世界最大級のHR/HMの一大祭典“Wacken Open Air”。毎年その開催に合わせ、新人発掘を目的に行なわれているワールドワイドなバンド・コンテストが“W:O:A METAL BATTLE”だ。世界30ヵ国以上のバンドが優勝を懸け激突するこの“METAL BATTLE”には、’12年以来、日本からも代表を送り込んでいる。今年は名古屋の爆走ロケンロー・トリオ:VANISHINGが国内予選を勝ち抜き、ヴァッケン現地での最終決戦へと駒を進めた。
結果──残念ながら、VANISHINGは上位入賞を逃したものの、そのパフォーマンスは熱狂を呼び、終演後にアンコールを求める声が止まなかったことは特筆しておきたい。では、当のバンド自身は“METAL BATTLE”参戦をどう受け止め、そこで何を得たのか? ワイルドなギター・プレイのみならず、鮮烈な見た目でも現地オーディエンスを釘付けにしたギタリスト:Tetsushiに話を訊いた…!
“WOAに出て名を売る”──それが応募した理由です
YG:この夏、“Wacken Open Air”(以下WOA)のバンド・コンテスト“METAL BATTLE”に参戦しての感想は?
Tetsushi(以下T):とてもイイ経験になりました。このバンドを始める時(’16年1月)、まさかそれから数年後に、あのWOAに出演出来るなんて夢にも思っていなかったので、バンドって本当に何が起こるか分からないな…と思いましたね。オレ達の出演したヒストリー・ステージは、WOA会場内では小さめのステージだったんですけど、それでもVANISHING史上、最も多くのオーディエンスの前でプレイすることが出来ました。
YG:現地のオーディエンスの反応はいかがでしたか?
T:予想を遥かに上回るレスポンスで驚きました! 現状では、国内のライヴであれだけの大合唱がフロアで巻き起こることなんてありませんから。アンコールも起きて、「One more song!!」という声が聞こえた時、「オレ達のサウンドは世界でも通用するんだ!」って確信出来ましたね。
終演後には、「良かったよ!」と歩み寄ってくれたレーベル関係者やバンドマン、お客さんが沢山いたので、(プロモ用の)CDを配りました。それがこの先、何かのキッカケになると信じてます!
YG:残念ながら、“METAL BATTLE”優勝は逃してしまいましたが、今回のWOA出演は、バンドにとって、また個人としてどんな経験になりましたか?
T:非常に多くの経験値を得ることが出来ましたし、箔が付きましたよね。何せ、あのWOAなんですから…!
でも…実は、リアルタイムでネット配信されていた本番映像を観た友人や知人、ファンのみんなから、「緊張してたね?!」って言われちゃうくらいに、演奏開始前から終演まで、ずっとガッチガチでした(苦笑)。そんな緊張もあってか、本来の実力を出し切ることが出来なくて、ライヴ直後は本当に悔しい気持ちでいっぱいだったんです。日本を代表して、応援してくれているすべての方々の想いを背負って出演したWOAのステージで、悔いを残す結果になってしまった…と。
でも、そうした気持ちをバネに、帰国後より一層バンド活動に励む自分がいたので、オレにとってWOA出演の最大の意味って、「悔しい思いをしたくないならもっと練習しろ」と、改めて気付かされたことだったのかもしれません(笑)。
YG:当日の演目は、WOAの客層を意識しましたか?
T:「Wild Horse」「Freedom」「Jungle Baby」「Night Sky」「World Is Mine」と、5曲演奏したんですけど──1曲目には、初見のオーディエンスの心をいきなり掴むには「この曲しかない!」と思い、オレ達を代表する「Wild Horse」を持ってきました。
「Freedom」と「Jungle Baby」は、シンガロング出来る曲なのですが、果たしてWOAのお客さんが一緒に歌ってくれるのか、少し冒険してみたんです。その結果、期待通りの大合唱となりましたね!
続く「Night Sky」は、前身となったハードコア・パンク・バンド:FOLKEIISの頃からやっていた曲で、VANISHINGのレパートリーの中で最もハードコア色が強い。しばらくライヴではやってなかったんですけど、この曲の持つインパクトは他のバンドには出し得ない…と思い、プレイすることを決めました。
そして「World Is Mine」は、文字通り世界を狙うオレ達ならではの曲なので、WOAのステージを締めるにはコレだろ…と!!
YG:当日の使用機材を教えてください。
T:ギターはエンドースさせて頂いているジャクソンの“Warrior”で、エフェクターは使わず“直アン”です。アンプはいつも使っているカスタムの(マーシャル)“JCM800”と音が近いということで、“JCM900”を(現地で)用意してもらいました。セッティング時、いきなり音が全く出なくて焦りましたが、何と壊れていたようで、すぐに別の“〜900”を用意してもらったところ、そちらは問題なく鳴ってくれました。
YG:ギターのチューニングは?
T:半音下げです。
YG:使用弦のゲージを教えてください。
T:アーニーボールの“Hybrid Slinky”(.009-.046)を使ってます。
YG:VANISHINGでは、どんなギター・プレイを心掛けていますか?
T:目指しているのは、決して難しいフレーズではないけど、誰が聴いても弾いてるのがオレだと分かるようなギタリスト…ですね!
あと──ライヴでは、「漢っ!!!」って感じのステージングを意識してます。チョーキングの瞬間は、口を「ア〜!!」ってやっちゃうし、“顔で”弾きますよ!(笑)
YG:トリオでもバンド・サウンドが薄くならないよう、工夫していることはありますか?
T:正直、(音の薄さは)あまり気にしてません(笑)。というのも、ウチはリズム隊の音が、ドラムもベースもデカくて太いので、その時点でサウンドが薄くなる心配はあまりしなくてイイのかな…と。
音作りに関しては、“古き良きマーシャル・サウンド”が好きで、でも、もうちょっと歪みが欲しい──そんな要望を叶えるべく、“JCM800”の中身を少しイジって、純正より歪む仕様にし、それで“直アン”で鳴らしているんです。あ〜だから、結局ギターの音は太いですね(笑)。
YG:WOAではどんなバンドを観ましたか?
T:オレ達は“パンク・バンド”と謳っていて、だからパンクには深い思い入れがあるんです。そんなパンクのレジェンド:ザ・ダムドとジ・アディクツは、絶対観たいと思っていました。どっちも観ることが出来たんですけど、特にジ・アディクツのシンガー:モンキーは年齢を感じさせないステージングで、エンターテイナーの鑑だと思いましたね。素晴らしかったです!
WOAに来るお客さんは、当然メタルが好きな人達で、ザ・ダムドやジ・アディクツのようなパンク・バンドって、果たしてウケるのだろうか…と思ってました。でも、両バンドともモノ凄く盛り上がっていて、パンクもメタルも分け隔てなく聴いているWOAの観客にも感心させられましたね。
あと、3日目(8月2日)のヘッドライナー:スレイヤーがプレイしている時の光景は圧巻でした。あれだけの人の波を見たのは、人生で初めての経験で、スレイヤーのプレイ以上にあの光景に、ただただ衝撃を受けたんです。
それと同時に、オレ達もいつか、あんなデカいステージで何万人ものお客さんを前にライヴ出来る日が本当に来るのだろうか…って、ちょっとだけセンチメンタルな気持ちにもなっちゃいました(笑)。
YG:“METAL BATTLE”の他の国の代表バンドとも交流することが出来ましたか?
T:同じ日(8月1日)に出演したアメリカ代表のMONARCHのメンバーがとてもフレンドリーで、お互いの音源やステッカーを交換したりしました。いつかアメリカでライヴをやる機会があれば、彼等とは是非また一緒にプレイしたいですね。
YG:その他に印象に残っていることというと?
T:何と言っても…テント生活ですね〜。オレは見た目通り(笑)アウトドアが本当に苦手で、テントなんて張ったことがないし、共同トイレ、共同シャワーなんて恐怖でしかなくて…。だから、実は行く前から不安でいっぱいでした。実際に行ってみたら、案外、何とかなるかも…とわずかな期待を抱いていましたが──何ともならなかったですね(苦笑)。
かなり辛かったし、風邪もひきました…。けど、他のメンバー、スタッフも含めてみんな平気そうだったので、オレみたいなひ弱な人間じゃなければ、テント暮らしも楽しめるのかなぁ…。
あと、日焼けが絶対に嫌で、(日本)国内の夏フェスにも行けないオレには、日焼け対策も大変でした。何が悲しくて、ドイツまで来て日焼け止めを塗ったくらなきゃアカンのか…と(苦笑)。いや〜、文句ばっかり言ってますね。いや、ツラかったけど良い経験になったと思ってますよ、本当に!
YG:そもそも、“METAL BATTLE”コンテストに応募したキッカケは?
T:ストレートに言うと、オレ達は売れたいんです!(笑) 売れるためにやれることはする…ってスタンスで、これまでも様々なオーディションを受けてきました。“METAL BATTLE”もそんな中のひとつで、“WOAに出て名を売る”──それが応募した理由です。
WOAについては、オレ達が崇拝するバンド:モーターヘッドがかつて出演していたことで知っていました。メタルに特化したフェスと認識していたので、“METAL BATTLE”の存在を知るまでは、ずっとオレ達には縁のないモノだと思ってましたが…(苦笑)。