AKIHIDEの新作『UNDER CITY POP MUSIC』、基準は「’80年代ポップ」

AKIHIDEの新作『UNDER CITY POP MUSIC』、基準は「’80年代ポップ」

ギタリストが歌うことで得られる特権

YG:では『UNDER CITY POP MUSIC』の各楽曲について、細かく聞かせてください。1曲目の「Elevator Song」は曲名からして、地下都市のドームからエントランスへつながるエレベーターの様子を描いた曲、ということなのでしょうか? 

AKIHIDE:その通りです。それと同時に、現実から非現実に移っていくようなイメージがありまして。このアルバムを聴いた方が、アンダーシティの音楽の世界へ一緒に降りていくような。

YG:イントロに、機械的なウェルカムの台詞が聞こえる部分がありますよね。何だかディストピア的というか…核戦争後の世界を探索する『Fallout』というゲームがあるんですが、そういうものを思い出したりしました。

AKIHIDE:地下都市のアイデア自体は以前から持っていたんですが、昨今のコロナの閉塞感がそこにつながっているところもありますね。で、そこからようやく抜け出せるかな…と思っていた頃に、ウクライナとロシアの戦争が始まり、マリウポリの地下施設にたくさんの人が立てこもっているという話を聞いた時、衝撃が強くて。そういう影響もあり、どうしてもディストピア感とか、ダークな色合いが出てしまったのかもしれないですね。

YG:不穏な要素や歪んだ音もあるんですが、ただ軸にあるのは美しいメロディーですよね。特にサックスの存在感。

AKIHIDE:あれもサンプル素材なんですけど、サックスの音色が好きなんですよ。色々と探して曲にはめ込んでみたんですが、テンポがルーズでもKeyさえ合っていれば、意外に雰囲気が良かったりして。

YG:切り貼りしてメロディーを変えたりとかは? 

AKIHIDE:切り貼りはしているんですが、細かくはやってないです。サンプル素材を作った方の吹いたニュアンスの良さを残したいので。大まかにはいじってますけど、基本はわりとそのままの場合が多いですね。

YG:もともとすごく美しい世界があったのに、何かの拍子に壊れてしまったんだろうな…という情景が、何となく想像できます。

AKIHIDE:まさにそういう世界を描こうとしたので、想像していただけると嬉しいですね。

YG:2曲目の「UNDER CITY POP MUSIC」。昔からAKIHIDEさんはポップな要素と、怖いものや醜いものを一緒に聴かせる手法が巧みですよね。

AKIHIDE:ありがとうございます。好きですね。

YG:この曲からもそれが感じられました。曲作りの方針としてはどうだったのでしょうか? 

AKIHIDE:これはもう、最初のエレピのコードがサンプル素材にあって、そこに自分でメロディーを当てはめていったらどうなるのかなと。あと、最近自分はルーパーを使って演奏することが多いですし、サンプルを延々ループし続けても崩壊しない、それでいて飽きないような構成を目指して作っていきました。

YG:とはいえ聴いた印象だと、あまりミニマルな印象は受けなかったんですよね。一般的なポップスとしてしっかり完成されているというか。

AKIHIDE:ああ、本当ですか。サビはそうですね、ベースを動かしてコードを変えているので変化はあるんですけど。でも今までの僕だったら、もっといじりたくなっていると思うんですよ。それを敢えてやらなかったという。

YG:今までのAKIHIDEさんの音楽の文脈で見れば、かなりシンプルだと。

AKIHIDE:かなり削ぎ落とされたコード進行になっているとは思います。

YG:ちなみに全体の音像に耳が引っ張られて、若干判断しづらいところなんですが…ギター・ソロはちょっとローファイなイメージですか? それとも敢えて生っぽい音にしています?

AKIHIDE:どうですかね…僕は1974年製のギブソンSGを持ってて、最近あまりレコーディングで使っていなかったんですが、今回のレコーディングの時にちょうど僕の中でSGブームが来まして(笑)。あのギターは少しいなたい音がするんので、それのせいですかね? さらにアイバニーズの“Tube Screamer”を加えて…より古めかしい音色にハマっていた時期があったので、そんな雰囲気になったのかもしれませんね。

YG:全体としてはそれこそ山下達郎さん的な、細かいところまでバキーン!と前に押し出す音像じゃないですか。その中にそういう“いなたい”音が入っているので、ミスマッチで面白い存在感だと思いました。

AKIHIDE:ああ、そうかもしれないですね。コード感とかフレージング、音色はこだわりましたけど、ギター・ソロは今回あまり気にしなかったかもしれないです(笑)。純粋に自分の中のギタリスト欲が出ただけで、あまりそこはシティ・ポップを意識しなかったかも。

YG:今回AKIHIDEさんは、どちらかと言うとヴォーカルの方に重心を置いているようにも感じられたんですが、いかがですか?

AKIHIDE:それは多分、シンプルになったので楽器を聴かせる時間が減ったのが大きいですね。ギターは長年弾いてきたので、無理にがんばらなくてもいいか…という余裕が出たところもあると思います。敢えてサンプル素材のギターを使い、自分では弾かない場面もあったので。そういう一歩引く感覚、メッセージを伝えることを重視した感覚が、結果的に歌を大きく聴こえさせたのかもしれないですね。

YG:AKIHIDEさんご自身、ヴォーカリストとしてはどのようなタイプだと捉えていますか?

AKIHIDE:どうなんでしょう? まあロックっぽいアタッキーな声ではなくて、柔らかい方だと思います。以前はそれが好きじゃなかったんですけど、まあ最近はその柔らかさがいいのかな?とも思っていて。自分の個性でもあり、武器にもなり得るのかなと、最近は感じていますね。

YG:シンガーとしてのヴォイス・トレーニングは? 

AKIHIDE:昔はずっとがんばっていたんですよ。何年くらい前かな…なかなかのレッスン料をお支払いして(笑)。でもその頃はあまり歌が楽しくなかったですね。先生の教え方が悪かったわけじゃなく、気合が入り過ぎて楽しめなかったんです。なるべく喉に負担がかからないよう神経質になっていました。ある意味おどおどしながら歌っていたんですが、それをやめて、やっぱり自分はギタリストなんだから、歌はあくまでもオマケだと。いや、この言い方はちょっと違いますね。例えばギタリストが他の機材を使うみたいな感覚で、歌も選択肢の一部だと捉えるようになった時、やっと歌が楽になってきたんです。今になって、当時がんばっていたことが生きてきたのかもしれないですね。

YG:声質としては、ミックス・ヴォイスが核にありますよね。AKIHIDEさんの表現する世界とすごく合っているので、こだわりを持って喉を作り込んだ時期があるのだろうかと想像していたんですが。

AKIHIDE:それは言えるかもしれません。確かに当時習っていたのは、ミックス・ヴォイスが中心だったので。ファルセットに行く手前の声を、先生に教えていただいていました。それが無駄になっていなかったのは良かったですね。

YG:3曲目「電脳少女」は歌詞的に、今時のVTuberとかを題材とした、ひねくれたラヴ・ソングをイメージしたんですが…。1曲目から通して聴いていくと、ストーリー的に少し怖くて薄ら寒い感じもありますね。

AKIHIDE:「UNDER CITY POP MUSIC」の話に戻るんですけど、マウリポリの地下施設で結婚式を挙げたウクライナのカップルがいたという話を聞いたんですね。でもその3日後に、花婿さんが亡くなってしまったそうなんです。その話がすごく衝撃的で…戦争ってすごく遠い存在だと思っていたのに、全くそんなことないじゃないかと。恋をして結婚して、愛する人との生活があって、それが急に戦争に切り替わってしまう…それは僕らにとっても、実は遠い世界ではない。そう思った時、自分には何ができるんだろうと。周りの人を大切にするとか、応援してくれる人をどう大切にできるか…そう思って作ったのが「UNDER CITY POP MUSIC」だったんです。そして色んな生活が地下施設にもあるんだろうなと想像した時、この「電脳少女」という曲の世界観では、リアルな人間以外に恋している人もいるのかもしれないと思って。非日常の中に日常の部分もあり、それはきっと、今の僕らの生活とそんなに変わらないんじゃないかと。

YG:曲の構成的なところでは、ギターで弾いているメロディーと歌メロがほぼ同じというのが面白いと思いました。この辺りは狙ったところですか?

AKIHIDE:裏で鳴っているコードはほぼサンプル素材のままなんですが、その上でギターを弾いてメロディーを一緒に歌ったら、今までの僕にはなかったパターンだしキャッチーになるし。歌を立たせながらも、やっぱり僕はギタリストでありたいので、同じにしたら面白いかな…という発想ですね。

YG:いいですよね、ユニゾンならではの魅力があって。

AKIHIDE:そうなんです。ギタリストが歌うことで得られる特権…じゃないですけど、弾き手と歌い手が違う人間だったらニュアンスが絶対に合わないと思うんです。1人の人間がやることで、ニュアンスから何からピッタリはまるんですよね。

YG:マイクの前でAKIHIDEさんが弾きながら歌っている光景が、すごく見えます。

AKIHIDE:よりパワフルにメロディーが届けられるので、ライヴも楽しみですね。

AKIHIDE