ジャーマン・メタル・シーンにおける重鎮中の重鎮、ロックン・ロルフ。今年、還暦を迎えた彼が40年以上に亘って率いてきたランニング・ワイルドが、ニュー・アルバム『BLOOD ON BLOOD』をリリースした。前作『RAPID FORAY』(’16年)から、EP『CROSSING THE BLADES』(’20年)を挟み、5年余振りに届けられたこの通算17作目でも、言わずもがなロルフ節とも言える頑固一徹な独自サウンドは健在。長年、海賊をモチーフとし、歴史ロマンに満ちた名曲・佳曲を多数生み出し、武骨さの中にも“男の哀愁”を感じさせる方向性は、正に不変と言う他ない。
ちなみに現バンド・ラインナップは、ロルフ(g,vo)以下、ペーター・ヨルダン(g)、オーレ・ヘンペルマン(b)、ミヒャエル・ヴォルパース(dr)となっている。リズム隊の2人は、実質ライヴ・メンバーとも言える立場だが、オーレが元サンダーヘッド~ドリームタイド、ミヒャエルが元ヴィクトリーだというのも、ジャーマン・メタルのマニアには堪らないものがあるかも?
では──’13年作『RESILIENT』に続いての、しばらくぶりの日本盤としての発売が実現した『BLOOD ON BLOOD』について、御大ロルフにたっぷり語ってもらうことにしよう! 何と彼のヤング・ギター登場は、’92年作『PILE OF SKULLS』リリース時以来、本当に久々だ…!!
INFO
リリース情報
『BLOOD ON BLOOD』/RUNNING WILD
マーキー・インコーポレイティド/アヴァロン
2021年10月27日発表
ランニング・ワイルド 公式ウェブ
http://www.running-wild.net/
ギターを低く構えるから、弦をミュートする時は小指を使う
YG:ニュー・アルバム『BLOOD ON BLOOD』の曲作りを開始したのはいつのことでしたか?
ロックン・ロルフ(以下RR):『RAPID FORAY』のミキシングを行なっていた頃には、もうこのアルバムの作曲を始めていたよ。最初に書いたのはタイトル・ナンバーの「Blood On Blood」だったな。
YG:今回も全曲の作詞・作曲はあなたがひとりで手掛けたのでしょうか?
RR:ああ。ランニング・ワイルドは俺のソロ・プロジェクトだからね。すべての曲を自分で書いているよ。
YG:レコーディング作業は、コロナ禍によって、なかなか予定通り進まなかったそうですね?
RR:その通りだが、当初よりずっと多くの時間を費やすことが出来た…とも言える。新型コロナウイルスのパンデミックによって、’20年中はフェスティヴァル出演などのライヴが行なえないことは明らかだった。よって、その間もアルバムの作業を進めることが出来たんだよ。しかも、アルバム完成間近となった時、(所属レーベルの)SPVから「(マスター)テープの引き渡しまで、あと2ヵ月使っても良い」と連絡があってね。だから、それまで時間の都合で細かいところまで取り組めなかった曲を、よりじっくり時間をかけて仕上げることが出来たのさ。
YG:今回もベース・パートはあなたがレコーディングを行なったのですか?
RR:そう。いつも通り、ベースは俺がすべて自分で弾いたよ。
YG:ペーター・ヨルダンとのギター・パートの振り分けはどのようにして? これまでと同様に、リズム・ギターはすべてあなたが弾き、ペーターは幾つかのリード/ソロを弾いただけですか?
RR:毎回、リズム・ギターはすべて自分で弾き、ペーターには幾つかのソロを担当してもらった。ほぼすべての曲に複数のソロ・パートがあるから、殆どの曲でソロを2人で弾き分けたよ。どっちがどのソロを弾いているのかは、それぞれのスタイルがまるで違っているから、聴けばすぐに分かると思う。
YG:『BLOOD ON BLOOD』には、EP『CROSSING THE BLADES』のタイトル曲が収録されていますが、これは新たにレコーディングし直したのですか? 今回のヴァージョンには、EPにはなかったイントロが加えられていますが、楽曲本体はEPのテイクを流用していますか?
RR:サウンドの関係で、リズム・ギターを録り直し、コーラス・パートにもヴォーカルを少し加えた。イントロをEPに入れなかったのは、アルバム・ヴァージョンを違ったモノにするためだよ。
YG:『BLOOD ON BLOOD』のレコーディングで使用したギター周りの機材について教えてください。
RR:メイン・ギターは毎度、’76年製ギブソン・エクスプローラーだ。ソロ・パートやメロディー・パートについては、ギブソンのフライングVやフェンダーのストラトキャスターも使ったがね。あとクリーン・ギター・パートでは、そのために買ったフェンダー・テレキャスターも弾いているよ。
YG:アンプは何を使いましたか?
RR:エングルの“Special Edition E670”を使い、Grossmannのアイソレーション・ボックス“SG-BOX”にゼンハイザーのマイクを組み合わせて録音した。リズム・パートでは、ゼンハイザー“EW100 G3”ワイアレスを使ったよ。ケーブルより音がイイんでね。
YG:エフェクターはどうでしょう?
RR:オーヴァードライヴやディストーションは、BOSSの“GT-100”エフェクト・プロセッサーを使った。
YG:ペーターの使用機材も分かる範囲で教えてください。
RR:彼はフリードマン・ギターの“Cali”を使い、エングルの“Special Edition E670”に、キャビネットとマイクを組み合わせていたな。エフェクターはT-REXの“Moller”だ。
YG:あなたはソロを録る際、事前にじっくり準備するタイプですか? それとも、レコーディングでもインプロ重視でしょうか?
RR:いつも、しばらくソロ・パートをジャムってみて、そこからパート毎に、その曲と合ったソロになるよう少しずつ発展させていく。それで、「自然だ」と感じられるようになったら、そこでレコーディングに取り掛かるんだ。
YG:『BLOOD ON BLOOD』収録曲の中で、YG読者に注目して欲しいギター・プレイを挙げるとすれば?
RR:俺の演奏スタイルの良い例としては、「Diamonds & Pearls」を挙げておきたい。いつもギターをかなり低いポジションにしているから、弦をミュートする時は小指を使うんだけど、それが(他のギタリストとの)違いを生んでいる。あとは、音が正確になるよう、すべてダウン・ストロークで弾いているところにも注目してもらいたいな。
YG:収録曲の中には、ファン垂涎の仕掛けも用意されていますね! 「The Shellback」は「Black Hand Inn」(’94年『BLACK HAND INN』収録)の前日譚とのことで、「Black Hand Inn」のイントロ・フレーズが盛り込まれていますが、最初からそのつもりで関連した曲を書こうと考えたのですか?
RR:まずあったのは“The Shellback”というタイトルで、その曲名で新作に入れようと思った際、「Black Hand Inn」の前日譚にするというアイデアが浮かんだのさ。そしてそこから、イントロに「Black Hand Inn」のメイン・メロディーを使うというアイデアが出てきたんだよ。
YG:「One Night, One Day」はアイリッシュ・トラッドを思わせるムードがあって、メタル・アルバムの中では異彩を放っているものの、ある意味で実にランニング・ワイルド的だと感じました。もしやこの曲は、元々ランニング・ワイルド用ではなかったアイデアを引っ張ってきた…ということは?
RR:いや、ランニング・ワイルドのアルバムのために書かれた曲だよ。これは予言についての曲で、元々は2つの異なったパートだけがあり、ヴァースも、プリ・コーラスも、コーラス(サビ)もない…という、「新しいアレンジを試そう」というアイデアから始まったんだ。最初のパート“One Night”と、トンネルの終わりに光を見つける…という対になるパート“One Day”は、基本的には同じなんだが、アレンジと使用楽器が異なる。中間のギター・パートは、“光が戻ってくる前には、嵐を通り過ぎなければならない”ということのシンボルとなっているんだ。
YG:ところで、ペーター・ヨルダンとの付き合いはもう長いですが、そもそも彼とはどのようにして出会ったのですか?
RR:このバンドに迎える前から、彼のことは知っていたよ。最初に声を掛けたのは’02年の『THE BROTHERHOOD』(’02年)に伴うツアーの時だったが、その時はスケジュールが上手く合わなかったんで、その次のアルバム『ROGUES EN VOGUE』(’05年)のツアーでセカンド・ギタリストが必要になった時、改めてオファーしたんだ。すると、すぐに引き受けてくれてさ。ペーターはとても優れたギタリストで、人柄も最高だ。俺達は同じようなバンドを聴いて育ったから、まさに完璧なコンビネーションだったね。
YG:では最後に、今後のライヴ予定を教えてください。
RR:新型コロナウイルスのおかげで、’20年に予定されていたフェスティヴァル出演は、すべて’21年に延期され、さらに’22年へと先送りされてしまったよ。だから、今後のランニング・ワイルドの予定については、(感染状況によって)まだ何とも言えないんだ。今はただ、どうなるか様子を見るしかないね…。