Yukihide “YT” Takiyamaが2ndソロ発表「切り開かれていない土地を開拓した人たちが昔いて、その残像を追っている…」

Yukihide “YT” Takiyamaが2ndソロ発表「切り開かれていない土地を開拓した人たちが昔いて、その残像を追っている…」

ここ数年は特にB’zや松本孝弘のソロ活動をサポートしていることで、急激に知名度を高めてきたギタリストYukihide “YT” Takiyama。彼が前作『Tales of a world』に続く2枚目のソロ・アルバム『Next Giant Leap』を、去る9月25日にリリースした。「One small step for man, one giant leap for mankind(1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ)」というのは、宇宙飛行士のニール・アームストロングが月面に降り立った際に発した有名な言葉だが…今回のアルバムはそんな名言を引用するに相応しい、ミュージシャンとしての大きな進化が至るところに現れている。普段はL.A.を拠点として活動しているYTを、TMG(TAK MATSUMOTO GROUP)のツアー・サポートとして日本へ戻ってきたタイミングでつかまえ、この渾身の新作について色々と聞いてみた。

極力音を重ねず、トリオのバンドでライヴ演奏できるような曲

YG:今回の作品は前作に比べて良い意味でアクが出たいうか、別人のよう…というとちょっと大袈裟なんですが、それぐらい個性が強く立っていると感じました。ご自身ではどうですか?

Yukihide “YT” Takiyama(以下YT):前作は色々な時期に作った曲が入っているアルバムなんですけど、今回は制作段階である程度、方向性を決めていたんです。具体的に言うと、極力音を重ねず、トリオのバンドでライヴ演奏できるような曲。ギターの音は少し壊れているというか、ファズでぐしゃっとなってるような…そういう方向を見据えていたんで、アクが出たというのは確かにあるかもしれないですね。

YG:どのアーティストも1stアルバムは、方向性を模索しているようなところがあるじゃないですか。でも今作は、YTさんが自分の行くべき道を見つけたような感覚がありました。

YT:1枚目に入っていた「Nasty Creature」はかなり昔からあった曲なんですけど、あれが自分の中でやりたいものとしてはずっとあるんですよ。そういった意味では、以前から方向性は定まっていたとは思ってます。でもあまりにも自分の好きな方向にばかり偏ってしまうと、マニアックなものになりかねないので…その辺はバランスを取りつつ。メロディーがあってこそだという感覚は、常に念頭に置いていましたね。

YG:仮にバランスを考えずに、YTさんのやりたいことだけをデフォルメするとどうなるんですか?

YT:アバンギャルドとまではいかないんですけど、変わったものになると思うんですよね。ノイズっぽいものも入ってきたり。

YG:なるほど、キャッチーじゃないものも好きだってことですね。そちらを極めると、確かにお客さんがほったらかしになりかねないですし。

YT:そうなんです。それはちょっと危険なんで。

YG:ちなみに前作に対するリアクションはどうでした?

YT:僕のことを知ってる人からは「YTっぽい」と言われるんですよね。色々な時期の色々な曲があって、雰囲気が違うものが集まってますけど、漠然と自分らしい要素が貫かれている。でも今作は制作期間がまとまっていたので、頭の中から出てくるアイデアも統一されてたと思うんです。そういう意味では、ばらつきが少なくなったのかなと。

YG:今作の制作に入ったのはいつ頃ですか?

YT:2023年のB’zのツアー・サポートの間に、アイデアは貯めていたんです。でも実際に作り始めたのはその後、アメリカに戻ってすぐぐらいですね。

YG:YTさんはツアー中にも作曲できてしまうタイプなんですね。

YT:アイデアは出てきますね。なんとなく思い浮かんだものをコンピューターに録ったり、iPhoneのボイスメモに入れたり。

YG:やっぱり凄腕のミュージシャンたちと接する時間が長いと、刺激をもらって脳が活性化される…といったことがあるんでしょうか?

YT:どうなんでしょうね。でもツアーをやってる間は、ギターのリフみたいなアイデアがパッと出てきたりすることが多いです。僕、ドラムのパターンなどに合わせて曲を作ることが多いんですよ。例えばライヴのサウンド・チェック中、ドラマーが何か叩いている間に、それを聴きながら勝手にギターのフレーズを考えてたりするのはよくあります。

YG:ちょっとしたジャムのような感覚ですね。

YT:まあ僕が1人で勝手に…ですけど。ドラマーの方は全然そんなつもりもなく、ただ叩いているだけなんで(笑)。そうやってちょっとしたアイデア作りをすることはありますね。

YG:今回のアルバムはインストと歌モノが交互に来るような曲順になっていますよね。この辺りは意図的なものですか?

YT:決め込んでいたわけではないんです。ただ全体を聴いて、この順番かな…と並べたら自然と交互になったという。たまたまなんです。他の順番も試してみたんですけど、結局バランスが良かったのはこの形でしたね。

YG:YTさんは作曲家でありアレンジャーでもあり、プロデュースもエンジニアリングもすべてみずから行なうじゃないですか。自分の作品だと、それはやりやすいのか、逆に誰かから何かインプットがほしくなるのか…どちらですか?

YT:やりたい音楽の幅が広いので、自由すぎると迷うことはあります。そういう時に、前回から関わってくれてるGin(Kitagawa/プロデューサー)にたまに意見を聞いたりはしますね。確かに1人だと難しいところはあります。アイデアがどうこうというよりは、いろんな方向に行ってしまいがちで。様々な可能性が自分の中で聴こえてしまうから、上手くまとめられなくなることがたまにあるんですよ。今回のレコーディングに参加してくれているチャーリー(パクソン/dr)とかソロモン(ウォーカー/b)といったバンドのメンバーにも、意見は聞いたりします。

YG:でも最終ジャッジは必ず、YTさん自身だと。

YT:そうですね、最終的にここは譲れないという軸はあるんで。

YG:ドラムとベースの話が出ましたが、すべての曲をトリオのバンドで録ったんですか?

YT:「Afterburner」という3曲目だけ。チャーリーは氷室京介さんのバンドでも叩いていたドラマーで、ソロモンはブライアン・アダムスのバンドのベーシストなんです。その3人でロスで一緒に、DEATH DIAMONDというバンドっぽいことをやってるんですよ。

YG:ということは、他の曲は打ち込みですか?

YT:他は全部そうです。

YG:そう思って聴くと、特にドラムの打ち込み方は恐ろしいほどの完成度ですよね。

YT:好きなんですよ、基本的に。コピー&ペーストはほとんどせず、だいたい初めから終わりまでドラムのパターンを頭の中で作って、それをフル尺で頭から打ち込んでいく。例えば1Aと2Aのパターンを変えたり、タイミングも少しずつずらしたり…クオンタイズ(註:演奏のタイミングのズレを補正すること)もしないです。

YG:MIDIパッドか何かで、リアルタイムで叩くわけですか?

YT:パッドも使いますし、鍵盤で打ち込むこともありますし。どうしてもタイミングが気持ち悪い時は、後からマウスでいじってちょっとだけずらしたりもします。オタクなんですよね。

YG:まあ昔のロック・バンドは、生ドラムで最初から最後まで通して録るのが当たり前でしたもんね。仮にヨレても当たり前というか。

YT:そう、それと同じような感覚。時間はかかりますけどね。でも打ち込み作業を始める前に、ディテールは頭の中で考えてしまうんですよ。ここでギターがこう来て歌がこうなるから、じゃあドラムはここで何か入れた方がいいな…みたいに、フレーズをなんとなく作っちゃうんです。

YG:それは多分、YTさんみたいな仕事の仕方をしてきた人ならではかもしれないですね。スピードを求められることもあるでしょうし、デモを録るぐらいなら最初から作り込んだ方が結果的に早かったり。

YT:それはあるかもしれないですね、自分の作品だと特に。でも僕は別に、他のアレンジャーの方と比べて作業が早いわけではないと思うんですけど。時間はかかる方だと思うんです。他のアレンジャーと比べたことがないのでわからないですけど。