワークは、まるで鍵盤を使ってギター・ソロをやっているかのよう。となれば、ジョーダンというよりもデレク・シェリニアン・タイプということか。いや、ステージ・アピアランスという点では、デレクのようなオシャレ番長とは全く異なり、ちょいちょい力技でもっていくのも、これまたヘヴィ・メタル・ギタリストっぽいと言えるかも。時にはキーボード・セットを離れてステージ前へ出てきて、豪快に観客を煽りまくったりもするし。但し、ラフォウィッツも負けていない。パワーで押すタイプではなくとも、前に出る時はしっかりそうして、メロディアスなフレーズに技巧を忍ばせ、必殺のタッピングでギター・ファンの心をガシっと掴む。ショウ中盤、「Earthshine」(’17年『ARCH ECHO』収録)の前には彼の独奏タイムがあり、自在に指板を動き回る即興プレイには、あまりの巧さに誰しもが悶絶…あるいは、もう溜息しか出なかったろう。

リッチー・マルティネス
Richie Martinez
ジョー・カルデロン
Joe Cardelone
ジョーイ・イゾ
Joey Izzo

『FINAL PITCH』からの連打で幕開けた今回のライヴだが、3曲目にセカンド『YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!』(’19年)からの「Immediate Results!」が文字通り炸裂すると、以降は全作品から程好いバランスで選曲。「Angry Sprinkles」(『FINAL PITCH』収録)と「Tempest」(『YOU WON’T BELIEVE~』収録)の間には、観客と共に盛り上げていくドラム・ソロがあり、「Stella」(『YOU WON’T BELIEVE~』収録)の前にも、しっとりからキラキラへ転じるピアノ&シンセ・ソロがあったり…と、セットリストはなかなか絶妙に組み立てられていた。また、’20年リリースのEP『STORY I』からも、「To The Moon」が中盤に、「Measure Of A Life」が本編ラストとして披露され、アンコールはデビュー作から「Color Wheel」&「Afterburger」でガッツリ盛り上げ、そのいずれにも2人のアダムのソロ競演+シンセ・ソロとの激突があり、オーディエンスのテンションは全く下がることなく大団円に。

アダム・ラフォウィッツ
Adam Rafowitz
アダム・ベントリー
Adam Bentley

流石にヴォーカル入り曲「Final Pitch」こそやらなかった(やれなかった)が、「Battlestar Nostalgica」(『FINAL PITCH』収録)での指パッチンや、ベントリーが「Stella」演奏の合間にジョーのペダル・ボードに置いてあったぬいぐるみ(ポケモン?)をナデナデ…など、ちょっとした遊び心も盛り込まれていて、「ファンを楽しませたい!」との思いが随所から伝わってくる。あと強烈だったのが、「Afterburger」で突然ジョーイが鍵盤を担ぎ上げ、重さでよろめくも、「見ろ! これがメタルだ!!」とばかりに、最後まで抱えながら演奏を続けたこと。「何て無茶を…!」と、観客は勿論として、他のメンバーもきっと呆れてしまったのでは? しかしながら、そのエンタメ精神たるや天晴れと讃えたい。

プログレッシヴでヘヴィでメロウで浮遊感も伴うジェントな新世代フュージョン・サウンド──それは、技巧の連続で息が詰まりそうになるどころか、超越テクがみんなを笑顔に、そしてハッピーにするという、アーチ・エコーでしか味わえない稀有なライヴ体験。以前のインタビューでダブル・アダムは、「“テクニカルなのにキャッチー”を目指している」「みんなにヘッドバンギングしてもらいたい」と言っていたが、いずれも実現させていたのは言うまでもない。

ところで、ベントリーがこの来日公演をもってライヴ活動から離れてしまうことは、本誌’23年8月号でもお伝えした通り。ただ、だからといって湿っぽいムードなど皆無だったことを、最後に付け加えておきたい。まぁ、本人曰く「ツアー以外のあらゆる面で今後もアーチ・エコーに関わっていく」とのことで、脱退するワケではないのだが。そして、将来的にベントリーに代わってライヴ・メンバーに抜擢されたのは──という件は、近日お届けする来日インタビューにて明らかにしたい。そちらもお楽しみに~!!

アーチ・エコー バンド2

アーチ・エコー セットリスト@渋谷クラブクアトロ 2023.9.19

1. Intro(SE)~Red Letter
2. Aluminosity
3. Immediate Results!
4. Bet Your Life
5. Intro(SE)~To The Moon
6. AR guitar solo ~ Earthshine
7. Angry Sprinkles
8. Drum solo
9. Tempest
10. Spark
11. Battlestar Nostalgica
12. Piano solo
13. Stella
14. Measure Of A Life
[encore]
15. Color Wheel
16. Afterburger