スティーヴィー・サラス:INABA/SALAS『ATOMIC CHIHUAHUA』制作秘話&ライヴ・レポート

スティーヴィー・サラス:INABA/SALAS『ATOMIC CHIHUAHUA』制作秘話&ライヴ・レポート

がっちりと組み合わさっていて、決して壊すことはできない

YG:例えば「Burning Love」や「LIGHTNING」などでは、色々な楽器が分厚く何層にも重ねられていますが、よく聴いてみるとユニゾンが多いですよね。こういうのも意図したところですか?

SS:その通り。俺はユニゾンを多用するよ。俺はそれを“ロープ”って呼んでいる。つまり、ロープは細い紐がより合わさって、1本の太い紐を形成しているよね? それと同じようなもので、ベースとギターとキック・ドラムが一体化して、大きな太い1つのサウンドになる。がっちりと組み合わさっていて、決して壊すことはできない。「Burning Love」は分かりやすい例だよね。いくつも音を分厚く重ねて繰り返し聴かせることにより、相手を催眠術にかけるようなものだ。ポリスが『GHOST IN THE MACHINE』(1981年)を作った時も、似たような方法論を取っていた。「ドゥ・ダ、ドゥ・ダ、ドゥ・ダ」というフレーズの上にレイヤーを重ねていくと、まるで催眠にかかったように引き込まれる音になる。ジェームス・ブラウンやブーツィ・コリンズもよくやるよね。丈夫なテーブルのような土台の上に、幾層にも重ねたメロディを被せるわけだ。

YG:ポリスの名前が出ましたが、2曲目の「EVERYWHERE」、この曲はイントロの開放弦を用いたアルペジオが少し「Every Breath You Take」(1983年『SYNCHRONICITY』収録)を彷彿とさせますよね。この辺りはリスペクトが出たところですか?

SS:いや、実はポリスじゃなくてサイケデリック・ファーズ(註:イギリス出身のポストパンク・バンド)のことをイメージしていたんだ。’80年代前半には、多くのバンドが似たようなアルペジオのフレーズを使っていたんだよね。違う年、違う場所で…だ。その中にポリスのあの曲があったわけ。ちなみに今回のアルバムにも参加してくれているベーシストのアルマンド・サバルレッコが、(ポリスの元ドラマーである)スチュワート・コープランドとも一緒に仕事しているから、「この曲でスチュワートにドラムを叩いてもらえたりしないかな?」って頼んでみるというアイデアもあった。でも…ちょっと待てよ、それじゃあまるっきりポリスみたいじゃないか!って考え直した(笑)。そんなの、絶対にスチュワートに演奏してもらうわけにはいかないよね。たださっきも言った通り、俺としてはサイケデリック・ファーズのようなサウンドにしたかったんだよ。

YG:でもある意味、スチュワート・コープランドが参加していれば、リスペクトを直接表現することにもなるので良いアイデアだと思うんですが…。

SS:もし最初からポリスへのトリビュートを狙っていたのなら、そうしたかもしれないね。ちなみにもしこの曲が世界中のチャートでナンバー1になって、ポリスのレコードと同じくらい売れたら、俺はすごい金持ちになれるかも…。冗談だから本気にしないでくれよ!(笑)

YG:(笑)この曲…に限らず、アルバムの中のどの曲もそうなんですが、ギター・ソロが非常に練り上げられていて、一緒に歌えるメロディになっていますよね。

SS:いや、実はそんなに練ったわけでもない。ジミ・ヘンドリックスみたいにアドリブで弾きまくりたい曲と、そうじゃない曲があるんだよね。俺はこれまでにジャスティン・ティンバーレイクからミック・ジャガーまで、70~80枚ものアルバムでセッション・ギタリストとして演奏してきた。だから曲にとって何がベストなのか、見極めるのが大切だってことはよく分かっている。で、今回のアルバムの曲では、俺がヘンドリックスばりに弾きまくれる余地があまりなかったんだ。どちらかというとメロディの構成が重要だったんだ。例えば前作『Maximum Huavo』(2020年)はポップな曲が多くて、攻撃的なギターがたくさん入っていたよね。でも俺のスタンスとしては、ギターはあくまで曲をサポートするものだ。ギターが曲をサポートするのではなく、曲がギタリストをサポートするような、そんな曲は作りたくないんだよね。

YG:なるほど。と言いつつ、ギター雑誌なのでギターに偏った質問ばかりして申し訳ないですが(笑)。

SS:いやいや、それはOKだよ。まあでもギター・プレイヤーなら、曲にとって何がベストなのかを考えるべきだって、言いたいことは分かってもらえるよね? もしこのインタビューを読んでいる君が、セッション・ギタリストとして成功したいと思っているならなおさらだ。かつてのジミー・ペイジのようにね。つい最近、レッド・ツェッペリンのドキュメンタリー映画を観たんだけど、ジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズが、ジェームス・ボンドの映画で有名なシャーリー・バッシーの「Gold Finger」(1964年)でギターとベースを演奏しているなんて、俺はそれまで知らなかった! つまり彼らは自分のエゴで演奏せず、曲にとってベストな演奏をしていたわけだ。

YG:前作の話が出てきたので、ちょっと脱線してもいいでしょうか? 楽曲中心だった1stアルバム『CHUBBY GROOVE』(2017年)に対して、『Maximum Huavo』はスティーヴィーの言った通りギター・ミュージック寄りの作風になっていましたよね。今作『ATOMIC CHIHUAHUA』は、どちらかと言うと1st寄り。この変化はどういうところから来ているのでしょう?

SS:俺たちは35年もの長い間、友人として付き合ってきたから、俺はKOSHIのことはよく知っているし、彼も俺のことをよく知っている。2人の共通認識としては、「稲葉浩志が歌うスティーヴィー・サラス・アルバム」や「スティーヴィー・サラスが演奏する稲葉浩志のアルバム」は作りたくないということだった。俺はいつもKOSHIのソロ・アルバムにゲスト参加しているし、似たようなことはもうやってしまったからね。むしろ「女の子たちが踊れるような曲を作ろう」って、最初の頃にそういうルールを作ったんだ。ただただ楽しむための音楽さ。で、それを1stアルバム『CHUBBY GROOVE』として、INABA/SALASという名義で出すことになったわけ。「えっ?」って感じだったよ(笑)。最初は全然、そんな話じゃなかったのに。

YG:面白い経緯ですね。

SS:でも『CHUBBY GROOVE』ではギターをみっちりと練る時間があんまりなかったんだ。 あそこで聴けるほとんどのギターは、アイデアを書き留めるぐらいのものだった。当時は「明日までに録音を済ませなければいけない」ぐらいの状況だったから(笑)。で、『Maximum Huavo』ではKOSHIが「もっとギターを弾こう、もっともっと」って言ったんだ。俺は夢中になって弾いたよ。だからあの作品は本当にクールなギター・アルバムになったし、アグレッシヴなキラー・ディストーション・サウンドが詰まっていた。…ただ後から聴き直すと、ちょっと弾き過ぎたかもしれない。だからその反省もふまえて、『ATOMIC CHIHUAHUA』では再び楽曲中心の作品にしたいと思い、ギターには必要以上にこだわらないようにしたんだ。

稲葉浩志、スティーヴィー・サラス

ヴィンテージの感性と現代のテクノロジーを融合させると、最高のものが生まれる

YG:今日このインタビューの場に、ツアーで使うギターを持参していただいたんですよね?

SS:ああ、そうなんだ。ちょっと見てみる? ちなみにこのギター・ケース、すごいんだぜ。3本も入るんだ。ENKIっていう会社のケースなんだけど、これはぜひ記事に書いておいてもらいたいな(笑)。

YG:(フレイマス製のスティーヴィー・サラス・モデル“Idolmaker”を手渡されて)けっこう弦高が高いんですね。

SS:ああ、それは調整する必要があるかな。テキサスから空輸されてきたばかりだから、ネックが反っているかもしれない。このギターはネックの裏まで、鏡のように反射するフィニッシュになっているのが気に入っているんだ。

スティーヴィー・サラス

YG:あなたのシグネチュア・モデルを知らない人に“Idolmaker”を簡単に紹介するとしたら、どこがアピール・ポイントになりますか?

SS:例えば君がジャズ好きでもメタル好きでも、あるいはオルタナティヴ・ロックやパンクが好きでも、このギターならすべて上手く弾ける…そんな万能のギターになっているのが気に入っているポイントなんだ。ボディは大きめだけど、実はそんなに分厚くない。音ってのはすべてボディの中央で生まれるから、このギターでは中心部だけ分厚くなっていて、外周の部分は極薄になっている。

YG:なるほど。ちなみにこの流れで、『ATOMIC CHIHUAHUA』のレコーディングで用いたアンプやエフェクターについても教えてもらえますか?

SS:俺は長年ずっと、同じものを使っているんだよ。少し古いヴィンテージ寄りのものばかりだ。古いマーシャル、古いフェンダー“Deluxe Reverb”、古いボグナー…。あとは例えば、イタリアのLAAカスタムが作ってくれた、“Nishi Drive”というシグネチュア・オーヴァードライヴもある。ジム・ダンロップのペダルもたくさん使ったな。“Cry Baby”はずっとお気に入りだし、さっき言ったロックマンのリイシュー・ペダルも、すごく変わった音がするから大好きだ。それから外せないのが、グラフィック・イコライザー。いわゆるV字型にセットして使うと、音が綺麗になるんだ。逆向きにしてブーストさせるという、昔ながらのやり方もあるけどね。…といった具合に、俺としては今でも昔ながらのアプローチを取り続けているわけ。デジタル機器はあまり使わない。

YG:面白いですね。スティーヴィーはエレクトロ・ダンス・ミュージックにも通じているので、どちらかというと最新の機材を使っていても不思議ではないのに。

SS:そうなんだ。ダンス・ミュージックを作るDJについて考えてみれば、例えばスウェーデン出身の亡くなったアヴィーチーなんか素晴らしくて、彼はよくバンジョー奏者を自分の曲に使っていたし、古いアナログ楽器を現代のエレクトロ・ミュージックに取り入れていた。彼は作曲もしていて、大ヒットしたよね。つまり古いものと新しいものを上手く組み合わせたものこそが、最高だということだ。レニー・クラヴィッツはヴィンテージのギターしか使わないけど、彼は俺の持っているグヤトーン製“Wah Rocker”をよく使う。それも今となっては古いものだけどね(笑)、手に入れたのは1993年だからさ。また車に例えるけど、古いフェラーリはがっちりしていて頑丈で、新しいフェラーリは空力特性に優れている。それらを組み合わせると…つまりヴィンテージの感性と現代のテクノロジーを融合させると、最高のものが生まれるんだ。

YG:では最後に、読者に対して何か一言いただけると。

SS:俺としては、若いミュージシャンたちに勇気を与えたいね。30年前にヤング・ギターに初めて登場した時にも、同じことを言ったよ。
「自分が何を学んできたかをよく考えろ。基礎を固め、それを土台としてさらに上を目指せ。曲を最も重要なものにしよう。そうすれば成功できる」…ってね。あ、そうそう、俺の新しいテイラー製シグネチュア・アコースティック・ギターがあるんだけど、それもチェックしてくれよ(笑)。

YG:それはどんな仕様なんですか?(笑)

SS:俺がKOSHIと一緒に曲を作っていた時、彼が持ってきたギブソンのアコースティックを触らせてもらったんだ。1940年代の本当に古いギターで、ネックの感触がまるでエレクトリック・ギターのようだった。それに全体的に軽くて、ロックを弾くのに最適だったよ。だからテイラーに、「1940年代のヴィンテージ・ギターのような感触のギターを作ってほしい」って頼んだんだ。

INFO

INABA/SALAS - ATOMIC CHIHUAHUA

ATOMIC CHIHUAHUA / INABA/SALAS

2025年2月26日発売 | VERMILLION RECORDS | CD、配信

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