アンプ本来のフィーリングを保ったまま音量を自由に操り、多彩なエフェクトも内蔵、さらにスピーカー・キャビネットのシミュレーションも超高品質…。
BOSSが満を持して放つロード・ボックス“WAZA Tube Amp Expander”の実力を、ヤング・ギター本誌2019年7月号でも紹介させていただいたが、ここではそこで説明しきれなかったより詳細な試奏レビューをお届けしたい。
まずは本誌の内容とも被るが、このページでは“WAZA Tube Amp Expander”の基本的なコンセプトについて見て行くことにしよう。
●外形寸法:380(W)×110(H)×296(D)mm
●重量:6.8kg
●価格:オープン・プライス
ロード・ボックスは何故必要なのか?
真空管アンプというものはマスター・ヴォリュームを上げるほど、音量と同時に粘りや倍音といった要素が増していく。信号が過剰になることで得られるこの飽和状態はクランクアップ・サウンドとも呼ばれ、ギタリストなら誰しも口を揃えて「気持ち良い!」と言う、真空管ならではの独特の音質だ。
ただ100Wなどの大出力アンプでこのクランクアップ・サウンドを得ようとすれば、実は耳にかなり危険なレベルまでマスター・ヴォリュームを上げる必要がある。例えば防音設備の整ったレコーディング・スタジオなら、スピーカー・キャビネットを密閉したブースに閉じ込めて録音することもできるが、あまりに大音量だと部屋の反響が邪魔になったりもする。いわんや、クラブ規模のライヴ会場でマスター・ヴォリュームをフル近くまで上げるなど、暴挙以外の何ものでもないのだ。
故に常識的な音量で大出力アンプのクランクアップ・サウンドを得るには、アッテネーターやロード・ボックスを接続するのが一般的だ。アッテネーターとは、パワーアンプの出力を巨大な抵抗に通すことで低音量化する機器のこと。つまりアンプのマスター・ヴォリュームはあくまでも音作り用と捉え、最終的な音量をアッテネーターに担わせることができるわけだ。一方ロード・ボックスは同様の役割を果たしつつ、疑似的にスピーカー・キャビネットへと接続した状態を再現し、ライン信号に変換してPAやレコーディング機器などへも出力できる機器。いずれも30〜40年前から存在する歴史の長いディヴァイスではあるが、近年様々なメーカーから新製品が登場している熱い分野でもある。そんな中、満を持してBOSSから発表された画期的ロード・ボックスが、“WAZA Tube Amp Expander”だ。
柔軟かつ多彩な機能の数々!
では何が画期的なのか? まず1つは様々な真空管アンプのコア・トーンを保持しながら忠実な再生を可能にした、BOSS独自の回路設計による可変式のリアクティヴ・ロードを備えている点だ。
アンプとスピーカーは演奏のさなかも実は複雑な相互作用を行なっており、例えば4×12キャビネットと1×12キャビネットではアンプ側にもたらす作用が異なるし、またメーカーが違えば同じ4×12でも全く異なる結果が得られたりする。「初めて使うキャビにつないだら全然違うアンプになった…」という経験を持っているギタリストは多いはずだ。
“WAZA Tube Amp Expander”のリアクティヴ・ロードはフロント・パネルに備えたRESONANCE-ZとPRESENCE-Zという2つのコントロールを切り替えることで、接続するアンプに最適なインピーダンス特性を16種類の中から選択することが可能。その機種が本来持つフィーリングを保ったまま演奏することができる。従来のロード・ボックスは特定のスピーカーのみを想定した設計が多かったので、この柔軟さは驚異的だ。
また本機はアナログ設計の100WクラスABパワーアンプを内蔵しており、2台までのスピーカー・キャビネットへ接続し、SPEAKER OUTノブで緻密かつシームレスに音量を調整することができる。大出力アンプの音を絞れるのはいわずもがな、逆に小型アンプの出力を持ち上げ、大型キャビを鳴らすことも可能。例えば自宅で愛用しているアンプを、普段と同じ感覚でステージで使用できるというのはありがたい機能だ。
さらに音作りを積極的にサポートするエフェクト類も充実しており、本体内に高品質なコンプレッサー、ディレイ、リヴァーブ、EQを内蔵している他、外部エフェクターを接続するセンド/リターン端子も備わっている。本来ならエフェクト・ループを搭載していないヴィンテージ系アンプであっても、本機を導入すればより現代的な音作りが行なえるわけだ。
ライン出力に備わっているキャビネット&マイク・シミュレーションのヴァリエーションの豊富さにも注目したい。キャビに関しては全部で22種類、オン・マイクは5種類、ルーム・マイクは3種類が用意されており、さらにスピーカーに対するマイクの距離や位置を細かく設定することもできる。また本機はUSB端子を装備しており、PCに接続すれば専用のエディター・ソフトを用いて視覚的に編集できる上、オーディオ・インターフェイスとしてDAWソフトに直接アンプ・サウンドを録音することが可能だ。