2015年に東京で結成された、ガールズ・ラウド・ロック・シーンの若き精鋭“花冷え。”! ユキナ(vo)、マツリ(g, vo)、ヘッツ(b, cho)、サエ(dr)から成る4人組で、メタルコア、ハードコア、ラップ、そしてJ-POP等々のエッセンスを取り入れた新世代のミクスチャー・サウンドに、今、大きな注目が集まっている。そして、2021年1月に発表した1stフル・アルバム『乙女改革』がロング・セールスを続ける中、今年4月には最新ナンバー「LOVE♡乱舞」をデジタル・リリース。硬軟織り交ぜたすこぶるキャッチーかつヘヴィな独自のスタイルはさらに研きがかかった印象だ。
まさに現在は、次なる新たな展開に向けて引き続き制作活動を続けているバンドより、リーダーでありソングライターのマツリを単独でフィーチュア。ヤング・ギター初登場となる彼女に、花冷え。のことはもちろん、音楽的背景やギタリストとしてのパーソナリティも含めてじっくりと語ってもらった。
前編はこちら。
『乙女改革』ぐらいから、考えて曲を作るようになりました
YG:そして、活動を続けてきて、2021年リリースのアルバム『乙女改革』がバンドとして大きな節目となったと思いますが。
マツリ:まさにそうです。今振り返れば、リリースから1年ぐらい経っているので、もっとこうしたいなという部分はあるんですけど、当時の自分たちが作れる最大限の力を発揮した1枚になっているなと思います。
YG:ラウドなサウンドやシャウトが轟く中でマツリさんのクリーン・ヴォーカルも大きくフィーチュアされていて。いわゆるボイトレ的な経験はあるんですか?
マツリ:いえ、特にそういうことはしたことがなくて。あの…高校生の時にカラオケにめちゃめちゃ行きまくっていて、とにかく歌うことが好きだったんですよね。友達と行くこともあれば、1人で行くことも結構あって。高校の近くにかなり安いカラオケ屋さんがあって、これもまたTSUTAYAと同じで、本当に毎日のように行っていたんです。採点式の音程バーをずっとつけっぱなしにして、ひたすら歌い続けて点数を見るという…その時の経験が歌を鍛えることになったのかな…とは思いますね。今は改めて、ちゃんとボイトレにも通ってみたいと思いますけど。
YG:なるほど。アルバムには様々なタイプの曲が入っていて、ラップをフィーチュアしたヘヴィ・ミクスチャーもあれば、一方で「SUNRISE味噌SOUP」や「センチメンタル☆ヒロイン」「Invisible wall」にはハードコア的疾走パートが良いフックになっていますが、マツリさんにとって“速さ”は重要な要素だったりします?
マツリ:そうですね。速い曲が多すぎても…とは思いますけど、だいたいがテンポ(BPM)160~200ぐらいの曲が多いんです。自分がパンク好きだったというのがあるかもしれないですけど、みんなのテンションが上がるようなラインの曲をと──こういうジャンルの中でヒットしてる楽曲のテンポや、人間が走りながら聴いている時に心地よく思うテンポとかを調べると、結構そういう記事が出てくるんですよ。そんなところを研究しながら作ったり、BPM200超えの曲があってもいいなと思って作ってますね。
YG:曲作りをする上では、感覚派というよりは、計算して作っていくタイプですか。
マツリ:ああ、今はそうかもしれないです。一番最初は感覚でしか作れなかったですけど、『乙女改革』ぐらいから結構考えて作るようになりましたね。
YG:曲の展開も多いですから、パズルを組み合わせていくようなイメージで?
マツリ:そうですね。『乙女改革』の時期はジェットコースターみたいにめまぐるしい曲が欲しくて作っていたので、一度作り終えた後に構成を切り貼りして変更してみたりとか。10曲ある中で印象がカブらないように、じっくりと考えて作り込んでいきましたね。
YG:そうした変化球的なものを求める一方で、「Want to TIE-UP」のような正統派のコード進行を持った曲もマツリさんの好きな要素ですか?
マツリ:そうですね。私、アニメが好きで、アニソンもすごく好きだったんですよ。なので、いわゆる王道の構成もすごく好きで、そういう曲が花冷え。の中にあってもいいなと思って作った曲ですね。
YG:では、マツリさんのギター・スタイルのこだわりは?
マツリ:ギターが1本なのもあり、リード・プレイみたいな細かい箇所が多すぎるとライヴでスカスカに聴こえてしまうので、バッキングと単音の細かいフレーズを弾く比重はすごく考えてますね。同期で少し重ねたりすることもありつつ、曲によりますけど、基本的にはバッキング6~7割ぐらい、単音のフレーズは3~4割ぐらいですね。
YG:なるほど! いわゆるメタルコア的な単音リフを出してくるサジ加減もマツリさんの中での黄金比率に基づいていたんですね。
マツリ:ええ、そうです。で、サビは完全に自分が歌いやすいようにコードだけ鳴らす形にして。シャウトがガンガンにフィーチュアされて、ベースがわりとルート音をたどってる時には、ギター側でフレーズを織り交ぜてみたりとか。他の楽器や歌が何をやっているかのバランスを見ながらギター・パートは決めてますね。
YG:そして、花冷え。にとって、プロデューサーである田浦 楽さん(Crystal Lakeのドラマー)との出会いも大きかったと思いますが、どのような関わり方で作業を進めてるんでしょう?
マツリ:楽曲プロデュースをしていただいてるんですけど、基本的に曲の方向性は全部メンバー自身で決めていて、その曲をさらにパワー・アップさせる作業を一緒にやっている…主に私と楽さんでスタジオに入って、話し合いながら作業をみっちりやるということが多いですね。「こういうのはどう?」って、私の引き出しにない新しいエッセンスを与えてもらうような作業がほとんどでした。ギター・リフに関しても、「もうちょっとこういう風にしてみた方がカッコいいかもね」っていうやり取りを、2人でギターを持ちながら進めていったりして。
YG:シーンの大先輩ですから、こちらが伝えたいことはすぐに理解して返ってくるような?
マツリ:ただ、それがスムーズにできるようになるまでには、1年ちょっとぐらいかかりましたね。お互いの意図をスッと汲み取れるまでには結構苦戦しました。最初は私たちの技術も全然ない下手くそな頃に拾ってもらったような状況だったので、楽さんがやりたいことを、その頃の自分たちがどう表現するのか、どう曲に落とし込むのかを相談しながら進めていたものの、私たちが形にしたものが楽さんの意図とは違ったりとか…すれ違いも度々あって。お互いに探り合いながらやっていた時期を経て、2019年に「L.C.G」をリリースしたあたりでガチっとハマった印象がありますね。
YG:『乙女改革』リリース後はバンドを取り巻く状況も変化してきたと思いますが、どういった場面でそれを実感します?
マツリ:「我甘党」のMVを公開した時に、海外の方のリアクション・ビデオがたくさんアップされるようになって、その辺からYouTubeのコメント欄の書き込みが増えたり、Twitterでタグ付けして下さったり、Instagramとかで海外の方のコメントを目にするようになって、海外での反響は感じましたね。日本の方の反響はライヴハウスで動員が増えてきたり、それこそ「海外のリアクション・ビデオを観たよ」って言ってくれる人も結構いて広がりを感じてます。日本語詞だったので、まさか海外の方にウケるとは思ってなかったんですよ。だけど、良いリアクションを目の当たりにして、楽曲上の言語はあまり関係なく、純粋に楽しく曲を聴いてくれているんだなって思ってからは、“日本/海外”みたいに分けて考えることはなくなりましたね。日本だけじゃなく、コロナ禍が明けたら海外にもライヴで行きたいですし。
花冷え。「我甘党」Music Video【Official】
ギターに関しては真空管しか勝たないです(笑)
YG:そして、今年4月には新曲となる配信シングル「LOVE♡乱舞」をリリース。分かりやすいところでは和のテイストを入れつつ、その一方で破壊力を増した仕上がりを目指したように感じました。
マツリ:そうですね。結構キャッチーな曲が続いていたのもあり、ここで一発重いものを出したいなと何となく思っていて。でも、ただ重いだけの曲を出してもつまらないし、和楽器や木魚とかを入れたいと以前から考えていたので、それらと重い曲を掛け合わせて作ってしまおうというところですね。三味線と木魚、和太鼓を入れてます。
YG:さらに、マツリさんの歌うパートも東洋音階のメロディーで。
マツリ:ええ、ちょっとお経チックなメロディーで歌ってみました。最初のデモ段階からお経のようなパートを入れようと思って作っていたので、まだ仮歌を乗せてない状態でメンバーに投げた時も「この〇分〇秒からお経を入れます」とだけ伝えて…「お経って何!?」みたいに言われるという(笑)。ただ、構成は自分の中で全部ガチガチに固まった状態で進めていきましたね。
YG:この新曲が次のアルバムなどを占うものにもなっていたりします?
マツリ:おそらくアルバムには入れないタイプの重たさかな、と思いながら作ったんですよね。なので、あくまで単発のデジタル・リリース用の曲として、こういう曲もあったら楽しそうだなと思ったものを形にしました。アルバムについてはフワッとした構想はあるんですけど、また全然違う面がたくさん見られるものになるんじゃないかなと思ってます。どういう形で世に出ていくか分からないですけど、新曲は溜まり始めていて、それを自分で聴いていると、今までとは全然違う印象になるだろうなと。…同時に、いい意味で前作の『乙女改革』が花冷え。のスタンダードな形というか、基盤となっていることが分かるんじゃないですかね。
YG:なるほど、新作の登場を楽しみにしています。また、マツリさんの使用ギターについてですが、現在のモデルがE-IIの“EC BB”と“EC EMG”ということで、やはりLPシェイプへのこだわりがありますか?
マツリ:やっぱりLPタイプが好きですね。これは完全にHi-STANDARDの横山 健さんと、マキシマム ザ ホルモンのマキシマムザ亮君に影響を受けてます(笑)。ギターを始めた当初もエピフォンのレスポールを使っていましたし、ずっとこの形で…しかもピックアップ・セレクターをガムテープでブリッジ側に固定したりして(笑)。ESPさんとエンドースを結ぶ時も、自分の好みの形を全部伝えたんです。ただ、これから先、違うシェイプのギターにも挑戦していくとは思うんですけど、基本的にメインで使用するのはLPタイプにこだわりたいですね。
YG:LPタイプがもっとも弾きやすいですか。
マツリ:そうですねぇ。今になってSTタイプのギターを弾くと、全然感触が違いすぎて…もう戻れないです(笑)。
YG:ははは(笑)。チューニングやその他の使用機材などについても教えてもらえますか?
マツリ:花冷え。は基本的にドロップCチューニングですけど、ドロップBとドロップDもたまに使うので、3種類のチューニングですね。「LOVE♡乱舞」は、ドロップBです。ヘッドはピーヴィーの“6505”で、キャビネットはメサブギーを持ち込んで使ってます。エフェクターは以前から変わってないんですけど、コンパクト・エフェクターのオーヴァードライヴとノイズ・リダクションをずっとオンにして、あとはヘッドとギターだけで音を作ってますね。
YG:機材はアナログ指向なんですね!
マツリ:そう、思いっきりアナログです(笑)。今は(マネージメントに)機材車を出していただけるようになったからいいですけど、これまではヘッドをマグナカートに載せてガラガラって引っ張って電車に乗ってましたから(笑)。(デジタル機材を使っている人は)デジタル感を消そうと思いながら音作りをされてる方が多いと思うんですけど、やっぱりどうしてもヘッドには勝てんなと思っていて。
YG:ベテラン・ミュージシャンが言いそうな発言(笑)。
マツリ:真空管しか勝たないです(笑)。ギターに関してはですけど、デジタル音みたいなものがあまり好きじゃなくて、そうならないように意識してますね。
YG:ピックアップも理想的なものに出会えているということですかね。
マツリ:そうですね。メインで使っているギターが“EC BB”なんですけど、そこに載っているリア・ピックアップ(EMG“81”)を、“EC EMG”の方にも載せているんです。そのピックアップが他のものよりも、良い感じですごく歪むんですよね。EMG“81”は、ESPの方といろいろなギターをいじっている中で発掘したんですけど、その中でも年代がすごく古い初期型のものがたまたま“EC BB”に載っていたみたいで。当時、日本には初期型の在庫がなくて…「お願いします!」と言ってわざわざ取り寄せてもらいました(笑)。ヘッドやキャビ、エフェクターが同じ状態でも、別のピックアップのギターをつなぐと、私の感覚的には結構音が変わってしまうイメージがありますね。
YG:ちなみに今後、7弦モデルを使うこともありえます?
マツリ:7弦を使うことはまだ考えてないですね。チューニングも下げすぎたくはなくて、例えば、ドロップAやドロップA♯とかの人たちは絶対に7弦の方がラクだと思うんですけど、ドロップBまでなら6弦でもいいのではないかと思っていて(笑)。ただ、どこかのタイミングで、今までとは違う楽曲で重たいものが欲しいとなった時には、もしかしたら7弦に挑戦するかもしれないですけどね。
YG:では最後に、花冷え。の今後についてはどういう展望がありますか?
マツリ:今年3月まで大学生だったこともあって、今もまだ若い方ではあるんですけど、自分的にはもっと若い頃…元気にキャピキャピしてた学生時代のフレッシュな時期に作っていた楽曲が今までのものなので、これからの楽曲は、ちょっと大人になり始めた自分たちが見せられるアプローチも考えていて。今までの花冷え。のイメージやキャラクターみたいな部分は変わらないんですけど、楽曲面において、もっと進化している状態を今年はたくさん見せられるんじゃないかなと思ってます。
YG:気持ちの上で、学校を卒業するとバンドへの向き合い方は変わります?
マツリ:それはありますね。結構、大学の課題に追われながら曲を作ったりしていたので(笑)、それが曲を作るだけでいいとなっただけで、いろいろと広がっていっている最中です…!