3ピースの音像のまま異なる個性を引き出す表現力
氷室京介やB’zなど、サポートするアーティストのツアーで何度も演奏する機会を得ているので、Yukihide “YT” Takiyamaがステージに立つ姿を観るのは決して珍しいことではない。が、実は彼自身の名を冠したソロ・ライヴとなると、ここ日本では2015年7月以来…つまり約10年ぶり。筆者は運良く当時の模様を目にしているが、荒々しさと繊細さがせめぎ合う独特の世界観を既に確立しており、まだ大味ながら目が離せない魅力があった。あれから彼は2枚のソロ・アルバムをリリースしており、アーティストとして着実に成長を続けている。果たしてステージでのその姿は、どう変わったか。さる1月12日、池袋harevutaiにて1日限りで行なわれた「YUKIHIDE “YT” TAKIYAMA EXCLUSIVE LIVE NEXT GIANT LEAP」の模様を、遅ればせながらここにお届けしよう。
ステージの背景には最新作『Next Giant Leap』(2024年)のアートワークに通じる、未踏の星をイメージした荒涼たる世界が広がっており、その前にギター&ベース・アンプとドラムセットが置かれているだけの簡素なセッティングだ。そこへYTと、今回のライヴを共に支える永井利光(dr)、北川吟(b)の3人が登場し、大きな歓声で迎えられる。激しいギター・リフから始まったのは新作からの「Go On」で、硬派なハード・ロックにファンキーさも混じった音の質感は、近いところで言うと’90年代のレニー・クラヴィッツ辺りだろうか。YTが手にしているESPのVシェイプもイメージが近い。そのギター・サウンドは低域が効いたかなりノイジーなファズで、中域中心のヴァイオリン・ベースと異様に音が良すぎるドラムという、三者のバランス感も良好だ。
そこから続く「No One of a Kind」は少しレゲエっぽさのある曲だが、生で聴くとアルバムよりもアグレッシヴさが際立つ。この曲を象徴するディレイとワーミーを組み合わせた謎のギター・ソロは、指の動きを見ると意外にシンプル…だが、やはり何をやっているのか全くわからないのが面白い。その勢いのまま3曲目「Afterburner」のオクターヴ・ファズによる豪快なリフが続き、大胆な場面転換の中、タッピングを絡めたギター・ソロなども決めながら観客を魅了するYT。あくまでも3ピース・バンドらしい音像のまま、曲によって異なる個性を際立たせる、表現力の多彩さが素晴らしい。
ギタリストとしての魅力をより濃く伝えるインスト・ナンバー
演奏中は鋭い眼光で客席を睨みつけるように見るYTだが、MCでは一転して照れながらはにかむ…そのギャップの可愛さも、ファンを惹きつける要素の1つなのだろう。そして「全力で楽しんでいってください。最後までよろしく!」との言葉に続いて、スローなシャッフルの「Bigger on the Inside」が始まると、再び硬派なロックの世界へ。ベースのヘヴィ・リフの上で奏でられるギター・ソロは、3ピースらしい間の大きさの中で自由を感じさせる。
オープニングからここまでは最新アルバムで固めたセットリストだったが、5曲目以降はYTのまた違った側面を見せる曲が続く。1stアルバム『Tales of a World』(2023年)からのスピード感あふれるキャッチーな「Drop Down」の後は、同じく同作からのインスト・ナンバー「Playground」。「個人的にすごく影響を受けたギタリストを考えながら作った」と紹介されたこの曲は、変拍子リフや滑らかなメロディーなど、明らかにジェフ・ベックを思わせる要素が満載だが、もちろんYT自身のフィルターを通ることであくまでも彼らしいロック・フュージョンに仕上がっている。中間部ではギターとユニゾンでスキャットするという、意外な一面を見せる瞬間も。さらに続くのはGOSPELS OF JUDASのアルバム『IF』(2018年)からの「Area 51」で、音源では無機質さのあるデジロックだったのが、3ピース・バンドの形で披露されると全く違った質感だ。もしかすると、アイデア段階ではこういう生っぽい形だったのかもしれない…という想像もできる。
ライヴは後半戦へ突入し、YTのギタリストとしての色をより濃く伝えるインスト・セクションへ。最新作からの「Strangers on Mars」で、彼はそれまでのメインだったVシェイプから黒いLPシェイプ(320design“BC-01”)に持ち替え、スライドバーを左手にはめてうねるリフをヘヴィに奏でる。その雰囲気はザック・ワイルドやスティーヴ・ヴァイといった’90年代系ギタリストを彷彿させ、また異なる側面が見えるようで面白い。火星っぽさを演出する赤暗い照明も相まって、ダークなラウド・ロックの様相だ。続く「Ballad In Blue」は2015年の配信シングルからの選曲で、引き続きスライド・バーを左手にはめながらも、今度はしっとりと穏やかに旋律を聴かせる。…かと思いきや、静寂を極限まで引っ張りつつ、後半には急激に激しく曲展開するという、ダイナミックな構成。ここでは永井の情熱的なドラムが特に光っており、本人も「今のが一番良かった」と自賛する熱演に、観客から惜しみない拍手が贈られた。
ゴダンのエレガットで奏でる最新作からの小曲「Celebration of the New Sun」で会場の熱を少し冷ました後、YTは再び青いVシェイプへギターをチェンジ。「コロナの時、いつの日にかみんなで騒げるようになればいいなと思って作った」という「Revel」は1stアルバムからのポジティヴなバラードで、ゆったりと時が流れるような大きなメロディーが心地よい。さらに最新作からの「Where My Head is」では、再びジェフ・ベックからの影響を大胆に押し出した浮遊感あるギター・プレイを披露。北川のベース・ソロと永井のドラム・ソロも見事に決まり、そのたびに会場の熱が高まる。3人のコンビネーションの素晴らしさをバッチリと示したこの曲は、この日の大きなハイライトとなっていた。
YTの次なる一歩を暗示する新曲
ライヴは終盤を迎え、クライマックスへ向けて加速していく。「Jaguar」「Echoes of the Last Runner」という、1stアルバムと2ndアルバムのスピーディーなオープニング曲2連打をぶちかました後は、YTの中でも特に重要度の高い「Nasty Creature」だ。2014年のEP『YT』が初出で、1stアルバムにも改めて収録されたこの曲は、以前のインタビューで彼が「自分の中でやりたいものとしてずっとある」と語っていた、自身の進む方向性を見定めた曲でもある。スライド・プレイから始まり、キャッチーな歌メロあり、激しいギター・ソロあり…という、いわゆる“全部盛り”状態。集った観客を最大限に満足させるに十分な、本編ラストに相応しい熱すぎる熱演となった。
アンコールで再びステージに戻ったYTはオーディエンスに最大限の謝辞を述べ、ステージを支えてくれたメンバーたちにも感謝を伝える。この2人が完璧にやってくれるので…と前置きしつつ、「難しい曲をやります」と言って弾き始めたのは、「Ghost with Curly Red Hair」の激しい16ビート・リフだ。1stアルバムの中でも特にテクニカルで複雑なナンバーで、中間部には長いエイト・フィンガー・タッピングで曲を牽引する場面もあり…アンコールにギター的な見せ場を残しておく演出がなかなか心憎い。そしてアルバムの流れと同様、「Tales of a World」がそれに続く。「最後、思いっきりハジけてください!」という煽りに導かれ、爆音リフに合わせて腕を振り上げる人々の反応に、YTも2人のメンバーも嬉しそうだ。最後は3ピース・ロックのストレートな魅力で最大限に盛り上がり、ショウは最大の歓声を巻き起こしながら終幕を迎えた。
最新アルバムのタイトルである『Next Giant Leap』は、「One small step for man, one giant leap for mankind(1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ)」という、宇宙飛行士ニール・アームストロングが月面に降り立った際に発した有名な言葉の引用でもある。この日のライヴはYTにとって文字通りの「次なる大きな一歩」であり、アーティストとしての飛躍を感じさせる素晴らしいものだった。ぜひ次は10年後と言わず、頻繁にソロ・ライヴを見せてもらいたいものだ。…そんな思いはおそらくこの場に集った全員に共通しており、まだまだ食い足りないのか、歓声は何分も止むことがない。その声にうながされ、予定になかった再びのアンコールで1人ステージに上がるYT。エレガット1本で奏で始めたのは、「Flying Balloon」と名付けられたまだ発表していない新曲だ。その牧歌的な旋律は「Celebration of the New Sun」と通じるところもあり…YTの次なる一歩を示しているのだろうか。最後に新たな期待も見せてくれた。
Yukihide “YT” Takiyama 2025.1.12. @池袋harevutai セットリスト
1. Go On
2. No One of a Kind
3. Afterburner
4. Bigger on the Inside
5. Drop Down
6. Playground
7. Area 51
8. Strangers on Mars
9. Ballad in Blue
10. Celebration of the New Sun
11. Revel
12. Where My Head is
13. Jaguar
14. Echoes of the Last Runner
15. Nasty Creature
[encore1]
16. Ghost with Curly Red Hair
17. Tales of a World
[encore2]
18. Flying Balloon