去る6月にノルウェーで開催された野外フェス“TONS OF ROCK”(以下ToR)。ブラック・サバス、アリス・クーパー、メガデスらが出演し、3日間に亘って熱狂を繰り広げたその模様は、YG’16年9月号にレポート記事を掲載済み。しかし、誌面ではどうしてもスペースが限られてしまうため、今回エクストラとして、本誌には掲載出来なかったバンドを中心に、その続編をお届けしよう!
まず紹介したいのが、日本からの初参戦バンドとして、地元オーディエンスに強烈なインパクトを残したシンフォニック・ブラック・メタラー:エセリアル・シン。’97年に大阪で結成され、現在は都内を中心に活動している彼等は、激烈かつ劇的で、哀歌や挽歌──悲しみのメロディーを奏でる“Elegiac Black Metal”を標榜する6人組だ。海外でのライヴ経験の豊富さでも知られており、これまでにインドネシアの“Hammersonic”(’13年)、ドイツの“Wacken Open Air”(’15年)、台湾の“Rock Bandoh”(’15年)などにも出演を果たしており、日本のバンドとしては例がないと思われる、中国は内モンゴル自治区でのギグも数年前に敢行している。
数え切れないメンバー・チェンジを経ての現バンド・ラインナップは、Yama Darkblaze(vo)、Sariel Evileye(g)、Kohen Schnitter(g)、Seth Maelstrom(b)、Reone Magatsuhi(dr)、Morgan Le Fay(key,vo)で、近年は白塗りメイクに和装束というスタイルがトレードマークに。ノルウェー現地では、当然ながらその出で立ちも注目の的となり、現地メディアのカメラマンをして、「このフェス一番の衝撃!」とまで言わしめている。
それにしても彼等は、日本ではまだあまり広く知られていないToRへの出演のチャンスを、どのような経緯で掴んだのだろう? バンマスのYamaに訊いてみた(以下、「」内の発言はYama)。
「実は、フェスの関係者にノルウェーのバンド、VREIDのメンバーがいてね。以前、我々がVREIDを日本に招聘して、一緒にツアーして廻ったことがあったんで、今度は彼等が我々をノルウェーに招待してくれたというワケだよ」
エセリアル・シンがテント・ステージに登場したのは、フェス最終日の午後3時40分のこと。その40分間のショウにおける観客のリアクションを、Yamaは次のように語っている。
「正直、意外な反応が得られたよ。ノルウェーといえば、ブラック・メタル発祥の地。それ故、我々のような──ブラック・メタルに端を発しながらも“そのもの”ではない音楽をプレイしているバンドは、きっと歓迎されないだろうと思っていたんだ。ところが、オーディエンスは大いに熱狂してくれた。アレには驚いたね。すなわち、最高だったということさ!」
尚、当日ギタリスト2名が弾いたのは、SarielがE-II“M-1”、KohenがB.C.リッチ“2012 JR V NJ Deluxe”で、アンプはいずれも、現地で用意されたマーシャルの“JCM2000 TSL100”を使用。ペダルは、Sarielがアイバニーズの“TS808”を、Kohenは同“TS-9”、BOSS“DD-3”、ムーアー“Acoustikar”などを使ったとのことだ。
またエセリアル・シンの面々に、印象に残っている出演バンドを訊いたところ、メイン・ステージでプレイした有名どころに加えて、YamaはVREIDとINSOMNIUMとRED HARVEST、KohenはHAVOKを挙げてくれた。中でも、ダークにして冷徹な激烈メタルを実践し、ブラッケン・ロールの要素も併せ持つVREIDについて、Yamaは「炎やパイロの演出をふんだんに採り入れたショウは、その醸し出す雰囲気や迫力、そしてそれらと絶妙にマッチした音楽によって、大いに感動させられたよ。これが彼等の真の実力なんだ…とね!」と絶賛。実際、その貫禄たっぷりな佇まいは、来日時とはまた異なる存在感を放ち、テント・ステージを埋めたオーディエンスが大熱狂しまくるのも納得であった。
アメリカの新世代スラッシャー:HAVOKとフィンランドのメランコリックなメロデス・アクト:INSOMNIUMについては、それぞれ’14年と’15年の来日公演にて、ライヴ・バンドとしての実力は実証済みだろう。地元ノルウェー産のRED HARVESTは、インダストリアル風味のウルトラ・ヘヴィなド迫力サウンドを武器にする5人組で、ヴェテランならではの堂々たるパフォーマンスは、正に圧巻の一言であった。
他にも、アングラなムードたっぷりに暴虐のブラック・メタルを響かせていたポーランドのMGŁA、地元ジャズ・シーンで一目置かれるヘドヴィク・モレスタ・トマセン(g)率いるフリーキーなインスト・バンド:HEDVIG MOLLESTAD TRIO、ちょっと変態が入った面白キャラでドゥーミーなサウンドをぶちカマすオスロ出身のBLACK DEBBATHといったところは、いずれも突出した個性で強烈な印象を残してくれた。殊に、メンバー全員(正式2名+ライヴ・サポート2名)が全身黒ずくめの覆面姿で、実に淡々と演奏を続けるMGŁAの寂寞感、ヘドヴィク嬢のサイケなファズ・ギターが奔放に暴れまくるHEDVIG MOLLESTAD TRIOのスポンティニアスな破壊力は、どちらも観る者を瞬時に釘付けにしてしまうこと請け合いだ。
また、YG9月号で紹介しきれなかったメイン・ステージ出演組からは、“現代に甦ったジャニス・ジョプリン”とでも言うべき女性シンガーを擁する多国籍バンド:ブルース・ピルズ、ヴィンテージなブルース・ロックの遺伝子を受け継ぐ北米産のライヴァル・サンズ、ヒポクリシーのピーター・テクトグレン(g,vo)がインダストリアルな側面を開放したペインを特筆しておこう。そして、砦の頂上にあるフート・ステージでプレイした、地元ハルデンのポップでパンクなガールズ・バンド:LUCKY MALICEも、ちょっと気になる存在として最後に挙げておきたい。
来年も6月に、フレドリクステン要塞址で開催されることが決まったToR。現時点で発表となっている出演ラインナップは、エンペラー、サバトン、エアボーン、サティリコン、キャンドルマス、ソドム、アマランス…などなど。これは次回も相当に盛り上がりまくること間違いないだろう!!