ギター対談:ペル・ニルソン(スカー・シンメトリー)&カルロス・ロザーノ(ペルセフォネ)

ギター対談:ペル・ニルソン(スカー・シンメトリー)&カルロス・ロザーノ(ペルセフォネ)

俺にとって“True Temperament〜”はとても重要だ(ペル)

YG:ロックダウンの時期、新しい機材をチェックしたりもしましたか?

ペル:特にはないかな〜。

カルロス:僕はそもそも、機材に関してはとてもベーシックにしていて、あまり時間をかけてリサーチしたりしないタイプなんだ。ただ、チェックといえば、自分のプレイを改めてチェックし直したよ。家にいる時間が増えたことで、これまでになく練習しようとしたしね。普段は、一日中ギターを弾くことはあっても、あまり練習らしい練習はしてこなかったんだ。ライヴに備えて弾くことはあったし、ギター講師として生徒に教えるために弾くこともあったけど、それって練習とは言えない。だから、改めて色々とチェック出来たのは良かったと思う。その点では、コロナ禍のロックダウンを最大限活かせたのかもしれないな。

YG:カルロスはギターのメーカーを変えましたよね?

カルロス:うん。前回来日公演時はオームズビーを弾いていたけど、今はジャクソンだ。オームズビーと数年間エンドース契約を結んでいたある時、ジャクソンからお声が掛かってさ。もうそれって、「YES」と答える以外の選択肢がなかったよ。僕は現在43歳なんだけど、ティーンエイジャーの頃って、マーティ・フリードマンを始め自分のギター・ヒーローはみんなジャクソンを弾いていたからね。それでオームズビーのスタッフにも正直に話したら、彼等は僕がジャクソンの一員になることを喜んでくれたんだ。その後、ジャクソン・ギターが送られてきた時は、「今ってクリスマスじゃないよね?」と思ったぐらいさ(笑)。それで、何ら問題なく(オームズビーからジャクソンに)持ち替えることが出来たよ。それからもう3年ほど経つのかな? 今でもジャクソン・ギターを手にした自分の姿を見ると、子供の頃の思いが甦ってきて、思わず拍手しそうになるんだ(笑)。

ペル:その気持ちはよく分かるよ。俺も以前はアイバニーズの所属アーティストでさ。ポール・ギルバートやスティーヴ・ヴァイといったプレイヤー達がアイバニーズを弾いているのを見て、ティーンエイジャーの頃に弾き始め、30代になって遂にエンドーサーになったんだ。そのことを思い出したよ。

カルロス:だって、自分の名前が憧れのギター・ブランドのカタログに載るんだよ! 所属アーティストの一覧を見たら、マーティと並んで掲載されているなんて……そりゃあ、子供のように喜んじゃうよね(笑)。子供の頃の夢をずっと追っかけている…というか。

カルロス・ロザーノ

●お気に入りの『ドラゴンボール』のTシャツ姿に注目! カルロス曰く「僕達のバンドは黒一色の衣装が基本なんだけど、日本でのライヴということで、(東京公演2日目には)特別にフリーザのシャツを着ることが許されたんだ!(笑)」とのこと。

ペル:その点では、俺はビッグ・ネームから敢えて小さなブランドに移ったんだ。

カルロス:いやいや、ストランドバーグは素晴らしいよ! ペルには本当にお似合いのギターだし。

YG:ペルが今回持ってきたギターは、前回来日時と同じですか?

ペル:基本的に同じ“Boden”と呼ばれるモデルなんだけど、少し変更点があって、アップグレードされている。俺のシグネチュア・モデルは“Singularity”で、数年前のアップグレードで“NX”になった。正確には“Boden Singularity NX 7 True Temperament”かな? 何が“NX”なのかよく知らないんだけど(笑)。過去モデルとの最も大きな違いはネック・ポケットだな。アーム・ベベル加工され、腕がよりスムーズに動かせるようになったんだ。あと、ハードウェアも変わった。弦をロックする際、前は別々だったのがひとつになってさ。それから、ハードウェアが赤から黒になったのも、見た目の違いを生んでいるかな。赤と黒という点では同じだけど、今はボディの木の部分だけが赤くて、少々クレイジーさが減退したかもしれない。

YG:あと、ペルのギターは“True Temperament Fretting System”もやはり特徴的ですね?

ペル:いや〜、別にそう特殊ではないよ。“True Temperament〜”はマティアス・エクルンドを始め、沢山のギタリストが採用しているから。俺が“True Temperament〜”を使い始めたのは、アイバニーズからストランドバーグに持ち替えた当初からなんだ。ある時、オーラ・ストランドバーグから「あなたのギター・プレイが好きだから、あなたのためのギターを作りたい」と言われてね。「何でも言ってください」「どんなギターでもお望みのモノを」と言うから、俺は「27フレットにしてくれ」とか、色々とリクエストし、その際「“True Temperament〜”も是非」とも言ったんだよ。そして、その後シグネチュア・モデルを制作する時も、勿論“True Temperament〜”は欠かせなかった。

俺にとって“True Temperament〜”はとても重要だ。ギター・プレイヤーとしてもプロデューサーとしても、イントネーションにはずっと悩まされてきたから。これまで数々のアルバムをプロデュースしたりレコーディングしたりしてきたけど、現場で何度「Not in tune…!!」(音が外れてる)と叫んだことか(苦笑)。最初のコードは「Good」でも、次のコードで「Nooooo!」となり、パンチ・インをやり直さないといけなくなる。そんな時、“True Temperament”の登場は革新的だったね!

ペル

YG:カルロスは、“True Temperament〜”に興味は?

カルロス:う〜ん…使ったことがないからなぁ。とても変わった形のフレットだよね? 以前、オームズビー製のギターを弾いていた時、マルチ・スケールのファン・フレット・ギターを提供されたことがあってさ。その時「あ〜、こりゃギターの弾き方を最初から学び直さなきゃいけない」と思ったんだ。「怖い」とさえ思ったよ(笑)。だから“True Temperament 〜”を弾くのはどんな感じなのか、想像すら出来ないね…。

ペル:別に通常のギターと同じだよ。

カルロス:変わらない? 本当に…?

ペル:ああ。

カルロス:高いフレットでも正しいイントネーションで弾けるの? きっと、個体ごとに違ってくるよね?

ペル:それはスケールによるな。

カルロス:あ〜でも、どうなんだろう? いや…今まで機会がなかっただけで、興味はあるんだよ。そもそも、ペルもマティアスも使っているんだからね。尊敬する2人のギタリストが採用しているとなると、気にならないワケがないよ…。

ペル:ちなみに、いま弾いているジャクソンは自分のモデル?

カルロス:違うよ。

ペル:じゃあ、カスタム・モデルかい?

カルロス:いや、まだそこまでじゃない。でも、充分さ。昨日のショウの動画を公開してみたんだけど、ジャクソンを弾く自分を見て、またまた嬉しくなってきたんだ(笑)。僕はまだその段階にあるのさ。

YG:それぞれ、今回の来日ライヴで使っているアンプも教えてください。

ペル:Line 6の“HX Stomp XL”だ。相方のスティーヴン(プラット)も同じのを使ってる。オートマティック・プリセット・スウィッチングを使っているから、いちいちペダルを踏み替えなくても良いのがイイね! 勿論、便利なだけでなく音も良いし。

Stephen Platt/SCAR SYMMETR
Stephen Platt/SCAR SYMMETRY
スカー・シンメトリー機材
スカー・シンメトリー ペル&スティーヴンのエフェクト

カルロス:実は、僕も全く同じモデルを使っているんだ。何という偶然だろう……全く知らなかったよ!(笑) ただ、僕はオートマティック・システムの使い方が分からないから、(自分でペダルを踏み替えて)ダンシングしている。それで、たまに踏み間違う。「よし、ギター・ソロだ!」という時にクリーン・トーンにしてしまったりとか(苦笑)。でも、それで満足しているよ。スーツケースに入るサイズだし、いつも同じ音が出せるし、ノイズが出るアンプをステージに置かなくて良いしね。実は当初、昔ながらのギター・アンプに慣れているからデジタルを使うのは難しい…と思っていたんだ。それなのに、今じゃもう過去には戻れない。大満足さ。音も最高だしね。

ペルセフォネ:カルロス
ペルセフォネ:カルロスの足元とワイアレス・システム

ペルセフォネ:カルロス機材

●ワイアレス・システムに“YNGWIE”とあるのは、地元のサウンド・エンジニアによるいたずら…というか、イングヴェイ・マルムスティーンに憧れるカルロスへ向けてのジョークなんだとか。

ペルセフォネ:フィリップ機材
ペルセフォネ:フィリップの足元

ペル:インイヤー・モニターは使ってる?

カルロス:うん。それも良し悪しだけどね。特に、自分のミスがよりクリアに聴こえてしまうのとか…。その時はハッピーじゃなくなる(苦笑)。

ペル:でもそれって、オーディエンスよりもハッキリ分かるということだから。

カルロス:そうだね。ただ、お客さんには聴こえないというワケでもないから。勿論、PAからの音だとそこまで悪くは聴こえないと思うけど。僕はいつも、ドラムのキックとスネア、自分のギターともう1本のギターだけを返しているんだけど、そのミックスがとってもクリアでさ。すべてが鮮明に聴こえることで、小さなノイズ、ピッチのズレなど、何もかも悪く聴こえることがあるんだ。だから、ありがたいこともあれば、同時に最悪だと思うこともあって…。ペルはイヤモニのミックスに時間をかける?

ペル:そうだな。日本では会場の卓を使っているけど、ヨーロッパをツアーする時は、自分達のミキシング・デスクとモニター・デスクを持ち込んでいるから、どのショウでも同じイン・イヤーのミックスでやれる。ちょっとした微調整さえすれば、常に完璧なサウンドでプレイ可能さ。時には、まるでアルバムを聴いているのか…って時すらあるよ。

カルロス:それは巧いからだよ!(笑) 僕達はスタジオ・アルバム通りには演奏出来ないから…。言うなれば、パンク・ヴァージョンでやっているよ(笑)。

Filipe Baldaia&Carlos Lozano/PERSEFONE
Filipe Baldaia&Carlos Lozano/PERSEFONE

YG:先ほどペルがイントネーションの重要さを強調していましたが、ライヴ・ステージでも完璧なチューニングを求めますか?

ペル:勿論、いつだって重要だ。まぁ、スタジオほどではないけどね。何かをレコーディングするということは、一生残るモノを作るということだ。すると、1000回も聴かれるんだよ。もし、そこにダメなパートがあったら、聴く度に「ああ〜、何であのコードをちゃんとチューニングしなかったんだ…!」と思い続けることになる。でもライヴだと、もし音を外してしまったとしても、その瞬間はすぐに過ぎ去ってしまう。他の音に掻き消されることもあるしね。まぁでも、やっぱりチューニングがとても大事だというのは疑うべくもないんだけどさ。

カルロス:ただ、最近は何もかも修正、修正…っていうのがね(苦笑)。すべてを完璧に…っていうのはどうかと思うな。昔のアルバムを聴くと、完璧じゃないモノもある。昔のライヴ映像を見ていても、時々ノイズが出ていたりして、でもそれで問題なかったりするよ。

ペル:ああ、そうだな。俺自身も前々から思ってたんだけど──ライヴを観に行って「これは素晴らしい!」「これまででベストなショウだ!」と感激しても、家に帰って、誰かがYouTubeに上げた動画なんかを見返していたら「あれ…音程が?」となることってあるよね? 生々しいエネルギーに満たされた空間──ライヴの現場では聴こえなかったミス・トーンなどの音が、改めて冷静に見てみたら耳に入ってきて、「何か違うな…」となるんだ。

カルロス:うんうん、ありがちだよね! でも、それこそがライヴならではの魅力なんじゃないかな。こないだ奥さんと一緒に、昔のメタリカのライヴ映像──(1993年『LIVE SHIT: BINGE & PURGE』収録の)1989年のシアトルでのショウを観ていたんだ。あの頃はまだスマホがなかったから、そうした(作品化された)映像でライヴを観るしかなかったけど、じっくり観ているとミスがちょくちょく目に付くんだ。でも、誰も気にしてなんかいない。要はその場のエネルギー、楽曲そのもの良さ、そして何より──その瞬間を楽しんでいること、それに尽きるよね。

パンデミックの時って、みんな配信でヴァーチャル・ショウをやっていたよね? そんな状況を見ていて、いずれ将来的にライヴってなくなっていくのかな…と思ったんだ。何もかもがヴァーチャルな世の中になるんじゃないか…ってね。今どきの子供達って、もしかしたらライヴを観に行ったことがなくて、“生”の迫力やエネルギーを体験したことがなかったりするのかな…? 僕も自宅に小さなスタジオを構えているけど、もし自分が配信ライヴをやって「よし、ソロも完璧に弾けたぞ!」と思っても、YouTubeなどで見返してみたら思ったほど良くない…ってことになりかねない。ペルも言うように、スタジオで録ったモノは一生残る。アルバムでミスをしたら、それはそのままずっと残っていくんだ。だから、そう考えると、やっぱりライヴとスタジオではまた話が違ってくるよ。

ペル:まぁ、それぞれの良さがある…ということだな!