君だけが憶えている映画／筋肉少女帯：歯車が噛み合う秀逸な21作目

本城聡章（g）印の切なくも軽快なポップ・ロックをボストン風の多重録音で厚塗りする橘高文彦（g）という幕開けでの２人の構図に日常的な安堵を覚えるが、かつては不条理の世界を描いた大槻ケンヂ（vo）が「楽しいことしかない」と歌い、和風スラッシュの「大江戸鉄炮100人隊隠密戦記」では“夜は明ける　朝は来る”と叫ぶ非日常の不穏さは、今しか出せぬ味（と願いたい）。「COVID-19」を始め従来のノスタルジックさにスペイシーさも加えた浮遊感のある鍵盤／ギター・アレンジも散見されるが、この辺は現実感が希薄な時代の空気を捉えた演奏か。詞／曲／編曲／演奏の歯車が噛み合う秀逸な21作目だ。

【文】菅原健太