INABA/SALASライヴ・レポート 2025年3月23日 千葉LaLa arena TOKYO-BAY
INABA/SALASがさる3月、8年ぶりとなるツアーを開催した。ご存知のとおりこれほどまでに間が空いてしまったのは、予定されていた2020年のツアーがコロナ禍で中止になってしまったからだ。今回のツアーは稲葉浩志とスティーヴィー・サラスにとってようやく叶ったリベンジの機会であり、彼らの音を生で人々に届ける待ちに待った機会。…であると同時に、もしかするとこれが(INABA/SALASとしては)最後のツアーになるかもしれないとの情報も、公式から伝えられていた。ファンにとって決して見逃せないそんなツアーの中から、ここでは終盤の3月23日に行なわれた千葉LaLa arena TOKYO-BAY公演の模様を、駆け足でお届けしよう。
開演時間が近づくにつれてざわめきが高まる中、会場が暗転すると、ファンキーなリズムに合わせステージ前面に張られた紗幕にメンバーたちの踊る影が写し出される。その影が稲葉とサラスの2人だけになった瞬間、歓声が一際大きくなり、新作からの「Burning Love」のギター・リフがスタート。アルバムよりも少し伸ばされたイントロで期待を煽ってから、稲葉の最初の歌声が会場に響くと、一瞬にして空気が華やかになる。それに続くのは2ndアルバム『Maximum Huavo』からの「U」「Violent Jungle」というライヴ初披露の2曲で、幻に終わった2020年のツアーの悔しさを晴らすかのように、観客はバンドの生み出すサウンドに反応し手を振り上げる。
INABA/SALASの作風を分かりやすく言えば「隅々まで緻密に作り込まれたファンキーなダンサブル・ロック」だと思うが、ライヴの場で聴けるのは楽曲の中から重要成分のみを抜き出してシンプル化し、生のミュージシャンの演奏で魅力を増幅させたサウンド。それを支えるサポート・メンバー陣は、クラウデッド・ハウスやベックでのドラミングで知られるマット・シェロッド(dr)、ポール・サイモンなど錚々たるアーティストとの共演で有名なアルマンド・サバルレッコ(b)、そしてB’zのサポートでもお馴染みの才能あふれる若手サム・ポマンティ(key)という3人だ。彼らの音を背後に背負い、稲葉もサラスも水を得た魚のように、エネルギッシュに歌いプレイする。特にサラスのギターは会場の空間を埋めるかのように音像がミックスされており、それがロック感を強化。「Violent Jungle」のワウを使ったソロも、「OVERDRIVE」に加えられたジミ・ヘンドリックス的なイントロも、「Boku No Yume Wa」のジャキジャキで鋭いカッティングも、そのどれもがクールで耳を引くのがニクい。
先述のようにリベンジ的意味合いもあるとは言え、やはり主役となるのは最新アルバムの楽曲だ。同作から続いて披露されたのは、しっとりと情感を煽る「DRIFT」。ここで稲葉が聴かせた歌声の素晴らしさは筆舌に尽くし難いほどで、生のダイナミクスが加わったおかげで恐ろしい感動を与えてくれる。また「ERROR MESSAGE」「正面衝突」といったパワフルなナンバーの後に披露された(新作からの)「ONLY HELLO part1」も、表現力の素晴らしさは同様。ここではサラスがテイラーのアコースティック・ギターに持ち替え、アルバムで聴けるストリングスの音さえもなくした超シンプル・アレンジになっており、いわば全くごまかしの効かない“素材そのもの”の形。それでいてこの完璧なパフォーマンスというのは、なんともとてつもないではないか。
再びスティーヴィー・サラスのギターに焦点を当てると、今回彼はインタビュー中でも触れられていたフレイマス製シグネチュア・モデル“Idolmaker”を中心に、数本をフレキシブルに使い分けていた。ショウ後半では上手い具合に次から次へと違うギターが出てきたので、曲を追って見ていくと…「Demolition Girl」「YOUNG STAR」では2ハム・レイアウトのホワイト・モデル(ネック・ポジションはシングルサイズのハムバッカー)、「Mujo Parade ~無情のパレード~」ではSSHレイアウトのブルー・モデル、「KYONETSU ~狂熱の子~」ではSHレイアウトのパープル・モデル(ネック・ポジションはセイモア・ダンカンのシングルコイル“Phat Cat”)、アンコール1発目の「AISHI-AISARE」では同じくSHレイアウトのクローム・モデル…といった具合。他にも木目が美しい“Panthera II”がセットアップされていた他、ショウ前半の「Boku No Yume Wa」「IDODORI」などではスイスのS71ギターが制作した左利き風カスタム・モデルも使用されており、いずれも全く異なるサウンドで耳を楽しませてくれた。
アンコール最後の「ONLY HELLO part2」ではサラスがインタビューで「Hey Jude」的と表現していたような、会場中が一体となった大合唱が巻き起こり、締めくくりに相応しい大きな盛り上がりを創出。その歌詞にあったように、今回のツアーは“Never Goodbye Only Hello”とタイトルが付けられており、「たとえ会うことが叶わなくなった人でも、自分の心の中ではいつでも会える」という前向きなコンセプトが掲げられている。それを踏まえての稲葉からの「また会いましょう、Hello!」の言葉は実に屈託なく心に響き、ショウが終わってしまった後の寂しさよりも、ポジティヴさの方が大きかったことを最後に付け加えておこう。
INABA SALAS @千葉LaLa arena TOKYO-BAY 2025.3.23 セットリスト
1. Burning Love(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
2. U(from『Maximum Huavo』)
3. Violent Jungle(from『Maximum Huavo』)
4. OVERDRIVE(from『CHUBBY GROOVE』)
5. Boku No Yume Wa(from『Maximum Huavo』)
6. DRIFT(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
7. ERROR MESSAGE(from『CHUBBY GROOVE』)
8. 正面衝突(from『Peace Of Mind』/稲葉浩志)
9. IRODORI(from『Maximum Huavo』)
10. ONLY HELLO part1(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
11. マイミライ(from『Okay』/稲葉浩志)
12. Demolition Girl(from『Maximum Huavo』)
13. YOUNG STAR(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
14. Mujo Parade ~無情のパレード~(from『Maximum Huavo』)
15. KYONETSU ~狂熱の子~(from『Maximum Huavo』)
16. EVERYWHERE(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)
17. SAYONARA RIVER(from『CHUBBY GROOVE』)
[encore]
18. AISHI-AISARE(from『CHUBBY GROOVE』)
19. TROPHY(from『CHUBBY GROOVE』)
20. ONLY HELLO part2(from『ATOMIC CHIHUAHUA』)