長年に亘り幅広いジャンルのアーティストから大きな支持を得ているPRSギターズ。現代を代表するギター・ブランドの1つである同社だが、ギターを始めて間もない人の中には、名前は知っていてもどういったブランドなのか詳しくは分からない、といった方もいることだろう。今回用意したのは、そういった人達にPRSについて一定の知識を身につけてもらうためのスペシャルQ&Aだ。ブランド・コンセプトや製品ラインナップなどに関する様々な内容の質問を50問用意し、創業者のポール・リード・スミス氏に回答していただいた。初歩的なトピックだけでなく多少マニアックな質問も混じっているので、ビギナーに限らず、長年PRSを愛用しているようなファンの方にも楽しんでもらえるはずだ!
Q.1 ポールさんの生年月日を教えて下さい。
1956年2月18日。
Q.2 生まれた場所はどんなところ?
ワシントンD.C.郊外のメリーランド州(アナポリス)で、政府関係の役人が多く、労働者の人口は少ない場所だったよ。もの作りが盛んな地域ではなく、ギター製作に適したところとは思えないだろうけど、私はそこで工房を始めたんだ。子どもが育つ分にはとても美しい場所だったね。
Q.3 ギターに出会う前はどんなことが趣味でしたか?
釣りだよ。週に5回は釣りに行っていたね。今でも大好きなんだ。
Q.4 ギターに興味を持ったのはいつ頃?
ギターの音を聴いて、すぐに虜になったんだ。子どもの頃は母親が好きだったフォーク・ソングを聴き、その後ザ・ビートルズやジミ・ヘンドリックス、ハンブル・パイ、オールマン・ブラザーズ、サンタナ、ディープ・パープルなんかを自分から聴くようになった。ティーンエイジャーの頃には、すっかりはまっていたよ。
Q.5 若い頃好きだったミュージシャンは?
今に至るまでずっと好きなのはジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、カルロス・サンタナだね。(ジミ)ヘンドリックスも大好き。それからオールマン・ブラザーズ、ジョン・マクラフリン…素晴らしいミュージシャンばかりだよ。
Q.6 理想的なギタリストは?
カルロス・サンタナとジェフ・ベックの中間ぐらい…かな(笑)。ジミー・ペイジといった人も捨てがたいけど、1人だけ選ぶならカルロスだね。
Pic: William Hames
Q.7 日本人で好きなギタリストは?
竹田和夫を始め、昨年11月のイベント “EXPERIENCE PRS in JAPAN 2017”に出演してくれたプレイヤーはみんな素晴らしいよ!
Q.8 クラフトマンを志したきっかけは?
最初は(ギターを購入する)お金がなかったから、自分で作ったんだ。その後、ある時楽器店に行って自分が作ったギターを見せようとケースを開けると、周りの人々が次々と(ギターに)引き寄せられてきたということがあってね。そういう世間の反応を見て、自分はビルダーに向いていると思ったんだよ。もしもその時(ギターを見せるだけでなく)演奏でもしていたら、観客は逃げていってしまっただろうね(笑)。
Q.9 プロのギター・プレイヤーになりたいと思ったことは?
もちろん! しかし、当時はそれほど(演奏の)腕があるわけではなかったんだ。
Q.10 初めて作ったギターはどんなものでしたか?
4種類のギターのコピー・モデルだった。“Les Paul Jr.”のような1ピックアップのギターで、ネック・ジョイントはそれぞれ異なっていたね。シングル・カッタウェイ、ダブル・カッタウェイ、STシェイプやTLシェイプ、Pベース…いろいろなジョイントのやり方を勉強したんだよ。
Q.11 ギター以前に、自作したものはありましたか?
スピーカー・キャビネットを作ったよ。PAキャビネット、ベース・キャビネット、アンプ…自分で作れる物はすべてやってみたんだ。ライヴをやりたかったし、父親は機材を買ってくれなかったし、自分自身で買う余裕もなかったからね。だから自作する他なかったんだ。
Q.12 いま、ギター作り以外にはまっていることや趣味はありますか?
レコーディング・スタジオで作業すること。釣りも良いけど、レコーディング・スタジオにいる時間の方が長いよ。音楽を録ることが好きだし、曲を書くのも好きだね。
Q.13 人生で一番ハイライトだと思う出来事は?
子ども達が生まれた瞬間。医者と助産師、妻と夫がいて、ドアは閉まったまま。1つの部屋に4人がいたわけだけど、5分もすると部屋の人数が5人に増えたんだ。誰もドアから入ってきていないのに、全く信じられないよ。怒りを伴わないもので、最もパワフルな出来事だった。
Q.14 ステージでプレイしていて、ギター作りのヒントやアイデアが浮かぶことはありますか?
もちろん、そういったことは常にあるよ。
Q.15 自身のブランドでビジネスを始めようと思ったきっかけは?
芸術に携わりながら生計を立てていくには、これが唯一の道だったからさ。
Q.16 ブランドの正式名称は?
厳密にはPaul Reed Smith, Limited Partnershipだけど、一般的にはPRS Guitarsで通っているね。
Q.17 工場はどこにありますか?
メリーランド州スティーブンスヴィルのログ・カヌー・サークル360番地。
チェサピーク湾を挟んだちょうど反対側には、私が初めてショップを構えた、州都のアナポリスがあるんだ。
Q.18 何人の方が働いていますか?
今のところは270人。まだまだ募集中だよ!
Q.19 PRSの「これだけは曲げられない」というポリシーは?
真似をしないこと。そして、自分達のギターがきちんと作られているかどうかの確認を徹底すること。
Q.20 PRSを創業してから一番苦労したことは?
何か1つの問題を挙げることは難しいね。我々は日々課題に直面し、それを解決してきたから。ただあえて挙げるとするならば、景気が低迷した時期にビジネスを維持しなければいけなかったことかな。かなり苦戦したからね。
Q.21 数あるブランドの中でも、PRSが突出して優れていると思うところは?
詳細にまで気を配っているところだよ。
Q.22 COREシリーズとは?
COREはPRSの始まりといえるシリーズで、1985年に生産ラインをスタートさせた時の精神を受け継いでいるんだよ。当時よりもモデルの数は多いけれど、肝心なのはそれらがオリジナル・ラインナップを踏襲しているという点だね。
CORE シリーズ・ラインナップ : PRS Guitars
Q.23 BOLT-ONシリーズとは?
ボルト・オン・ジョイントを採用した製品ラインナップ。我が社のボルト・オン・ギターとの旅は30年前に始まり、モデル数は日増しに増えているよ。
BOLT-ON シリーズ・ラインナップ : PRS Guitars
Q.24 S2シリーズとは?
S2シリーズの最初のプレス・リリースにはこう書かれていた。「新たなギター、新たな価格帯、新たな顧客、そして新たなアーティスト」と。まるで予言のような内容だけど…今に至るまでユーザーが心から気に入ってくれるシリーズになるとは、あまり考えていなかったんだ。過去30年におけるPRSの歴史においても、このシリーズが加わったことはかなり強力な出来事の1つだったね。
S2 シリーズ・ラインナップ : PRS Guitars
Q.25 SEシリーズとは?
SEは、高品質なギターを手頃な価格帯で(一般のユーザーに)提供したいというカルロス・サンタナの願いから生まれたんだ。その目的を果たしたこのシリーズは、エレクトリック・ギターだけでなくアコースティック・ギターやベースもラインナップに加え、世界中のプロフェッショナルなギタリストに使われているよ。
Q.26 PRIVATE STOCKシリーズとは?
PRIVATE STOCKは1996年に“今月のギター(Guitars of the Month)”というシリーズとして始まったものだよ。これは、手元にある最高級の素材で高度なカスタマイズを施したギターを作るという発想で取り組んだものだね。以後、極めて珍しい素材や最高のクオリティを有したシリーズとして発展し、個人のお客さんに向けて作られるようなったんだ。つまりPRIVATE STOCKはすべて“1本もの”ということ。家宝といえるほどのレベルに達する品質を備えたモデルだと確信している。
Q.27 これこそPRSの真髄だと言えるモデルは?
おそらく“Custom 24”だ。PRSの原点というべきモデルであり、今でもベスト・セラーになっているよ。あと“McCarty”も、賞賛に値すべきモデルに挙げておきたいね。
Q.28 “Custom 22”と“Custom 24”の違いは、フレット数だけですか?
現時点では、それ以外の違いはない。過去にはブリッジのパーツやピックアップが違っていたりしたけど、今はほぼ同等のスペックだね。
Q.29 学生といった若い世代に、PRSの入門ギターとしてお勧めできるモデルは?
プレイしたい音楽によって変わってくるところだけど、SEシリーズとS2シリーズはどちらも選択肢が幅広く、価格も非常に手頃だよ。そして楽器としてのクオリティが高いという点も重要で、初心者に打ってつけじゃないかな…質の悪いギターと格闘しなくて済むんだから。
Q.30 ギター材を選別する上でのこだわりは?
木材の乾燥の度合いが適切かどうかは、凄く気に掛けている。安定性、共鳴度、そしてトーンに関わってくるからね。
Q.31 WOOD LIBRARYとは?
PRSが所有している高品質な木材のライブラリで、ここで好みのマテリアルを選別して好みのギターを製作することが可能なんだ。厳密にいうと木材ライブラリはPRIVATE STOCK VAULTとWOOD LIBRARYの2つがあり、前者はPRIVATE STOCK向けのよりグレードの高い木材が保管されている。ストックしてるマテリアルは、ネック材がイースト・インディアン・ローズウッド、コリーナ、ロック・メイプル、フィギュアド・メイプル、ボディー用がスワンプ・アッシュやコリーナ、指板用がエボニー、ジリコテ、ココボロ、フィギュアド・メイプルなどなど。
Q.32 スペック表に登場する10topの意味は?
これはメイプルのフィギュアの模様が板全体に広がっており、どこにもムラがないもののことを言うんだ。ただ、そもそもの意味は、材の見た目を10点満点で判断して10点を付けられるマテリアルのことだったんだよ。
Q.33 PRSの象徴であるバード・インレイに込められた意味は?
母親の趣味がバード・ウォッチングだったんだ。詳しくはこちらの素晴らしい記事(英文)にまとめられているので、読んでみてほしい。
Q.34 バード・インレイに描かれているのは何の鳥なのでしょうか?
ナット側から順に、以下の通りだよ。
Q.35 オリジナル・パーツにこだわっている理由は?
それらはPRS内ではなく外部で我が社のために作られたパーツで、そのほとんどが専売特許となっているよ。オリジナル・パーツにこだわっているのは、できる限り最高のギターを作るためには、既存のパーツに手を加える必要があったから。望み通りのパーツが買えないのなら、こちらの望み通りにデザインし直して、それを製作できる人を探せば良い。我々はそういう考え方でギター作りを行なっているよ。
Q.36 多くのモデルのピックアップがハムバッカー・タイプですが、何か理由が?
ライヴ会場によってはシングルコイルのハム・ノイズは本来のギター・サウンドよりも大きくなることがあり、大変受け入れがたいから。といいつつ、シングルコイルの市場にも日ごとに歩みを進めているんだ。
Q.37 ピックアップにおいて特にこだわっている点は?
音楽的であること、どんなセッティングにしても素晴らしいサウンドを出せること、そして使いやすさ。多くの人が取り付けたくなるような、操作性の良い物であることも大切だね。
Q.38 見た目の美しさという点にPRSは人一倍こだわっているイメージが強いですが、そういった意識はありますか?
もちろんだよ。ギターは抱えて弾く前に、まずは目で判断するから、人目を引くよう魅力的に作らなければいけない。私がギター・ケースを開けると、側にいる人が息を呑むといったことがよくある−−あれは最高の瞬間だね!
Q.39 PRSのモデルには変形シェイプのイメージがないですが、そういったギターに対する興味は?
アーティストによっては、特別に変わったボディー・シェイプのギターを作ったことがあるんだ。マーク・トレモンティやカルロス・サンタナにね。これから作るギターに(変形シェイプが)ふさわしいと考えれば、作っていくよ。
Q.40 今後どういったニュー・モデルが登場する予定ですか?
2018年はとてもエキサイティングな年になりそうだよ。乞うご期待!
Q.41 PRIVATE STOCKでマルチ・スケール仕様のギターを製作されたりしてますが、レギュラー・シリーズ化する予定は?
今のところはないね。
Q.42 アンプも色々なモデルがラインナップされていますが、どういったサウンドを目指していますか?
目指すゴールは良い音を出し、よく動き、支払った金額から得られる最高のものを提供できること。アーティスト・モデルに関しては、もちろん各アーティストが頭に描いているトーンを再現できる回路をデザインすることが目的だね。
Q.43 マーク・トレモンティのシグネチュア・アンプである“MT15”の特徴を教えて下さい。
サウンド面では“Archon”をベースに、実際にマークに調整してもらったよ。元々は、トーンや機能面を犠牲にすることなく、ワット数を抑えたハイ・ゲイン・アンプを作りたいと考えていたんだ。オーヴァードライヴとクリーンの2チャンネル仕様で、クリーンにはブースト・スイッチも付いている。アグレッシヴに歪ませることもできるし、オールドスクールなクランチ・サウンドも鳴らせるんだ。バッキングからリード、ダウン・チューニングのサウンドにも対応できるし、中規模スペースでの演奏にも十分耐えうるパワーも持っている。コンパクトだから持ち運びにも便利だしね。
Q.44 楽器業界では木材不足が問題となっていますが、PRSとしてはこの問題にどう対処されていますか?
我が社に限っては、特にそういった問題を抱えてはいないよ。木材の購入に関しては有能なチームを組んでいて、世界各地の供給者としっかり関係を築いているからね。また、木材を買う時は資源が枯渇することなく利用できるかを事前に確認しているから、供給元にリスクを負わせることもないんだ。
Q.45 一番最初にPRSのギターを弾いたアーティストは?
私だよ!
Q.46 看板アーティストであるカルロス・サンタナとはどのようにして出会ったのでしょう?
アナポリスのウエスト・ストリート33番地に最初のショップを構えていた時だね(註:1980年頃)。2年かけて彼からの信頼を得ることができたんだ。カルロスのために製作した4本目のギター…これはダブル・ネックだったんだけど、これを見た彼は、私に電話で「よし、君は確かにギター・ビルダーだな」と言ってくれたのさ。
Q.47 サンタナ以外のアーティストとのエピソードで、思い出に残っていることを教えてください。
たくさんあるよ。例えばマーク・トレモンティがシングル・カッタウェイのモデルを(ライヴで)弾いた際、たくさんの人がモッシュ・ピットに押しかけてギターの正体を確かめようとしたことがあった。この手の話はいくらでもあるね。ちょうど今、カルロスやマーク、ジョン・メイヤーといったギタリストのモデルの製作に関わっている真っ最中なんだけど、こうして現在体験していることも、時間をかけて思い出になっていくんだろうね。
pic:Chuck Brueckmann
Q.48 最近はペリフェリーのマーク・ホルコムのような新生代のアーティストもPRSファミリーに仲間入りしていますが、この世代のプレイヤーについてはどんな印象がありますか?
マーク・ホルコムについては、並外れたギタリストであり素晴らしいテクニシャンだと感じているよ。マークを始め、若い世代のプレイヤーは非常に才能がある人達だ。彼らのプレイや仲間の存在を楽しんでいる。
Q.49 エンドースしたいと思うアーティストの基準は?
アーティスト・リレーション部門のディレクターであるベヴ・ファウラー(Bev Fowler)が、このことに関する素晴らしい記事(英文)を書いているんだ。
Q.50 ロックやジャズ、モダン・メタルなど幅広いジャンルのアーティストからPRSが愛される理由は何だと思いますか?
(ジャンルを問わず)ミュージシャンが音楽をプレイするための、最善の道具を作ることを目指しているから、ではないかな。Pro Toolsはレコーディングする音楽のスタイルを選ばないよね。ノイマンのマイクだって、どんな歌が唄われようと関係ない。ギターだって、そうあってもおかしくはないでしょ?