スウェーデンが生んだ偉大なるエピック・ドゥーム・マスター:キャンドルマス。’18年に事実上のオリジナル・シンガー:ヨハン・ラングクイスト(ユアン・レングクイスト)を呼び戻し、その翌年、アルバム『THE DOOR TO DOOM』を引っ提げ来日公演も行なった重鎮5人組が、待ちに待ったニュー・アルバムを間もなくリリースする。『SWEET EVIL SUN』とタイトルされたこの最新作は、’86年デビューの彼等にとって13枚目のスタジオ・フルレンスだ。
現バンド・ラインナップは、ヨハン(vo)に加えて、ラーズ・ヨハンソン(ラーシュ・ユアンソン:g)、マッペ・ビョークマン(g)、レイフ・エドリング(b)、ヤン・リンドー(dr)で、これはスウェーデンから世界へ飛び出した’80年代当時とほぼ同じだったりする。まぁ、実際には活動停止期間があったり、ちょこちょこメンバーの異動はあったのだが、結局のところ元鞘というか、往年のメンツがまた揃ったのは、何らかの運命を感じずにおられない。
言うまでもなく、志向するサウンドもほぼ不変。『THE DOOR TO DOOM』を聴けば、エピック・ドゥームのパイオニアとしての矜持や威厳が、全曲から感じ取れるハズだ。ただヨハン復帰効果か、アルバム全体としてラフな生々しい感触があるのは見逃せない。40年近いキャリアを誇りながらも、未だマグマの如きエネルギーをメンバー全員が秘めていることも、アルバムの端々に漲っている。そんなまだまだ現役感バリバリな『SWEET EVIL SUN』について、リード・ギタリストのラーズに話を訊いた。
レイフの中に強力なヴィジョンが出来上がっている
YG:ニュー・アルバム『SWEET EVIL SUN』の制作に取り掛かったのはいつでしたか? その頃はまだ、メンバー全員で集まるのが難しいなど、コロナ禍の影響がありましたか?
ラーズ・ヨハンソン(以下LJ):レイフが曲を書き始めたのは、パンデミックが起こり、みんなが出来るだけ家にこもるようになった頃だったよ。最初の半年間は、俺たちもみんなお互いに会わないようにしていてね。でもスウェーデンでは、完全なロックダウンが行なわれることは一度もなかったんだ。
YG:今回も作曲はベースのレイフがすべて手掛けていますが、彼から新曲を提示される際、ギター・パートはどの程度仕上がっているのですか? あなたやマッペがアイデアを加える余地は残されていますか?
LJ:デモの段階から、いつだって全員が意見を言える状態だよ。ただ、既に80%は出来上がっているので、大抵はプロダクションに自分たちの色を付ける程度だね。
YG:新作収録曲の中で、アレンジ面などであなたのアイデアが盛り込まれている曲はありますか?
LJ:いや、特にないよ。作詞も作曲もレイフが手掛けるのが最良だということは、メンバー全員が思うところだから。勿論、彼から何らかの要請があれば手助けはするよ。でも、大抵は彼の中に強力なヴィジョンが出来上がっているんだ。まぁ俺もかつては、’92年作『CHAPTER VI』で作曲に携わったことがあった。何曲かレイフと共作したけど、悪くなかったと思う。もう随分と前の話だけどさ…。
YG:では、アルバムの方向性やサウンドについてメンバー全員で話し合うことはなく、レイフのヴィジョンをみんなで共有し、それを元にアルバムを仕上げていく…と?
LJ:少なくとも俺は、レイフが作る曲に関して、彼のヴィジョンを完全に信用しているよ。だから、ギターがダルいミックスになることも決してない。そもそも俺たちは、みんな耳が良いから、期待にそぐわない仕上がりになったら、すぐに気が付くしね。
YG:レコーディングはどのようにして?
LJ:全員でスタジオに集まったよ。いつもみんなで揃って…という感じではなかったけど。俺としては、今も(オンラインでのやり取りやリモート作業ではなく)スタジオに入ってレコーディングする方がしっくりくるんだ。
YG:今回もマーカス・イデルがプロデューサーとしてクレジットされていますが、彼もギタリストですよね? ギター・パートのアレンジや録音において、何か提案やアドヴァイスをもらうことはありましたか?
LJ:そうだな。彼とは長い付き合いで、これまでにもプロデューサーを務めてきたから、助言がある時は喜んで聞くよ。でも基本的には、俺に好き勝手やらせてくれる。「今のはまた別の角度からやってみたら?」なんて言われて、2テイク目を弾いたら、「ほ~ら、もうソロの出来上がり~」という感じさ。
YG:新作を聴いて最初に感じたのは、キャンドルマス特有のエピックで荘厳な面がやや減退し、良い意味でこれまでになくラフな仕上がりだということでした。ギター・サウンドも生々しく、荒々しく、刺々しくなっていると感じましたが…?
LJ:レイフはマーカスと一緒に、クールなギター・サウンドに仕上げてくれたと思う。その過程で俺たちもちょっと手を加えて、最終的にこうなったんだ。生々しく、重々しく、モダンでありながらオールドスクールでもある…という感じにね。
YG:『SWEET EVIL SUN』はヨハン復帰第2弾ですが、デビュー作『EPICUS DOOMICUS METALLICUS』(’86年)はシンガーが決まる前にもう楽曲が揃っていたし、前作『THE DOOR TO DOOM』は元々マッツ・レヴィンが歌うことになっていましたから、最初からヨハンが歌うことを想定して制作されたアルバムはこれが初ですよね? そのことがギター・プレイに何か影響を及ぼしましたか? それとも、シンガーが誰であろうとギター・パートには特に関係ありませんか?
LJ:俺には(誰がシンガーだろうと)そう違いはないよ。時々、歌メロからちょっと音を拝借して、それをソロに活かす程度だな。いずれにしてもヨハンとは、どんな場面でも非常に仕事がし易い…というのは間違いないね。
日本のギターをコレクションしているよ
YG:『SWEET EVIL SUN』のレコーディング使用機材を教えてください。ギターは複数本使いましたか?
LJ:ああ。フロイドローズ・トレモロ付きのフレイマス“XG L J Custom”、やはりフロイドローズ付きのギブソンSGスタンダードとトーカイのSTシェイプ、メキシコ製のフェンダー・ストラトなんかだね。トーカイとストラトのネックは、それぞれラリヴィー製とホスコ製だ。あと、ギブソン“SG Junior”も弾いたな。アコースティック・ギターは……ゴメン、憶えていないよ。
YG:その中にメインと呼べるギターはありましたか?
LJ:特にない。素晴らしいギターが山ほどあるから、その日の気分に合わせて選んでいるよ。まずは1本手に取り、その曲に合うかどうか確かめたり、音を確認するだけのことさ。(日本製の)トーカイ・ギターはかなりコレクションしているよ。俺にとって、他のブランドよりクールに思えるからね!
YG:特定のパートのために用意したギターはありましたか?
LJ:ギブソン“SG Junior”をバッキングの殆どで使った…ぐらいかな。
YG:アンプは何を使いましたか? 録音はキャビネットの前にマイクを立てる伝統的な方法で? それとも、プロファイル・アンプを使ったり、ドライで録ってリアンプした…ということは?
LJ:いやいや…、古い100Wのアンプをツマミ全開にして使っただけだよ。4×12のキャビネットを用意し、数ヵ所に異なる角度でマイクを立てて録ったんだ。
YG:エフェクターは昔ながらのペダルを? それとも、プラグ・インのみ? 「Black Butterfly」「Devil Voodoo」「Crucified」でのワウは何を使っていますか?
LJ:このアルバムで使ったのは、ジム・ダンロップのワウ・ペダルとトレブル・ブースターだけだよ。あとエコーは、卓のどこかに入っていたと思う。
YG:マッペの使用機材も、分かる範囲で教えてください。
LJ:フレイマスのギターを何本かと、ギブソンSGを1本だな。
YG:収録全曲のチューニングを教えてください。
LJ:いつもと同じC♯(全弦1音半下げ)だよ。
YG:レコーディング時、ギター・パートの振り分けはどのようにして? リズム・パートは全曲をマッペと2人で弾いているのですか? 「Devil Voodoo」や「Crucified」のアコはどちらが弾きましたか?
LJ:バッキングはいつも2人で弾いている。リフをより分厚くするために、また違った方法を採ることもあるけどね。アコースティック・パートも2人で分担しているよ。
YG:ソロは全曲あなたが?
LJ:うん。すべて俺が弾いている。
YG:ギター・ソロはどれも、まるで目の前で弾いているように生々しく捉えられ、録音されていますね? もしかして、どれもワン・テイクなのでは…と思ってしまうぐらいです。
LJ:最初のテイクでOKになることもある。でも大体は、3~4回ぐらいインプロヴァイズを繰り返すよ。
YG:キャンドルマスのサウンドは、’80年代から基本線は何ら変わっていませんが、やはり時期によって、またシンガーの違いによって微妙に感触が異なります。しかし、あなたのメロディアスなソロ・ワークは、良い意味でずっと不変ですね? 重く引きずるような曲想の中で、メロディアスなフレーズを組み立てていくのに、何か秘訣のようなモノはありますか?
LJ:そうだな…、まずはよく曲を聴き込み、そこからインスピレーションを得るんだ。それから、特に何かリクエストはないか…とレイフに確認もする。まぁ、いつも「好きに弾いてくれ」と言われるけどね。そこで、メロディックなモノとクレイジーなモノを組み合わせながら、面白いソロに仕上げていくのさ。あと、時々ブルージーなリックを合間に挟み込むこともあるな。
YG:『SWEET EVIL SUN』収録曲の中で、YG読者に特に注目して欲しいソロというと?
LJ:まずは「Wizard Of The Vortex」、それから「Sweet Evil Sun」、そして「Angel Battle」もだな。これらのソロでは、トーンのヴァラエティと情感豊かなプレイが同時に楽しめると思う。
YG:ところで、昨年トラブルのシンガー:エリック・ワグナーが亡くなり、追悼として「The Tempter」のカヴァーが公開されましたね? 彼の訃報から数ヵ月後にはもう公開されましたが、あれは急遽のレコーディングだったのでしょうか? バンド演奏はライヴ録音のようにも聴こえますが?
LJ: この曲はみんなよく知っていたので、スタジオに入って、そのままライヴで録ったんだ。まぁ、スタジオ・ライヴという感じかな。
YG:「The Tempter」のソロ・パートは、かなり自由に弾いていますが、オリジナルのニュアンスを残そうと工夫もしましたか?
LJ:原曲のソロのコピーはしていないよ。元のソロに感化はされたけど、自分なりのムードでただ感じるままに弾いていったんだ。
YG:では最後に、『SWEET EVIL SUN』に伴うツアー計画について教えてください。
LJ:長期のツアーはもうやらないけど、来年はたくさんプレイしに出ていくことになると思う。
YG:再来日公演の予定は?
LJ:日本には是非また行きたいと思っている。親切な人たちのいる素晴らしい国だからね!
YG:楽しみにしています。ありがとうございました!
LJ:(日本語で)アリガトウ、タノシカッタ!!
INFO
日本盤 公式インフォメーション
Candlemass – Avalon Label|Tokyo Japan
インタビュー●奥村裕司 Yuzi Okumura 写真提供●マーキー・インコーポレイティド/アヴァロン、Napalm Records