ヤング・ギターの読者さんが好きになってくれる曲じゃないかな
YG:そして4曲目の「赤い鳥籠」。これはもう、分かりやすく絶望的な曲。
AKIHIDE:そうですね(笑)。
YG:BREAKERZでもご自身のソロ作品でも、必ずこういっためちゃくちゃ悲しい曲が入ってきますよね。
AKIHIDE:こういうちょっとダークな感じは好きですね。自分が僕のファンだったら聴きたいだろうなと(笑)。
YG:あと、ちょっと昭和歌謡的なメロディー・センスもAKIHIDEさんらしいですよね。以前そこを指摘した時、不思議そうな反応をされたことがありますが、別に狙っているところじゃないんですよね?
AKIHIDE:狙ってはいないですね。これはもう、1つのサンプル素材があって、それに対してベースで変化を付け、自然にはめた歌メロなので。ただキャッチーにしたいとはずっと思っていて、そこに至るまでに色んなパターンを作ったんですよ。最終的に落ち着いたのが今の状態なので、確かに歌謡曲感は自分の根底にあるのかもしれないですね。
YG:もしかしたらAKIHIDEさんの節回しのクセにも、歌謡曲感があるのかもしれないですね。
AKIHIDE:ああ、そうなのかな。僕はヴォーカリストじゃないので、歌いやすい子音や母音とそうじゃないものがあるんですよね。歌詞を作る時、実際に歌ってハマる音を選んでいくので、もしかしたらそこに昭和的な香りがあるのかもしれないです。
YG:面白いですね。自分にとって一番心地良く聴こえるという方針で言葉を選んでいくというのは、ギタリストとしては目から鱗というか。
AKIHIDE:これはAcid Black Cherryのyasuさんに教えてもらったんです。子音や母音の違いというのは、ギターで言うとエフェクトの違いみたいなものだから、その出し方によって音が変わる、印象が変わるよと。最初は意味がよく分からなかったんですけど、実際に自分で歌うようになってから納得しました。一番高い音が「う」なのか「あ」なのか「い」なのかで、音の伝わり方が全然違いますし。その辺りはある意味、機材や楽器を選んでいる感覚ですね。
YG:伝えたい意味と音がハマる言葉を見付けるのが、大変そうですね。
AKIHIDE:そうなんですよ。1つのことを表現する場合でも、色んな語彙を持っていないと難しいですね。
YG:そういう時はひたすら調べるわけですか?
AKIHIDE:調べるというよりは、何度も色んな言葉をはめていきます。もしかしたら少し順番を変えるだけでいいかもしれないですし。作詞の後にそういう作業を繰り返して、調整して…。
YG:なるほど。曲調的にはヘヴィなデジロックで、背景にはずっと美しいストリングス系のパッドがあり、ギターは醜いというか怖い音を出して…そういう役割分担の対比が面白いと思いました。こういうところも計算づくですか?
AKIHIDE:計算しているとしたら、ベースのサンプル素材が(ローランド)“TR-808”を使っていて、そのブンブンした音は今までのソロにしろBREAKERZにしろ、あまりなかった要素なので…そこだけは意識して作りましたね。ロックというよりヒップホップに近いというか。ただギターのメロディーとかフレーズとか音色は、もう流れに任せるままでした。
YG:5曲目「サカサマの月」。ギター雑誌の取材で歌詞のことばかり聞いて申し訳ないんですが(笑)、月が見えているということは、この曲は月世界の話ではないわけですか?
AKIHIDE:ブックレットに描いてあるんですけど、地下の保養所みたいな施設に人工の月があるんですよ。あくまでも僕の中の設定の話ですけど。だからその、水面に映る逆さまの月と、実際に空に浮かんでいる月…それが心の情景を表しているという。
YG:なるほど。そういった裏が見えると、途端に聴く印象も変わってきますね。
AKIHIDE:そうなんです。言わない方が良かったのかもしれないですけど(笑)、まあ謎解きみたいにより楽しんでもらえれば、というぐらいの感覚なので。
YG:曲構成に関しては、前半は最低限の音だけがあるミニマルな世界じゃないですか。これはどんなアイデアから生まれてどう出来上がっていくのでしょうか?
AKIHIDE:最初のイントロのサンプル素材があり、それに合わせてガット・ギターを爪弾いていたら、ちょっとオリエンタルなペンタトニック的ラインが浮かんできまして。サビはペンタだけだと変化がないのでメロディーを変え、違うスケールを追っていって…といった具合に作っていきましたね。1つのコード進行で、いかにAメロとサビの雰囲気を変えられるか…という。
YG:シンプルな構成で最後まで続くのかと思いきや、後半は歪んだギターとドラムが加わり、突然生っぽい感覚に変わるのが面白いですね。
AKIHIDE:待ち切れなかったんですよね、落ち着いたままじゃいけないと思ってしまって。何となくレディオヘッドが頭にあって、『OK COMPUTER』(1997年)という’90年代を代表する作品があるんですが、そのイメージです。破壊したくなったんですよ、綺麗な世界を。ギター・ソロなんかは、プリプロで弾いたテイクをそのまま使っちゃいました。すごく勢いがあったんで。
YG:6曲目の「Spy Summit」。これは10周年を迎えたライヴ・イベント、“Being Guitar Summit”のために書き下ろした曲なんですよね。
AKIHIDE:アルバムのリリースと“Being Guitar Summit”のタイミングが合ったので、せっかくなら作ってみようと思いまして。僕を含め4人のギタリストがいるのを想定して、「増崎(孝司)さんだったらこういうソロを弾いてくれそうだな」とか、「柴崎(浩)さんならこういうソロが得意そうだな」「五味(孝氏)さんならここはこう弾いてくれるんじゃないかな」と思い描きながら、各ソロ・パートのコードを作りました。この曲だけはサンプルを使わず、なるべく複雑な音使いを考えていきましたね。
YG:フレーズ的にも、それぞれのギタリストのイメージを自分に憑依させながら?
AKIHIDE:いや、コードだけです。上で弾いてるギターに関しては、僕自身を4人に分けた感じです。“Being Guitar Summit”にちなんで「Spy Summit」というタイトルにしたんですが、音の“盗み合い”というか、探り合ってどっちが前に出るかの戦いみたいな、そういうものをイメージしました。
YG:確かに、リードをとる楽器の音色がどんどん変わっていくのが面白いと思いました。ハモる場面もあるので、最初からセッションを想定してるんだろうなとは、何となく想像できていたんですけど。
AKIHIDE:これはもう、ヤング・ギターの読者さんが好きになってくれる曲じゃないかなと。ギタリスト冥利に尽きる曲ですね。僕なりに色んなギタリストを表現しているんで、面白いと思います。
YG:中でもサビに当たる部分のスライドのプレイが、すごく耳に残りますね。そこに限らず、AKIHIDEさんの弾くロング・トーンは、雑さが全然ないというか。もう、センスとしか言いようがないですけど。
AKIHIDE:どうでしょう。ただ最近、やっと音の語尾を楽しめるようになってきたかな…とは思っています。特にスライドは終わらせ方が重要ですし。
YG:しゃくり上げたりする感じに、矢野明子さんの歌のような素っ頓狂さもあったり(笑)。
AKIHIDE:それはありがたいですね(笑)。語尾で遊ぶのはすごく大事だと、最近思います。
60歳や70歳になった頃、答え合わせができる作品が完成してればいいな…と
YG:そして7曲目「雪月花」。これもすごく面白い構成で、1人での弾き語りのように始まり、突然左右に貼り付くようなリズムが入ってきたりして、奥行きのある音像だと思いました。
AKIHIDE:最初のギターのフレーズは僕が弾いたものじゃなく、サンプル素材なんです。いざレコーディングの時に、自分でそのフレーズをコピーしてみようかとも思ったんですけど、雰囲気が出なくて。あのサンプル素材はリズムがところどころでよれていたりするんですけど、それも含めて良いんだろうなと思いますね。だからまあ、ゲストのギタリストを呼んだような気分です。
YG:左右で全く違うギターを弾いている場面がありますよね。あそこはすごくバンド感があるというか、バンマスがあまり決めごとをせず「みんな自由に弾いて」と言っている感じなのかな、と思いました。
AKIHIDE:ははは、いやその通りで。あれもプリプロでサッと弾いたテイクを、そのまま使っちゃったんですよ。おっしゃるように、各パートが自由に演奏している雰囲気がすごく良くて。多少バラバラなところもあるんですけど、ただバックにサンプル素材のループを使っている以上、そういう要素があった方が人間味が増すんですよね。それに今回はシェイカー、タンバリン、トライアングルとか、自分でパーカッションもけっこう演奏していて、人間のよれているリズムが接着剤のように、サンプル素材と他の音をつないでくれるんですよ。
YG:そして8曲目「Escape」。これはシティ・ポップというよりは、懐かしい初期のB’zみたいな印象です。
AKIHIDE:(笑)これ、確かにシティ・ポップじゃないですよね。
YG:どういったイメージの曲でしょうか?
AKIHIDE:本来は「雪月花」でアルバムを終わるつもりだったんですけど、やっぱり地下都市から逃げ出さないと、ストーリー的にも気持ち的にも良くないなと思って。だから「Escape」というキーワードから作っていきました。最近エレクトリックな音楽も好きで、チル系とかダンス・ミュージックとか、その辺りの色が濃く出たところでもあります。アンダーシティから飛び出すという意味でも、多少音楽的に変わっていいのかなと思ったので。コンセプトや意図を反映させて作っていった曲ですね。
YG:これはAKIHIDEさんの中では、ポジティヴな終わり方なのかその逆なのか、どちらでしょう?
AKIHIDE:これはポジティヴですね。マップを見ていただくと分かるんですけど、一番下に格納庫があり、そこから飛び出す感じです。イントロの「Elevator Song」のテーマを組み入れたりして、アルバムとしてひとつの統一感を持たせつつ、最後はロケットが飛び立つイメージですね。
YG:考えてみたらストーリー的に、荒廃した地下都市から抜け出すのはいいけど、その後どこに行くんだろう…という不安感は少し残りますよね。
AKIHIDE:それが今後、僕の中でつながっていくんです。60歳や70歳になった頃、答え合わせができる作品が完成してればいいな…と(笑)。長い年月をかけて、張った伏線を回収していこうかと思っています。
YG:すごいですね…。通常盤のみ収録の9曲目「Clapping in the Rain」、これはボーナス・トラック扱いですが。
AKIHIDE:『BLACK UNICORN』(2021年)というEPを出した時のツアー時、会場のみなさんに手拍子や足踏みをしていただいた音を使い、ツアー中に作った曲なんです。その年の配信ライヴでプレゼントするような意味合いで公開しました。今回ボーナス・トラックとして入れたのは、ある意味自分の中ではつながっている作品でもあるからですね。前作から今作への橋渡しにもなったし、サンプルを活かして作った最初の曲でもありますし。通常盤だけのボーナスですが、入れることに意味があると思いました。
YG:AKIHIDEさんと、ピアニスト、ベーシスト、あとおそらくDJがステージ上にいて、観客がたくさん周りを囲んでいて…というイメージが、聴いていて確かに浮かんできました。
AKIHIDE:そこはやっぱり、お客さんが本当に叩いてくれたので、ライヴっぽさにつながったのかもしれないですね。録ったのはモーション・ブルー・ヨコハマと大阪のビルボードライブだったんですが、箱の音が良いのか、みなさんの叩き方と踏み方が良いのか、すごく良い音で録れまして。それをたくさん重ねたので、奥行きが出たんだと思うんです。人の手と足で、独特の拡がりが生まれました。
YG:今回のレコーディングで使用した機材を、簡単に教えていただけますか?
AKIHIDE:基本的に自分のプライベート・スタジオで作ったので、ギターに関してはライン録りですね。フェンダー・カスタム・ショップの傷だらけのストラトと、さっき言った1974年のギブソンSGを使って。シミュレーターはユニバーサル・オーディオのUADプラグインなんですけど、それがすごく良くて。マーシャルをシミュレートしたプラグインをほとんど全編で使いました。さらにディレイならローランドの“SDE-3000”だったり、コーラスだったらBOSSの“CE-1”だったり、デジテックの“Whammy”とかその辺りを使って…あとはエレクトロ・ハーモニックスの“Memory Man”とか。
YG:アンプのプラグインに関しては、わりと後から設定をいじったりします? それとも掛け録りに近い感じで、とりあえず良い音で録れたら終了みたいなタイプですか?
AKIHIDE:僕はもう、録って終了ですね。何度もやり直したくないです。
YG:じゃあ普通にアンプにマイキングして録るのに、近い感覚ですね。
AKIHIDE:そうですね。ミックスはエンジニアさんにやってもらったんですが、「ギターの音、いいですね」って言ってもらいましたし。
YG:…というところで、では最後に読者のみなさんにメッセージをいただけると。
AKIHIDE:最近「ギター・ソロを飛ばす」とか、そういう話が色々あったりしましたけど…今作はシンプルにギターで綴ったアルバムであり、それがキャッチーさにもつながった作品でもあると思います。シティ・ポップ感もあるので懐かしさも感じられ、新しさもあると思いますし、聴きごたえがありながらも収録時間はすごく短いので聴きやすいはずです。ブックレットに色々と隠したものもありますし、とにかく色んな方に触れていただきたいですね。前向きに生きていくメッセージを込めた作品です。
INFO
リリース情報
UNDER CITY POP MUSIC / AKIHIDE
2022年10月26日発表
※初回限定盤には特典CD『UNDER CITY MIDNIGHT STREAM -432Hz-』が付属
収録曲
1. Elevator Song
2. UNDER CITY POP MUSIC
3. 電脳少女
4. 赤い鳥籠
5. サカサマの月
6. Spy Summit
7. 雪月花
8. Escape
9.Clapping in the Rain(※ボーナス・トラック、通常盤のみ収録)
公式インフォメーション
AKIHIDE OFFICIAL WEBSITE