ドイツが誇るド変態インダストリアル・メタラー:ラムシュタインが、ニュー・アルバム『ZEIT』のリリースに先駆け、去る4月28日、その全貌を詳らかにする一夜限りのプレミア上映会を、世界各国の映画館や劇場で実施した。アルバムの発売日前に収録全曲をいち早く体験することができる──しかも、ドルビー・アトモス・システムにて全曲映像付きで…ということで、これは何ともレアな機会。どうやら、時差の関係で日本が世界最速での公開となるため、世界中のラム・ファンから日本のファンは羨望の眼差しを浴びてもいたとか。
日本での会場は、東京は有楽町の丸の内ピカデリー ドルビーシネマ。全国でそこのみとはちょっと寂しいが、日本におけるラムシュタインの一般的知名度を考えると、残念ながら致し方ないのかも…。恐らくは全国から熱心なファンが詰め掛けたはず…だが、実のところ集客はあまり芳しくなく、かなり空席が目立ってしまっていた。ちなみにドイツ本国では、90に迫る会場で大々的に開催。バンドの本拠ベルリンだけで3館というから凄い。他のヨーロッパ諸国でもこの上映会はまさに一大イべントだったろうから、日本との格差は言わずもがな。ただ、今回こうしてスペシャルなイべントが日本でも実現したことは、きっと今後につながる…と信じたい。
ところで、『ZEIT』からは事前に2曲──「Zeit」と「Zick Zack」のPVが先行公開済みだが、この日、「Angst」のビデオ(一般公開は4月30日)がプレミア上映されるのも話題に。これまた猟奇でビョーキな仕上がりで、ラム・ファンには歓待されたことだろう。さらに、その他の収録曲にもそれぞれ映像が用意され、そのうち半分ほどは、デジタル・ノイズ的だったり、イメージ映像だけだったり、いわゆるリリック・ビデオだったり…と簡易なつくりになっていたものの、ダンサーのパフォーマンス映像(バンドの最新ショットと同じ場所で撮影された模様)も2曲あって、ただ曲をかけるだけの試聴会とはなっていなかった点は特筆しておきたい。
というか、最後にはエンド・ロールもあって、ちゃんと(?)映像作として完結していたのである。もしかすると今後、YouTubeで全曲公開されたり、あるいは商品化もある…かも? スヴァンテ・フォルスバックによるドルビー・アトモス・システムに合わせた特別なミックス&マスタリングについては、CDなどと聴き比べてみないと何とも言えない…とはいえ、当然ながらどの曲も迫力十分で、特にラウド&ヘヴィなナンバーは圧巻だった。
『ZEIT』の全体像についても簡単に。既に配信済みのため、もう「全曲ガッツリ聴いた!」「絶賛リピート中!」という人がほとんどだと思うが、基本路線からの突飛な逸脱はなく、安心・安定の“らしい”仕上がりに、きっとみんな大満足していることだろう。意外や引きの美学が散見され、シンプルでオーガニックな感触すらあった前作(2019年『(Untitled)』)から、濃厚コテコテ路線へと回帰しているのがまずは注目点。ザックザクのヘヴィ・ギターに異質な音を絡めるアレンジも得意中の得意ながら、デジタル・サウンド各種は言うに及ばず、レトロなホーンを使った「Dicke Titten」なんかもあったりもして、相変わらずアイデアの豊富さには唸らされる。
また、“静”の楽曲がより壮大に、荘厳に仕上がっている点も見逃せない。ピアノの使い方も素晴らしい。ここで注目したいのがジャケットのデザイン。前作のひょろいマッチがある意味でシンプルさやスマートさを象徴していたのだとしたら、今作のアレはずっしりどっしり太くずんぐりとしていて、その見た目通りに重厚かつマッチョなサウンドを体現しているように思える。事実、『ZEIT』はバラードも重々しいのだ。一方、エログロ・ネタも健在。「OK」は同意や承認の“オーケー”ではなく、「Ohne Kondom(ゴムなし)」の略だし、「Dicke Titten」は直訳すると“でっかいオッパイ”だったり。
コロナ禍でツアー延期を余儀なくされ、思い掛けず時間が出来たことで、言わば予定外に制作されたというニュー・アルバム『ZEIT』。この会心作に伴い、日本でも人気がもっと爆発し、久々の来日公演実現につながることを切に切に願う…。色んな意味でインパクトあり過ぎな刺激に満ち溢れた独自サウンド、もしまだ未体験なら、この機会に是非とも触れてみては…!?