マグナス・カールソン:ハート・ヒーラーの劇的デビュー・アルバムに迫る!

マグナス・カールソン:ハート・ヒーラーの劇的デビュー・アルバムに迫る!

プライマル・フィアやザ・フェリーメンなどで、ギタリストとしてだけでなくソングライターとしても才気を揮っているマグナス(マグヌス)・カールソン。近年では、自らの名を冠したマグナス・カールソンズ・フリー・フォールでも作品リリースを続けている彼が、またもや新たなプロジェクトを立ち上げた。女性シンガーを多数起用し、壮大なスケールで迫るメタル・オペラ・プロジェクト──その名もハート・ヒーラー。その構想からアルバム完成までについて、マグナスにたっぷり語ってもらった…!!

美しくユニークな歌声を基準に7人を選び出し、役に合わせた

YG:ハート・ヒーラーの構想はどのようにして生まれたのですか?

マグナス・カールソン(以下MK):オーケストラ主体で壮大なアレンジの作品がやりたくなったんだ。それがキッカケだったね。僕はこれまでに、沢山の偉大なシンガー達とアルバムを制作してきた。でも今回は、メタル・アルバムというより、映画音楽に近いようなアイデアを持っていて、女性シンガー主体の曲を書こうと思ったのさ。

YG:素朴な疑問なのですが、これは“HEART HEALER”がアーティスト名で、“THE METAL OPERA BY MAGNUS KARLSSON”がアルバム・タイトルでしょうか? それとも、“HEART HEALER – THE METAL OPERA BY MAGNUS KARLSSON”がアーティスト名でもあり、アルバム・タイトルでもある…と思ってイイですか?

MK:う〜ん…難しいな(苦笑)。これはバンドではなくて、まぁプロジェクトなんだけど──“HEART HEALER”はプロジェクト全体を表わし、“THE METAL OPERA BY MAGNUS KARLSSON”は副題、あるいは“見出し”かな? でも、実は僕自身も正解が何か分かっていないんだ(笑)。

YG:曲作りはいつ頃から始めましたか? 元々フリー・フォールやその他のプロジェクト用に書いた曲を流用したり、過去に書いたアイデアを引っ張り出してきたり…といったことは?

MK:曲を書き始めたのは’19年の11月頃かな。他のプロジェクトからの流用はないよ。どの曲もすべて書き下ろしだ。僕はいつも、それぞれのプロジェクトやバンドを他とは切り離して考えているし、どれも少しずつ違ったスタイルにしている。それに、思い付いたアイデアは基本的に使い切るんだ。もし何か残っていたとしても、それって使うのに充分ではなかった…ということだからね。

YG:曲作りは、ギターとキーボードのどちらで行なうことが多いですか?

MK:半々かな。同時に歌のアイデアも考えるよ。

YG:“The Metal Opera”といえば、トビアス・サメットのアヴァンタジアが思い出されますが、影響されたり、意識したり…ということは? また、他にお手本にしたバンドやプロジェクト、作品はありましたか?

MK:インスピレーションとなったのは、クラシックと映画のサントラが主だな。僕は映画音楽やゲーム音楽が大好きだからね。メタルとオーケストラをミックスする方法を本当によく知っているバンドとしては、ディム・ボルギルを挙げたい。彼等のやっていることは、僕が書く音楽よりもずっと激しいけどね。

YG:アルバムには7人のシンガーが起用されていますが、どのようにして選んでいったのでしょう?

MK:自分の中にも候補があったけど、所属レーベルのフロンティアーズ・ミュージックからも膨大なリストが送られてきたんだ。僕としては、ただ素晴らしいシンガーを集めただけ…という風にはしたくなかった。様々なスタイルを盛り込み、変化を付けたかったんでね。

YG:ハート・ヒーラーの物語について、登場人物なども含めて簡単に教えてください。

MK:物語は──主人公の“ハート・ヒーラー”が目覚めたら、彼女は記憶喪失になっていて、自分が誰なのか分からない…というところから始まる。彼女はその後、触れただけで人を癒すことが出来る特殊な能力に気付くんだけど、その力を使うと、どんどん弱っていってしまうんだ。そして彼女は、自分探しの旅の途中で、自分を助けてくれる人、自分を必要とする人、その力を恐れる人と出会い、そうしたことによって様々に影響を受けていく…というストーリーになっているよ。

YG:アルバム・ジャケットに描かれているのが、主人公のハート・ヒーラーなのですね?

MK:うん、そうだ。彼女を演じるのはセヴン・スパイアーズのエイドリアン・カワンで、他のシンガー達は旅の途中で出会う人々さ。何人かは1人2役以上をコナしてもらっているよ。

YG:7人のシンガーについては、あらかじめ明確なイメージを持って配役を決めていったのですか? それとも逆に、まず起用したいシンガーを選び、それに合わせてキャラクターを創造していったのでしょうか?

MK:それぞれのシンガーは、その美しくユニークな歌声を基準に選び出し、ストーリーの中の役に合わせたパート作りをしていったんだ。

YG:7人のシンガー全員について、起用のキッカケやどこが気に入ったのか…などを教えてください。まずは、先述のエイドリアンから。

MK:彼女こそ、このオペラの主役だ。驚異的なレンジを持った、美しい歌声の持ち主だね。実は以前、別のプロジェクトで彼女の起用を考えていたことがあってさ。今回、遂に歌ってもらえることになって嬉しかったな。

Adrienne
Adrienne Cowan(SEVEN SPIERS)

YG:バトル・ビーストのノーラ・ロウヒモは?

MK:僕は前から彼女のファンなんだ。幸運にも、フリー・フォールの最新作(’20年『WE ARE THE NIGHT』)で歌ってもらうことが出来たんだけど、ブッ飛んだね。勿論ハート・ヒーラーでも、彼女のパフォーマンスは正に驚愕だった。

Noora Louhimo
Noora Louhimo(BATTLE BEAST)

YG:ヨウムナ・ジェレイサーティは、レバノンのプログレ・メタラー:OSTURAのシンガーですね?

MK:彼女は新顔のひとりで、フロンティアーズが用意した長いリストの中から見付け出したんだ。クラシック・スタイルのシンガーを探していたから、彼女は完璧だったね。美しくユニークな歌声の持ち主だ。

Youmna
Youmna Jreissati(Ostura)

YG:元ナイトウィッシュで現ザ・ダーク・エレメントのアネッテ・オルゾンは?

MK:彼女とは以前に、アレン/オルゾンのアルバム(’20年『WORLDS APART』)で仕事をしたことがある。ABBAに通じるような、ポップでメタルな素晴らしい声を持っているよね。そこが気に入っているよ。

Anette Olzon
Anette Olzon(THE DARK ELEMENT、ALLEN/OLZON、ex-NIGHTWISH)

YG:フィンランド出身のネッタ・ラウレンネはどうでしょう?

MK:彼女が所属するSMACKBOUNDを聴いてみて、凄く気に入ったんだ。素晴らしいロック・シンガーというだけでなく、色んなスタイルが歌いコナせて、力強くエモーショナルな歌声の持ち主だよね。

Netta Laurenne
Netta Laurenne(SMACKBOUND)

YG:元シレニアで現HER CHARIOT AWAITSのアイリンはスペイン出身ですね?

MK:彼女は最大のサプライズだったよ。シレニア時代からお気に入りだったけど、今回歌ってもらったら、以前とは全く違っていて、アレンジを効かせた素晴らしいハーモニー・ヴォーカルが最高だったな。

Ailyn
Ailyn(HER CHARIOT AWAITS、ex-SIRENIA)

YG:最後は、エッジ・オブ・パラダイスのマルガリータ・モネ。

MK:彼女は正に、僕が探し求めている“ユニークなシンガー”そのものだった。ウィスパー・ヴォイスからパワフルな熱唱までコナせるエモーショナルなスタイルは、こうしたプロジェクトに最適だな。

Margarita
Margarita Monet(EDGE OF PARADISE)

ギターが他の楽器とどう調和しているかに注目して欲しい

YG:レコーディングはどのようにして行ないましたか?

MK:自宅スタジオ“Stuntguitar”で全曲のデモを作り、それを世界のあちこちにいるシンガー達へ送って、それぞれで歌録りをやってもらい、その音源を集めて仕上げていったよ。メロディー・ラインを伝えるために、デモでは自分で歌ったんだけど、女声のKeyに合わせるのは大変だったな。実際、ビー・ジーズのメタル・ヴァージョンみたいな酷い出来になってしまってさ(苦笑)。でも、みんなプロフェッショナルなシンガーばかりだから、僕の意図をちゃんと汲んでくれたよ。自分のパート(ギター、ベース、キーボード)に関しては、ドラム録りのあと、バンド感を出すためにレコーディングし直している。クリックではなく、生のドラムに合わせて録音すると、演奏に一体感が出るからね。

YG:ドラマーには、フリー・フォールでも叩いていたアンダース・コラーフォルスが起用されていますね?

MK:彼とはこれまでに5作品をコラボしてきたよ。初めて彼を起用したのはスターブレイカーのアルバム(’19年作『DYSPHORIA』)で、今ではもう“チーム”と呼べる仲になっている。彼は普段、フュージョンやロックをプレイしてるけど、素晴らしいメタル・ドラマーでもあるんだ。

YG:では、今回のレコーディングでのギター周りの使用機材を教えてください。ギターは複数本使いましたか?

MK:いや、アーニーボール・ミュージックマンから出ているスティーヴ・モーズのシグネチュア・ギター“Steve Morse Model”の1本だけだよ。ずっとスティーヴのファンで、いつかはあのギターを…と思っていてね。数年前、一度も試奏しないでドイツから取り寄せ、遂に手に入れたんだ。ピックアップがたくさん搭載されいている、青いモデルだ。あらゆる音色を出すことが出来て、正にパーフェクトなギターだよ。今ではこのギターしか弾いていない。ハート・ヒーラーでも、すべてのギター・パートを弾いたよ。

YG:アンプはどうでしょう? キャビネットにマイクを立てて音を拾う昔ながらの方法ですか? それとも、ドライで録ってあとからリアンプしましたか?

MK:いつもドライで録音し、エングルのモデルをケンパー“Profiling Amplifier”にプロファイリングして使っている。リアンプはしていないよ。狙ったトーンや雰囲気を出したい時は、ウォーム・オーディオ製の真空管内蔵EQと、年季もののアメック製チャンネル・ストリップ型エフェクト“Channel In A Box”――最高のEQが入ってるんだ――を組み合わせて使っている。レコーディングでは毎回、ベーシックなサウンドにこだわる。まずはリズム・パートをしっかり作り、リードは中音域を強調するんだ。ディレイやリヴァーブに関しては、“Pro Tools”を使ってあとから調整することも可能だからね。よって、一切エフェクトをかけないまま(エンジニアの)シモーネ・ムラローニへ送り、ミキシングの際、彼が必要に応じて自由にエフェクトを加えることもあるよ。

YG:各曲のギター・ソロは、ネオ・クラシカル・スタイルのシュレッド主体ですが、「Who Can Stand All Alone」や「Weaker」のように、テクニックよりもメロディー重視といったモノもありますね? 「この曲では弾きまくってやろう」「ここは少し抑えめで」といった弾き分けは、どのようにして行なっているのですか?

MK:その曲に合うソロを念頭に置いている。メロディックにプレイするために、時々自分でソロを口ずさむこともあるよ。少なくともひとつは、一緒に口ずさめて覚えられるソロがある…というのを目標にしているんだ。速弾きするのは簡単だけど、やっぱり弾きまくることよりも、最高のサウンドとメロディーこそが大切だね。

YG:フリー・フォールやプライマル・フィア、ザ・フェリーメンなどとハート・ヒーラーでは、プレイ・スタイルを変えていますか? それとも、どんなバンド/プロジェクトでも同じ姿勢、同じ気持ちでプレイしていますか?

MK:例えばプライマル・フィアの場合、他にもギタリストが2人(アレックス・バイロット&トム・ナウマン)いるから、ソロは短く、ハーモニー重視になる。でも、自分のプロジェクト──特にフリー・フォールでは、より長く構築されたソロを弾くことが出来る。でも、楽曲に対して良い効果をもたらすことが出来るのなら、僕はそれだけで幸せなんだ。単に次のサビへのつなぎでしかなかったら、退屈なだけだけどね。

YG:ハート・ヒーラーのアルバムで、特に注目して欲しい点というと?

MK:ギターが他の楽器とどう調和しているか…だね。今回の作品では、すべてを壮大にするため、ギターだけではなく、ベースもドラムもヴォーカルも、そしてオーケストレーションまで、とにかく全パートに全力を注いだ。しかし、どのパートもずっと100%で鳴り続けるなんてことは現実的じゃない。時には、ある楽器に空白の時間を設けて、他の楽器にスペースを譲ったり…といったことも大事になってくる。でもそれって、口で言うほど簡単なことではないんだよ。例えばギターだと、低音弦でメロディーを鳴らす時は、濁った音にならないようコードを工夫したり…とか。実際、アレンジの過程では様々に試行錯誤を繰り返す。すべての楽器、すべての音が重要なんだからね。

YG:ところで、アルバムは「This Is Not The End」という曲で締め括られますね? これは続編の計画もあるということでしょうか?

MK:それはフロンティアーズ次第さ。僕としては、そうしたいと思っているけどね。

YG:7人もシンガーがいると、なかなかライヴ再現は難しそうですが、今後、何か計画はありますか?

MK:出来ることなら、オーケストラと一緒にライヴ再現してみたい。まぁ、そんなに簡単に出来ることではないから、今は全くの白紙状態だけど。でも、アルバムが大成功したら不可能ではないかな…。

YG:ちなみに、あなたは昨年(’20年)、フリー・フォール、プライマル・フィア、そしてアレン/オルゾンでアルバムをリリースしましたが、それから間を空けず、今年また新たにハート・ヒーラーが登場して──その多作ぶりには本当に驚かされます。常にアイデアが湯水のように湧いてくるのですか? 所謂スランプに陥ったり、“産みの苦しみ”を味わったことはないのでしょうか?

MK:きっと僕は作曲中毒なんだろう。何年か前、休暇を取ろうとしたこともあったよ。でも、1週間ぐらいしたらガマン出来なくなって、スタジオに入るや新しいプロジェクトをスタートさせていたんだ。アイデアはいつだって浮かんでくる。作品化されているのは、僕の頭の中にあるアイデアの10%程度じゃない? おかしなことに、書けば書くほどアイデアがどんどん湧いてくるのさ…!

マグナス・カールソン  4

INFO

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