五人一首、15年ぶりのフル・アルバム『死人贊歌』は「じっくり聴き込んで頂ける作品になった」

五人一首、15年ぶりのフル・アルバム『死人贊歌』は「じっくり聴き込んで頂ける作品になった」

暗黒情念に満ちたサウンドにて、国内シーンでもとびきり特異な存在感を放つ五人一首が待望のニュー・アルバムをリリース! 死んでは生き返り、生き返っては死ぬ…を繰り返してきた超ド級の個性派バンドは、ここしばらく沈黙を続けていたが、どっこい生き延びていたのだ。『死人贊歌』とタイトルされたサード・フルレンス作は、前作『内視鏡世界』から実に約15年半振りとなる。プログレッシヴ・ロックとデス・メタル、スラッシュ・メタルとチェンバー・ロックを“和”のエッセンスで独自融合させたそのサウンドは、さながら百の鬼が夜を行くかの如し。完成までに約7年を要したその『死人贊歌』について、ヴォーカル兼ギタリストの松岡あの字とリード・ギタリストの高橋“ふーみん”史男に話を訊いた…!!

“レコーディング=アレンジ確定”ですね

YG:前作『内視鏡世界』から新作『死人贊歌』のリリースまで、15年以上もかかったのはどうしてだったのでしょう?

高橋“ふーみん”史男:メンバー各自のスケジュール調整の難しさ──それに尽きるかと。実を言うと、ドラムは2日間で録り終えたし、俺の(ギター)録りも総日数で10日間あったかどうか…という感じだったんです。ただ、それをいつやるかとなると…。(プロデューサー&エンジニア的な役割を果たした)百田(真史:key)のスケジュール調整が必須で、俺個人はいつでも大丈夫っちゃ大丈夫だったものの、百田の予定がなかなか空かなかったりもしたんですよ。

松岡あの字:あと、いざレコーディングを始めても、まだ完成していない曲があったしね。

ふーみん:それに、みんな色々と多忙で、いつの間にかどんどん時間が過ぎ去っていって…という感じでもあって。

あの字:ぶっちゃけ、みんな音楽で生計を立てていないので、どうしても日常のあれこれが優先になってしまうんですよ。

五人一首:松岡あの字
五人一首:高橋“ふーみん”史男

YG:今回もすべての作曲を手掛けたのは百田さんだったそうですが、彼が新曲を他のメンバーに提示する際、どの程度ギター・パートは決まっているのですか?

あの字:最初は大体ピアノだけで、それを百田が各パートに分解し、アレンジしてから各メンバーにMIDI(音源)が送られてくるんです。

ふーみん:その時点でもう、歌以外の全パートがガッツリ作り込んであって、「ふーみんはコッチね」って、パート分けについても添えられてます。ただ自分としては、それを聴いて「このフレーズならこんなニュアンスで弾こう」とか、「このパートは俺なりに変えちゃって大丈夫かな?」といった感じですね。結果、スタジオで合わせる時に、自分なりに変えたフレーズが採用されている場合もあります。

あの字:私は譜面が読めないので、MIDIで出された譜面と実際の音とをにらめっこしながらTAB譜にしていきます。でも、一曲々々が長いから、曲が成熟するまでに結構時間がかかってしまうし、色々と試した結果、百田の思惑通りになることが多いですね。

五人一首:百田真史

YG:ギター・パートの振り分けは、あらかじめ百田さんの方で決めてあるのですね?

ふーみん:そう。だから、あの字とあれこれ相談するってことは特にないです。前作では「斜眼の塔」のように、鍵盤とラフなドラムだけのデモがまずあって、ギターとベースを各自が好きなように付けていって、それを百田が整理する…といったパターンもあったんですけど、今回そういうのはなかったですね。リハの段になってから、「ここのパートに何か入れて」って言われることもあるし、逆に、「この曲のオブリガート的に入っているフレーズは完コピで」と指定されることもありましたけど。

あの字:ふーみんが「やだな〜」って言ってたオブリガートは、大体「完コピで」って指定があったヤツという(笑)。

YG:あの字さんは、弾きながら歌うことを想定してギター・パートを変えることもありますか?

あの字:全く想定しないです。飽くまで楽曲優先で歌メロを付けるから、弾きながら歌えるかどうかは特に考えません。まぁ、あとで盛大に後悔することも多いんですけどね(苦笑)。「ギターは〇拍子で、歌は×拍子で分けてやってます!」と言いたいところですが、とにかく譜面のリズムも読めないんで、完全に感覚で作ってます。この隙間にこの音が入るとカッコいいかどうか…だけですね。正直、弾きながら歌う練習はかなりツラいです〜。

YG:『死人贊歌』収録曲は、ほぼ全曲ライヴで先行して披露されていましたが、時期を経て細かなアレンジなどが変わっていくこともありますよね? そういった時は、どのタイミングで「これにて完成!」と確定するのでしょう?

ふーみん:「そして無に帰す」なんかは、ライヴで長いことプレイしていく中でアレンジがほぼ固まっていったんで、レコーディングする際も自然に弾けましたが、まさに録っているその場で、百田から「こんなん入れて」と注文が付いて変更になる場合もあるので、要するに“レコーディング=アレンジ確定”ですね。中には、ライヴでの演奏回数が少ない曲もありましたけど、大筋はデモの段階で固まっているので、「これで録っちゃって本当に大丈夫?」みたいなことにはなりません。

YG:ギター・パートのレコーディングは、それぞれいつ行なったのですか?

ふーみん:5〜6年前ぐらい…だったかと。

あの字:ギターは2人とも同時期に録りました。

YG:レコーディングでは、全曲の全パートを2人で弾きましたか? バンドによっては、リズム・パートなどをタイトに仕上げるために、どちらか一方がすべて弾くこともあるようですが、五人一首の場合はどうでしょう?

ふーみん:すべて2人で弾いてます。お互いやっている内容が全然違うことが多いんで。相手のパートがどうなのか知らないことも多いし(笑)。

あの字:基本、右(トラック)がふーみんで、左は私です。

YG:では、『死人贊歌』のレコーディング使用機材をそれぞれ教えてください。

ふーみん:エレクトリック・パートは、クリーンも歪みもシェクター“DIAMOND”シリーズの7弦“BLACK JACK SLS”をストックのままで弾きました。他のギターは一切使ってません。アコ・パートは、あの字所有の7弦を借りて。

あの字:私もシェクターのJGシェイプ“AR-07”1本です。ピックアップをセイモア・ダンカンに載せ替えています。アコはアイバニーズ“ARTWOOD”シリーズの“AW7011”で、「然るべき闇夜へ」と「弔いの月が啼く」で弾きました。

五人一首:松岡あの字

YG:ふーみんさんは、元々他のギターで録っていたテイクを、あとからシェクターで録り直した…と聞きましたが?

ふーみん:最初に録ったギターは、ブリッジがフローティングになっていて、ブリッジの機構上、オクターヴ・チューニングが面倒かつシビアで、鍵盤と一緒に音を出した時、ごくわずかでもチューニングのズレがあると、結構目立つんですよ。それで、ちょうどアームレスのシェクターを手に入れたのもあって、これはもう「全部録り直しましょう」となりました。

YG:アンプは何を使いましたか? マイクを立ててキャビネットの音を拾う、昔ながらの方法ですか? それとも、ドライで信号を録ってあとからリアンプしましたか?

ふーみん:プリアンプはエングルの“TYPE620”で、パワーアンプはメサブギーの“90/90”です。どっちも古〜いヤツ(笑)。それを百田所有のサイレント・キャビにつないで、マイキングして録りました。同時にギターの生音もラインで拾っていたんですが、それはクリーン・パートでアンプの音とミックスしてます。リアンプはしてない…よね?

あの字:うん、してない。私はプリアンプとしてメサブギーの“TriAxis 2”を使って、パワーアンプはふーみんと同じです。キャビも同様で、これは百田の自作。前作のレコーディングで使ったエレクトロ・ヴォイスの(スピーカー・)ユニットが飛んじゃったんで、メサブギーの“Black Shadow”4発のキャビをベースに、(スピーカーを)1つ付け替えて録りました。

五人一首

YG:エフェクターは何を?

ふーみん:「毒薬と再生」の中間部のクリーンで、“Spring Reverb”(コルグ“GR-1”)を使ってます。ジョン・ロードがハモンドを揺らして“ビシャ〜ン!”ってノイズを出している手法と同じです。録ってる最中、パートの最後あたりで、それまで背中を向けてた百田が突然こっちに振り返って、「えっ?」って思った瞬間、床に置いてたリヴァーブを足で“バン!”って踏みつけて、爆発音みたいな音が出てビビった記憶があります(笑)。ラフ・ミックスの時点では、もっとハッキリ聴こえていたんですけど、完成品だと、よ〜く聴かないと分からないかも。

あと、「然るべき闇夜へ」のワウ・ペダルっぽいパートは、百田所有の1バンド・パラメトリックEQ(プロビデンス“WEQ-1”)を使いました。ワウのイメージを百田に伝えて、フレーズ中、リアルタイムで彼にグリグリと操作してもらったんです。このやり方は、『内視鏡世界』の頃からのこのバンドの伝統ですね(笑)。その他の様々な場面における空間系エフェクトは、ミキシング段階での後掛けなので、詳細は分からないです。

あの字:私はシンプルに、EQとか含め全部“TriAxis 2”だけ。空間系エフェクトは、百田がミックス時に好きに出来るよう、すべて卓上で加えています。

YG:五人一首といえば、E-Bow使いも特徴的ですが、今回はどうでしたか?

ふーみん:結構、使ってます。まず、「傀儡の造形」と「毒薬と再生」のイントロ。「毒薬と再生」は歌バックでのロング・トーンと、クリーン・パート中のロング・トーンも。ライヴだとかなり忙しいです(笑)。それから、「弔いの月に啼く」の5分30秒あたりからのロング・トーン・パートでも使いました。

あの字:E-Bowを使ったのは、「傀儡の造形」のヴォーカル・パートのクリーン・バッキング、「然るべき闇夜へ」のヴォーカルのバッキング、あと「弔いの月に啼く」にも、E-Bowと歌が二旋律になるところなどにクリーンと歪みの両方で入ってます。これは歌の入りとズレて入るので、迷ったらおしまいですね(笑)。

YG:結果的に、お2人とも(モデルは違えど)シェクターに統一されましたが、それぞれのギター・サウンドは似せていますか?

ふーみん:そこはお互い、意識はしてないんじゃないですかね? そもそもアンプのキャラが全然違いますし、どっちかに“寄せてる”感はないです。“自分なりの轟音を出す!”って感じかな。

あの字:うん。特に意識はしてません。ふーみんは音がデカいので、打ち消されないように、丸く太っちょな音で「私も弾いてますよ〜」「ここにいますよ〜」的な音作りにしてますけど(笑)。

YG:全曲のギターのチューニングは?

ふーみん:スタンダード・チューニングですが…結構前に“バズ・フェイトン・チューニング・システム”という、ギターのイントネーションをかなり正確に合わせられるシステムが話題になりましたよね? それを解析してストロボ・チューナーで再現し、鍵盤との音の混ざりを違和感なくしてます。

YG:百田さんがメインで弾くカーツウェルの鍵盤に合わせて、低音弦と高音弦のピッチをセント単位でずらしているとか?

ふーみん:そう。ノーマルなギター・チューナーの感覚からすると、低音弦側は気持ち低めに、高音弦側は気持ち高めに…って感じですね。

五人一首:高橋“ふーみん”史男

YG:ギター・ソロの振り分けはどのようにして?

ふーみん:今回は全曲、俺が弾いてます。デモの段階からそんな感じだったし、やっぱり(あの字は)ヴォーカル兼任の上にソロも…となると、しんどいんじゃないかなぁ…と。あと、「俺がリード・ギターだ!」みたいな感覚もありますし(笑)。

あの字:オイオイ、私も弾いてるし! 「弔いの月に啼く」の最後のところ(14分54秒あたりから)の左チャンネルで…!!

ふーみん:あれ…そうだった! ゴメン!!(苦笑)

YG:ところで、アルバムの完成までにこれだけ時間がかかると、改めて録り直したいところが出てきたりしませんでしたか?

ふーみん:正直、完成版を聴いてそういう気持ちになるところもなくはないです。でも、言い出したらキリがないし、何より…弾き直すなんてイヤですね〜(苦笑)。

あの字:経年劣化も含めて“五人一首の音”だと思ってますから…(笑)。

YG:新作の中で、それぞれYG読者に注目して欲しいプレイを挙げてください。

ふーみん:「傀儡の造形」のソロですね。あの曲はライヴをやる中で仕上げていって、レコーディングの時点では、すべてのパートが俺の中で“完成品”だったんですよ。なので、ひたすら速くソロを弾いてますけど、それもあの曲の中での俺の表現として固まったモノなんで、自分としては凄く思い入れがあります。

あの字:やっぱり「弔いの月に啼く」かな。唯一、ソロもあるし(笑)。バッキングに関しては、「然るべき闇夜へ」のクリーンの使い方が多様で、面白いかな…と思います。

YG:では最後に、今後の予定を教えてください。今はコロナ禍で、ライヴ/ツアーを行なうのが難しい状況にありますが、例えば配信ライヴなど、何かレコ発的なことは考えていますか?

ふーみん:全っ然っ決まってない…というのが現状です。せっかくアルバムが出たんだから、レコ発ライヴもやりたいですけど…。まぁ、このご時世なんで、なかなか予定は組めないですよね。とはいえ、五人一首には長くて面倒な曲が多いから(笑)、今のうちにじっくり聴き込んでもらって、いつか行なわれるライヴに備えてもらうのに、ちょうど良いんじゃないですか?

あの字:いや〜、まさか15年もかかるなんて思ってもいませんでしたが(苦笑)、ふーみんも言うように、じっくり聴き込んで頂ける作品になったと思います。いつかライヴでみなさんにお会い出来る日を楽しみにしてま〜す!!

五人一首
五人一首[L. to R.]松岡あの字(vo, g)、高橋“ふーみん”史男(g)、山口 岳(dr)、百田真史(key)、大山徹也(b)

INFO

五人一首 - 死人贊歌
『死人贊歌』
五人一首

CD | B.T.H. Records | 2020年12月4日発売

五人一首 公式ウェブ
https://www.gonin-ish.com/